『サクラ大戦 巴里華撃団 紅姫編』





―”かぐや姫”というおとぎ話をご存知ですか?マダム―




 昔々 翁が竹林にて、光る一本の竹を見つけるのです。

 不審に思って竹を割ると…”赤ん坊”が。

 そして、老夫婦にかぐや姫、と名付けられ…

 …あ、いえ…あくまでおとぎ話、ですよ、マダム。

 ああ、失礼…話を続けましょう。

 その赤ん坊は、老夫婦の元ですくすく成長し、それは美しい女性に成長いたしました。

 …そう、マダム、貴女のように、それは美しく、ね。


 もちろん、そのような美女を前に、男共が放っておくはずなど無い。

 次々と我が妻にと、男共が押し寄せ、大混乱。

 そして、困り果てたかぐや姫は男共の誘いを断る為、無理難題をふっかけ、かわし続けました。


 …本当にマダムのようだ…おっと、度々失礼…脱線しましたな…


 それから


 その国の一番の権力者…プリンスが、かぐや姫に目をつけた。

 老夫婦も、かぐや姫も、権力者からの婚姻は、避けられない。


 そんな時、かぐや姫は突然”月に帰る”と言い出すのです。

 
 そう、彼女は自分は”月の王国の姫”だと、正体を明かすのです。

 今度の満月の晩に、迎えが来る事を、老夫婦に告げる。

 それを聞きつけたプリンスが、それを許すはずが無い。  


 何千もの男が、彼女を護ろうと取り囲んだが、月の力の前では無力だった。 

 …結局、月の光によって、かぐや姫はじぶんのいるべき場所に帰ったのです。 
 
 
 しかし、かぐや姫は、ひとつ「贈り物」を残していきました。


 ”不老不死の薬”


 しかし、老夫婦も、プリンスも、それを使うことなく山に捨ててしまった、と



 ―さて・・・貴女なら、この”贈り物”どうしますか?―




「…それで?」

とコクリコが足をブラブラさせながら口を開いた。


「ええと…おしまい。」

困ったように、北大路花火が話の終わりを告げる。


「はあ…なんだか、悲しいお話ですねェ。」

エリカ=フォンティーヌは、胸の前で手を組んだ。


「でも、カグヤが自分の国に帰ったんだから、ハッピーエンドなんでしょ?」

コクリコは、話の終わり方に納得がいかないのか、花火に再度質問をする。


「…え、ええっと…それは…」


話した花火自身は、こんなに皆の関心が集まるとは思っていなかったので、いささか焦っている。


「…前から思っていたのだが、日本の話は、ハッキリしない終わりが多いな。

 私としては、もっと歯切れのいい話のほうが、子供の情操教育にいいと思うのだが。」


そう批評をしたのは、グリシーヌ=ブルーメールだった。

すると、木の上からそれに対して、低い声が降りかかる。


「…フン、チンケな勧善懲悪話ばっかじゃ、巴里の街には

 どっかの誰かサンみたいに”斧”振り回す物騒なガキばっかりになっちまうよ。」


そう、せせら笑うのはロベリア=カルリーニ。

4人が座っている木の上で、一人で寝転んでいた。


「なんだと!?貴様!!それは私の事か!?」


グリシーヌは立ち上がり、斧を構えた。

当のロベリアは、フフンと鼻で笑って、そっぽを向いた。


「まあまあ…

 …でも、確かに…ハッキリしないね…カグヤは、本当に帰りたかったのかな…月の国に。」


この話が読者からではなく、カグヤにとって、”ハッピーエンド”かどうかが、コクリコにとって重要らしい。


「…育てのおじいさん、おばあさんにあっさりと別れを告げて帰るなんて…

 私なら、すごく辛いですけど…思いあっていれば、きっと、また出会えますよ♪」


エリカはそう言って、空に向かって手を組み、祈り続ける。


「そうですね…でも、残念ながら、人物の心理描写まで記載されてませんの。

 古い物語ですし…それに想像させるのが、作者の狙いだとしたら…ハッキリ描かれていないのも納得できますわ。」


花火も空を見上げて、”あくまで私の予想ですけど”と付け加えた。


「フン…それにしてももったいない…。」


「なにがさ?ロベリア」


「…アタシならその”薬”…どっかのおめでたいバカな金持ちに、売りつけるんだがな。」


木の上から、ボソリと聞こえた声に、グリシーヌもボソリと一言。


「不埒な…誰も買わぬわ。」


ところが、ロベリアは更に続けた。


「別に、”不老不死”を信じてるわけじゃないさ。 だが、人間の欲につけこんでだな…価格を吊り上げれば…そりゃもう」


「ダメですよ!ロベリアさん!!漬け込むなんて!」


エリカはロベリアの言葉を遮って”正しき道”を諭そうとした。

欠伸をしているロベリアには…無駄なのだが。


「そういうエリカは?薬、どうするの?」


コクリコは、エリカに話題を振った。


4人は、エリカのその答えに耳を傾けた。


しかし。



「…そうですねぇ…どうしましょう…うーん…」


「考えてないのかよ…」

「あぁ〜あ…やっぱり、ね。」

「エリカらしい、な。」

「そうですね…」


笑いあう少女達の頭上の空は





  青かった。







迫水の話を一通り聞き終わったグラン・マは、右側の口角をくっとわずかに上げた。


「…なかなか、面白い話じゃないか。

 で、その”かぐや姫”は…いつ巴里に来るんだい?」


「色々準備がありますので…3ヶ月は時間をいただきたいですな。

 …そうそうマダム。 姫の経歴は…こちらに。」


”かぐや姫”の詳細を記した書類を差し出し、迫水は、資料に目を通すグラン・マをまっすぐ見ていた。


「…ふむ…………なかなか”激しい”お姫様だね。アオイ=ツキシロ…ね。」


1ページ目に目を通し、グラン・マはそう感想を述べた。


「階級は、少尉です。”スカウト”してまいりました。」


「…スカウト、ねえ?正攻法の、だろうね?ムッシュ迫水…”問題児”なら、ウチは足りているよ。」


「ふふ…マダムも、お人が悪い…ちゃんと手順はふみましたよ。

 実を言うと、とあるお方からの紹介なのです。」


「…その”とあるお方”も気になるが…その優秀な人材を、わざわざ、巴里によこすとは…何か裏があるんじゃないかい?

 特に…この”事故”って所。」



「そればかりは、本人から聞き出すしかないでしょうな…。軍からは、これ以上”その件”に関しての情報を引き出すのは無理でした。

 とにかく、優秀な人材にかわりはないから、と言ってましてね。いや、僕もそう思うので、マダムにご紹介している訳ですが。」


「……つまり、軍が”こっちに押し付けた”と考えて良いんだね?」


「まあ、その理由は…そこに記載されている通り、とだけ申しておきましょう。こちらも出来るだけ、情報は集めてみます。

ただ、これだけは確かです。・・・霊力、戦闘能力も、巴里華撃団のマドモワゼルたちに、ひけをとりません。」


「ほう・・・”鉄壁の迫水”のお墨付きかい・・・」


「彼女も同じような、あだ名を持っていますよ…”紅姫”という名をね…」


「・・・”ベニヒメ”だって?・・・かぐや姫じゃないのかい?」


「ああ、失礼…次のページの写真をご覧ください。マダム。」


「…!!…コレは…!」



写真を見るなり、グラン・マは驚き、そして文章に目を通すと、薄く笑った。



「……………なるほど…それで”紅姫”かい…。

 …ふふふ…もっと、興味が出てきたよ。実物に会いたくなってきたねぇ…

 わかった…早速、準備にかかろうじゃないか。」


「・・・メルシー、マダム。」





…霊的災害の脅威は、消えたわけではなかった。




関係者の発表によると『その生物』は、突然、日本の陸軍演習場に現れ、その場にいた陸軍をほぼ全滅させた。


そして、次のような言葉を残し、去っていったという。



”人が人である限り、この世は闇の輪廻から逃れられない。

 お前は珍しい髪の色をしている、生かしておいてやろう…

 今、我はとても…気分が良い…”



この生物が何者であるかは、未だ正体・目的・現在位置すら不明のままである。


時間帯が満月の夜だった事と、その生物が、まるで月に吸い込まれるように消えた事

この2点から…軍関係者は、この事件を”カグヤ事件”と呼んだ。


しかし、それ以降…その生物が現れる事はなかった。






ーそれから3ヵ月後ー





巴里華撃団 イザベル・ライラック司令の元に、一人の陸軍少尉が派遣された。



名を「月代 葵」。


・・・カグヤ事件の生き残り、である。




 序章 END


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あとがき。

序章で、こんな仰々しくしてしまって…すみません

でも、大丈夫!中身、百合ですから、次回からちゃんとそれっぽくなります。多分(殴)

オリジナルのキャラと組ませるのって、抵抗あるとは思いますが…お付き合いいただける方、お付き合い下さい…!


2010.01.23 ちょこっと修正。

・・・なんか、『中身百合だから大丈夫』って言ってましたね、昔の私・・・(笑)

嗚呼・・・心底、昔の自分を1発殴ってやりたい・・・。