「 熊先生殴ってください 」
以下本文ですが、内容紹介のテキスト文なので、画像が正しい位置に入りません。PDFでご覧いただければ幸いです。
ある時、夜の授業の準備で早めに出勤していた熊先生の所に、4年生の良孝君が、泥だらけ鼻血まで出しながらやって来て、「熊先生。殴って下さい。」と言う。<
そんなボロボロの奴を殴れる訳も無い。「どうしたんだ?」と聞くと、また「殴って下さい」と来る。
「そうか」と言って、怪我をしない程度しかし本人が吹っ飛ぶ程度に平手打ちを食らわして、「納得したか?」と聞くと、意外な話をはじめた。
「6年生の喧嘩を止めに入ったが、相手が強くて全然止められない。日頃から言いつけっこはするなと教えられているから、何とかしようと思ったが、やはり無理だった。 自分では止められないから、卑怯だけど、熊先生の手を借りて止める事にした。だから先に罰を受けた。」と言う。
すっ飛んで行って捕まえようとしたら、熊先生の形相を見ただけで逃げていった。塾に来ている生徒ではなかった。
戻って来て「残念逃げられた。役に立たずにご免。」と言ってあごを突き出した。
「はあっ」と言うから、
「使わなかった代金は返すのがあたり前だ。今度は良孝が殴る番だ。
」
「ハイ。」と、思い切り殴られた。さすがに体は飛ばなかったが、これは答えた。
「ははは]と笑って誤魔化すしかなかったが、笑いながら涙がにじんだ。
良孝もおいおい泣いている。誰も居ない教室でよかった。
知らない人には、どんな光景に見えるだろう。泥だらけの小学生と髭だらけずんぐりむっくりの熊のような男が、ぼろぼろと泣きながら顔は無茶苦茶笑っている。気持ち悪くて逃げ出したに違いない。
熊先生の心の中に「ベスト セカンド」と言う造語が生まれた。
トップを切って、すいすい走っている者よりも、決して抜く事が出来ないのに、前を走っている者の背中を追いながら必死で走っている者のほうが、全力を尽くしていると言う面で優れていると判るようになった。
栄光を浴びるのは、常に記録を作り1位になった者だけだが、どっこい世の中は違うぞ。熊先生は教師であるお蔭で、もっと素晴らしい「ベスト セカンド」を知った。
首相君しかり、良孝しかり、田沢しかり、自分の生き方に誇りを持てる生徒こそ宝だ。
その事に気付かない公立学校の先生が教師になる日は来ないであろう。例え名前は教諭でも。
素晴らしい塾と素晴らしい生徒に巡り会えたお蔭で、教師と言う仕事が好きになった。
教育は素晴らしい。本当に素晴らしい。
……
「PDF」
をクリックすると、印刷用画面になります。