温泉。


楽しいはずの、社員旅行…

温泉と酒と豪華な料理で、日頃の疲れをとる為の、楽しい旅行。


・・・しかし、私、君塚美奈子は、今・・・戦場のど真ん中にいる。


「…ルールは公式ルールを参考に、11点先取で勝ち。

 …総当り戦で、一番勝ちが多かった人が優勝、で良いですね?」


門倉優衣子は、軽くルールを説明しながら、武器…いや、道具一式を床に置き、浴衣の裾を直した。


宴会場から移動して、今度は、緑の古びたステージが、彼女達の戦場というわけだ。




「…未経験者はいる?」

花崎翔子は、Yシャツを腕まくりしながら冷静に聞いた。


「大丈夫。ナメないでよね。」

短く答えて、屈伸運動をしているのは城沢海。ワンピースでもお構いなしらしい。


「…あとから…実は苦手なの〜なんて言っても、聞かないわよ。」

阪野詩織は、髪の毛をまとめながら、浴衣の襟をピッと直した。





温泉といえば…『温泉卓球』。



時刻がまだ8時前とあって、卓球場には私達以外、誰もいなかった。

ほどよく年季の入った卓球場と、卓球のテーブルは、まさに昔ながらの「温泉卓球」!

…の雰囲気を十分醸し出していた。


卓球の道具はレンタルで、仲居さんが快く貸してくれた。

そりゃ、有料だからねぇ…。



「で・・・・・・あの、私は・・・?」


「…君塚先輩は、審判をお願いします。あと、えこひいきしないで下さいね。」


門倉優衣子は、いつもより、強い口調で私にそう言った。


「…ちょっと、門倉ちゃん…私はね、水島の情報を提供しただけで、ひいきとか…

 いや、それ以前にね?私が審判する義理は・・・」


すかさず、城沢海の声が私の背後から、おどろおどろしく聞こえる。


「それで、今回の”裏切り”は見逃してあげるって言ってんのよ…君塚ァ…」



お嬢様のその一言から、女達の容赦ない視線が私に一気に集中・・・突き刺さる・・・。



・・・こ・・・・・怖・・・・・っ・・・!?




「はい、謹んで、務めさせていただきまーすぅ・・・。」



・・・ああ、目上の階級を敵に回すなんて、一般事務OLの美奈子には、出来ませぇん(泣)


 ※注 何度も言いますが、『自業自得』です。


いい年した成人女性が、温泉卓球で、平和的に一人の女を奪い合う。


・・・いや、何か間違っているような気がするのは、私の気のせいだろうか・・・


・・・温泉卓球で、今夜の水島の”何か”が決まる(・・・かもしれない)。





 ※ ー その頃の水島さん ー


 「鯉、お好きなんですか?」

 「あ・・・いえ・・・その・・・」


 ※ ・・・若女将と再会してました。






「はい、じゃあ…どうぞー…」

私はピンポン玉を、花崎課長へと放る。


         第一試合 花崎VS門倉


「…行くわよ…!門倉さん…!」

「どうぞ…!花崎課長…!!」


花崎課長のサービスで始まる。

後輩・門倉は、ラケットを構えて、グッと睨んでいる…。


「・・・・・。」


・・・なんかなァ〜・・・

少年ジャ○プとか○ンデーで、よくあるバトル大会系な感じになっちゃったけど…

盛り上がるんだけど、展開的に何週も引っ張るから長ったらしくなって

”もういいよ”って感じになるのよねぇ…。


※注 …例えが微妙で、しかも解りにくくて、すみません。  ー 作者談 ー



「…フッ!」


”ーパキュン!”




(お…意外…!)



花崎課長のサーブが鋭くて…びっくりしたが、それよりも度肝を抜くほど、びっくりしたのは

門倉の俊敏な動きだった。


”パコンッ!”


「何ですって…返した…ッ!?」


”パコンッ!”


「私、水泳はダメですけど、高校の時、卓球部だったんです…ッ!」


”パコンッ!”


なんと…後輩門倉は、元・卓球部か…!!

普段ほんわかしてるから、運動全般苦手かと思ったら…意外だわ…!


(なるほどね・・・門倉ちゃんも結構、策士ね・・・)


温泉で対決といえば、卓球。


しかし、卓球で勝負と言いだした門倉の狙いは…



自分の得意分野で、完膚なきまでに、ライバルを叩き潰す事だったのか…!




・・・お、恐ろしい後輩だわ・・・!美奈子、この先、先輩の威厳保てるかマジで心配…!!


しかし、花崎課長は…余裕笑いを浮かべていた。


「そう…でも、全国を目指した事は、ないでしょ…?」


”パコンッ!”


・・・ま、まさか・・・?


「…花崎翔子…彼女、高校の時シングルで、全国ベスト8に入ったのよ。」


私の背後から、阪野さんが頼んでもいないのに、理由を教えてくれた。


”パコンッ!”


「あァ・・・解説ありがとうございます…阪野さん…」


「…ただ、ブランクが、門倉さんより”長い”からどうかしらね…?」


”…パキュン!!”


阪野さんの言葉に反応してか、花崎さんは華麗なるスマッシュを決めてみせた。

「・・・あッ!」

門倉は、反応できず。


「・・・1−0。」


私は、黙って審判に徹する事にする。・・・だって、2人とも怖いんだもん・・・☆



「…阪野さん、聞こえてますよ?」


ピンポン玉をラケットで、リフティングさせながら、花崎課長はニッコリ微笑む。


「あら、そう?・・・でも、目の前の相手に、集中した方が良いんじゃない?花崎さん。」

阪野さんは、お人形のような完璧な笑顔で笑った。


「ご心配なく…。すぐに貴女を目の前におびき寄せて上げるわよッ!!!」


”パコンッ!!”


(・・・・・・怖・・・。)


・・・私は、もうココから、逃げたかった。


そして、水島は随分とやっかいな女達に好かれているのだな、と同情にも似た気持ちがわいてきた。





    ※ ー その頃の水島さん ー


 「うわぁ…大きいんですね…ここの鯉って…」

 「ええ…おばあ…いえ、大女将の代から、ずっとこの子達は、この池にいるんで…

  さあ、お客様も、どうぞ?」


 「あ、じゃあ……それ…。」


  ”バシャバシャバシャ…!!”


    ※ ・・・若女将と平和に鯉に餌やってました。







「・・・はい、2−11で、門倉さんの勝ちです。」




「やったーッ!」

「・・・・・・・。(凹)」


…ベスト8敗北………年月は、残酷ですね…花崎課長…(合掌)


娯楽部屋の隅っこで、両手両膝をついて、花崎翔子(29歳)は、ふるふる震えていた…。


(……それから…花崎課長、マジで凹みすぎです…)



「はい、じゃあ…次…阪野さんと城沢さん…どうぞー…(やや棒読み)」


私は審判らしく、次の試合を進行する。


「ジャンケンして下さーい。」


「……言っておくけど…あたし、強いから。・・・まんべんなく。」

「…ここでは、権力も役には立たなくてよ?…お嬢様。」


・・・はい、にらみ合いより、さっさとサーブお願いしまーす・・・。


私は、心の中で昇天しそうになりながらも、ボールをお嬢様に放った。


         第二試合 阪野VS城沢


「行くわよ…エロ秘書…」

「どうぞ、世間知らずのお嬢様。」


静まる緊迫した空気……そして、まだ隅っこで落ち込んでる花崎課長…じゃなくてっ!


とにかく!

城沢のお嬢様は、優雅に高くボールを上げ、そしてラケットで…



「……ハウンッ!!」


”ーパキュン!”



(……掛け声カッコ悪ーッ!?)



城沢のお嬢様は、フォームも、サーブも未経験者のそれではなかった。

でも、今の掛け声は…卓球の愛ちゃんもしない!!



そして、まさかの掛け声に阪野さんの反応はと言うと・・・


「…変化球とは…やるわね……アウンッ!」


”パコンッ!”



(……阪野さんまで、カッコ悪ーッ!?)



「……ハウンッ!!」


”パコンッ!”


「……アウンッ!!」


”パコンッ!”


(…美奈子、恥ずかしい…。)


私は審判の身でありながら、顔を伏せたい衝動に駆られている。


だって…掛け声が…おかし過ぎるんだもんッ…!

一方はオカマ風で、一方は喘ぎ風で…!


でも、吹き出したら、間違いなくボコボコにされる…!美奈子、変にピンチ…!!



「…2人とも…経験者ですね…反応も素早いし…」

「…そうね…しかも、サーブもカットも際どい所をついてきてるわ…。」


いつの間にか、私の傍には腕組をしながら試合を眺める、門倉と花崎課長(立ち直った)の姿があった。


「この試合…まだ流れが出来ていないわ。」

「そうですね。多分、先に1点を取った方が・・・勝ち、ですね…。」


ご丁寧に、解説付き…。



・・・でも・・・


「……アウンッ!!」


”パコンッ!”


「……ハウンッ!!」


”パコンッ!”



(なんでシリアスな顔で、この状況に馴染めるのー!?美奈子、もう顔の筋肉痛いんですけどー!?)




   ※ ー その頃の水島さん ー


「・・・いえ、ほぼ、合ってます・・・。私、こういうの…苦手で…」

「…私もです。お恥ずかしい話ですけど、女将の身でありながら、宴会の席は、苦手なんです。」


「・・・え・・・」


「内緒、ですよ?」

「・・・はい。」


   ※ ・・・なんか和んでました。




「・・・はい、11−7で、阪野さんの勝ちです。」



「ふう……あら?ああ、副社長じゃないから、良いわね別に。」


乱れた浴衣を直しながら、阪野さんは携帯電話をチェックしていた。

さすが、城沢の『完璧なお人形。』こと阪野詩織。


…勝ち方もパーフェクト……”掛け声以外”はね…ッ!!




「うぎいいいい…!」


一方、城沢のお嬢様は…悔しがっている…。

出来る事なら、勝敗よりも掛け声の方を気にして欲しいのは、美奈子の願いです…。



      第三試合 阪野VS門倉


「阪野さん、連戦ですけど、大丈夫ですか?」


一応、気を遣ってみたが、そこはさすが『完璧なお人形』…。

いつもと変わらぬ微笑をたたえ、一言。


「平気よ。気にしないで…早く済ませてしまいたいの。」


「はい、了解でーす…。」


・・・笑顔が怖い・・・美奈子、貴女にだけは逆らいたくありませ〜ん・・・。


一方、後輩門倉は…気合十分で、阪野さんへ宣戦布告をする。


「阪野さん…私、本気で、行きますから……私、水島さんに大事な話があるので…!」


…後輩の顔は…あまりにも真剣で、これが温泉卓球であるという事を、一瞬忘れてしまう程だった。

・・・普段の仕事も、そんな顔してたら・・・先輩はいいと思うヨ


「…それは、私も同じ、と言っておこうかしら…」


さすが、完璧なお人形。笑顔で対抗する。


うわぁ・・・怖いよー・・・でも、なんか他人事だから、まだギリギリ楽しめる…!!


「じゃんけん…ぽん!……君塚先輩、ピンポン玉下さい。」

「あ、はいはい…」


私は、後輩に促されてピンポン玉を放る。


  ※注  君塚さん、もはや先輩の威厳ナシ。



「………私は…負けません!!」

「……そうね、そうなると良いわね。」


・・・・・・あ、やっぱ空気がおかしくなってきた・・・怖い・・・。


「…フッ!」


”ーパキュン!”


門倉のサーブは鋭い。先程よりも増して…。


対して、阪野さんはというと・・・


「…アウンッ!」


”パコンッ”


(・・・やっぱり、阪野さんの掛け声、おかしいって!・・・マジで、喘ぎ声だわ・・・。)




  ※ ー その頃の水島さん ー


「…私は…一人が、好きなんです…。

 でも、一人では生きていけないってわかってますし、そこまで人を拒絶するつもりはなくて…

 程よく、距離を保ちつつ……まあ、自分に都合良く生きていきたいって訳で…」


「…では、さぞや…お疲れでしょうね?ああいう宴会は…人が多い場所なんて特に…。」


(…てっきり、何か言われると思ってた…)



 ※ ・・・なんか語ってました。



「・・・はい、11−7で、阪野さんの勝ちです。」


・・・門倉ちゃんは健闘したよ。


「ぜーはー…ぜーはー…」


「…はい、阪野です…はい…あぁ、ごめんなさいね?

 今、酔った女性を介抱してるので…お部屋には、行けないんです。ごめんなさいね。」


息を切らし、涙ぐむ門倉ちゃんに対し、携帯片手に、男性からの呼び出しを断っている阪野さん。



・・・勝負の決め手は、体力の差だった。



事務課の人間は、日頃から運動、ジムに通ってないと、身体が鈍りやすい。

一方、仕事も見た目も10割を公言する秘書課は、ジムに週1で通う事が、義務付けられているらしい。

・・・あくまでも噂だけど。

いや、ホント冗談抜きで、プロポーション良いわぁ…ヒルズダイエットのモデルさんみたい…

あ、家の大豆クッキー…賞味期限もうダメよね…捨てとかないと…



「…さて、事も処理したし、じっくり見学させてもらうわよ。」


そう言ってニッコリ笑う阪野さん…。


「・・・・・・。」

でも、やっぱり…試合に勝っても、あの喘ぎ声調の掛け声で、勝負には負けてると美奈子は思います…。


・・・笑っちゃうって・・・普通に。



       第四試合 花崎VS城沢 (負け組)


「………。」

「………。」

・・・いよいよもって、深刻な空気になってきた。


誰も何も喋らない。・・・・そりゃそうだ。

この2人のうち負けた方が、水島争奪戦から、離脱する可能性がぐんっと上がるのだから。


・・・でも、そこが楽しみで仕方なかったりして・・・

なんつって〜!・・・ああ、私って本当に悪い女・・・きゃ〜!もうやっだやっだ!!



 ※注 『・・・あーウザ。』・・・と思った方、作者もです。(笑)




「……はい、玉でーす」

私の放ったピンポン玉を、無言で受け取る城沢のお嬢様。

・・・目が、マジ過ぎる。卓球なのに…。





「………ハウンッ!!」

”パキュン!”



(・・・だから、どうにかして!その掛け声ーッ!!緊張感がーッ!!)




「…ふはーッ!」


”パコンッ!”



(・・・課長も影響されてるーッ!?しかも中途半端にーッ!!なんか、和田アキ○みたいですよーッ!?)




  ※ ー その頃の水島さん ー




「…私は、残念ながら人間です…

 でも水島様が、この原倉にいらっしゃる間は…至らない所や、嫌な事もおありでしょうけど…
 
 気持ちよく過ごして頂けるよう、務めさせていただきます。
 
 …私は、水島様との、せっかくのご縁を大事にしておりますから。」


”バシャバシャバシャ…!!”


「………。」


(…ヤバい…ちょっと、泣きそうだ…。)


  ※ ・・・なんか、感動していた。




「・・・はい、11−9で城沢さんの勝ちです・・・。」


「・・・・・。(凹)」


花崎課長………実は、本番に弱い”ヘタレ”タイプなのかしら…。


「…ふう…勝ったわ…」

ガッツポーズを取りながらも、城沢のお嬢様の顔色は冴えない。


というのも。


今の所、全勝しているのは、阪野さんしかいないから、だ。


つまり・・・次の試合・・・阪野VS花崎で、花崎課長が勝たなければ・・・


阪野詩織が、優勝となり、水島へのアプローチを優先的に得る事ができるのだ。



 ※注 断っておきますが、この勝負…水島さん本人の同意は、一切ありません。



ああ、いよいよクライマックスね…イケナイ美奈子…頬がゆるんでいるわ…めっ!イケナイ子!

でも、面白いわぁ!・・・ああ、もう城沢に入社してヨカッター!!



       第五試合 花崎VS阪野



「…こうして、勝負するのは初めてね…花崎さん、お手柔らかに。」

「…前から言おうと思ってたんだけど…その作り笑いやめてくれないかしら?」


「あら、気に障った?・・・負け続けてるからイラついてるの?」

「”前から”って言ったでしょ?阪野さん…貴女、そうやって本心を偽ったまま、水島さんと接するつもり?」


「・・・嫌ねぇ、貴女まで、私をお人形扱い?」

「…何ですって…?」



「私の何が、本心か、偽りかも、周囲の評価も・・・彼女は”どうでもいい”って言ったわ。

 そんな彼女が好きだし、私は彼女の望む女になるって決めたの。演じるんじゃなくて、ね。 

 …それが私の”本心”なの。」


「・・・・・・・。」

(あー…阪野さん?…それ以前に…水島が女を…いや、人を望んでいるかどうかも微妙なんですけど…。)


「…阪野さん…変わったのね…貴女…」

「いいえ、変わってないわ…気付いただけなの。彼女の御蔭でね。」



「それを聞いたら、ますます、負けられないわ。

 ・・・私も、彼女から大切な事に気付かされた人間の一人だから。


 …君塚さん、ピンポン玉を。」


それぞれが、あの水島に対して、尋常ではない想いを持っている事は…痛いほどわかった。

真剣、なのだ。

皆、何かしら、あの水島の何かに触れて、その水島を心から好きなのだろう。


・・・ちょっと、だけ・・・私もそんな水島を見てみたいという衝動に駆られ・・・


無い!ないって!美奈子!しっかり!

BLと百合の世界は、現実に持ち込んじゃダメ!!理想でいいの!


 ※注 この女とこの物語は、フィクションです。




「あ、はい!」


とにかく…女達の戦い、クライマックス…!


・・・今、最後の対決が・・・始まるのね・・・!!



花崎課長は、サーブの構えを取り、阪野さんも構える。



白いピンポン玉が、宙を舞い…そして…



「・・・ふはーっ!!」


”ーパキュン!”



(あぁーここに来て、課長ーっ!台無しー!!和田ア○子調掛け声で、全部台無しだからーっ!!!)



「・・・アウンッ!」


”パコンッ”



(ああーッ!こっちもこっちで緊張感ねえなぁ!オイ!!・・・チッ!(舌打ち)


 ハッ!…ああ、ダメ美奈子…そんな乱暴な言葉遣いは…!めっ!)





 ※ ー その頃の水島さん ー


「・・・水島様・・・水島様は、今は”一人”です。」

「………。」


「私は、いない者と思ってください。それで、貴女が楽になるのなら。」


「……ありが、とう…ございま…す…。」

(なんだろう…コレ、すごく、嬉しい………)


 ※ ・・・なんか、改心しかけていた。




「・・・・・・・・・・。」




「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”



卓球場には、美女の意味不明な掛け声(喘ぎ声と和田○キ子)が響いていた。

一旦、卓球をしにきた別の客がいたが、この白熱した惨劇をみて、諦めて引き返していった。

普通、乱れる浴衣の美女と胸元開けたYシャツの美女がいたら、喜んで入ってくるだろうけど…



「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”


・・・・これだもーん・・・あは、あはははは・・・引くよねー(苦笑)


しばらく見ていた城沢のお嬢様も門倉ちゃんも、椅子に座って、退屈そうに頬杖をついていた。


「…君塚ァ…コレ長引きそうだから、先に”水島”とっ捕まえてきたら、どう?」

「あの君塚先輩・・・私も、そう思います・・・。」


(お前ら、私より年下のクセに・・・。)


しかし、目の前のこの光景を直視するのは・・・


「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”


「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”


「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”


「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”「・・・アウンッ!」”パコンッ”



 ※注 ご安心下さい。あなたのパソコンは壊れてはいません。



・・・・・・ちょっと、嫌・・・・。


「・・・ええ・・・ああ、はい・・・そうですねぇ・・・。」



白熱した試合。延々と続くラリー。点は1−2とちっともゲームは進展していない。



(・・・続き過ぎるだろ・・・。)



直視しがたい、クライマックスは、私には目の毒だった。

…ホラ、TVゲームも1時間ごとに休めっていうじゃない…休んだ事無いケド。


私は審判を、門倉ちゃんに任せて、水島を探しに出た。



・・・人嫌いの奴の事だ。

人気の無い日本庭園ゾーン辺りで、池の鯉でもボーっと眺めているに違いない。


 ※ 君塚さん、ビンゴ。



私は、パタパタとスリッパをならしながら、庭へと続く廊下を歩いていた。


すると。



「…あのね、菅さん…ううん、みっちー…お願いがあるの。」


「なんなの?団体が来てて、てんてこ舞いだってのに。状況わかってる?

 まさか、またお酒の席が嫌で、逃げる口実考えてくれってんじゃないでしょうね?

 …それでも若女将なの?」


みっちーと呼ばれていた板前風の格好した女性と、若女将かもめが見えた。

話しぶりからして、二人はかなり親しい間柄である事は間違いない。


しかし、板前”みっちー”の言うとおり、団体客のいるこの時間。

若女将が人気の無いこんな廊下にいる事は、あまり褒められたものじゃない。


「…みっちー、そんな風に言葉で追い詰めないでよ……

……嬉しいじゃないの…」


「……かもちゃん…いい加減、そのMッ気どうにか直した方が良いよ。女将なんだからさ。


 ・・・・・・あと、ハアハア息荒くしないで…近い、顔近いから…マジで。」


苦い顔の板前に対し、若女将は、にやーっと笑っていた。

癒し系が、”いやしい”系に見える。・・・あ、なんか、今のは・・・ネタ的にイマイチだわ・・・。


って…オイオイオイオイ!そうじゃねーよ!!


…じょ、冗談でしょ?若女将、Mッ気あるの!?

・・・と言う事は、みっちーはSなのか?やだっ!美奈子のばかっ!


「…みっちー…その、私、真剣な相談してるんだけど…。

 幼馴染の、親友のみっちーにしか言えないんだけど…」

「ん…悪かったわ、で何?」

「…お客様の中で…この旅行を楽しんでいないお客様がいるの。」

「……クレームでもついたの?」


なんか、昼ドラマの温泉旅館の話みたいだわ…

私は、黙って2人の会話に、好奇心からきき耳を立てていた。


「……違うの。そのお客様は、人があまり好きじゃないんだって…」

「…あ、かもちゃんと同類か。かもちゃんもあんまり、大勢の人の前とか好きじゃないもんね。」


「ううん、私の人嫌いなんかとは、まったく違う人だった。

 原倉に来た時から、なんか…他の人と、雰囲気が違っていたの。

 全てを疑っているような目で、周りを見ていて、周囲の人はそのお客様を好きなんだって解るんだけど…。

 そして、そんな現状にいる自分に疲れたような顔をしてたわ…

 それで、気になってさっき話してみたんだけど、鯉が好きな普通の人なんだけど…」


「…それは、確かに人嫌いね…かもちゃん以上の。」 


ふーん、結構水島みたいな奴、そこら辺にゴロゴロいるのね…。


「・・・なんというか・・・人に対して絶対的不信感を持ったあの鋭い目・・・

 みっちー…今度こそ、間違いないと思う。

 あの人は…私の理想の”ドS”だって。」



………一体、何の話だよ…。

私は、へなへなと脱力した。真剣な顔で何を話すかと思えば、結局はSとMの話だ…。


「・・・・・・か、かもちゃん・・・」

「あの目は、間違いないわ!人を邪魔者としか見ないあの目…間違いないわ!!ドSよ!

 あのお客様に、もっと愉しんで欲しいのっ!蔑んで欲しいのっ!あの目で、もて遊んで欲しいの!

 一生に一度しかない、縁を大事にって、みっちーも知っているでしょう!?」


「か、かか…かもちゃん、お願い、興奮しないで…わかった!わかったから!」


・・・みっちーも大変ねぇ・・・。

多分、みっちーは、明確なSとMには区分されない、普通の人なんだわ…。



「…みっちー…お願い、協力して…!!」

「ええー…まさか………やめようって…絶対、止めた方がいいって…」


”〜♪〜♪ ※注 家政婦は見た!のテーマの着メロ ”


『ちょっと!何して…』


私は、携帯の通話ボタンをすばやく2回押した・・・が時、既に遅し。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

二人は、思い切り私を見ていた。…ああ…美奈子、不覚…!

気まずい空気に、私がとった行動は…



「…ふっ…話は全部聞かせてもらったわ……」


「…お、お客様…」


「もてなしのプロなら…人嫌いだろうと、ドSだろうと、なんだろうと

 最高のもてなしで、客を喜ばせなさい!」


 ( ※ しーんとした空気 )


「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

「・・・じ、じゃあ、わたしはこの辺で・・・。」


私は何とかその場をごまかして(?)水島捜索に戻った。

後ろからは、M若女将の『ホラ!やっぱり悦ばせろって言ってるじゃない!』

というなんかエライ興奮した声が聞こえたけど…



・・・美奈子、しーらない♪



 ※注 これが、今回の水島さん悲劇確定の瞬間です。
 


庭を捜索してみたが、水島の姿は無かった。

売店へと聞き込みをすると、それに似た女がアイスとお茶を買っていったらしい話は、聞いた。


(参ったわね…さすがに水島の居所を突き止めないと…)


”〜♪〜♪ ※注 家政婦は見た!のテーマの着メロ ”


(ほうら・・・きたー・・・)

私は、携帯の通話ボタンを渋々押す。


『…あの、門倉です。君塚先輩、何してるんですか?水島さんは?』


控えめながらも、その口調は90%私を責めている後輩門倉ちゃん。


「ああーごめんね、水島の奴見つからなくてさー…多分部屋だと思うんだけど…」


『…え?あ…はい、そうですね……君塚先輩一旦戻ってきてくれませんか?って城沢さんが。』


「あー…うー…はい…OK−。」


ああ、きっと決着ついたんだわ・・・そして・・・1000%怒られる・・・年下に。



パタパタとスリッパをならしながら、私が娯楽室に戻るとそこには・・・・





「・・・アウンッ!」”パコンッ”「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”


「・・・アウンッ!」”パコンッ”「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”


「・・・アウンッ!」”パコンッ”「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”


「・・・アウンッ!」”パコンッ”「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”



 ※注 繰り返しますが、ご安心下さい。あなたのパソコンは壊れてはいません。



「まだやってたんかいーっ!!」


「そうなんです、君塚先輩…終わらないんですよ。あ、14−15…

 こうやって、ジュースの繰り返しで…」


門倉曰く、2人の白熱振りは、五輪並みに燃え上がっていたらしい。

そして、どうやらスロースタータータイプらしい花崎課長が、ようやくエンジンが掛かり始めたらしく。

驚異的なテクニックで、阪野さんと張り合い始めたらしい


「・・・嘘・・・どんだけ・・・」


「…花崎ー…何をしてでも勝ちなさいよ…っ!」


とにもかくにも。



「・・・アウンッ!」”パコンッ”「・・・ふはーっ!!」”ーパキュン!”



(…クソ面倒な人たち…。)



私は、改めて、水島がややこしい人間関係に振り回されていると、再確認したのだった。




  ※ ー その頃の水島さん ー



「こちら……『若女将の女体盛り』でございます。」



「お召し上がり下さい…」




「ッブフーゥッ!?・・・っゲホッゲホッゲホッゲホッ!!」



  ※ ややこしい女体盛りに遭遇していた。



「…か、勝ったー!」


・・・長い長いラリーの末、花崎課長が、辛くも勝利をおさめた。


「「「おめでとーございまーす・・・(棒読み)」」」


さて、総当たり戦なので、次の試合に行こうかと思ったが、ここで思わぬ事態が起こる。



「お客様…申し訳ありません、娯楽室の使用は、12時までとなってまして…」


年長の仲居さんが、丁寧にお断りを入れてきた。



「・・・え?もう12時!?」


本当に、12時だった。

勝負の行方は、見事にシンデレラの魔法のように消えたのだ。

・・・ああ、この例えもネタ的にあんまり、イマイチね・・・


「ど、どうします・・・?」

・・・私は、おそるおそる4人の猛者の方へと振り返る。


「…どうって…決着はつけないと、いけないでしょうに。」


まだ争い足りないのか、城沢のお嬢様は、ギロリと私を睨んだ。

・・・いや、美奈子悪くないもーん!(泣)


他の3人も、同様…このままでは引き下がれないといった顔をしている。


ああー…本当にめんどくさい人たち…。

「あの、じゃあ…とりあえず、汗を流すがてら温泉行きませんか?

 …あ、そうだサウナで我慢比べでもしますか?なんちゃ・・・」


私がなんちゃって、と言う前に4人は私を指差し。


「「「「ソレよ!」」」」

と叫んだ。



「ええー!?」


もう、カンベンして下さいよー…(泣)


「よし、決まったわ…君塚さん、水島さんも呼んで来なさい。」

花崎課長は、腕組をして私に命じた。

ソレを聞くと、他の3人もそれはいい、と同意した。


「…えぇー?またですかぁー?」

(・・・どう考えても、水島を脱がせて、温泉に浸からせたいだけじゃないの・・・。)



「彼女、今なら、部屋にいる筈よ。

 あと、やましい気持ちはこれっぽっちもないからって言って。」



「…はあ。」

(その一言で、大分やましいの丸出しじゃないかな…)



悲しきスパイ、私の名前は、君塚美奈子。


私は…同僚の部屋へと足を向けた。

長い廊下を、だらだらと歩く。




「……だから、ですね…伊達さん?いいですか?」


…水島の声が、個室から聞こえた。なんだか、苛立っているようだった。


どうやら、電話中らしい。伊達さん、とやらと。


(・・・なんだ、友達いるんじゃないの。)


私は、意外だなと思いつつ、水島の部屋のドアをノックをしてみる。


”コンコン”



・・・出てこなかったら、出てこなかったと、彼女達に伝える事ができる。


「…あ、伊達さん…人が来たんで、切りますよ…」


”ガチャ…”

ドアが開き、私は間髪入れず、用件のみを伝えようと思った



・・・・が。




「あの…水島さ・・・・・・!!」



・・・水島が、泣いていた。


大粒の涙を…瞳からこぼして、目を真っ赤にして…何かに疲れきった顔で、私をみていた。


あの、水島が…こんな表情をするなんて、誰が想像しただろう。



「あの…えと…」


(み…ず、し…ま…?)


何が原因なのか、知らないことが悔しかった。


今まで、コイツの事を、隠れながら何ヶ月も見てきたのに。

…大体の事は、把握していると思っていたのに。


たかが、水島が泣いている、それだけなのに、その原因が、わからないなんて。


・・・それが、歯痒かった。


(・・・私は、今まで、一体コイツの何を見てきたんだろう・・・?)


多分、私は、今日一日の普通の旅行でも、人嫌いの彼女には、1か月分疲れる程の苦労を強いてしまったのだろう。


コイツは、人嫌いで、何を考えているかわからない女。

でも、人並みに泣くことだってある。こんなに……キレイな、涙を…

魅力なんかちっとも感じないのは…私が、コイツの魅力を見なかっただけ、だったんだわ。


その証拠に、同じ女が泣いている面倒なこの状況に出会えたことを、私は神様に感謝すらしていた。


水島は、手の甲で、涙を拭きながら

「どうか、しました?」

と用件のみを聞いた。


・・・私は、これ以上、水島を泣かせるような真似はしたくなかった。


「あ…個室、どう?不便なトコない?」

「いえ…特には…ご心配なく…」


すんっと鼻を軽くすすって、水島はそう言った。


(心配、するわよ・・・普通なら・・・)

「そう、ならいいの…。」


・・・そう、私は普通の女。


だから、人が泣いていたら、普通に心配するし…


「…その…知ってる?高橋課長が毎年来ないの。」

「ええ…」



「・・・この部屋、私が貴女の為に用意したの。こうでもしないと、旅行来ないでしょ?水島さんは。」





・・・・・・普通に、恋もする。




「・・・ありがとう、ございます・・・」


そして、普通に恋の駆け引きもするし、策略もたてる。

遠慮なんかしていたら、馬鹿をみるのだ。


「じゃあ、おやすみなさい、水島さん。」

「はい…おやすみなさい…」


(…はい、美奈子…一歩リード…!)


私は、そ知らぬ顔をして、温泉へ行くと『水島は寝ていた』と

サウナにいた4人の女に告げると、部屋へと戻った。


・・・もう、誰が勝とうとどうでも良かった。



   ー 翌日 ー


「…ねえねえ、知ってる?花崎課長温泉でぶっ倒れたらしいわよ。」

「あれ?阪野さんじゃないの?秘書課の。」

「あたし、城沢のお嬢様だって聞いたー。」

「シッ!馬鹿ね…うちの門倉も含めた4人共々ぶっ倒れたのよ。

 夜中、仲居さん総出でドタバタしてたでしょ?・・・もう、黙っててあげなさいよ。」


帰りのバスの中では、二日酔いのOLや、旅の疲れを抱えたOLが昨日の事を話していた。


水島は、逃げるように一番に帰りのバスに乗り込んだ。

…若女将が、何か言いたそうな顔をしていたが、無視されるのも

Mッ気のある女将だから、嬉しいのかどうなのか、ちょっと複雑な表情をしていた。


私は、普通の女だから、よくはわからないけれど。


「……水島さん、昨日はよく眠れた?」

「いえ、あまり…。」



私は、窓の景色を見るフリをして、隣に座る水島をみていた。

門倉よりも先に水島の隣に座って、門倉には恨まれないように”後で情報教えてあげる”と、メールで誤魔化した。


水島はバスが発車すると、ホッとしたような顔をしていた。


こうしてみると、顔は男受けしないんだろうけど…

この淡白な表情が崩れると、どうなるか?という好奇心を誘うのだ…。




というか・・・めちゃくちゃ、あの泣き顔が、萌えた。

もう、どうしようもなく萌えた。萌えたったら萌えたのよ!バカヤロー!!

ひっさびさの萌え!BL以外の萌え!!あれで上目遣いとかされたら、とか考えただけでちきしょー!


・・・あーゴホンゴホン・・・落ち着くのよ、美奈子、ファイト。


   ※注 最後の最後で、なんかすみません。




水島は相変わらず、何考えてるんだかわからないけど…それはそのうち、私自らが調べるとしよう。

勿論、あの依頼主には今まで通り情報は流していくとしても…


肝心な情報を1番に手に入れられるのも、大切な情報も私のモノだ…。


「あの…それで…」


「ん?なあに?水島さん☆」






「・・・貴女の、名前、何でしたっけ?」




・・・えぇー・・・そこから始めなきゃいけないの・・・?





  ー 水島さんは旅行中 〜君塚 美奈子編〜 ・・・END ー






  ーあとがきー




・・・はい、色々な意味で、妙な展開を見せた、スピンオフでした。

長くなったのは、登場人物の多さと神楽の未熟さです。


個人的に、卓球と水島のシーンが交互にいく所が書きたかったので(笑)


えー色々すみません。ホント。

回を重ねる毎に、作者が調子に乗っているので…ネタも解る人にしか解らないものが増えてきてます。

反省点はあるものの、自分なりのスタイルでこれからもアホな話、書きます。


……それにしても…君塚さん…こんなんでもイイですか???


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