まず、違うなと思ったのは、髪の色。


赤くて、派手だと思った。

銀髪のアタシと並ぶと、人目を引くから、何も出来やしない。


それから、アタシが暴れようとすると、先にコイツが暴れる。


刑期、縮まりませんよ、と笑って言いやがる。

余計なお世話だと、睨むと、片手を顔の前に出して”ゴメンナサイ”と言いやがる。


殺気出して、風で飛び上がって。

アタシの獲物をかっさらう。


あの、派手な赤い髪振り乱して、短いスカート履いて。

アタシの前で、隊長面しやがる。


それから、自分は、すぐ死にたがるクセにアタシ達には”死ぬな”だの”身を護れ”だの、調子のいい事を言う。



気にいらないね。



試しに”お前、偽善者だろ?”と聞いたら、あっさり”はい”と認めやがった。


おまけに


”私、正義で人を救えるとは思ってません”


だとさ。



…笑えるよ。




アンタ、ホント、どうかしてる。




CRAZY GIRL




午前1時。レビューはとっくに終わり、シャノワールには、アタシこと、ロベリア=カルリーニと月代葵しか、残っていなかった。

葵は、楽屋でしきりに何かを書いては、仕分けしていた。それが”隊長職”というヤツか?

しかし、我慢の限界だった。アタシは待たされるのが、嫌いだ。


「…オイ。」

「ハイ?」

「ん。」


声を掛けて、指で時計をさしてやる。約束の時間だ。


「あ、もうそんな時間……あと、10分待って下さい。」

のん気な返事を聞いて、アタシは、顔を思い切りしかめる。


オイオイ冗談じゃないよ。せめて、首だけじゃなく、体をこっち向けて言って欲しいもんだ。


「…待てないね。アタシは待たされるのが嫌いなんだ。」


不満を露わにしてやると、ヤツはやっとこっちを振り返り


「あらま。」とだけ言った。本当に、のん気なもんだ。


「…あらま、じゃねえよ。さっさと来いよ、置いてくぞ。」


アタシは、クルリと出口の方へ足を運んだ。


「あっ、ホントに行っちゃう!わ、わかりました!行きます行きます!」


ガタガタ音が部屋から聞こえ、アイツはジャケットを肩に掛けて、カバンを持ってこっちに来る。


白い上下のスーツスカート。黒のシャツに、ニーソックス。


グラン・マが用意した葵のスーツだ。


元々、スカートは長かったのだが、葵は相当の暑がりで、すぐに脱いでしまう。

精神的に”暑い”と感じたら、すぐ脱いでしまう”脱ぎ癖”がある。


その”脱ぎ魔”の身体を考慮して、ワザと通気性の良いスーツにしたらしい。


そして、この短さだ。


膝上何センチより、股下何センチの方が早いのかもしれない。

肌を出すな、とグリシーヌに怒られ、しぶしぶニーソックスを履いてはいるが本人は、短パン(どれだけ短いんだか)を履きたいとまで言い出す始末だ。


赤い髪の毛の女が、ギリギリのスカートでモギリやってたらそりゃ、客も寄ってくる。しかも、オトコ。

まあ、アタシのファンが大半を占めるんだろうが。


不純な動機で、来られても迷惑だが、最近は女の客も多いらしい。


まあ、コイツの顔は花火曰く”神秘的”なのだそうだ。


シャノワールを出ると、夜の空気に巴里は包まれていた。…この時間帯が、何より好きだ。


「で、アタシを待たせてまで、何してんたんだ?」


ポケットに両手を突っ込み、アタシと葵は夜の道を歩く。

「…フォーメーションなんですけどね…」


葵は、考え込むしぐさをして、言った。アタシはそれを鼻で笑う。


「フン…そんなの、使いモンになるのかい?覚えきれないバカもいるだぜ?」


”赤い光武”のシスターなんか、特にな。


「もう少しバリエーションを増やしたいと思ってたんです。だから、いっそ、それぞれの役目を決めて、位置は任せようかなと…」


「それはダメだな。バカがはぐれる。」


”赤い光武”のシスターなんか、特にな。


「そうなんですよね…自由にすると、みんなホントに自由になるから…」


…お察しするよ、隊長。ま、アタシにはそんなモン関係ないけど。



「…で、結局、結論は?」


「…今の所、前衛にロベリアさん・グリシーヌさん…後衛にエリカさん・コクリコ・花火さん…ですかね…」


「…変わってないじゃないか。」


「…このフォーメーションは、完璧です。いくら考えても、やっぱりコレになってしまう。」


「…真面目だねえ…隊長サンは…」


「このフォーメーションを考えた、大神さんは凄い人ですね…

 戦いの記録を見ていると、大神さんの指示で、みんな連携が取れて、弱点も、見事に強みに変えてる。」



「ふうん…」

(…あのバカも、結構凄かったんだな…。)


「…私はまだまだ、です…もっと、頑張ろう…って考えてたんですよ。」

「…で?」

「で…その記録を、見てた訳です。」


(…待たされた理由が、それかい…。)

呆れながら、アタシは、ジッと葵の顔を見つめて「…フン…そいつはゴクロウサンだな。」と素っ気無く返した。


「…う……待たせて、ゴメンナサイ。」

葵はアタシの本心を悟ったらしく、素直に謝った。



「わかりゃいい。奢れよ。」

「はい。」





「こうやって、アンタと飲むのも良いんだがな。」

「ん?」

BARに着くと、レナードから、いつもの酒が出てくる。

同じモノを飲みながら、アタシはカウンターで葵と視線を交わさずに飲む。


「…アンタ、酒好きだっけ?」

「どっちかというと、別に好んでは…。」


葵は、安物のピーナッツばかり口に入れている。


「…じゃあ、どうして付き合うんだ。監視のつもりかい?」

「…監、視?」


「アタシが悪さしないようにさ。」

「悪さする気だったんですか?」


「…別に。」

「ロベリアさん、昼間、いないでしょ?」


「まあな。」

「だから。」


それじゃ、理由にならない。


「…アタシに何か用でもあるのか?」

「いいえ、ただ一緒にお酒飲めたらなぁ、と。」


「……なんだそりゃ。」


確かに、コイツは酒に強い。強いというか、全く酔わない。

だから、アタシのペースについて来れるのは、まずコイツだけだろう。


一緒に酒を飲むんだとしたら、今、コイツしかいないだろうな。



だが…本当に、それだけか?



「あぁ…あの私、別に”心開いてもらおう”なんて事考えてませんよ?」

「…フン、そう願いたいね。」


心でも読まれてんのか?と思うほど、いま核心をつかれたが、あえて、今は何も言わない。


「…私、目立つでしょ?髪。 昼間、街とか歩くとよく見られて…

 日本は目を逸らすんですけどね…巴里の人はしっかり見るんですよね…

 だから、夜に歩くほうが目立たないし、気が楽で…。」


ああ、だからか…夜出掛けるアタシについて回るのは。・・・なんだ、ただの暇つぶしかよ。


「…フン…今夜は、アンタの愚痴聞かされるのかい。」


アタシは思わず苦笑した。


「…まあ、そうなりますねぇ…」


葵も、苦笑いだった。


「モギリでも、お前目当ての客がいるって聞いたよ?」

「…私というより、髪じゃないですかぁ?珍しいから。」


葵は、へっと笑った。…随分擦れてる…というか、曲がった見方をしてるな。

ま、実際、その視線にさらされているんだから、そう考えたくもなるだろうな。


「…それを強みにしてみる気もないのか?
 
 イヤなら、イカ墨、アタマから被りな。見られるのも仕事のうち。モギリでもシャノワールの一員だ。

 スペシャリストなんだから、少しは自覚しな。」


語気を強めて言ってやると、葵はキョトンとした顔でこっちをみる。そして、深く頷いた。


「…なるほど、そういう考え方もあるんですね。」


オイオイ、真に受けるやつがあるか。


「・・・お前はバカか?納得すんな。

少しは、グリシーヌを見習え。必要ない時でも、プライドの4文字だけで噴火できるんだぜ、ヤツは。

 ・・・だから、腹が立ったら、怒っていいんだよ。」


そう言って、アタシはニヤリと笑ってやった。


アタシは単に、少しは感情的になった方が、楽になると言いたかったのだが…ま、葵が感情的になるのは、戦闘時くらいだろう。


「…怒られますよ?」


葵は、笑った。


「構わないさ、逃げりゃいい。」

「フフ…そうですね…。」



「それから。」

「はい?」




「アタシは、アンタの赤い髪、嫌いじゃないよ。」




アタシがそう言うと、葵は嬉しそうに「…私も銀髪、好きです。」と言った。



同い年だからか、コイツが、単なるバカだからか…アタシとコイツは、少々の事では衝突はしなかった。

話は、コイツとアタシの”最近どう?”的な話を中心に、犯罪者の心得やら、まあ、悪さ色々。


エリカ達には、こういう事全般が、一切通じず、ひたすらイライラするのだが、葵は、アタシに説教する事もなく、聞いてくれる。



…聞き上手、ってヤツだろうな。


常に、”そういう考え方もある”と肯定して、自分が思った事を口にする。

私生活において、頭ごなしに何かを押し付ける真似を、コイツはアタシにしない。


…多分、自分がされて嫌な事はしないとかいう、優等生タイプなんだろう。


アタシが、苦手なタイプだった。

だが、嫌な女じゃなかった。


酒が進む。葵には、これ以上飲むなと、怒られた事もない。


飲みすぎたら、こいつが介抱してくれる、らしいから。…間違っても、そんな事にはならない、と言ってまた飲む。




それを繰り返し。




BARから出たのは午前3時。夜風が、頬に気持ちがいい。この瞬間が好きだ。

ふいに、葵の髪の匂いが鼻を掠める。



よく見たら、ヤツはジャケットを脱いで、Yシャツを摘んで、胸元をパタパタ扇いでいる。



・・・いい加減にしないと、見えるぞ、胸。



「あつー…」


やっぱり、脱ぎ癖はこんなトコでも出るんだな。


「…酔ったか?」

「いえ、ちょっと明日の事考えたら、暑くなってきました。」


コイツの『暑い』はストレスの度合いと言ってもいい。

不安、恐怖、怒り、そんな感情を抑えるためだとか、医者は言っていたが、そもそも、コイツのこの脱ぎ癖の発端は、”姉”のせいだ。

火の付いた倉庫みたいな場所に、修行だのなんだの言われて、放り込まれ半死半生の目にあったらしい。


おかげで、霊力が開放されたとかいう話だが、そこまでしてまで山を護ろうとする考え方はアタシには、理解できない。


「フン、仕事の話はやめな、折角の酒の後味がまずくなる。」


アタシは、さり気なく葵に、忠告してやった。

これ以上、脱ぐなよ、と。


「そうですね…ん〜…」


葵は、気持ちを切り替えようと、伸びをした。

気持ちよさそうなその表情に、アタシもつい手を伸ばす。

指先に触れるのは、絆創膏のざらついた感触。


「…なあ、アンタの頬の傷だけどさ…」


「…え?」



葵の頬の絆創膏を撫でる。剥がしてやろうとした時だった。



「オイ、女だぜ。」

「…どっちがいい?」


・・・やれやれ。


慣れたくはないが、まあ女二人で飲んでいたらこうなるんだよな。・・・これで5回目だ。

今までは、気に入ったならついて行ったり、気に入らなかったら、ぶん殴ってた。



(・・・・・・ん?)



…そこで、アタシは気が付いた。


夜だと”赤い髪が目立たない”なんて、嘘だって事に。


巴里の街で、夜遅く”女”が歩いているだけで、目立つんだ。



そう、髪の色なんか、関係ない。


赤だろうと、銀だろうと…。


「オイ、姉さん達、女同士でちちくりあうより、俺達と」


オトコの声を遮って、アタシは葵に話しかけた。


「なあ、葵…」


「はい?」


「アンタ、好きな男のタイプは?」


アタシは、ニヤッと笑って髪をかき上げて、葵に言った。


「なんですか?藪から棒に…。」


葵は、子供みたいに笑っていた。


「ちょっと気になっただけさ。たまには、いいだろ?そんな話も」


「…ヤです。ろくな思い出無いんですから」


葵はYシャツのボタンをもう一つ外して、こっちに笑いかけている。


「おやおや、男運が無いのかい?隊長サマは…」


アタシは右腕のチェーンを垂らして、同じく葵に笑いかけた。

男達は、下品な笑いを浮かべてアタシ達へ近づいてきた。



「なあ…俺と、どうだい?銀髪の姉さん」

「一晩これでどうだ?赤い髪の姉さん。」


金をチラと見せて得意顔の男。顔を見合わせて、アタシらは声を出して笑う



「ホラ…この通りですもん。」と葵。

「なるほど。悪いねぇ、男運。」とアタシ。



「いえ、私だけの男運とは思えませんけど…?」と葵。

「…じゃあ、アタシも悪いって事?ハッ…笑えないね。」とアタシは言いながら、歩みを進め…



”ゴッ!”



まずは、アタシが思い切り、男のムスコを蹴り上げる。

唸りながら、地面を芋虫のように這いずり回る男を、アタシはせせら笑う。


もう一人の男は、葵のほうにゆっくりと歩み寄る。

ナイフをチラつかせて、余裕という顔で。



「…下手に動かなければ、痛くないぜ…」

「あぁ、そうですか。」


葵は、そっけなく答えて、スカートからベルトを外した。


「そうそう、素直な女は大好物だぜ…」


男の期待通り…果たして、赤アタマが素直な女かどうか…。

葵は、ベルトを両手でピンと張ると、鞭のように振りおとした。


ピシンっと良い音が鳴り響き、ナイフが飛び、男は手を押さえた。


「うっ!?」


大抵、これで逃げていくのだが、今日は諦めが悪いみたいだ。


「このっアマぁ!!」


芋虫が、立ち上がって殴りかかってきた。

・・・何言ってんだか。ほろ酔い気分で、アタシらに声掛けるから、こうなるのさ。



「…このロベリア様を”アマ”と呼んだ事、後悔させてやるよ…」



アタシは、右手からほんの少し炎を出して、残り少ない芋虫の髪の毛を”永久脱毛”してやった。

サービスで無料だ。



「げえ!?まさか…あのロ、ロベリア…!?」


そう言ったのはナイフをチラつかせていた男。


「…だったら、どうなんだい?」

「…。」



チラリと葵を見る男。

・・・まあ、次に何をして、どうなるかは解っているんだが。


「う、うおおお!」



…黙って逃げればいいのに。ホント、馬鹿につける薬は無い。


男は、ベルトを装着中の葵に殴りかかって行った。



次の瞬間―


男は、葵の”カマイタチ”を受け、宙を舞っていた。赤い髪が風に揺れ、風が汚い裏路地を駆け抜ける。


その風の気持ちのいい事。



「銀髪と赤い髪の女には近づかない事…学習、出来ましたよね?」


ニッコリと口だけで笑って、葵はそう言った。


オイオイ、随分とキケンな学習法だな。今や、アタシより、アンタの方が危険だと思うけどね…

風からは、ほんのり、葵の髪の匂いがした。


”ぐえ”という小さい男の声を聞いた後、アタシ達はくるりと振り返る。

・・・何事も無かったかのように。


「さぁて、帰るか。」

「そうですね。」


スッキリ、とアタシたちは歩き出す。


「…なあ。」

「なんですか?」


「…お前、霊力で、飛べるんだっけ?」


「正確には、風で舞い上がって、滞空時間長引かせられるってだけ、ですけど。」


「ああ、それでいい、やってくれ。」


「…じゃ、どうぞ」



珍しいと思ったのだろう、瞬きをしてから、葵はアタシに手を差し出した。

掌には、傷。いつもなら、手袋をしている。

何を撃ち込んだのか、突き立てたのか…手の甲を貫通している傷痕。


触れても、意外にざらついた感じも、嫌な感じも無かった。


手を自分の肩にかけると次に、腰に手を回される。膝を曲げて、葵はアタシを抱えて、少し飛び上がる。


「…風来…」


風が集まり、地面から空へ舞い上がり、アタシ達を空へと押し上げる。


あっと言う間に、屋根の上だ。何度見ても、便利な霊力のワザだと思う。


逃げる時なんか特に…


「ロベリアさん…今、これ”使えるな”って思ったでしょ?」


葵が、こっちをジッと見て言った。


「…思っちゃいないよ。」


チッ・・・勘のいいやつだ。


「で、どこ行きたいんですか?」

「あぁ?」


屋根から飛び上がり、空中を舞う。

雲にも手が届きそうなくらい、飛び上がり、すうーっとゆっくり降りていく。

ただ落下するのとは訳が違う、柔らかな風の感触。


風と葵の匂いが、混ざってアタシの鼻をまた掠める。


少し、酒の匂いも混じっているが、ヤツの匂いの方が濃い。


「もしかして、酔った、とか?」


「…酔っているには酔ってるけど、ただ単に…アンタの風、浴びたかったのさ。」


「そりゃ、やっぱり、酔ってますよ。ロベリアさん」


クスクス笑う葵の表情に、アタシは数ヶ月前の”自殺願望持ちの隊長”のあの表情を重ねて、捨てた。




”アンタ、そうやって笑ってた方がいいよ”




そう言おうと思ったが、台詞がクサいからやめた。



ふと思う。



もしかして、変わったのか?こいつは―と。


「…アンタ、よく笑うようになったな」

「…そう、ですか?」


「ああ。」


エリカ達の傍で、コイツはギャーギャー言いながらも隊長として精一杯、命を張って仕事をしている。


だけど。




アタシはどうにも気に入らない事がある。

コイツに、常に付きまとっているモノの事だ。




…頬の絆創膏がとれない事。



「…アンタ、まだ死にたいか?」

「まあ…死ぬなら戦場で、死ねたらいいな、とは思いますけどね。」



あっさりと、いつもの答えが返ってくる。


「…アタシがやめろって言ってもか?」

「勝手に死ねって言ったくせに?」



葵はそう言って、笑っていた。確かに、イラついて、そう言ったこともある。



「あれは…死にたいんなら死ねばいいって、意味だ。

 今は違うだろう?それとも…お前自身、死にたい気持ちに変わりは無いのか?

 死んだ仲間の元とやらに、逝く義務をまだ背負ってんのか?」


そう言うと葵は黙った。

下を見て、屋根にそっと着地する。そして、無言で飛び上がろうとする葵をアタシは止めた。


「オイ…こっちにも、アンタの仲間がいるんだ。アンタに、死んでもらっちゃ困る連中がな。」



その一言に、葵はやっと、アタシの目を見た。



「…おっと、アタシはその”仲間”に含めるなよ?」



アタシは、葵の額に人差し指と中指を突きつけて言った。



あんな連中と一緒にされちゃ困るんだ。




「…え…?」




ずっと、思っていた。




”コイツは、どこを見ているんだろう”と。


”今だって、死んだ仲間の事しか、見ていないんじゃないか”と。




葵の中で、アタシ達…



いや、アタシは、どこにいるんだ?




夜の街に繰り出すアタシに時々ついてくるのは…ホントは、酒を飲みたいだけじゃないんだろう?



大して酒が好きって訳でもない。

男を探している訳でもない。

アタシを監視してる訳でもない。




…これは自惚れかもしれないが、そう思ってもいいんだよな?




炎と風の技の相性だって良いし、アタシは前線で、暴れさせてもらってはいるが、それだって、アンタのサポートあっての事だって、分かっている。

戦いの中でも、アンタとアタシは、息はぴったりと合っているハズだ。

だから…いつもアンタはアタシを、隣においてくれているんじゃないのか?



意思の疎通ってヤツは、お互いの気持ちが分かっている状態の事だろう?



…アタシとアンタは、少なからず繋がっているんだ。


もういいだろう?

”今”を少しは楽しめるようになっただろう?


アタシは、アンタの赤い髪が気に入ったんだ。

アンタと一緒に飲む酒の時間も、嫌いじゃないんだ。



アンタのどうしようもない心の傷も、身体の傷も、変な脱ぎ癖も、アタシは、もう慣れた。

だから、いい加減、忘れてしまえ。



過去の男くらいなら、忘れさせてやれる自信がある。そんなモンなら、いくらだって忘れさせてやる。

だが、葵…アンタはきっと、忘れようとはしない。


アンタの赤いアタマの中を支配している”死んだ仲間”の事だ。


今のアンタを戦いに駆り出すのは、この世にいない”仲間”。





アンタの左頬の傷は、その過去の象徴。

その絆創膏で、頬の傷を、いつまで経っても、隠し続ける。

アタシの前ですら、アンタは、頬の傷を隠し続ける。


アタシらを守って、死ねれば本望だと、傷を作り続ける。

このアタシの前で、死んだ仲間をみて、空を仰ぎ続ける。




この、アタシの前で、だ。



「アンタを護るも、殺すも、アタシは…できるんだよ。」




「…ロベリアさん…」



…気に入らないね。

何がって…このロベリア様が、お前から見たら”守られるだけの存在”って事がな。



・・・そんなモンは、ゴメンだ。



「アタシに出来ないとでも、思ってるのか?」


アタシは、アンタを置いて死んだ仲間とは違う。


「…え?」


アタシは、エリカ達のように”ただの仲間”でいる気も無い。


今のままじゃ、アンタはいずれ、逝ってしまう。・・・傷を隠し続けたまま。



「…アタシは、アンタの”パートナー”だ。

 アンタがどうしても死にたくなったら、アタシが殺してやるよ。」




そうだ、逝かせない。



どこにも。



絶対に。




「アンタの命は、アタシがいただく。 今、この瞬間から、アンタの命は、アタシのモンだ。」




「ロベ…!」



アタシの名前を呼びかけた赤アタマの髪の毛を乱暴に掴み、引き寄せる。



「だから安心して、生き残れ。葵…」

「え…」



戸惑う葵の表情、アタシは瞼を閉じて顔を寄せた。





『奪うのは、アタシの専売特許。』





何から何まで、奪っちまえば、アンタはどこにも逝けないだろ?






今日は、唇をいただく。





明日は…何を奪ってやろうか。




自分でもわかる。




・・・アタシ、ホント、どうかしてる。






     END




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あとがき


・・・どうかしてるのは、私の方かもしれません。(笑)

隊長、月代葵という人物は、巴里に来た頃、日本で巻き込まれた事件のせいで、色々な後遺症に悩まされている

という設定ですが…特殊過ぎて、どうにも扱いにくいっ。