フェルスター湖 -Felster Lake-

    - ラリオス艦隊の家、そして水の満ちたる墓場 -

copyright 1999, Jorg Baumgartner
翻訳・編集(c) 木村 圭祐/‘たびのまどうし’しーちゃん ,1999[1999.11.12].



  セイフェルスターの中央部に位置する巨大な湖は、商人や文明化されたラリオスの支配者たちにとって決定的ともいえる重要性を常に有してきた。ここでは水上戦闘の技術には 長い伝統があり、セイフェルスターが統一されたごくわずかな時期を除けば何度も実践されてきた。ラリオスでもっとも重要性の高い地域はフェルスター湖に面しており、それらの地域の首都もまた大半がフェルスター湖の湖岸に位置している。

湖の全長は200kmに渡る。幅は28km(センタノスの南の岬からティスコスの湖岸まで)から80km(アジロス湾からトータンまで)の間で様々で、平均はおよそ50kmである。視界は天候に大きく左右されるが、晴れた日でも船は湖岸をまったく目にすることなく波間を進む事がある。波は弱く、50cmにも満たない。航海は太陽、赤の月、湖岸の地形を便りに行われる。   湖岸の形態は岸壁、湖底の岩礁、沼地のような浅瀬、粘土層の崖とその前に広がる浅い小石混じりの砂浜と、さまざまである。洲は危険であり、河口にあるものは更に危険である。

  厳しい冬には湖面は全域にわたって結氷する。一度凍ってしまえば、氷は闇の季の初めから嵐の季の終りまでよく残っている。タニア川の潮流はその時でも結氷していないが、ガーリン、サイランへの流路を確保するドスキオール川とヘルビー川の潮流が開いているは闇の季の中頃までである。この時期を通じて流氷と危険が常につきまとっている。

  通常の冬であれば、闇の季には氷に閉ざされた湖岸を目にすることができるが、例年発生する嵐の季のはじめの増水によって、こうした氷面が裂けて流氷となり、嵐の季の動作の週までには、河口には氷から解放された港が見られるようになる。穏やかな冬であれば水上交易が阻害されることはないが、この時期は通常船主たちによる様々な船の修繕に費やされる。

  フェルスター湖には、マースドライアミの栽培している海草類と、そこに住む水棲生物が生息している。湖の中心部は深く(底なしであると主張する者さえ存在する)、湖の女神は彼女の厚意に対して敬意を払うよう、隣人たる人間たちに要求している。

  湖での漁業はきわめて活発であり、セイフェルスターの各都市の常食として、基本食品を提供している。主にコイやナマズ、ウナギなどが獲られており、これに湖底上部の傾斜地にあるマースドライアミの藻類の森で捕まえた(もしくは交易して手に入れた)ロブスター大の様々な種類のカワガニが加わる。勇敢な漁民の中には400mものテグスを使い、湖中央のより深い場所にいる獲物をねらう者もいる。そこでとらえることのできる地獄の生き物のような獲物はおぞましいが、しばしばその努力がそれに見合ったものであることを示してくれる。たとえそれが食用には向かなくとも、ランプの油や魔術的な原料には適しているのである。


水先案内人によるフェルスター湖案内

水運

  フェルスターで見る事のできる船の大半がこの一般的な描写に当てはまる。両脇に漕ぎ手のベンチが張り出した滑らかな船体、オール用のデッキが1デッキあり、1本のオールに1人から5人の人間が配置されている(サイズ、デザイン、目的によって異なる)。竜骨の範囲には剣状の隆起が備えられ、船を安定させている。交易船ですら、通常敵対的な勢力に対する唯一の手段として、スピードを念頭に設計されている。すべての船には船首楼と船尾楼がもうけられており、しばしば呪文投射のための砲座が追加されている。軍船は通常衝角(ラム)が、水中ではなく、漕ぎ手のベンチの高さに取り付けられている。船は外郭構造で造られており、クリンカー材の厚板を(ノコギリで切り出すのではなく)裂き、主要部の形を整えてから外郭に併せてフレームを挿入し、安定させるのである。よく修繕されていても、船の寿命を25年程度にしてしまう明らかな虫害から船を守るために、厚板には幾層にもタールが塗り重ねられている。幾つかの造船所ではさらなる耐久性のために金属を張っているが、浸透を防ぐのは5年が限界である。例外はガーリン王家の将官挺で、これは金を用いている。この船は周囲から明らかにねらわれており、湖上を移動することができるのは多くの護衛を引き連れたときだけである。しかしそれでもこうした船4隻のうち、ガーリンが保有しているのは2隻だけである。1隻はエスタリに奪われ、もう1隻はトーtゥン男爵領の旗艦として用いられている。

船のタイプ

  (典型的な)シングル・マストの船は三角帆を一つだけ有しており、主に吹く南西の風の中でも、東にも西にも進むことができる。沿岸部の地形は湖岸近くでの帆走を難しくするため、帆はおもに湖の開けた場所で用いられる。マストの索具の上部には、船の所属を示すために通常よりも大きな盾が取り付けられている。この船のデザインは神智者の残したものであり、ジルステラの一般的な船を模したものである。海の大閉鎖以降、このような船はここ以外で用いられていない。

  漁に用いる船も、小型でやや複雑な形をしているものの、この船に似ている。こうした船は通常幅の広い丸木船であり、1ないし2本の厚板の櫂を持ち、安定性を高めるためにわずかながら竜骨を有している。ほとんどの船は推進力に関してオールやパドルだけに頼っている。

  典型的な水上戦闘の遭遇は1隻対1隻の戦いであり、もっとも頻繁に発生するのは海賊船ないし戦闘用ガレー船が商業用ガレー船を襲うケースである。大規模な衝突の場合、すべての戦闘用艦隊が参加し、それに商業用ガレー船や傭兵契約による同盟者の船が加わる。前伯爵であるジョーグバラン伯とそのティナロス艦隊がパランティアの艦隊との戦闘がこうした規模の海戦である。この海戦で伯爵は溺死してしまったのである。


フェルスター湖の有力勢力

クストリア

  クストリアは王宮のたもとに1つだけ大型の港を保有している。この港は壁で区切られバラックの付属したいくつものエリアからなる点で、他の港とは一線を画している。それぞれが最大3隻のガレー船を停泊させることができる。これらは競技会の全体のデザインの一部として設計された競技会用の港であり、参加した男爵や公爵の将官艇に安全な停泊所を提供している。港の歴史はユリアヌス三世の支配にさかのぼる。クストリアの港はフェルスター湖の流出口付近を支配しており、オレノアやタニソール、ダンギム、ユーロンからソーダル湿原を渡るのに適した平底の河船が訪れている。古セシュネラからの鉄製の防具や未加工の鉄に対する恒常的な需要を満たすために、商人の中にはバカン湖としても知られるバカリールやオレノアへと湿原の水路を定期的に往復している者もいるが、政治的緊張がタニア川の小規模交易を低い水準にとどめている。六隻の戦闘用ガレー船からなるクストリア艦隊はこの書の別の箇所に詳しい記述がある。クストリアには主に修理に利用される造船所が4つ存在する。

アジロス

  たとえ海外の品々の輸入が貿易商に富をもたらしたとしても、アジロスは市場としてはほとんど価値を有していない。この国自体の物産はどちらかといえば魅力に欠ける。それでも余剰の農産物が販売され、多数の傭兵集団に供給される。3つの造船所が利用可能である。

ティスコス

  未だ混沌僧戦役の痛手から立ち直る途上にあるティスコスは、輸入の中心地である。4つの造船所がサービスを提供する。

エスタリ

  エスタリの街は主要なものとしては湖の南側で唯一の入り江の開口部に位置しており、入り江の対岸はティスコスの領有地である。港自体は河口から上流5kmの場所に位置している。エスタリの主要産業の1つは造船であり、良質の木材が1年を通じてタリンの森から搬送されてくる。ここ数年エスタリの水軍は、その自称フェルスター湖提督のもと、湖の覇権をもとめて作戦を展開している。頻発する小競り合いや湖の広範囲で行われる大胆な略奪で捕らえられる拿捕船は、常に成長を続ける艦隊の資金調達に一役買っている。後に提督は侯爵の布告を傭兵隊長や交易を行っている商人に割り当てるようにもなっている。

  他の国のフェルスター湖艦隊はエスタリの旗印に脅威を感じつつあり、その野望に対する広範な同盟の成立する可能性が高まりつつある(これはまれな出来事である-この地域での同盟は一般的でない)。マニリアの物産をプラロレラに運ぶことに興味をそそられる交易商は、“警護”の代償としてエスタリの水軍にしばしば金銭を支払う。タリンの森の木材はその品質で沿岸の都市では良く知られている。最良の木材が豊富に提供されるため、エスタリの港には12の造船所があるが、その大半は15隻からなるエスタリ水軍船の維持と修復に使用されている。

ガーリン

  ヘルビー川の交易を支配するガーリンは、プラロレアを抜けてマニリアへと至る物資輸送の重要港の1つである。誇り高きガラニンの伝統にのっとり、ガーリンの小型船は金の外装と馬の頭部をかたどった装飾で飾られている。ガーリンの水軍はその炎の魔術で怖れられている。この魔術と最近のクストリアとの同盟とが、港がエスタリの水軍によって孤立されずにすんでいる主な理由である。5つの造船所が利用可能である。

サイラン

  ドスキオール川の河口に位置するサイランはナスコリオンやデレーラ、トロウルの横行するラリオスのはるか東方といった上流地域への河川交易の大部分を支配している。小型の平底船がドスキオール川を往復しているが、湖自体を航行するほど勇気のある船はまれである。自然的脅威に対する怖れはほとんどないが、流れるような船体のガレー船は彼らの平底船よりも湖面を早く航行でき、彼らの荷が目的地に到着する可能性がより薄いものになることを知っているからである。サイランの商人ギルドはドスキオール川を下ってくる物産の購入に関する優先権を保有している。海の季の中頃から、闇の季に初頭にかけて設置される一時的な浮き橋にそって、哨戒船やパトロール船が航行する。これは川港事務局へ登録を行わない船舶が出ないようにするためである。どこか別の場所を行きの荷を運ぶ河川交易商が、そうした荷をサイランの上流2、3日の場所で下ろすことはしばしば行われる。このような密輸に対して、常習者を捕らえたり、密輸品を没収する(この行為はギルドからも是認されている)、もしくは通行料を徴収することで、地方の男爵たちは利益を得ている。

  川港は川の曲がっている場所、それも浮き橋よりも上流だけに設置されている。サイランの湖港は別になっている。湖港は人工的に拡張された半島部によってドスキオール川から隔てられている。これは多くの河口の港が避けられない問題、砂の堆積防ぐためである。港の市壁は奥行き2km、幅1kmの地域を囲んでいる。市の主たる入口は側面にバリスタを備えた複数の城塞からなっている。城塞と城塞は間に巨大な青銅製の鎖を固定することができるようになっており、港を閉鎖することができる。港の隔離された部分が公爵の海軍のために確保されている。これらには2つの類似した出口が設けられており、それぞれ湖と港の主要部へとつながっている。この部分は街の要塞部、造船所の大半の建物に隣接している。両方の港は壁と防御門によって街と隔てられている。ここは法的には伯爵とギルドの港湾権力に従属している。またここでは一般に街中で歓迎されない一般の船員に対して、宿屋、娯楽、基本的なサービスが提供されている。ここには8つの造船所があり、軍事目的、商業目的両方の新造船の建造だけでなく、苔取りや虫に食われた厚板の張り替え、傷ついた艤装の修理といった作業に必要な設備を提供している。最盛期には市の造船所は1季に6隻の新造船を建設しているが、通常は1隻ないし2隻を建造し、その能力の大半は修復とメンテナンスに向けられている。ドスキオール川のおかげで、サイランは文明社会と蛮族社会両方の物産に恵まれている。トロウルの手による特殊なものですら、ナスコリオンでは交易の対象となっている。この地の特産品はガラス器である。

トートゥン

  センタノスの首都はサイランよりも目を引くものに乏しい港である。不愉快なほどティナロスに接近しているにも関わらず、ここには艦隊の司令部が置かれている。ティナロスの指導者無き男爵たちは、陸の上で行うのと同じ程、湖での略奪を繰り返し、またお互いに襲撃しあっている。港には2つの造船所しかなく、常にセンタノスの艦隊の修理のために使用されている。

ティナロス

  この指導者なき領国はフェルスター湖に大きな港を有しているわけではないが、3人の男爵がおり、それぞれが城と、2、3隻の高速ガレー船を停泊させておくのに適した小さな港を有している。これらの港は城が攻められた際の救援を送ったり、裕福で鈍重な商船−一般にはタニア川上流からクストリアに向かう川船−を襲う際の基地として使用される。首都は上タニア川の遙か上流に位置している。ジョーグラバン前伯爵の保有していた艦隊は、今では(砂に埋もれて)使用不能になった河口の港から出航したのである。この港は幽霊の良く出るといわれる城のすぐ下にあった。この城こそ“恐怖の”アーギンが生まれた場所であるといわれている。




湖の中小勢力

ウェクステン平原共和国の者たちは90人載りの戦闘用ガレー船を共同指揮権の下においている。ただしこの戦闘用ガレー船が港を離れることはまれである。“湖の狼”と呼ばれているレイモンド・ドュ・ハームは高名な傭兵隊長であり、彼のガレー船は敵船に油を注ぐためのかえしのついたたちの悪い衝角(ラム)が取り付けられており、それで幾多の戦いの荒波をくぐり抜けてきた。

水上戦闘の戦術

フェルスター湖の水軍の戦術は、ジルステラ人の編み出した多くの機動を取り入れており、きわめて洗練されている。船首対船首の衝角攻撃、漕ぎ手席を通しての湾曲航行しながらの一斉射撃、バランスの取れたカタパルト、バリスタ、魔術による火力、両舷からの拘束機動、船首から船尾楼への橋掛けなどである。

唯一の潮流

  記述すべき力を持つ、湖で唯一の潮流はタニア潮流であり、これは上タニア川からクストリアの湖岸を経て、セイフェルスター湖の流出口へと流れている。ドスキオール川とヘルビー川の流れが生み出す、東から西への潮流も存在するが、常に流れがあるものの穏やかな流れである。この流れは雪解け水と春の雨で川が増水する嵐の季と海の季には、流れが速くなる。


  本テキストはJorg Baumgartner氏が作成した作品を、Trade Talk誌の責任者であるIngo Tschinke氏からの許可を得て木村 圭祐(しーちゃん)が翻訳したものです。
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