命と時間

序文

#1

時間の特性-まとめ」で述べたように、我々が感じる時間は個人の脳で外部運動をトレースすることに基づいている。従って我々の命が時間経過を認識する本質である可能性がある。

人間をはじめ生物は外部の刺激を感知し、それを記録し、後にそれを呼び出すことができる。コンピュータシステムを使ってもこれに非常に近い工程を実施することができる。「コンピュータスクリーン上の画像は仮想的で、我々が見る像は現実である」とよく言われるが、我々が見るものは脳のトレースによる直接の結果ではなく脳内にあるスクリーンに投影されたものだ。目、耳、肌などを通して我々が感知するものは基本的には検出信号に基づき我々の脳が計算処理したバーチャルな成果物である。

時間の捉え方や時間経過の認識などから、生命とコンピュータによる仮想的なものの両方を包括する「命」という用語を新たに定義できるかもしれない。次のページに進む前に再度「時間の特性-まとめ」を読んでその内容を確認下さい。

生命 から抽出した新規概念「

#2

  • 生物の命を生命と呼ぶ。
  • 生命から生の観点を取り除いた「」という概念を新たに考える。生物が命を持つ場合に生命となる。
  • 生物の定義は数多くなされており、それらは自己複製能などを含む。
  • 検知器を装備し十分にプログラムされたコンピュータは、外部信号を検知し、それを記録し、それを呼出し、そしてインストールされているプログラムに基づきその情報への対処を実行することができる。このコンピュータは生物ではないが、プログラムを実施している間は命と類似の本質を持つと考えることができる。

命は外部の動きをトレースする独自の時間を持つ

#3

  • 生物は外部信号を連続的に検知し、それらを経時変化として捉えている。これは外部の動きをトレースしていることを意味する。
  • ある動きがトレーシング次元として働く為には、観測時間や時計に基づく時間のような共通測定時間によるトレースで虚数次自由度を示す必要がある。従って、生物は外部の動きをトレースする、虚数次自由度を示す内部の動きを持つ必要がある。
  • 生物は個々の細胞や臓器内にそのような内部の動きを持ち、それは内在する時計機能または外部信号の連続記録だ。(このような記録は時間として働くことができる。)
  • 「命」は外部の動きをトレースする独自の時間の機能を持ち備えなければならないと思われる。そのような時間は必ずしも我々の共通時計で等速に経過する必要はない。

時間経過の認識には記録した過去の情報へのアクセスが必要

#4

  • エネルギーは時間の一点にだけ存在し、それが現在である。
  • 過去は現在にある過去の記録で、未来は将来起こることの現在における予測である。
  • 動きの測定は遠隔空間トレース経時的記録でなされる。
  • 我々は、現在の信号の感知と並行して記録された過去の情報を呼び出すことにより、時間が経過していることを感じている。

命は自律行動を要求する

#5

  • 命は、外部からの指示がなくとも、自身で行動しなければならない。行動の自律性という側面は命にとって最も重要な要素のひとつである。
  • プログラムが自律行動を可能にする。
  • ここでの自律行動は外部信号の検知、情報の内部処理、これら入力に対する反応などを含む。
  • 事前のプログラムだけでなく、蓄積された情報や経験がプログラムを追加改変し、行動を律する。
  • 生物の場合、初期プログラムは遺伝子である。そこに遺伝子のメチル化などの後成的(エピジェネティック)な修飾や、細胞内や細胞間の反応、脳での記録などによりプログラムが追加改変される。

命の定義

#6

対象が次の行動を行う場合に、それは「」を持つと定義する。

  1. 外部信号を検知する。
  2. 検知した情報を記録する。
  3. 記録した情報を呼び出す。
  4. 内部プログラムに従い上記およびその対応行動を行う(自律行動)。
  • 外部信号の検知とその信号の継続的な記録は、我々の共通時間によるトレースで虚数次自由度を示す内部変動を与える。その変動は外部運動のトレーシング次元、即ち、この対象自身の独自時間となる。この時間をその対象の「基本時間」と呼ぶ。
  • 長期記録とそれらへのアクセスは、対象が時間経過を感じる新たな内部時間を与える。この時間を「記憶時間」と呼ぶ。

命の自己同一性 (identity)

#7

  • 命に必要な全ての要請を持ち備えた自律型ロボットのようなコンピュータシステムを考える。
  • このシステムの電源を切ると、もはや命としての条件を満たさない。このシステムは電源が入ってプログラムが起動している時だけ命を持つ。
  • しかし、もし前の起動時にこのシステム内で起こった事象が記録されていて新たな起動時にその記録に正しくアクセスできれば、現在のシステムは以前の起動から連続した命の自己同一性を持つことになる。外部の観測者によるトレースでは、電源を切った期間はこのシステムが中断したが、このシステム自身にとってはその間は時間自体がない。従って各起動を合わせて連続した時間経過を認知する。
  • 我々人間の場合、多種の命を持つ。例えば細胞の命、臓器の命、そして体全体の命などで、それらは独自の時間を持つ。我々の認識という観点からは、寝ている期間は個人の時間から除外されている。しかし、上記システムの電源オンオフ切替の場合と同様に、我々は起床時に個人の時間を再スタートすることができる。