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私の名前は・・・ZZZ・・・水島・・・ZZZ。

悪いが・・・ZZZ・・・下の名前は・・・聞かないで・・・ZZZ

今日は、休み・・・ZZZ。



”ピリリリ・・・”


「・・・・チッ。」


思わず舌打ちをしてしまった。

私は、最近眠りが浅いので、ちょっとしたことで覚醒してしまうのだ。

しかし、仕事の疲れとだるさが身体に残っている。


すっかり朝寝を楽しむつもりだった身体に鞭を打つ、この携帯電話の音の憎さときたら・・・!


せっかくの休みだってのに、誰だ!私の電話に通話料かかるの覚悟でかけてきた物好きは!!


「・・・・・・もぉしもし・・・。」


意識はあるのだが、声が完全にぼやけている。


『アタシ。』


この一言で分かってしまうのが、悲しい。


「・・・火鳥さん、ですか?何ですか?・・・今・・・5時ですよ。」


なんなんですか?と怒りたいのだが、眠いしだるい。


『・・・あの・・・ちょっと聞きたいんだけど・・・遊園地って・・・何したらいいの?』


「・・・・・・・・は?」


『あの・・・庶民のガキが喜んで行くテーマパークよ!アレ、何が楽しいの!?

一つの乗り物乗るのに行列2時間も並んだり、あんなジャンクフードに高い金出して、クソみたいなぬいぐるみの耳とか頭につけて、あなた達は夢の世界の住人とか言われて洗脳されて・・・!』


「ちょ、ちょっと!!夢と希望のアレっぽい所にそういう系の文句はやめてッ!!」


朝っぱらから、訳のわからない火鳥の文句に私はベッドの上でがばっと起きて、ツッコミを入れていた。



そして、朝7時。

私は、コーヒーショップでコーヒーを飲んでいた。


・・・なんで、休日に私は街に呼び出されなきゃいけないんだ・・・。


コーヒーショップの自動ドアが開き、見慣れてしまった顔がこっちにやってきた。


「どうも。」


(・・・目つき、いつもより悪ぃなぁ・・・。)


「・・・悪かったわね・・・今度の日曜日まで時間ないもんだから。」


ブランド服に身を包んだ火鳥が憂鬱そうな顔で、私の前の席に座った。


「あの・・・遊園地について詳しく聞きたいって・・・火鳥さん、行った事ないんですか?」


電話で叩き起こされて、火鳥から聞かされたのは”遊園地についてわからない!”という火鳥なりに悲痛で、理解しにくい問いだった。


「無いわ。あんな金をドブに捨てる場所に、わざわざ行く必要が無いじゃない。」


この女には、現実に夢を見る時間を持ち込む、とか考えやしないんだろう。


「じゃあ、行かなきゃ良いじゃないですか。」


正直、人嫌いが人ごみの中に行くなんて、信じられないし、そもそも行きたくも無い筈だ。

夢の国に行って女難の悪夢に塗れるのがオチだからだ。


火鳥のようなタイプなら、尚更、行かない筈だ。


「・・・し、仕事なの!」


火鳥はテーブルを掌で叩いてそう言った。

それは、火鳥が遊園地に行く理由には少々弱い、と私は感じた。


しかし、まあ、火鳥が何をしようと私には関係ない。

私を巻き込みさえしなければ、良いのだ。


「その・・・アンタが、学生の頃って行くもんなんでしょ?ああいう所。どういう・・・流れなの?どうやって楽しむの?」


(仕事にしちゃ、なんか聞きたいポイントがズレているんだよな。)


私は、そう思いつつも火鳥に決定的な一言を突きつけてやった。


「・・・行ってたように見えます?仮に行ったとして、普通の流れという奴に私が乗れると思います?」

「・・・あ、ああ・・・。」


遂に火鳥は顔を両手で覆った。

完全に、自分の人選ミスだと気付いたらしい。


「お待たせいたしましたぁ〜特盛カフェインスペシャルコーヒー2つでーす。」


「・・・あ・・・間違えて二つ頼んじゃった・・・水島、飲む?」


らしくもないミス。

火鳥は、苦手分野になると本当に弱体化するなぁ、と私は思った。


「・・・良いですよ。(ラッキー♪高いヤツだ。)」


顔は無表情のまま、私はさっさと自分の注文した温くなった安いコーヒーを飲みきり、高いコーヒーにありつく。


「・・・潰れろ・・・!この国のテーマパークなんてパチンコ店と一緒に全部潰れてしまえッ!!」


挙句、呪いの言葉を吐く始末。

そんなに嫌なら行かなきゃ良いのに、とは思えど火鳥にも何か事情があるのだろう。

・・・知ったこっちゃないけど。

しかし、かわいそうにも見えてきたし、このままだと帰れなさそうなので、私は口を開いた。

 ※注 後者が本音。


「とはいえ・・・学校の行事で遊園地に一度は行った事あるので、全く知識が無いわけじゃありませんが。」

「は、早く言いなさいよ!」


「まず・・・どこのテーマパーク行くんです?」

「ええっと・・・”百合やしき”・・・。」


それは、私達の住んでいる市が誇るテーマパーク。

名前に不吉さを感じるのは、私と火鳥くらいだろう。

結構、古い遊園地だ。我が社の女性陣も20代前半なら、デート場所によく利用される。(30代手前になると、利用されにくい。)

・・・最近、整備不良で事故があったとか聞いたな。


「・・・結構近い所に行くんですね。」

「うるさいわね・・・遠出出来ないのよ・・・。」


ますますもって、仕事で遊園地に行かなければならない、というのが怪しくなってきた。

仕事なら、遠くても何ら問題もない筈だし、火鳥という人間ならば、私に頼らず、仕事は仕事として割り切り、自分なりに情報を得ようとするはずだ。


「あの、仕事なんですよね?」

「・・・そうよ。」


火鳥は視線を逸らし、コーヒーを口にした。

・・・砂糖も入れずに。

(動揺しっぱなし、か・・・。)


私は、あまり人様の私生活に立ち入りたくは無い・・・のだが。(興味が無いから)

しかし、朝っぱらから電話で叩き起こされた上、今だってロクな情報も与えられないまま、アドバイスをしなくてはならない状況にある。

このやるせない気持ちをどこにぶつけたら良いのか。

・・・目の前の女しかいない。


「・・・火鳥さん、この際、正直に言って下さい。デートか何かでしょう?」

「ッ!! デッデートじゃない!ちょっと、二人で出かけるだけよ!」


・・・・・・・・。



・・・じゃあ、デートじゃねえか。(水島さん渾身の心のツッコミ。)


私の冷め切った視線に気付き、火鳥は額に手をあてて、深い溜息をついた。

「・・・わかった。話すわ・・・」


最初から、素直にそうすれば良いのに。

どうせ、女難関係なんだろう、と私はたかをくくっていた。


が、火鳥の話は、私の予想を斜め上空をすっ飛ばしていった。


「実は、蒼が術後の検査を嫌がって・・・病院だけじゃなくて、どうしても、テーマパークに行きたいって聞かなくて・・・。

そしたら、横から酒に酔った忍が・・・『このお姉さんに連れてってもらいなさい♪』とかほざいたのよ・・・ッ!

あの女!酔ってる時しか家に来ないくせに、本当に無責任極まりない発言ばっかり!なんで、このアタシが・・・」


私はその話を遮るように、両手を火鳥に向かって開いて、発言した。


「ちょ、ちょっと・・・待って下さい。

忍さんは酔ってる時、火鳥さんの部屋に来るって事は・・・

そのテーマパークに行く、行かないの3人の話は・・・火鳥さんの家で、されたんですよね?」


「ん?・・・そうだけど?」


素朴で、大事な疑問。


「だったら、なんで・・・蒼ちゃんが、火鳥さんの家にいるんですか?」


心臓の手術を終えて、病院生活を送っていたんじゃないのか!?

というか、第一に、蒼ちゃんのご両親はお亡くなりになってはいるが、ちゃんと他に保護者がいたような・・・。


「・・・そ、それは・・・!」


急に火鳥が慌てふためく。

私はみるみる嫌な予感がして、思わず深く突っ込んで、こう聞いてしまった。


「か、火鳥さん・・・?あの・・・もしかして・・・」

「な・・・なによ・・・!?」


「蒼ちゃんを監禁してるんですか?」


未成年に対する犯罪が溢れる現代・・・目の前で己が欲望に踊らされた哀しき女に、私が自首を勧めなければ・・・!


「馬鹿野郎!普通、ここは同棲でしょうがッ!」


「どどどど・・・同、棲っ!?」


火鳥が・・・ついに、身を固めた・・・!?(いや、この場合、固まったのかは微妙・・・!)


「いや・・・その・・・正直、自分でもなんでこうなったのか、わかんない・・・何で、蒼と一緒に住んでるんだか・・・。」

「か、火鳥・・・!」


「ち、違うのよ!これは・・・違う!恋愛とか、そういうんじゃないし・・・!か、勘違いしないで!ただ・・・その・・・」

「・・・火鳥・・・?」


「よく・・・わ、わかんないけど、一緒に住んでるのは、事実・・・。」

「・・・火鳥・・・(泣)」


「な、泣くなーッ!つーか、なぜ泣く!?」


「じゃあ、初デート(犯罪にならないように)の予定を決めましょうか・・・(泣)」

「だから!違うって言ってんでしょうが!そして、泣くなッ根暗女ッ!」


こうして、私は驚くべき変貌を遂げてしまった火鳥に、テーマパーク(庶民式)の利用を教えたのだった。


「・・・うん、大体わかった・・・。」


ややげっそりした感じの火鳥に向かって、私は餞の言葉を送った。


「ね?簡単でしょう?あ、後は、蒼ちゃんの好きなようにさせて・・・その・・・デート楽しんで下さい・・・(泣)」


さようなら、人嫌いだった火鳥・・・!

そして、こんにちは・・・ロリコンの夢を叶えてしまった火鳥・・・!

蒼ちゃんを立派なレディに育て上げて、警察に捕まらないで、私の目の届かない所で悦楽の日々を送ってくれ・・・!


「だからデートじゃない!そして、泣くな!鬱陶しいッ!」


こうして、私は火鳥と話すだけ話して、別れた。


(それにしても・・・よくも、他人と二人きりで出掛ける気になんかなるなぁ・・・。)


火鳥の後姿を見ながら、私は首をかしげた。


私には、それが理解できない。

他人と二人きりで出掛けて楽しもうだなんて、考えられない。



楽しい訳が無いからだ。

現に、準備の時点で、火鳥だってワクワクも何もしていないではないか。

私なら、憂鬱で塞ぎこんで、夜逃げを考える。


火鳥も、恐らくそうだろう。

だから、あんなに動揺して、焦っていて・・・自分らしく振舞えないんだろう。


もしくは・・・


火鳥は、自分でも気が付かないだけで・・・他人であるはずの高見蒼との関係を受け入れ始めているのでは・・・。



「面白くなってきたわね?」

「・・・忍さん、いたんですか?」


私の後ろで、気配はしていた。

だけど、ここまでタイミングバッチリに現れるのも、どうかと思う。

烏丸忍が、楽しそうに立っていた。


「最近、りりの様子がおかしかったから、心配してたけれど、やっぱり貴女に相談したのね?さすが、名コンビ。悪巧みは出来たかしら?」


「・・・まあ、出来た方ですね・・・。」


まず、第一に。

火鳥の様子がおかしくなった原因の一端は、烏丸女医にもある。

第二に。

名コンビになった覚えは無い。

第三に。

悪巧みではない。悪あがきだ。



「じゃ、今度の日曜日・・・様子見に行ってみない?」

「え?・・・いいですよ、別に興味ないですし。」



「自分のアドバイスが生かされてるか、りりが心配じゃないの?それに、あの子の”初デート”よ?」

「・・・そんなのに、ついて行ったのがバレたら、それこそ、火鳥さん怒りますよ。」


私は、そう言って自宅に向けて踏み出した。


「人嫌いは、自分の事は大抵、自分で何とかします。火鳥さんなら、大丈夫ですよ。・・・多分。」

「まぁ、あっさりしてるのね。」


私は軽く笑って、忍さんに手を振って、帰った。

忍さんも笑って手を振り返してくれた。



「・・・・・・あーあ・・・りりに便乗してデート出来るかと思ったんだけど・・・私の方はフラレちゃったかぁ。」



・・・私は知っている。


人嫌いは、そんなに簡単に、根本など変わらない、という事を。



[ 〜火鳥さんはデート中。@〜・・・END ]


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