・・・不思議な感覚だった。





この世界は、現実の世界ではない。・・・そう解っているのに。





まず、手につけているグローブの感覚が消えた。

視界は遮られている筈なのだが、目の前には真っ青な空と光が見え始めていた。



(・・・これが電脳遊戯の・・・世界・・・?)



シャノワールの部屋の中で立っていた筈なのに

身体は大空の中に投げ出され、落ちていく…そんな感覚に包まれた。


風が頬に当たり、髪がバサバサと乱され、体が落ちていく。




(…リアルな感覚、という宣伝文句はあながち間違ってはいないみたいね…)





電脳遊戯の調査中にグリシーヌ・ロベリア・花火の3名が霊力を根こそぎ奪われた。

奪ったのは”パラノイアス”と名乗る男の声。


葵・エリカ・コクリコの3名は、グリシーヌ達の奪われた霊力を取り戻すべく

パラノイアスの誘いに乗り、電脳遊戯の世界へと足を踏み入れたのだった。



(のんびりゲームの世界を楽しむ余裕はないけれど…焦ってもしょうがないわ…

”急がば回れ”。…未だ、ハッキリと敵の能力も場所も解らないのだし…出来る限り情報を集めないと…)





ふと、ヘッドギアに塞がれている筈の耳に、声が聞こえた。

耳に直接囁きかけてくるような、不快な声。




『・・・ようこそ。電脳遊戯の世界へ。

今、君達の感覚の全ては霊力を通して…この世界に存在している。』



(パラノイアス…!)

グリシーヌ達の霊力を奪い、巴里の人々を電脳中毒に染めた張本人だ。



『そして、この世界は、今まさに魔王によって支配されつつある。

 君達は、この世界の選ばれた勇者となり、この世界を救うのだ!…なんちゃってね。』



ナレーションの役目でも果たしているつもりなのか、笑いを堪えたようなフザケ半分の喋り方が、葵の怒りを誘った。



『…簡単にいうと、このディスクのクリアの条件は、魔王を倒す事。それだけ。

ボクチンの居場所は、君達勇者の足でちゃ〜んと世界中を歩き回って、探して頂戴ね〜』



葵は、パラノイアスの言葉に一切答えなかった。


やがて、空の光が強くなり、眩しさに目を瞑った。



次の瞬間、目を開けると…

葵の目の前には…街が現れた。




気がつけば、葵は空から街の中にいたのだった。

街には人々や店が並び、活気に溢れているように見えた。


ゆっくりと周囲を観察する。本当に現実の世界と変わらない世界が広がっている。

・・・自分の感覚が、ほぼ現実の世界のものと変わらなくなっていた。


(・・・ここは・・・一体どこだろう?どこかの街には、違いないんだろうけど…)



葵の知っているモンマントルの街に似てはいるが、すぐに違うとわかった。



それは…『武器屋』『防具屋』『道具屋』なる謎の店が立ち並んでいたからだ。



(………い、今は…街の探索よりもエリカさん達と合流しよう…

 同じディスクを差し込んだのだから、多分こっちの世界にいる筈だわ…)



葵は周囲を見回し、歩きながら、エリカとコクリコを探した。

しかし、2人共普段あんなに目立つのに、こういう時に限ってなかなか見つからなかった。


葵は、聞き込みをする事にした。


「…あの、すみません。赤い修道服の女の子と、小さいツインテールの女の子見ませんでしたか?」


近くにいた男性に話しかけると…男性はニコリと朗らかに笑いこう言った。


「ようこそ!ここはルッテンハイムの街だよ!」


「・・・はい?いえ、あの…人を探しているんですけ」


「ようこそ!ここはルッテンハイムの街だよ!」


笑顔で同じ事を言われるので、葵の顔は凍りついた。

よく見ると、男性の目はまったく葵を見ていない。




(…そうか…ここ、電脳遊戯の世界なんだわ…)



葵は忘れかけていた。ココは…現実の世界ではないのだ、と。


「あの、ありがとうございました…。」


そう言ってぺこりと頭を下げたが、返って来た返事は…

「ようこそ!ここはルッテンハイムの街だよ!」

やはり同じ言葉だった。




確かに…本物ソックリに作られた世界だ。

だが、そっくりというだけ。現実の世界と比べると、所々不自然さがある。


自分の周りを歩いている人々は、人であって…そうではない。

彼らは、あくまでゲームを進行させる為の情報を与える役割に過ぎないのだろう。

だから、それ以外の情報を聞き出そうとしても、同じ返事しか返せないのだ。



葵は、溜息をついて、頭を掻いた。


「どうしよう・・・パラノイアスの情報を集めるにしても、エリカさん達の情報を集めるにしても…

 これは相当、骨が折れそ…」


そう呟いた瞬間、聞き覚えのある声がした。




「…良いですか?世界を救うのは、勇者というか…神様です!

神様は、いつも私達を見守ってくれるミラクルな存在なのです。

主は仰いました。”信じるものは救われる”…と。深くてありがたいお言葉です…わかりますか?」


「なんでも、東のほこらに王様の宝物を奪った盗賊のアジトがあるらしいぜ!」


「そうです。神様はそれもご存知なのですよ!悪の栄えた試しはありません!

 安心して下さい!」


「なんでも、東のほこらに王様の宝物を奪った盗賊のアジトがあるらしいぜ!」


「只今、神様を信じると宣言した方には、エリカ特製”おはボンせっと(マラカスとダンス振り付け表)”をプレゼントしてます!!」


「なんでも、東のほこらに王様の宝物を奪った盗賊のアジトがあるらしいぜ!」



(…ふ、布教活動してる上に…会話がまったく成立してない…!)



街の隅で、赤い修道服の少女が、しきりに街の住民と話している(一方的に話しかけているだけ)のが見えた。




間違いない。



どこからどう見ようと、あれはエリカ=フォンティーヌだ。



「・・・あのー…エリカさん。」

葵はとりあえず、声を掛けた。


「あ、葵さん!おはようございますっ!イイお天気ですね〜♪」


エリカはいつもどおり、元気いっぱいに挨拶をした。

会話は、やっぱりそこで途切れた。



「…あの、エリカさん…本来の目的、忘れてません?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


随分と間があった所を見ると、どうやら、すっかり忘れているらしい。



「エリカさん…ここは、電脳遊戯の世界ですよ。」

「・・・・・・・・・・・あ。」


全てを思い出したエリカは、テヘッと笑った。



「…まあ、合流できて良かったです。行きましょう。コクリコもどこかにいる筈です。」


とりあえず葵は、はぐれないようにエリカの手を引いて、コクリコを探す事にした。

そして、二人が歩き始めた瞬間。


”ぱんぱかぱーん”


『エリカが仲間になった!』



「・・・・・・。」「・・・・・・。」



気の抜けるようなファンファーレに、不快なナレーション。

コクリコを見つけた時も多分、このイベントは発生するのだろう。



「・・・葵さん・・・」

エリカは葵の手を握りながら、言った。


「…この声、あの人ですよね?」


「ええ…パラノイアスは、楽しんでいるみたいですね…私達がこの世界で彷徨う姿を…。」

「でも、早くクリアしないと…グリシーヌさん達が…!」


その割には、さっきまで布教活動してましたよね?というツッコミを飲み込んで葵は言った。


「エリカさん、自分で言ったでしょ?私達には、私達の戦い方がある、って。

 今は、進みましょう。まず、コクリコを見つけます。」


「…はい!葵さん!」


葵とエリカは、歩き出した。


「あの〜…ちなみに葵さん…」

「はい?」


葵が聞き返すと、エリカが少し言いにくそうに言った。


「…手を繋ぐよりも…エリカ、腕組んじゃいたいんですけど、良いですか?」

「ええ、はぐれないでくれたら、それで良いですから。(放っておくと、どうなるか不安だし。)」


そう言って葵が笑い、差し出した腕に、エリカは嬉しそうに腕を通した。


・・・しかし、すぐに首をかしげた。


「…どうかしました?」


葵が聞くと、エリカはポツリと言った。


「なんか変な感じです。」

「・・・何が、ですか?」


「こうして腕を組んで、葵さんに触れているこの感覚は…パラノイアスに作られたモノ、なんですよね?」


そう言って、葵の腕を確かめるように擦った。


「…まあ、そうなるでしょうね。

 実際の私達は、ヘッドギアを被って、十分な距離を取って立っている筈ですからね。」


「……でも…やっぱり、この感じ…葵さんです。…本当にリアルなだけ、なんでしょうか?」


そう言われて、葵はどれどれとエリカの片手を握ってみる。


「…うーん…言われてみれば…」


現実世界と電脳世界の境界線が、あやふやになっていく。


葵の手は、エリカを感じ取る。


現実世界では、グローブを身につけているのだから、こんな感覚は本来ならあり得ない。


「うーん…本物っぽいなぁ…」

「不思議、ですよねぇ…。」


疑問を呟きながら、エリカの指と葵の指が絡みあう。






「・・・・不思議なのは、そっちだよ。何してんのさ。」




「「・・・あ゛。」」



街の真ん中で指を絡ませあう女2人に、コクリコがツッコんだ。


「ねえ…ボク、そっちに加わっていーい?それとも、邪魔?」


棒読みの台詞を言うコクリコに、2人は慌てて手と首を振った。


「いやいやいや!!」「どうぞどうぞ!」




その瞬間。




”ぱんぱかぱーん”


『コクリコが仲間になった!』






「「「・・・腹立つなぁ…」」」」




腹を立てている場合ではない。



・・・果たして、彼女達は、電脳遊戯を攻略できるのであろうか・・・。







   巴里華撃団 紅姫ギャグ編 ー 電脳遊戯を攻略せよ! ー







「グラン・マ、帝都の紅蘭さんからデータ届きました!」


「お前ら!ケーブルとシステムの最終チェックだ!急げ!」

「「「「「おー!!」」」」



一方、現実世界…シャノワールでは。



とある部屋に大量の機械やケーブルが運び込まれていた。


その部屋の中央では、葵・エリカ・コクリコが立っていた。

メルとシー、そしてジャン班長率いる整備班が、その周りをバタバタしていた。

倒れたグリシーヌ達は、別室に運ばれた。



「準備OKですぅ〜!」

シーの声に、グラン・マは頷いた。



「そうかい…じゃあ、始めておくれ。」


「はーい!」




「…しかし…まさか、調査の段階でこんな事になるとはね…」

あたしも迂闊だったよ、とグラン・マは言った。


グリシーヌ達調査部隊が失敗、そして残る葵達が電脳遊戯をプレイしているという

メル&シーからの報告で、グラン・マは”あ、ヤバイ状況だわ”と判断。


緊急招集をかけた。


「…いえ、マダムのせいではありませんよ。予想以上の展開の早さに、僕も正直、戸惑い気味です。」


グラン・マの後ろにいた迫水が”それに”と口を開いた。


「…元は、僕がコレを持ち込んだんですからね。」


「いや、遅かれ早かれ、こうなっていたかもしれないよ…

それに大体、葵達にアレを調査するように命令をしたのは、このあたしだよ。

それよりも今は…」


そう言って、グラン・マはチラリと葵達を見た。


「…あの子達のサポートに回らないとね。」


「…そうですな。…早く彼女達にこの”勇者の剣”を届けるのが先ですね。」


そう言って、迫水は、赤い十字の描かれた白いディスクを取り出した。

それを見つめながら、グラン・マは聞いた。


「・・・で、ムッシュ…本当に大丈夫、なんだろうね?そのディスクは。

 ・・・”開発途中”なんだろう?」


「こうなってしまっては、無いよりマシ…と言ったところでしょうか。

 ”正直、100%安全とは言えない、けどこれだけはいえる。爆発は芸術やで!”

 と…開発者は言ってましたね。」

迫水は、あくまで開発者の名前は伏せた。・・・つもりである。


「・・・つまり・・・やってみなければわからない、か…まるで”ギャンブル”だね。



そうだ、この事件が片付いたら、その開発者、連れてきておくれ。思い切り引っ叩きたいから。」


「はははは・・・。」


グラン・マの恐ろしい発言はさておき。


ジャン班長の声が、一段と大きく響いた。



「…よーしッ!準備できたぞ!!迫水のダンナ、そのディスクをこっちに!」


「…うむ、頼むよ。ジャン班長。」


力強く頷きながら、迫水はそれを手渡した。

それを見守りながら、グラン・マは目を閉じた。



「・・・頼むよ・・・エリカ・コクリコ・葵・・・。」






一方、そのエリカ達、勇者ご一行は…。






「…だから!魔王はどこにいるんですかッ?エリカに教えて下さい!」


エリカが朗らかに尋ねると、街の住人らしき男がこれまた爽やかな笑顔で答えた。


「武器や防具は、もってるだけじゃ意味が無いんだ。ちゃんと装備しないとな!」


「いや、そうじゃなくて…魔王の場所を…。」


葵が顔を引きつらせながら尋ねると、街の住人らしき男が爽やかな笑顔で答えた。


「武器や防具は、もってるだけじゃ意味が無いんだ。ちゃんと装備しないとな!」


「…オジサン、さっきから同じ台詞言ってて飽きない?」


コクリコが顔をじとっとした目で見ながらそう言うと、街の住人らしき男が爽やかな笑顔で答えた。


「武器や防具は、もってるだけじゃ意味が無いんだ。ちゃんと装備しないとな!」



「「「…………あー…やっぱりダメか…」」」



「武器や防具は、もってるだけじゃ意味が無いんだ。ちゃんと装備しないとな!」



・・・情報収集中だった。(成果全くなし。)



やはり、街の住人から聞きだせる情報は、どれも肝心な情報とは縁遠い話ばかり。


ストレスが溜まる一方で、完全に行き詰ってしまった勇者一行は

情報収集を諦め、これからどうするかを考えることにした。



エリカとコクリコは、歩き回って疲れたのか階段に座り、葵は溜息をつき、腕を組んで考え込んだ。



「街の人に片っ端から話を聞いていると…ここから魔王へ直接乗り込む道は無いみたいです。

 やっぱり、ゲームを進行させるには、ヤツのシナリオ通りに行動しないとダメなんでしょうね…。」



葵達には時間がない。


確かに、急がば回れとは言ったが、これでは確実に間に合わない。

あそこまで弱ってしまったグリシーヌ達には、奪われた霊力を早く元に戻さないと、危険だからだ。


しかし、街で集めた情報は、これから冒険をいち早く終わらせなければならない葵達にとって

魔王への道のりは、あまりにも遠く、膨大なモノだった。



「…やはり、魔王を倒す為には、魔王の城の鍵と、そこへ行く為の船が必要で…

まず、魔王の城の鍵の存在を知っている賢者の居場所に行く為の通行手形を手に入れる為に

この街の王様の宝を盗賊から奪い返して…それには、武器や防具が必要で

その為には街の外のモンスターを退治して経験値とお金を…。」



それを聞いていたコクリコは、階段に腰掛け、げっそりしながら、こう言った。


「……つまり…すごい遠回りしろって事?葵。」


コクリコの問いに、葵は苦笑いを浮かべるしかない。


「えーと、簡単に言うと、そうなりますね。」


それを聞いたエリカは、立ち上がり大声で言った。


「そ、そんな事していたら、何日かかるんですかッ!

 …グリシーヌさん達が”天”に召されてしまいますッ!」


エリカの台詞中のとある単語を聞いた葵は、ピンとひらめいた。


「……あ!」


「どうしたの?葵…トイレ?」

「…何故か、この世界…宿屋はあってもトイレがありませんよねぇ…

 どうします?野ションします?エリカ、ティッシュ持ってますよ。」



「いや、そうじゃなくて・・・・ていうか、なんという単語吐いてるんですか!


 だから・・・私の”風来”を使うんです!」



葵の”風”の能力技・・・”風来”。

風を呼び、その場から上空高く飛び上がる事の出来る技である。



「・・・あぁーッ!その手がありましたねッ!!」


エリカは嬉しそうに手を叩いた。

コクリコも、なあんだと安心したように、笑って立ち上がった。


「そっか…ボクすっかり、忘れてたよ…葵、空飛べるんだっけ!

 それで魔王のいる所まで、飛んでいけば良いんだねッ!」




「よし…じゃあ、2人共、私にしっかり捕まって下さいね!」


葵は2人にしがみつくようにいった。


「うん」「はい!」



葵は両手を合わせ、風を呼ぶ。

ふうっと風が地面を吹きつけ、葵達の周囲を囲むように、どんどん風が集まってくる。



「・・・風来ッ!」



葵の霊力により、風が彼女達の体を包む。

そして葵が地面を蹴ると、3人の身体は勢いよく、飛び上がった。




(…よしッ!これで魔王の元へい…




”・・・ゴンッ!”




街の上空で鈍い音が響いた。



「「「 ーー 痛゛ッ!?」」」



見えない壁のようなものに、3人の頭がぶつかったのだ。


そのまま、ふらぁ〜っと3人は力なく地面に着地した。



「う、うぅ…何故、街の外に天井が…!?」

「い、いったあぁぁ〜い…!!」

「…ボク、泣かない…う…ぅ…!」


3人の頭に、大きなこぶが出来た…ような感覚が襲ってきた。

痛みと熱感に3人は苦しんだ。




すると、空からあの不快な声が聞こえた。


『・・・ダメだよ、ズルしちゃ。正義の味方のクセに、情けないなぁ。』


「その声は…ぱ、パラノイアス…!!」

涙目で葵は空を見上げた。


『…認めないよ、そんな技。反則じゃないか。

君達には、せいぜいボクチンの作ったゲームの世界の素晴らしさを

じっくり、時間をかけて味わってもらわないといけないんだからね。』


どうやら、上空に壁を作ったのは、パラノイアスらしい。



「そんな暇ボクらにはないのッ!さっさとグリシーヌ達の霊力返せッ!」

「…うぅ…こらー!人と話す時は、姿を現して、目を見て話しなさーい!そして、空に天井を作るのをやめなさーい!」


頭を抑えながら、涙目のエリカとコクリコの説得(?)も空しく、パラノイアスは笑っていた。



『ケケケケケ…ダ〜メダメ…時間をかけないと冒険にならないじゃないか。

 もっとも…そんな冒険を終える頃には、あの子達、干からびちゃってるかもね〜♪』



それを聞いた葵は静かに、空を睨みながら言った。



「…なるほど…最初から、彼女達の霊力を返す気も、私達と戦う気も無かったという訳ですか…!」



『…ケケケ…普通、そうだろう?簡単に返すくらいなら、奪ったり誘ったりしないよ。ケケケケケ!』


パラノイアスは、あっさりと認めた。



「そんな…!…嘘はいけませんよッ!悪人の始まりです!」

「そうだそうだ!ロベリアみたいになるぞー!!」


エリカとコクリコの合体口撃。

…しかし、パラノイアスには聞かなかった。



「・・・2人共、ちょっとだけ黙っててもらえません?」

葵は、2人を静かに叱った。


「「・・・ご、ごめんなさい。良かれと思って・・・。」」

エリカとコクリコはしょんぼりとした。



『何言ってんの?ボクチンは魔王だよ。悪いヤツの言う事にひっかかる方が悪い。

…君達は霊力が尽きるまで、ボクチンのゲームで遊び続けるしかないんだ。

セーブも、する暇ないよ。もっとも、セーブしても君らもどうせ死んじゃうんだから、無駄だけどね!ケケケケケ!』



(・・・くっ・・・どこまでも卑劣なヤツだ・・・!)



葵は、グッと拳を握った。

力では、どうしようもない。ヤツの元へ辿り着かなくては、意味が無いのだ。



『…さあ…まずは最初の”おつかい”だよ勇者様。

王の宝を盗んだ盗賊を倒す為に、街の外で雑魚モンスターを倒すんだ!

地道に、たっぷり時間をかけて、仲間の死体の横で、このゲームを楽しむんだ!ケケケケケ!』


「…葵…このままじゃ…!」

「どうしましょう…?」


「・・・・・。」



葵の表情を見て、エリカ達も悟った。



・・・どうする事も出来ない。


パラノイアスの言うとおりにするしかないのか…。








 ーーー その時だった。







諦めかけた彼女達の頭上に、音が鳴った。




 ”ぱんぱかぱーん”



あの気の抜けるようなファンファーレが聞こえたのだ。




続いて、どこかで聞き覚えのある声が空から響いてきた。



『葵・エリカ・コクリコのレベルが上がりましたよ〜!なんちゃって〜ひゅーひゅー♪』




「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」



その声に、エリカ達は聞き覚えがあった。

だが、パラノイアスのナレーションとあまり変わらないレベルの腹立たしさを感じた。



そして、その声はまだ続く。



『・・・あ、はい…スイマセン、オーナー・・・真面目にやりますぅ…お給料減らさないで下さいよぉ…』


・・・どうやら、ナレーションがグラン・マに怒られているらしい。


「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」


葵達は、黙って無表情で空を見ていた。



『ゴホンッ!えーと、続きましてぇ〜…

 

 …葵は”円月輪”を手に入れた!

 エリカは”ガブリエル”を手に入れた!

 コクリコは”ひのきのぼう”と”なべのふた”を手に入れた!ヒューヒュー!』



その瞬間。


葵とエリカの手には、慣れ親しんだ自分の武器が現れた。


「…こ、これは…っ!」

「…ガブリエル!久しぶり〜っ!」


「・・・ねえ、なんでボクだけ、装備ショボイの・・・。」


コクリコの不満を無視して、声は響いた。



『…葵は霊力技・風来が使えるようになった!ガンガン飛ぼうぜ〜!ヒューヒュー!』


謎のナレーションは、明るく葵たちに語りかけた。


「え、ええ!?」

「ど、どうなっちゃってるの!?」




空に先ほど出来た天井が、どんどん消えていく。

希望の光は、思わぬ所から差し込んだ。



『な、なんだって…!?ボクチンは、何もしてないぞ…!?』

パラノイアスの焦る声が聞こえた。



『ふっふ〜ん!ゲームの中に閉じこもってるから、外の様子がわからなかったんですよ〜だ。

 こっちはこっちで、現実世界でやる事たっぷり、やっちゃってんですからね〜ッ!』


新たに現れたナレーションこと、シーは茶目っ気たっぷりにそう言った。


空の上から、ナレーションの多重放送が流れてくるという、異様な状況だったが

そこに、ピシッとした声が響いた。


『葵さん!メルです!

現実世界でこちらから直接データを流して、電脳世界の情報を改ざんしているんです!

もう大丈夫です!さあ、一気に行っちゃってください!!』



メルのその声の後ー



『み、認めないぞ!こんなの・・・こんなのゲームにならないよ!つまらないじゃないか!認めないッ!!』


パラノイアスの焦る声を遮るように、葵は叫んだ。


「エリカさん!コクリコ!今の内に飛びますよッ!

 シー!魔王城まで、ナビゲーションをお願いします!」


『はーい!上…じゃなくて、北1時の方向に行ってくださ〜い♪』



「あぁー…よくありますよね〜エリカもドラクエしてると、北を上、南を下って言っちゃいます。」

「ねえ、エリカ、ドラクエってなに?」

「…え?エリカ、今そんな事言いました?」

「・・・・・・もういいや。」



エリカとコクリコの微妙な会話はスルーし、葵はシーの声に頷いた。

そして、コクリコとエリカに向かって言った。


「了解!…エリカさん!コクリコ!行きますよ!」

「うん!」「はい!」


2人は葵の体にしがみつき、葵は霊力で風を起こした。

風が集まり、彼女達の体を包み込む。


「ー風来ッ!!」


葵が地面を蹴ると、3人の身体は、風に舞い上がり、勢いをつけて空に吸い込まれた。

建物の屋根があっという間に、エリカ達の足の下に現れる。


「…うっわぁ〜!高〜い!!」



エリカは、はしゃいだ。

時々、彼女にせがまれて、巴里の街を飛ぶ事もある葵は

電脳遊戯の中でも、どんな状況下においても、エリカはやっぱり変わらないなあ、と思った。


現実の世界とは違う所にいる、という意識から、張り詰めていた気持ちが、少しだけ緩んだ。




空の上から見る電脳遊戯の世界を見ながら、コクリコは言った。


「・・・すごいよね・・・葵・・・これ全部、作り物なんだよね・・・?」

それは、確認するかのように。そして、驚きながら。


コクリコの呟きに、葵は風を操りながら、答えた。


「…そう、ですね…私もあまり信じられない…。

街の概観や、質感…今こうして触れている風も、まるで現実と変わりなく感じます。

それを・・・これだけの世界を作るんですからね…敵は相当の力を持っていると考えた方がいいかもしれません。」


彼女達の足元に広がる森や町、海…全てが現実のそれとソックリだった。



「…確かに凄いけどさ…だけど、ボク…なんか嫌だよ。」


コクリコはそう言うと、葵にいっそう強くしがみついた。


「…え…?」



「…ボク…街の人とお話したりするの好きなんだ。
 
あの街の人たち、ニコニコしてるけど…同じ事ばっかで、全然楽しくないよ。

こんな…誰かに何かをやらされるゲームより…

ボクは、葵達とバレーとか、フレンチジャンケンしたり、動物さん達とかけっこして遊ぶ方が、ずっと好きだよ。」


「コクリコ・・・。」


いくら本物そっくりの世界でも、所詮は虚像。

邪悪な怪人の手で、都合の悪いものが消された世界だ。



エリカは一呼吸置いて、明るく言った。


「…エリカもみんなと遊ぶの大好きですよっ!

だから、この事件が片付いたら、皆で遊びましょうよ!バレーとか、トランプとか!

エリカ達の世界で!」


それを聞いて、葵はニッコリと微笑んだ。


「それは、良いですね。たまには童心に返って遊ぶのも…いいかも。」


「じゃあ、ボクも、たまにはどーしんに返ってみよっかな。」


「コクリコは、十分童心ですよ〜♪」


「あ!エリカ、ひどーい!!」



空の上で笑う一時。





しかし、葵はその一方で強烈な不安を覚えた。



(………その前に…ヤツをどうにかしないと…)




気になるのは、勿論、グリシーヌ達だ。

予定よりも、かなり時間がかかってしまった事が彼女に強い不安を与えていた。



「…飛ばしますから、2人共、振り落とされないように!」



葵はいつもより霊力を消費して、出来る限り急ごうとした。



すると、エリカが突然声を上げた。



「…あ、見てください!葵さん!アレ!!」


「え?なんですか?」

葵はエリカの指差す方向に視線を向けた。



「ほら!配管工の髭の人(?)が、お空の上でキノコ食べてますよ!あ、体が大きくなった!

 なんなんですか!?あのカラフルなキノコは!美味しいんでしょうか!?」


「げ!」


エリカの指差す方向には、確かにそのような人物がぴょんぴょん飛び跳ねていたが…

それを見た葵は慌てて、話をそらした。


「え、エリカさん!ちょっと、それ以上はマズイから、言わないで!!

あの・・・せめて、直立ダッシュするハリネズミの話しませんか!?ね!?」


すると、今度は・・・。


「あ!葵!見て見て!!髭のオジサンが、緑色の怪獣に乗ってるよーっ!!」


「げ!」


コクリコの指差す方向には、確かにそのような生物がいたが…

それを見た葵は慌てて、話をそらした。


「こ、コクリコッ!だから、それ以上言っちゃダメだってば!

あの・・・せめて、柔道着来た顔の濃いオジサンの話とか…ッ!!」




「あーっ!葵さん!見てください!配管工の人が!羽の生えた亀を虐めてますーッ!

 こらー!そこのバカチン!生き物を虐めてはいけませんッ!あ、マッシュルームを踏んだッ!」


「エリカさん!ダメッ!それはヒゲのおじさんの仕事なんですっ!」




「葵ーッ!見てよっ!ヒゲのおじさん、お花を摘んだら、ロベリアみたいに火を出すし

 マントつけたら、葵みたいに空飛べるみたいだよーっ!!」






「だからっ!2人共!ニンテンドウの話はしちゃダ・・・






※注  只今、サクラ大戦二次創作SS内にて、不適切な表現がありました事をお詫び申し上げます。 神楽奈緒







「・・・・・ちょいと、メル何やってんだい?髭とか、クッパとか、何の話だい?」


「す、すみませんオーナー…なんだか…

 こちらのデータを送り込んだ影響で、電脳世界にバグが起きてしまったらしくて…」


「大急ぎで処理してますぅ〜…メル、ボンバーマンシステムってヤツ、使ってみるぅ?」


「…うーん…なんか、それはマズイ事になりそうな気がするわ…。」


「・・・・ちょいとムッシュ・・・大丈夫なのかい?あのディスク・・・。」


「だ、大丈夫ですよ大丈夫!・・・ははははははははは・・・。」


そんな、混乱したシャノワールの一室のドアが、突如開いた。

誰だと全員が振り向くと、誰よりも先にグラン・マが驚いた。



「…あ、アンタは…ッ!?」











そして。





「う、うわああああぁーッ!?」


「髭のオッサンがーッ!エリカ達を狙ってきますーッ!葵さんッ!急いでーッ!!」


「いやあああああああああぁ!オッサンが、狸の尻尾生やしてるよーッ!葵ッ急いでーッ!!」



「ほっほーぉ♪」






「…くううッー!ニンテンドウめぇーッ!!ドリキャスをナメるなぁーッ!」


「エリカ、どりきゃすって何?」


「えーと、生産中止になっ




※注  只今、サクラ大戦二次創作SS内にて、不適切な表現がありました事をお詫び申し上げます。 神楽奈緒











そんなこんなで、謎のオッサンから逃げ切った一行はついに。





ついに。






「…ここが、魔王城ですね!!

 
 ……あっさりと着き過ぎて、感動もへったくれもないですけど…。」



白と黒の禍々しく大きな城・・・のてっぺんにエリカ達は到着した。


一時は長い旅を覚悟した勇者一行は、いとも簡単に、空を飛んで彼女達は最終ボスの元に辿り着いた訳だが。


「エリカ、時間無いんだからしょうがないよ。………葵、大丈夫?」


簡単に、とはいえ…犠牲はそれなりに払った。

コクリコとエリカを抱えたまま、空を飛び続けた葵の霊力の消耗は激しく。


「…はあ…はあ…はぁ…大丈夫…!」


息を整えながら、返事をする葵だったが、大丈夫じゃないのは、コクリコでも解った。


「葵さん…休みましょう。」

「……大丈夫です。」


しかし、今更引き返す訳には行かない。

進まなければ…仲間の命が更に危険にさらされる。


「2人共・・・行きましょう。」


葵は息をふうっと吐くと、魔王の城の廊下を歩き始めた。2人もそれに続いた。

カツンカツンと足音だけが響く。


「・・・広いね・・・それに、なんか不気味・・・。」

「この城を探索するだけでも1日かかりそうですよね…てっぺんから入って良かったですね〜」


「はぐれないで下さいよ…エリカさん。」


「はーい!葵さんの後ろをしっかりついていきまーす!ね?コクリコ!」

「…う…うん…。(エリカだけ注意されてるのに…。)」


魔王の城の最上階は、まるで神殿のような造りになっていた。


長い廊下の奥からは、禍々しく強力な力を感じる。間違いなく、魔王こと、パラノイアスは奥にいる。




そして。


エリカ達は、とある部屋の前で立ち止まった。



「・・・ここ、ですね・・・。」

「ええ、間違いありませんね…」


「・・・うん・・・”魔王の部屋”って書いてあるもんね。」



「っしゃー!たのもーぅ!」

「ちょ、ちょっと!エリカさん!もう少し緊張感持って!!(ああ、キャラ崩壊が…!)」



”・・・バンッ!”



少しマヌケな魔王の部屋に、エリカ達は勢いよく飛び込んだ。




「巴里華撃団花組こと、勇者一行・・・参上ッ!!」


部屋の中は薄暗く、無数の蝋燭の炎で照らされていた。

赤い絨毯が床に広がり、冷たい空気が漂っている。

部屋の中央には玉座があり、それ以外に物らしい物はない、殺風景な部屋だった。




「…よく来たな、勇者一行。とは言っても、ズルしてやってきた勇者なんて、史上最低だけどね。」


玉座の方から声が聞こえた。


玉座に座っていたのは、色白でガリガリに痩せた、目の細い無精髭が生えた男だった。

魔王を意識してか、それとも本来こういう格好なのか、黒ずくめの鎧とマントに身を包み、こちらを見下ろしている。


先ほどの出来事に、よほど腹を立てているらしく、舌打ちと貧乏ゆすりを繰り返している。


「…この世界は…自由がウリだと、言っていたじゃないですか。邪魔なルールは消してしまえと。」


葵がそう言うと、パラノイアスはギリッと歯軋りをした。


「……減らず口叩いているけど…大分霊力減ったねぇ?赤い髪のお姉さん。

 これ以上、消費したら…完全にこの世界から出られなくなるよ?」


口調はフザケてはいるが、表情は怒りに包まれていた。

葵は更に台詞を付け加えた。


「…あなたは元々、直接戦うのが苦手なんでしょう?

だから、この世界で私達の霊力や精神力を削る必要があったんじゃないですか?



 だったら…このくらいのハンディは付けてあげますよ。」


そう言って、葵はニヤリと笑った。



(…葵さ、ん…?)

エリカは、葵が普段しないような挑発をしている事に違和感を感じた。




そして、その葵の挑発に、パラノイアスはブチ切れた。



「空を飛んでココへ来た事くらいで…いい気になるなよ!人間風情がッ!!

いくら外部から情報を送り込んでも、無駄だ!ここは俺の世界だ!俺の自由な世界なんだ!!」


自分称が変わり、玉座から立ち上がったパラノイアス。

葵は円月輪を、エリカはガブリエルを、コクリコはひのきのぼうとなべのふたをとりあえず構えた。


「きますよ!2人共!」


「はい!」

「うん!(…やっぱ、納得いかないなぁ、ボクの装備…。)」



3人は散開した。

まず、エリカのガブリエルが火を吹いた。


「祈りなさいーッ!!」


「フン!…魔王が祈るかッ!バーカ!…”魔王ビーム!”」


パラノイアスは、ガブリエルの放った弾丸を避けると、なんとも微妙な名前のビームを口から出した。

しかし、名称はともかく、破壊力は抜群だ。

ビームは、大人3人分はある太さの柱を一瞬にして溶かしてしまった。



咄嗟にエリカは身を伏せて、それを避けた。


「エリカ!大丈夫!?」

コクリコがエリカに声をかけると、エリカは後ろを振り向き、青い顔をして叫んだ。


「う・・・・うわ、うぅわ〜っ!!うわーッ!!

 葵さーん!コクリコー!あの人、口臭で柱を溶かしましたよッ!怖いッ!!」

「え、アレ、口臭なの!?葵、どうしよう!?ボク、すごく嫌!」


「え、ええぇ〜?好き嫌いしないで下さいよ。口臭くらい、我慢して下さいよ。」


隊長として、最低限の注意は促す葵。

それに対し、隊員は…。


「「えええぇ〜…」」


と嫌そうな顔をする。




「ええ〜じゃねえよ!

 というか”口臭”じゃねえよ!!怖いのはお前らのその発想力だよ!!」



好き勝手言う3人に向かって、魔王はツッコんだ。


その隙を葵は見逃さなかった。

流れるような動きで、パラノイアスの左後ろのポジションへ入り込んだ。


「…まあ…誤解されないように、名称と発射場所、もうちょっと考えた方が良いですよ。

 
 ”風散雨牙”!!」



「ーッ!!」



葵の風の刃がパラノイアスを包み、全身を切り刻む。


しかし。


刃は、鎧を掠めただけで、パラノイアスの本体に刃が届く事はなかった。



(……やはり…霊力を消費し過ぎたか…風が上手く集まらない…!)



しかし、葵は止まる事無く、今度は円月輪で、接近戦を仕掛けた。


「随分と分厚いステキな鎧ですね…余程の怖がり屋か、痛がり屋です…かッ!」

「…生意気な…ッ!」


パラノイアスは、黒い剣を出すと、葵の円月輪を受け止めた。

そのまま、葵は攻撃を仕掛け続け、敵に反撃を与える余裕を与えなかった。


「…………大分、焦ってるねぇ…心配かい?仲間の事が…。」

「…さあ…どうでしょう、ねッ!」


パラノイアスの言葉に動じる事無く、葵は攻撃を加え続け、その隙にエリカはマシンガンにマガジンを装填した



「…俺を挑発したのも、冷静さ失わせて、手っ取り早くカタをつけようって思ったんだろ?

しかも、自分の霊力が尽きかけている…長期戦は無理だもんなぁ…。

キミの状態も作戦も、ハッキリ言ってバレバレなんだよ!

隊長のクセに、意外とキミ頭悪いなぁ…ケケケ…」


そう言うと、パラノイアスは不敵な笑みを浮かべ、剣を振りかざした。


「…ッ!?」


葵は、間一髪、攻撃を避けた…つもりだった。


(…足が…ッ!?)


床から突然、手が伸びてきたかと思うと葵の足を掴んだ。


「…無駄さ。言っただろ?この世界は”俺の自由”なんだ。

 ここは、お前達が自由に遊べる空間じゃない。俺による、俺の為の世界なんだよ。」




パラノイアスが作った世界の中にいるが、痛みは本物のように、葵の感覚に伝わった。


腹部に鋭い痛み、やがてじんわりと自身の血で服が赤く染まっていく。

ポタポタと、鮮血が魔王の部屋の床に落ち、葵は片膝をついた。



「…卑怯者…!…(ここまで、空飛んでおいてなんだけど…!)」



「なんとでもいえ。これでショートカットした件がチャラにしてやるよ。

・・・じゃあ、トドメさしちゃおうかな♪」




「…葵ッ!」


コクリコが咄嗟に、紙吹雪でパラノイアスの視界を塞ぎ、なべのふたを投げつけた。


”コンッ!”



「…いでッ!?この…ッ!」


コクリコを追おうとするパラノイアスの鎧を、ガブリエルの銃弾が掠めた。



「今度は…エリカが、相手ですッ!さあ…己の口臭と罪を悔い改めなさいッ!!」


「だから口臭じゃねえよ!・・・うるさいなぁ・・・オマエ・・・殺っちゃうよ?」


パラノイアスが、エリカを睨む。

負けじとエリカも表情を引き締める。





一方、コクリコは葵を引き摺って、柱の影に隠れた。


「葵!しっかりして…!いくら、ゲームの中の世界でもダメージ負ったら、死んじゃうんでしょ!?」


「…大丈夫…浅い、です。死にはしません。」


苦しそうに呼吸する葵は、心配させまいと笑ってみせる。

しかし、コクリコがそれで安心するわけは無い。


「…それより、コクリコ…」


葵は、急に片手でコクリコの頭を強引に引き寄せた。


「え!?…わ、わわッ!?」






その一方、エリカは…。





「きゃーッ!口臭ビームがーッ!いやーッ!!」



エリカは、口臭・・・いや、魔王ビームから必死に逃げ回った。


「…だから、口臭じゃねえって言ってるだろ!”魔王ビーム!”だって言ってるだろ!そらそら、逃げろッ!!」



「うわーん!どっちにしろ、嫌ー!!」


ギリギリの所で避けまくるエリカだったが…。



しかし、運の悪い事に。

いや、それは…エリカだからこそ。



「…うわっ!?」


”…ドタッ!”





…こういう非常時にも、エリカは転んでしまう人間である。




「…ゲーム・オーバーだ…!」






「…エリカーッ!」


コクリコが叫びながら、エリカの方へ向かってくる。



「さっき、俺になべのふたを投げたガキか…!」


「…ダメ!コクリコ!こっちに来ては…ッ!」



エリカは力の限り叫んだ。

しかし、コクリコは真っ直ぐ向かってくる。




「ダメーッ!」



魔王の口が、コクリコに向かって開かれ…そして、それは放たれた…。

漆黒の闇が、コクリコを一瞬にして飲み込む。



闇の閃光の後、そこには”何も無かった”。


「…コクリ、コ…」


エリカの目が見開かれ、魔王は大声で笑った。



「どうだ!邪悪な魔王が、正義の味方を殺す!

 これこそ、感動のエンディングだーッ!ケケケケケ…!!」




「・・・コクリコ・・・!」


エリカは顔を伏せ、魔王の部屋の床に、今度は涙の雫が落ちた。








『・・・ホント、ショボくて泣けてくるぜ。』



確かに声が、聞こえた。


「・・・え?」



その声は間違いようがない。



頭上から響くその声は・・・



(ロベリア、さん…?)



『ったく・・・アタシらがいないと、ホントダメだな。』


ロベリアの声が、エリカの頭上から聞こえた。



「…ろ、ロベリアさん!大丈夫なんですか!?」


そして


『当たり前だ!まったく・・・泣いている場合か!しっかりしろッ!エリカ!!』

グリシーヌの声で、お馴染みの一喝が、空から降ってきた。


「…は、はい!グリシーヌさん!」

エリカは立ち上がり”気を付け”をした。


『エリカさん!コクリコはまだ生きてますわ!』

花火の優しさに満ち溢れた声。


「ほ、本当ですか!?花火さん!」

エリカは涙を拭い、鼻水を”スンッ!”と、すすった。




「・・・な、何言ってんだ?アイツらが何故、生きてる?霊力は根こそぎ奪った筈だ…!」


パラノイアスの疑問に、すぐに3人3様の答えが返って来た。


『…フン。テメエで考えな。』

『外道に教える筈、なかろう。』

『アナタの力には屈しなかった、という事ですわ。』



シャノワールの一室に入ってきたのは、霊力を根こそぎ奪われたハズのグリシーヌ達だった。

グラン・マ達が止めるのも聞かずに、3人はシーとメルのマイクを奪い取った。



『私達の分まで、思う存分、叩き潰せッ!!』

『さっさとそこの馬鹿に、真のエンディングをみせてやんな・・・エリカ!』

『エリカさん!コクリコ!葵さん!私達、こちらの世界で待ってます!必ず帰ってきてください!』




「はいっ!」


グリシーヌ・ロベリア・花火の言葉に、エリカが両腕を挙げて答えた。





「…まったく…あんた達は…巴里華撃団は、6人が6人とも…強情で無茶をするヤツばっかりだね。」


グラン・マはそう言って、ヘッドギアをつけたまま、両腕を挙げたエリカを見て、笑った。

グリシーヌ達も、エリカのその姿を見ると、安心したかのように、膝をつき、その場に倒れた。

しかし、3人はマイクを離そうともしない。



「お、オーナー…どうしましょう?また…3人共、意識失っちゃったみたいですぅ…」

「…別室に運んだら、また起きてくるだろうから、そのまま休ませておやり。ここにいたいんだろうさ。」


グラン・マは、しょうがない娘達だね、と微笑んだが、すぐに表情を真剣なものに切り替えた。









グリシーヌ達の登場と言葉に、パラノイアスは、すっかり混乱していた。

目を見開き、馬鹿な!信じられん…!と繰り返し呟き、髪の毛をガシガシと掻いた。



「そ、それに…それに、あのガキが生きてるだって?確かにさっき、俺のビームで…」



そのパラノイアスの疑問にも、すぐに答えは返って来た。



「…それは、ボクの幻…イリュージョン、だよ♪」



「・・・・・あのガキの声!・・・後ろかッ!!」



振り向くと同時にパラノイアスは、剣で切りつけた。

手ごたえは一瞬…しかし、切りつけたはずのコクリコは、すぐに消えた。


「…だから、イリュージョンだってば。」


そう言いながら、コクリコはエリカの隣にひょっこりと姿を見せた。

パラノイアスは驚きのあまり、顎が外れそうな程、口が開かれた。


「な、な…何故だ…どうして…俺の世界で…お前みたいな雑魚が…

 俺だけの自由な世界では、俺がルールで…俺こそが、一番強い筈なのに…ッ!!

 なのに…どうして…お前達は…ッ!?」




混乱するパラノイアスに向かって、エリカはキッパリと大声で言い放った。




「…私達には、アナタには無い力が、ありますからーッ!!」




「・・・俺には無い、力・・・だと?」



「エリカ達には…仲間との”絆”の力があります!それもたっぷりとッ!あと、神様に守られてますし!


 だから、負けません!負ける気もしませんっ!!」



「・・・そんな・・・そんなあやふやなモノ・・・この電脳遊戯の世界で役に立つ訳が…」






今度は、頭上からの声。






『『『『『頑張れー!巴里華撃団ッ!!』』』』』




慣れ親しんだ人々の声が、空からエリカに降り注いだ。

まるでエリカ達を援護するかのように。



「…みんなの声が…!」


自然と笑顔が浮かんでくる。エリカは胸の上で手を組んで言った。






「はい!エリカ…いえ、エリカ達…頑張りまああああああああす!!!」








「…う、うるさい…うるさいうるさいうるさいッ!黙れえええええええええ!

何が絆の力だ!外野の声が増えただけでいい気になるなよ!?

…結局、3人…いや、さっき一人切ったから、戦力はたった2人じゃないか!何が出来る!!」






「・・・そういう…アナタこそ…”一人ぼっち”で何が出来るんですか?」



落ち着いた声が、大広間に静かに響いた。





「…お、おまえ…!?」




魔王は言葉を失った。 月代 葵が、エリカの隣に立ったからだ。



「…葵さん!?」


驚くエリカに、葵は微笑んだ。


「すみません、エリカさん…今まで、よく頑張りましたね。」


「え、えーと…一体どういう…?」


混乱するエリカに、葵は手短に説明を始めた。




ー それは、7分前。 ー




「…それより、コクリコ…」


葵は、急に片手でコクリコの頭を強引に引き寄せた。


「え!?…わ、わわッ!?」



葵は、コクリコの耳元で次のように囁いた。



「…この間ショーでやってた、偽者作り出すマジック、今できます?」


「…あ、この間の新作マジックの事?…えーと………うん、できる。

 (あービックリした…キスされるのかと…。)」※注 ここにきて不謹慎な少女コクリコ。



「じゃあ…それで、少しの間、エリカさんと一緒に時間を稼いでください。」


「それは構わないけどさ…葵は?…というか、大丈夫なの!?」


「…大丈夫。…早くこの世界から抜け出せれば、だけど。」


「じゃ、じゃあ、大丈夫じゃないじゃないか…葵、さっきから一人で何してるのさ…!」


「…”探し物”。…コクリコも協力してくれない?」


「…ボクに出来る事なら、するけど…」






ー そして、現在。 ー





「えーと…で…探し物ってなんなんですか?」


その問いを待っていたかのように、葵は微笑みながらあるものをエリカに差し出した。


「…エリカさん…プレゼントです。」


それは、赤く、白い斑点のある・・・”カラフルなキノコ”。



「・・・・・・・・・マッシュルーム、ですよね?これを探していたんですか?」


「・・・食べて下さい、エリカさん。」



葵は、微笑んだままエリカにキノコをぐいっと押し付けた。


「え?…え?今、ですか?」


「さあ、遠慮なく…”今すぐ”食べて下さい♪エ・リ・カさん!」



何故か謎のキノコをゴリ押ししてくる隊長に、エリカはちょっと変だな、とも思った。


しかし。



「…葵さんが、エリカに変なモノを食べさせる訳、ありませんもんね♪」


と謎のキノコを差し出されてから1分と経たぬうちに、エリカはキノコを口に入れた。


コクリコが見守る中…



「…モグモグ…。」



…咀嚼。




葵はそれを見届けると、安心したかのように、片膝をついた。

先ほど喰らったダメージが、今になって彼女の体に重くのしかかった。



「…巴里華撃団の隊長さんよ…大見栄切った割には、お前の受けたダメージは更に進行…
 
完全に作戦失敗だなぁ?土壇場で見つけたそんなキノコで、どうにかなるのか?


この最悪の状況が…!ケケケケケ!」


パラノイアスは、再び下品な笑い声を上げた。

それでも葵は、微笑んだままの表情で、パラノイアスを見てこう言った。



「……よく…いるんですよね。」


「…何?」


「…”戦闘技術”と”戦闘においての実力”とを勘違いする人、ですよ。」


「……なんだと?」





一方、そんな葵の後ろで咀嚼し続けるエリカ。



「・・・(あ、キノコって生で食べちゃって良いんでしょうか…でも美味しいからいいや)・・・」




”・・・モグモグ・・・ゴクリ。”




・・・そして、嚥下。






「アナタの電脳遊戯の世界は…確かに人々を惑わし、大量の霊力を奪う手段にはうってつけ。


だけど・・・アナタ自身の強さに直結は、しない。


その証拠に…アナタは、もう既に敗北しているんです。私達に。」


手負いの葵がキッパリとそう言い切るので、パラノイアスはぶち切れた。


「・・・ハッタリもいい加減にしろッ!俺が、いつ負けたというんだ!!」


地団駄を踏んで、叫ぶその怒り方は、まるで子供がかんしゃくを起こしたようにも見える。

それを、葵は冷静に見つめたまま言った。


「先ほどから散々、私は、アナタを挑発しましたけど…それは、別に短期決着を望んでという訳じゃあ、ありません。」


それを聞いて、エリカは口をハンカチで拭きながら、葵に感心した。


「おお〜っ!さすが葵さん……あ、エリカ、こういう時の褒め言葉知ってます!

 さすが”策士”ですね!葵さん!」


「・・・あ・・・アリガトウゴザイマス…エリカさん…。」

葵の心は、少しだけ傷ついた。




「…な、なんだよ…一体何をしようって言うんだ!?」


パラノイアスがそう言った途端・・・変化は起きた。





「ん?あれ?なんか……どんどん…エリカ、皆さんが小さくなってきてるように見えますけど…」



エリカは、周囲の状況が、変化してきている事を周囲に報告した。

しかし、変化は…周囲ではなく。


エリカ自身に起きていた。



「ち、違うよ!エリカ!エリカが大きくなってるんだよ!!」


コクリコの一言に、エリカはむむっと周りを見回し、やっと気付いた。



「え?・・・・・・・・・あ、そうみたいですね♪」




あっけらかんとエリカがそう言った真下では…



「な・・・なんじゃそりゃああああああああああ!!!」



パラノイアスが、今日一番の大声で叫んだ。

エリカの体は優に50メートルは超えており、エリカは珍しそうに自分の体をまじまじと見ていた。



「……葵…あのキノコ…。」


コクリコは、葵の傍に行くとエリカ巨大化の真相を葵に聞いた。



「ええ…元は、私達がさっき空で見た、あの髭の配管工さんのモノです。

戦ってる間も、コクリコ達に時間を稼いでもらっている間も…実は、キノコを探して、そこら辺のブロックを叩いてました。」


「・・・・・・き、キノコの為に?」



「ヤツは自分で作ったもの全て、この世界のモノを自由に操る事が出来る。

つまり、ヤツが自由に動かせない…この世界には存在しないものならば、対抗できるんじゃないかと思いまして。


つまり、メル・シーからのデータ改ざんの御蔭でついさっき生まれたばかりの特殊な”バグ”。

これは、ヤツでも操れないんじゃないかと思って・・・。

そこで、今さっき生まれたばかりの存在である、バグである髭の配管工さんの”キノコ”と…


パラノイアスよりも自由に溢れた”超・マイペースな存在”を組み合わせれば・・・」




「…その存在って…まさか…」




「そう…キノコで巨大化した”エリカさん”です!あれをどうこうして、操ろうとなんて、素人には、到底出来ませんからね。」



「……なんつーか…エリカって本当に、奇跡的な存在なんだね…。

 ・・・というか、ニンテンドウの話していいの?」



「よくよく考えれば…DSで”君あるがため”出てますからね。」

「何気に宣伝してるね…(葵、出てもいないのに)。」




「まあ、それはさておき……エリカさーん!」


巨大化したエリカを葵は大声で呼んだ。



「はーい?」





「・・・GO!」





「あ、はーい!」




葵の合図で、エリカの腕が魔王の部屋を突き破り、空へと突き上げられた。


狙いは真下の、パラノイアス。



パラノイアスは、エリカの足元に立つ葵とコクリコに向けて、力いっぱい叫んだ。



「う、嘘だーッ!?こ、こんな決着の仕方…!

俺が前編で散々話した、ルールに対するお前らの答えとか何とか…色々、色々あるだろうッ!?

心理的なやり取りとか!そういうの!途中まで絆とか、いい感じで進んでたじゃない!

前編で、お前らの過去の傷にまで触れて、話盛り上げたのに……こ、こんな終わり方って!」


「…紅姫ギャグ編なんだし、別にそういうシリアス展開に触れなくとも、進行に支障はないでしょう。」

「…葵…それはちょっと…」

コクリコにツッコまれ、隊長はふうっと息を吐いた。


一方、葵の後ろにいる巨大エリカは、拳を握った。 筋肉の収縮…拳は空高く挙げられ、太陽が隠れ、周囲は暗くなる。


・・・葵は、真っ暗な世界の中で、魔王にこう言い放った。


「じゃあ言いますけど…アナタは、自由だなんだと、説教めいた事をただ”言っただけ”で あとは自分の世界に閉じこもり、邪魔なモノを”消しただけ”。

苦痛を乗り越える事も、その根源を追求、理解する事も、戦う事もせずに…ただ消しただけ。


…だが、彼女達は違う。


苦しみながらも、外の世界で生き、己と向き合い、傷つけ合いながらも互いを理解しあった。

自由なんかより、大切なモノの為にそうして毎日、戦っているんです。・・・己自身とも。

だから、ただ自分の自由になるだけの世界に逃げ込んで、他者を笑い飛ばしているだけの臆病者で、独りぼっちのあなたなんかに・・・


貴方なんかに・・・”絆”でギッチリと結ばれた私達は、倒せないんですよ。・・・一生・絶対に、です!!」



「・・・・!!」


ビシッと決めた葵の後ろから、コクリコがニコニコしながら言った。


「…あとは…今、エリカがちょっとデカイからね♪」

「そうですね♪もうエリカさんていうか、光の巨人ですもんね♪」

「もお〜葵ッたら、今回、ホントに時代とか設定無視な版権ネタ多過ぎだよ〜♪」

「あははは…だって、ギャグ編ですから♪」

「あ、そっか〜♪どおりで適当で楽しいと思った♪」





「お、お前ら…!じ、自由過ぎるーッ!!!」





魔王の最後の叫びを無視して、”自由でいいもんね〜♪”とのん気に笑い合うコクリコと葵の上から




光の巨人こと、巨大エリカの拳が…




・・・・今、振り下ろされる!!





「う、う…うぅ…くそ!お前ら!お、おぼえておけ!人間がいる限り、こ






”ぷちッ☆”















こうして。



電脳遊戯の怪人・パラノイアスは”エリカ昇天パンチ☆”によって、退治された。



グリシーヌ・ロベリア・花火の3名は、霊力を取り戻し。

電脳遊戯の機械もパラノイアスが退治された事で、機能を停止。全く動かなくなったという。


ロベリアは、こんなガラクタじゃあ売れない、と嘆いていたが。

電脳遊戯の機能停止は瞬く間に世界中に広がり、幻の機械となった。


そして…グラン・マのいうとおり。

流行は、時間とともに人々の記憶から忘れ去られていき…

常に進化を続けるシャノワールには、再び巴里っ子達で溢れるようになった。






迫水は、今回の事件を振り返り、こう話した。

 「やっぱ、マリオは凄い」と。







ー 次の日 ー






「うむ・・・快晴だな。」

グリシーヌが、太陽を眩しそうに見つめた。


「そうね…こんなに晴れると、子供の頃ワクワクしたけれど…今もするものなのね。」

花火は、うんと背伸びをし、気持ち良さそうな表情を浮かべた。


「それにしても、おっそいなぁ〜、自分で企画しておいて…」

コクリコは柔軟体操をしながら、その遅れている人物を待っていた。


「ったく…なんで、アタシまで…」

ブツブツと文句を言いながらも、ロベリアは木陰に座り込んでいた。



青々とした芝生を、明るい太陽が照らす。

その上を勢いよく駆けて来る足音。


「お待たせしました〜!!」

エリカが手を振りながら駆けて来る。

その後ろにはボールを持った葵がいる。


「あ、来た来た。」


息を弾ませて、葵が弁解した。


「ボール、なかなか見つからなくって…すみません。」



外で皆でバレーをやろう、というエリカの提案で、6人は集まった。




「エリカ!葵!遅いぞ!」とグリシーヌ。

「では、始めましょうか?」と花火。

「チーム分けようよ!3対3!」とコクリコ。

「…はあ…やれやれ…じゃあアレで決めるか?赤アタマ。」とロベリア。

「そうなりますね。」と葵。


皆が一斉にエリカの方を向く。


エリカは笑顔で声高々に叫んだ。




「では・・・シャノワール名物!・・・フレンチジャンケーン!」




白いボールと、彼女達の笑い声が青空に舞った。





 end



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ー あとがき ー


色々詰め込み過ぎた結果・・・何が何やら・・・(苦笑)

色々無茶しました・・・やりたいことだけやった感じです。