マルキオンの論理の法

    -The Logical Laws of Malkion-

copyright 1998, Nick Brooke
翻訳・編集(c) 木村 圭祐/'たびのまどうし'しーちゃん ,1999[1999.11.14].

  預言者マルキオンは古代の論理の王国の創始者にして立法者である。彼の息子たちは、彼が人々に伝えた忠実なる生涯の手本であった。彼らはマルキオンが論理の時代に宣言した不変の法に従い、永遠の生を生きていた。論理の法とは、世界がいかに機能しているか、その中で人がいかに生きていけるかということに対しての完全なる論理的な導きであった。導きはいかなる"信仰"も要求せず、葬送の儀式、相続に関する法、愛、結婚といった現代のマルキオン教徒の多くの関心事についての記述もほとんど含まれていなかった。この法が神代の黄金の時代、死が世界へと進入を果たす以前に書かれたものであることを忘れてはならない。それは、本質的にはブリソスの教えを規定した文献である(現代のブリソス主義は、実は苦痛に満ちた葬送の儀式を有している。だがそれは、たとえブリソス人であっても論理の時代から変化せねばならなかったかを示しているにすぎない)。

  今日の問題はほとんどの種族が、大半のブリソス人、そして黄金の時代、論理の王国の住人が皆持っていた、厳正で論理的な精神を欠いていることにある。これは人間性の全般的な後退によるものである[1]。古き論理の法は彼らを満足させることはできなかった。彼らはそれ以上のものを、彼らの限られた精神が掴むことのできる何かを求めた。そして現代マルキオン教は彼らに新たなものをもたらした。それは"信仰"と呼ばれている。"汝がそれを知るために、それを理解する必要はない。"

  論理の法の解釈が難しい理由の一つは、現代マルキオン教徒である使用者が、その法で宣言されているものと、論理の法の使用者が容易に想像できるものとの間に、"明確な"論理的結びつきを構築することができないためである。オリジナルの文献の大部分は、論理的な精神を持つ者(例えばそれらの法が書かれた時代に想定された者など)にとっては極めて明らかであるが故に、詳しく述べられず残されている。それゆえマルキオンが「汝の愛するものを傷付けてはならない」と宣言したとき、当時おそらくその宣言には、ブリソスの言語、教育制度、そして頭脳に本来備わっている、"存在しうるただ唯一の意味"だけが存在したはずである。

  それゆえ(その大部分が神智者の翻訳によるものであっても)この書もまた現代まで生き残ってはいるものの、通常それは、読み手が理解したり、社会基盤として実践するには難しすぎる代物なのである。後生のおびただしい数の学者や解説者、注釈者は、それぞれがマルキオンの論理の法をいかに実践するのが最良かについて、自己の解釈を書き記し尽力してきた。これらの文献は預言者や聖人の生涯や教えに関する開設とともに、現代マルキオン社会の基盤としてより広く用いられた。おそらく修道院のごとき共同体であれば、論理の法に従って生きていくことは可能である-私はこの試みは当座の所賛同しかねる。明らかに現代の人間の王国は大きな問題を抱えることになるだろう(ロカール派は時の秤を逆に勧めるごとき勇気ある試みを標榜しているのだが)。

  ジルステラの神智学の手法は削り落とし処理であり、彼らが彼らの宗教を"やり直した"時にも同じ本能が働いたと私は考えている。彼らはマルキオンの論理の法(受け入れられた最古の文献)を受け入れることから始め、続く雑多な/異教的な/外典的な文献のうちどれが標準的な版に含まれるべきかという判断のための試金石としてそれを用いたのである。論理の法に対する彼らの解釈が、外典的な文献に対する彼らの解釈と異なった場合には、外典的文献が切り捨てられたのである[2]



[1] Cf.神性からの人間の変化、退化、分離に関する教義。
[2]もしくは神智者に手遊びとして与えられ、受け入れられる形に微妙に書きなおされた。すなわち彼らは"時を経る際の変化の過程で知らず知らずのうちに文献の中に入り込んだ誤りを正した"。

  本テキストはNick Brooke氏が作成した作品を、氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
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