「…はぁ…はぁ…っ!クソ…ッ!」

こんな胸糞悪い夜は初めてだ…。


アタシ、ロベリア=カルリーニはそう思った。

月の夜に映える、赤い髪。



「……」



赤い頭のソイツは、息を整えて、アタシを見ている。

息を整えてと言っても、ヤツはちっともペースを乱していない。


黙って、こちらを見据えるヤツの表情は、いつもエリカ達に翻弄されて「ヒイヒイ」言ってるいつもの情けない表情じゃなかった。



「…はぁ…はぁ……来いよ…葵…!…まだ、アタシは、やれるぜ…!」



アタシは、コートを脱いで、ニヤリと笑ってみせる。

”今ここで、手を抜いたら、承知しないぞ”



目で言えば、アンタは理解できるはずだ。



「……」



無言でソイツは頷いて、スーツの上着を脱いだ。

アタシは、拳を振り上げ、殴りかかる。

思ったとおり、力は簡単に受け流され、アタシは体制を崩す。


ふと、ある言葉が頭を掠めた。


『学習して下さいね』


赤い頭のソイツは、口癖のように言う言葉。

嫌味なヤツだ、とアタシは常々思っていた。


体制を崩したアタシに、追い討ちをかけようとしたヤツの腕をアタシは、チェーンで取り、動きを止めた。


「学習してやったぜ…お前の教え通りな…!」


そう言うと、赤アタマこと、月代 葵は満足そうに目を細めた。









      CRAZY GIRL  ―多分、それが始まり―











事の始まりは、つまらない出来事だった。

「…また、朝帰りか…?」

シャノワールに入ってきて、一番に会ってしまったのが、グリシーヌだった事が運の尽きだ。


朝帰り、というよりも、時間は昼に近かった。

ココへ来るまで、太陽がやけに、黄色く見えた。

前の夜、ギャンブル運も悪かった事が、拍車をかけて、最悪の気分だった。


「…悪いか?」


こう言うと、次にこの貴族の口から飛び出す言葉が、大体、手に取るようにわかる。


「全く…どうしてお前は、そういう生活しか出来ないのだ!そんな事で…」


グリシーヌの声で、一気に気分が悪くなる。


「うるさいね…焦がされたいのかい?」


いちいちうるさいやつだ、とアタシは睨むが、グリシーヌにこの手の脅しは通用しない。

それどころか、逆効果だ。


「無礼な…!貴様には…一度わからせてやらねば解らぬようだな!」


「…お得意の斧か?よくもまあ、飽きもせず、同じ芸当が出来るもんだ。」


毎度おなじみの、グリシーヌの斧。

どこからともなく、何かと持ち出す、ご自慢の斧。

エリカのドジと同じ位、見慣れたもんだ。


「芸当か、どうか…貴様の身をもって確かめるがいい!!」


挑発すると、すぐコレだ。

ひとつ、暴れて憂さでも晴らすとしようか…アタシは掌に霊気を集中させ、炎をグリシーヌに向けた。


…せいぜい、キレイな顔は、焦がさないようにしてやらないとな。


アタシとグリシーヌが、共に足を一歩踏み出した瞬間―


シャノワールの廊下に、突風が吹き荒れた。

アタシの炎は消え、グリシーヌは振り上げた斧を下ろした。


(……邪魔が入ったか…)

「…チッ…。」

アタシは舌打ちをした。


「…何の、騒ぎですか?」


赤い髪を揺らしながら、いつも通り、あのスリットの入った短いスカートで歩いてくるヤツ。



「アンタには関係ないだろ?赤アタマ。」

「私はただ、この者の生活態度を注意しただけだ!!」


コツコツと靴の音が近づいて、アタシの後ろで止まった。


「…話し合いでなんとかなりませんか?」


赤アタマこと、隊長 月代 葵。

…のん気なもんだ。コイツ(グリシーヌ)にそんな手が通じるものか。


「そんなモノが、この者に通じると思っているのか!?葵!!」


グリシーヌの怒りの矛先が、仲裁役の葵に向いた。


「す、すいません…でも、ですね。…まず話し合いをしない事には…」


グリシーヌの勢いに押されて、葵は顔を引きつらせて謝る。

どうも日本人ってヤツは、愛想笑いやら、すぐ謝る事が好きらしい。


「…フン、やってられないね…アタシは寝るよ。」


馬鹿は放っておいて、アタシはさっさと寝床に戻ろうとする。


「何!?待てロベ…」


グリシーヌよりも先にアタシの腕を取ったのは、葵だった。


「…待って下さい、ロベリアさん。」


お説教なら、たくさんだ。


アタシは不快感を露わにして

「離せ。アンタには、関係ないだろ?これ以上、アタシにとやかく言えば…アンタといえども、タダじゃ済まないよ。」

と、少し脅しを込めて言った。


その途端、グリシーヌが反応して、何かを言いかけたが、葵がそれを右手で止めた。


「…タダで、済まないとは?」

「そんな事も言われないとわからないのは、バカだからか?」


吐き捨てるように言っても、葵はまだ食いついてくる。


「ですから、どうなるんですか?」


随分と落ち着いた口調だった。

…腹が立つほど、冷静だった。


”本気で言ってるんですか?”


そう最終確認するように、まっすぐアタシの目を見つめて、葵は聞いた。

アタシは黙って、葵を睨んだ。


「アンタ、アタシに喧嘩売ってんのか?」


ここで葵のヤツが、少しでも、アタシを怒るなり、なんらかの感情を出したなら、アタシは、こんな事までしなくて済んだだろう。



「…質問しているのは、私です。ロベリアさん。」


葵の表情は、変わらなかった。

左頬の絆創膏。

その絆創膏の下には、横に走る傷が隠されている。


アタシの腕を掴んだ、白い手袋。

その手袋で隠されている、葵の手の傷。



嫌なモノが次々に、チラチラと、アタシの目につく。



普段は隠している、目の奥に蠢いている、深くて黒い…影まで。


隠されると、余計に際立って見えちまう。



アタシは、ふうっと息を吐くと…葵の胸倉を掴んだ。


「テメエ…死にたいのか…っ!?」



怒鳴ってから気付いたが、こんな台詞コイツには通用しない。


「…だったら、どうなんですか?」


それもそうだ。


葵は”自殺願望の塊”人間だ。


葵は何も言わずに、アタシに胸倉を掴まれたまま、冷静にアタシを見ていた。



”やれるものならやってみろ”とでも言うのか?


葵は黙って、アタシを見つめ続ける。



”殺せ”とでも言うのか?



葵は何も言わずに、アタシを見ている。



いや、そもそも…コイツは、アタシなんか見ちゃいない。



それが解るだけに、余計腹立たしい。



『…葵、アンタは、一体、どこを見ている?』





沸々と、怒りが沸いてくる。


「…前から気に入らなかったんだよ…そのいかにも、冷静ですって面がな!

 表に出ろッ!アンタをぶっ飛ばして、隊長の座から引き摺り下ろしてやる!!」






そう言ってから、何時間経っただろう。



巴里の人目に着かない場所で、アタシと葵は、待ち合わせをした。

何もない、土と草の匂いのする、広いだけの原っぱ。


グリシーヌもついてくるとか言っていたが、待ち合わせの場所にはいなかった。


葵が言うには、”説得”したらしい。

・・・おそらく”撒いた”のだろうが、な。


グリシーヌが、葵の霊力と戦闘能力に目をつけているのは、知っていた。

聞いた話によると・・・葵は山を守る名目とやらで、小さい頃から、無茶苦茶な修行をさせられていたらしい。


葵が戦闘教官として、初めてアタシらに戦闘訓練をした時の事―。

一番に名乗り上げたグリシーヌは、葵に5分もたたずに負けている。

アタシは、というと、それを遠くから見ていた。

必ず追いついてみせる、とグリシーヌは言っていたが・・・生憎、アタシはそんな暑苦しいモンを背負わされるのは、ゴメンだ。


アタシは、そんなモンいらない。

単に、今はアンタが気に入らないから、ぶっ飛ばす、それだけだ。




「…断っておくが、話し合う気は最初から、ないからな。」


アタシの第一声は、それだった。


「……わかりました。」


葵は、間を置いてそう答えた。

赤い髪が、風になびく。


気が付けば、もう夕方だ。

夜と昼の境目。

夕日が燃えるように、巴里の地に沈む。


アタシは掌から、炎を出す。

葵は、風をまとい、真っ赤な髪をさらけ出す。


「…行くぜ…!!!」








そして、夜になった。


…戦ってみて、こんなにも、差があるとは思わなかった。


炎は、風で相殺される。

拳も蹴りも、止められては、受け流される。


これじゃ、グリシーヌの二の舞だ…!


霊力も、戦闘技術も、葵が上。イヤというほど、それが解る。


相変わらず、冷静だと言わんばかりの涼しげな顔をしている。

実際、コイツの心理状態は冷静そのものなんだろう。


だが、どこを見ているのかが、つかめない。


確かに、目線はアタシに向いている。

だが、コイツは、アタシを見ていない。


それだけが、ハッキリと解る。


…そこが、嫌いだ。



「…はぁ…はぁ…来いよ…赤アタマ……まだ、アタシは、やれるよ…!」


アタシは、コートを脱いで、ニヤリと笑ってみせる。


”今ここで、手を抜いたら、承知しないぞ”


眼力で、葵にそれ伝わるかどうかは…本音を言えば、どうでも良かった。

今のアタシには、とにかく、コイツを倒す事しか、頭に無い。


「……」


無言で葵は頷いて、スーツの上着を脱いだ。

アタシは、拳を振り上げ、殴りかかる。

思ったとおり、力は簡単に受け流され、アタシは体制を崩す。


体制を崩したアタシに、追い討ちをかけようとした葵の腕をアタシは、チェーンで巻き取り、動きを止めた。



最大の霊力を込め、左手に炎を集中させ、圧縮した炎の塊を作り出す。


「学習してやったぜ…お前の教え通りな…!」


これだけの至近距離で、この炎の塊を風で流す事なんか、出来ない。

ましてや、動きはアタシのチェーンが止めているから、避ける事も出来ない。


アタシの勝ちだ…そう、思った瞬間。


葵が視界から消えた。


「何…ッ!?」


途端に、アタシの腹に鈍い衝撃が走り、アタシの体はそのまま後ろへと浮き上がった。


「・・・ぐっ!?」


葵の右肘が、アタシの腹に打ち込まれていた。


(咄嗟に…アタシの懐に入り込んできやがった…!!)


その一撃で、アタシの炎は、消えちまった。

炎の塊なんか、恐れもしないっていうのか?



ヘタすりゃ、ホントに死んで…


・・・・ああ・・・。



…ああ、そうか…コイツは…


「…さすが、ですね…ロベリアさん…着眼点は良かったです…。

 あれだけ大きい炎は、瞬時に風では防げませんからね…正直、驚きました。

 戦うほど、どんどん強くなるんですね、貴女達は。」


落ち着き払った態度で葵が、地面にうずくまるアタシを見下ろす。


「ッ…ゲホッ……さすが、戦場で、死にたがる女のやる事は…違うね…ッ…」


アタシは、膝をついて、頭上の赤い髪の女を睨みつけ、皮肉を吐く。

葵はそれ以上、アタシに攻撃を加えるつもりは無いらしく。


「…もう、やめましょう、ロベリアさん。私は、あの場での喧嘩を収めたかっただけなんですから。」


それは、アタシに”降参”と言わせたい、そんなところだろう。


「最初に言っただろ…アタシは話し合いする気はないとな。」


アタシは、降参しないという意思を伝えた。

それを聞いた葵は、目を細めると、背中を向けて歩き、最初の立ち位置まで戻って、構えた。


アタシは、深呼吸をすると、炎を出した。


「喰らえ!!!」

「…”風衝壁”!」


アタシの炎とアイツの風が混ざる。


霊力じゃ、勝てない。

技でも、勝てない。


そんな事、わかっている。


葵は、炎を打ち消すと、反撃もせず、真っ直ぐアタシの目を見た。


”降参しろ”

”実力の差はもうわかるだろう?”


そんなメッセージが、嫌でも飛んでくる。


「どういうつもりだ…!?」

「…え?」


アタシは、葵に怒鳴り散らした。


「…どうして、本気を出さないのかって聞いてんだよッ!

 手加減のつもりか!?ふざけるな!!ワザと、相殺するように威力抑えやがってッ!!」


葵は、首を少し傾けながら、言った。


「…私は、貴女方を守る立場の人間で…こういう私闘は、本意ではありません。」


…守る、だって?笑わせるな。


「…いつ誰がお前なんかに、守って欲しいと言った!!いいから、本気で来い!赤アタマ!!

 次、手を抜いたら…どんな手段使ってでも、お前を殺す…!」


「………」


それを聞くと、葵は、目を細めた。

葵は死にたがる割には”殺す”という言葉を使うヤツを嫌う。


アタシは、人差し指で”来いよ”と更に挑発した。


「・・・”風来”・・・」


葵が、風をまとって、一気に空へ飛び上がる。


(やっと、本気になったか…!)


そして、複数の霊気の気配をアタシは感じた。

突然、アタシの足元の草が、パツンっと散った。


「お得意の、カマイタチか…!!」


アタシは、気配を頼りに、カマイタチを避け続けた。当の葵は、まだ上空だ。


「…チッ…今度は上空から狙い撃ちか…っ!!」


本気で、アタシを潰しに来るらしい。

せっかく、葵が本気になったというのに、厄介な方法で攻めてきやがって…




まあ、良い。




アタシは、ココだ…葵…!





アタシは、上空の葵に向かって、見せ付けるように、炎を全身から発してやった。












「…気分、どうですか?ロベリアさん。」


「…最悪だ。」


地面に仰向けになって、アタシは正直に答えた。


・・・結局、アタシは負けた。


カマイタチを全部避けきって、降りてきた葵に集中砲火をかました


…までは良かった。


まさか、アタシの炎の連撃をバカ正直に、風で受けきるとは、アタシは思わなかった。


結局、その後


着地した葵に、ブン投げられて、アタシはそのまま仰向けで”参った”と言うしかなかった。

動きたくても、もう体が、動かなかった。


…霊力が回復するまで、もう少し寝転がるしかないな。


葵は、アタシが動けない事を良いことに、アタシの手足に触れて、怪我が無いか確認している。


「…他、どこか、痛みません?」

「腹…アンタが、肘入れた所くらい、かな。」

「あ…す、すみません…あの時は、さすがに本気になってしまって…。」


そうやってすぐ謝る姿は、普段の葵、だった。


「…だから、最初から本気でやれって言っただろ…。」

「…あの、どうして…」

「…あぁ?」

「どうして、わざわざ”的”になるような行動したんですか?全身に炎まとったら、標的になる事くらい…」


葵の顔を見ると、ヤツは心底心配そうな面で、こっちを見ていた。


「…そんなの解らないほど、バカじゃないさ。決まってるだろ?上空のアンタから、アタシが良く見えるようにしただけだよ。」

「どうしてそんな危険なこと…!」


「…確かに、ヘタしたら、死ぬと思ったさ。実力では敵わないって解ってたしな。」

「じゃあ…どうして…?」


どうして、か…

イラついたままの頭では、上手く言葉に出せなかったが、今なら、出来そうだ。


「死ぬかもしれないけど、それでも構わないってヤツ…

 …いつものアンタと同じ事しただけさ。」

「…え…?」


「…赤アタマ…お前、アタシらを守るために死ねたら本望だ、とか言ったよな?」

「・・・・はい。」


「アタシら守って死ねれば、アンタ自身は、さぞ満足だろうよ。名誉の戦死なんだからな。

 ・・・だが、アタシは大迷惑だ。」


「・・・・・・。」



「お前がどこで死のうと、勿論、アタシには関係ない。

 人間、死ぬときゃ死ぬんだし、勝手に死ねばいいと思ってる。


 …だが”アタシらを守る事”を…お前の”死ぬ言い訳”にするな。」


「・・・・・・・。」


「守られたコッチが、気分悪くてしょうがないんだよ。大体…お前、いつも何考えて戦ってんだ?」


「……何って…巴里の平和とか…貴女達の事とか…」


「…嘘くさいね…アンタの頭の中は”戦友の所へ逝く事”ばかりだ。アタシらを守るなんて、”ついで”みたいなモンだろ?」


アタシがそう言うと、葵はビクリと反応した。


「そんな事、ありませんッ!私は…ッ!」


ホラ、その目だ。



悲しそうに

苦しそうに



戦いの後、空を見上げて、いつもいつも、その目をして。


死んだ戦友を守りきれなかった、あの日を追い続け…もがいている、その目…。



「アンタは、バカだ。救いようも無い、大バカだ。


 死にたがるなんて、どうかしている。死んで何が変わるというんだ。


 そんなに、死にたきゃ、勝手に死ねばいい。


 死に場所を求めるなら、さっさとどこかへ行けばいい。


 ただ、アンタのそんなしけた面なんか、見たくないんだよ、アタシは。」



戦友を守りきれずに死なせてしまって、後悔してるから、戦場で死にたいなんて大馬鹿もいいところだ。


誰に許しを請うことも、誰かに苦しみを吐く事も、コイツはしない。


”隠し続ける苦しみ”とやらで、自分を罰しているつもりなのか?


どうして、よりにもよって、このアタシの前で隠すんだ…


どうして、アタシの目の前で、違うヤツの事を考えるんだ…



どうして…




どうして、アタシじゃ…




・・・・・・・。





…なんだ……最近妙にイラつくのは、結局コイツのせい、なんじゃないか。




…どうかしてる…。


アタシは、どうかしてる。



…コイツの…赤アタマのせいだ。



「…ロベリアさん…」


アタシは、真っ直ぐヤツの目を見ていた。


葵の目は、やっとアタシを捕らえていた。


「ごめん、なさい……そんな風に、見えていたのなら…謝ります…。

 でも、信じてください…私は…”死ぬついで”で、貴女達を守っているつもりは一切、ありません。

 失う苦しみを…二度と引き起こしたくない、だけです…。」


葵のその一言で、アタシはやっと一息つけた気がした。


自分が戦場で死にたがっている事は、否定していないので、どこまで信じていいのかは、疑問だが…

嘘は、ついていないだろう。


「そう願いたいね…アタシは死にたくないんでね。」


それと同時に、風が吹いた。

自然の風だというのに・・・葵の匂いがする。

ああ、きっとコイツの赤い髪から香るんだろうな、とアタシは一人で納得した。


冷たくも無い、生ぬるくも無い、風。

まるで、この女のようだ。


掴もうとしても、掴めない。風。

決して、盗めない風…




・・・いや、このロベリア様に盗めないものなんか、ありはしない。



「……奢れ。」

「・・・は?」


アタシは、葵の肩を掴んで、上体を起こし、静かにそう言い放った。


「…少しでも、アタシに悪いと思ってるなら、酒を奢れって言ってるんだよ。

 そしたら、許してやらない事もないよ。隊長。」


「…元々、ロベリアさんが言い出したんですよ?コレ…」


葵は、ジトっとした目で、アタシを見た。

アタシは、腹をさすりながら、独り言を呟く。


「…ああ、腹が痛い…明日、ステージで踊れるかな…痣になってないかな…

 グラン・マに言ってみるかな…隊長の肘が、アタシの」


「わ、わかりました!奢らせて下さいッ!」


そう言うと、葵は上着の中から、財布を出して、中身を数えていた。

そして、何とかなるかも、というような顔をしていたので、アタシは…


「…言っておくけど、今夜だけだと思うなよ?」

「・・・・・・え゛?」


アタシのその一言に、振り返った葵のバカ面と言ったら……笑えた。


「…バカか?お前は。隊員に怪我させたんだぞ?しかもアタシは、シャノワールのサフィールだぞ?

 一晩分で、足りると思うか?ん?」

「………う、嘘…。」


「最低1週間は、付き合えよ。赤アタマ?」

「……ひ、ひど……!」



…こうしてアタシは、金の無い時、確実に飲ませてくれるスポンサーが、出来たというワケだ。



そして、盗むべきエモノも見つけた。


・・・これで、しばらくは退屈せずに済む。







  END



続けて、2話へ進む。

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  あとがき




これ、手直ししても、もうこれ以上どうにもなりませんでした・・・!