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私の名前は水島。

悪いが、下の名前は聞かないで欲しい。



性別は女、年齢25歳。

ごく普通の、出世願望も、結婚願望もない、本当に普通のOL。



・・・つい最近まで、普通だった…というのは、もうかれこれ何回もやってんだから、御存知の通りだろう。



 ※注 この話から見ている方は、お暇なら是非、1話からどうぞ。




・・・・まあ、一応、大体の話はざっとダイジェストでご紹介しておこう。








    ー 水島さんは○○中シリーズ  主なダイジェスト ー







「あの・・・好きです」

「…もしかして、私?」

「はい!」




オイオイ、聞き捨てならねえな!


…あーあ…もう聞こえちゃったよ、天城越えする前に、喘ぎ声…。



…どんな特権だーッ!!




「…わかってるクセに…アレって言えば…『もなぐろーす』ですよ…」


「……ああ、アレね!美味しいわよね!『もなぐろーす』!」




『今日から、私はアナタの犬です。…ご主人様ぁ…可愛がってねぇん?』



・・・ぶっ飛ばすぞ。




入るなー!そして、ニューボトルも入れてなあああああい!!!




「おーし!穴が開くほど、見ていてやるよ!!」



「依然として…”ゴリラ”の『リリアン』は、女性を離そうとはしません!」



「水島くぅ〜ん。また遠泳かい?水、島だけに。」

「…ええ、はい。そうです。」




[…私、タバコは、まだ止めない。 水島さんの女難日記より、抜粋。]




「・・・あ゛ぁあ゛ぁあ゛あ゛ああぁぁー!!」


「…ひいぃっ!?」



”ジャーンジャジャ…。”

「…”ねえ”…”あたしの値段、ハウマッチ?”…」





♪はぁ〜 おらがーのぉー 山に〜は〜 女難が来るわぁ〜♪



若女将、まさかの御乱心ーッ!?



「お召し上がり下さい・・・。」





「「……し、死んじゃうよッ!!一晩に25回もヤッたらッ!!」」






「私、どのくらい…入院する事に?」


「そうですね…個人差ありますけど、盲腸なら…大体、5日くらいですかね。

 詳しい説明は、先生が後から来るので、その時に。」




「・・・・・・普通って、何でしょうね?」




「「「「「「「「・・・というか、貴女、水島さんの何?」」」」」」」」




・・・・・・・・・・怖。








『いや、お母さんねぇ、お父さんと離婚したから。』






「…こンの…クソババアああああああああああああああああああ!!!」











  ※注 話の流れが、よく解った所で、本編をお楽しみ下さい。












えぇーと…主人公として、ここは一つ、言っておこうかな…。















・・・・・・・・・・・解るかあああああああああああああああ!!!













  ※注 解らなかった人は1話からご覧下さい。断じて、時間稼ぎじゃないですよ。














        [ 水島さんは回復中。]







「・・・で。一体、どういう事なの?お母さんと何があったの?父さん。」


病院のベッドの上で、私は実家に電話をかけていた。

…電話機の場所まで行こうと思ったのだが、水島家の深刻な話題に触れる為、あえて病室でかけている。

※注 良い患者は真似しないでね♪


しかし、携帯電話から聞こえたのは、母ではなく、実家にいる父親の声だった。


『…父さんもわからんよ。

 理由は察してくれとしか言わないし、離婚届を置いて家を出て行ってしまったからな。』


父の答えは、実に簡潔で淡々としている。

悪く言えば、素っ気無いし、人の話をちゃんと聞いてるのか、いないのか、時々わからない程だ。

普段から、そんな感じなので、声だけ聞けば、元気そうにも聞こえるし、落ち込んでいるのかもわかりにくい。


…いや…私も、父と同じようなものだが。

※注 水島さんはどうやら、父親似。


しかし…離婚は、まだ完全に成立していない事に私は安堵した。

だが、すぐに母の行動に苛立ちを感じた。


「…お母さん、あんまりにも勝手すぎると思う。父さん、怒っていいのよ?」


『あぁ』


たった一言の相槌。

いつもの事なのだが、事が事だけに…私は思わず聞いてしまった。


「・・・・大丈夫?」


大丈夫?と聞いて、私はすぐに後悔した。

大丈夫とか大丈夫じゃないなんて、問題じゃないのだ。

妻に突然逃げられ、娘に心配されるなんて…父にとって、あまり好ましくない状況なのは、解りきっている。



『…あぁ、父さんは大丈夫だ。…生活くらい、どうにかなる。』


やはり、淡々とした返事が返ってくる。

なんだ、こんな時でも、やっぱり父親は動じないんだな、と私は思い、話を進めることにした。


「で…父さん…これから、どうするの?」


『…そうだな…』


少し、考える間があり、父のいつになく真剣で低い声が聞こえた。





『とりあえず、父さんは、明日からパンティを被ってみようと思う。』




「とっ・・・父さああああああんッ!?」



父さん、すごい動揺してる!そして、混乱してる―ッ!!

と、父さんが!!あの地震にも、落雷にも動じなかった父さんがッ!!変態宣言を!!



「と、父さん!しっかりしてッ!!パンティ被っても、どうにもならないわよッ!!」



『いや、目出し帽ってあるじゃないか。同じ同じ。』



「だから!なんでパンティを目出し帽代わりにする必要があるのよッ!

 全然ッ同じじゃない!パンツはパンツ!目出し帽は帽子!!しっかりしてよッ!!

 いい!?母さんと話し合って!別れる気ないなら、離婚届出しちゃダメよ?話し合ってよ?」



『ああ。母さんとは、尻を割って話し合おうと思う。』



「だから!!しっかりしてよッ!尻は生まれた時から、もう割れてるわよ!

 どうして、こんな時に限って下半身に夢中なのッ!?そんなキャラじゃないでしょ!!」



『むっ。そんなに心配するな。父さんは、大丈夫だぞ。』



「心配するわよ!『パンティかぶる』宣言した父親なんて!

 そして、何ちょっとムッとしてんの?逆にこっちが腹立つわ!!」



『とにかく、お前の言いたい事は解った。ちゃんと、機会を持って、話し合うから』


本当にわかっているのか?

・・・いつも以上に心配だ。


娘の気などお構い無しか、いつも通り落ち着いた父の声に、私は一旦、息を吐いてから、口を開いた。


「…本当にわかってんの?」


『ああ、大丈夫だ。』


…心配。とても心配だ…。

しかし、父とこれ以上会話すると、私は心配が募り過ぎて、帰郷してしまうだろう…。

明日からきっちり稼がないといけないのに…。



「…わかったわ。私も母さんから電話あったら、ちゃんと話し合うように言っておくから。」


私は電話を切った。



一応、ここは病院だし。



ここは、人が生まれ、そして最後の時を迎える場所。

人の生き死にが交差し、笑いや悲しみの渦巻く場所。



・・・幸い、私は死ぬ事もなく、単なる盲腸で、この病院に入院していた訳だが。


状況は、悪くなる一方だ。


女難の呪いは、いつもの事で慣れつつあったが…


今度は、母親がいつの間にか、離婚を宣言。

父親は、先程の通り、混乱中。



・・・まあ、大人なんだから、色々あるよね。色々。


私も大人。母も大人。父も大人。

みんな、大人になれば、何かしら背負って、何かしら捨てていくのよ。うん、色々。



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・それで、納得できたら、こんなに凹まないって・・・(泣)

今になって、そんな両親の姿見たくなかったわ…



女難の呪い…”縁切り”が始まって以来、私の生活の全てが、ドンドンめまぐるしく変わっていく。

私は、こうやって、ドンドン人間関係のややこしい渦の中に、足を突っ込み、ハマっていくのか…。


私だけではなく、家族まで…。


もしや…これも、呪いの影響なのだろうか…?


遠まわしに、私の人生が狂わされていくのは…全て…”縁切りの呪い”のせいなのだろうか。


(呪いを解かない限り…こんな目に遭い続けるのならば…いっそ…)


呪いを解く為には、一人の女性と、歳の数(25回)だけセッ……あー……ダメ…考えられない。あり得ない…。

私は、他人と一緒に一つのベッドで寝られない…受けか攻めかも知りたくない。



ベッドの上で、私は、窓の外ばかり見ていた。


雲が、風で流れていく。

雲の一つがやがて、他の雲と溶け合っていく。



(…いつになったら、前みたいに安心で、孤独感いっぱい、気楽な独身生活を、送れるのかしら…。)



人間嫌いの女は、呪われた挙句…女に追い掛け回され、家族崩壊を病床で見ることしか出来ないのか。


ベッドから立ち上がり、私は病院の庭を見る。

たくさんの木や、手入れの行き届いた花壇が見える。



(…そういえば『あの木の葉っぱが、全部落ちる頃、私は死ぬ』とか思い込むヤツの物語あったなぁ…。)



私がみつめる木の葉は、まだ青々としていた。

もうすぐそこまで秋が来ている。





(やがて冬がきて…あの木の葉が全て落ちる頃には、この呪いがとけるといいなぁ…)




私は、何かにすがりたい気持ちを、宗教団体にぶつけて救ってもらおうと思うような、人間じゃない。

ツボや水晶、空に浮く修行やらで、自分の呪いを解こうとも思わない。




他人を頼ってはいけない。

どうせ頼るなら…自分だ。自分しか、いない。

自分の事は、自分自身の力で乗り切るしかないのだ。


自分の中で勝手に、自分だけのルールならぬ”自分ジンクス”を作るしかない。


自分の中の”思い込みの力”にすがる。



窓の外の木を私は、真っ直ぐに見つめ、思った。


あの木の葉がはらりと落ちる頃まで、頑張って女難から逃げられたら…きっと、呪いが解ける!と。


…あくまでも、自分に対して、前向きになる呪文のようなものだ。


だが、やるからには…真剣に…


(あの木の葉がはらりと落ちる頃まで、頑張って女難から逃げられたら…きっと、呪いが解ける!

 あの木の葉がはらりと落ちる頃まで、頑張って女難から逃げられたら…きっと、呪いが解ける!


 あの木の葉がはらりと落ちる頃まで、頑張って女難から逃げられたら…きっと……)






”ヴィーン……ギギギギ…”





(……呪いが解け…)




”…ギギギギ…”




・・・その爆音が『チェーンソー』だと解るまで、数秒と掛からなかった。




「たーお−れーるぞー!」






(・・・・・・・・・・・・。)






 ”ギギギギギ…ドォーン・・・”





(・・・・・・・・・・・・。)




私の見つめていた木は・・・願掛けをし始めた途端、葉っぱが落ちる事無く、木ごと倒された。


ああ、なんという…タイミングだろう。


…大体、どうして病院の木を午前中から、ブッた斬るんだよ…。



「・・・・・・・・・・・。」



私は、黙ってベッドに戻り、天井を見つめた。



願掛けなんかで、現実逃避するよりもやる事があるじゃないか…。

入院費の事もあるし…さっさと働かないと…でも、納得いかないなぁ〜…ちくしょー………。


しばし、ぼけーとしていた私の病室に、2つの声が入ってきた


「おはようございまーす。水島さーん。起きてますかー?」

「おはようございます…どう?調子の方は。」


声と共に、柏木さんと烏丸女医が、颯爽と入ってきたので、私は2人のいる方向へと顔を向けた。

爽やかな午前中の日の光に、2人それぞの白い白衣が余計に、白く見える。


「っ!?…ぃたたッ・・・!」


一方、私は、まだ気を抜くと、まだ痛む体たらくだ。




・・・今日は、退院の日だというのに、私はまだこんな感じだ。


烏丸女医によると、お腹を切ったのだから、しばらくは、まだ”この状態”が続くという。


思えば…長い5日間だった。


・・・やっぱり、自室じゃないとくつろげない。人間、健康第一だ。

という事に今更気付いた私には、たった5日間でも十分な長期入院に思えた。


しかも、今回、女性が多い病院という舞台で…特に目立つ女難もなく、生きて退院できるのだ。

うん、生きてるって素晴らしい…



ただ…私の父と母が…(泣)



いや、それはもう言うまい!…辛いし。

もう、思い出すまい!…辛いし。

大人だしぃ!!…辛いし。



今は、自分の事で精一杯だし!……あの夫婦の子供である事だけで、今が辛いし。


ともかく。


病院での女難はなかった。万歳。

てっきり、成人雑誌みたいな…無理矢理…白衣と医療機器特有のエロスな展開にされるかと、ハラハラしていたのだが…


・・・特になかった。

 ※注 お見舞いに来た女難チームの事は、忘れる事にした水島さん。




「…はい、終わり。それで…えーと、今日から通院…つまり、退院です。良かったわね?水島さん。」

「はい。お世話になりました。」


相変わらず、診察中の烏丸女医は医者らしく、凛々しいお姿だ。

カルテを柏木さんに渡すと、私に退院の旨を伝えてくれた。



実を言えば…大きな女難に会わなかったのは、彼女、烏丸忍の御蔭であると言ってもいい。


彼女が、私を個室に隔離してくれた御蔭だ。


彼女は”レズビアンという設定”の仮面を被る事で、興味の無い恋愛関係や、煩わしい人間関係を遠ざけているのだ。

医者である彼女は、患者以外の人と関わる気がないらしい。

人は患者としか、みられないんだそうだ。


御蔭で、彼女にはお見合い話や浮いた話は、滅多に来ないらしい。


そして、病院のナースは、皆…烏丸女医を”Lの世界の住人”であると思っているらしく…

そんな偏見と先入観の塊である人間達が、烏丸女医の通う私の病室へ、わざわざ進んでやってくるハズもなく。


・・・後から解った話だが…私の個室は通称:Lルームと呼ばれていたらしい。

ま、それは別にいいとして。


烏丸女医が、私の病室に通ってくれた御蔭で、私は烏丸女医のナニである…とナース達には認識されているようで。


当の私達…医者と患者は、”健康”を目指すハズの医療の現場で、仲良く喫煙仲間になっていただけだ。

担当ナースの柏木さん、烏丸女医しか来ないのを良い事に、私は、病室でゆったりと喫煙していた。


女性が来ない…つまり、余計な女難が来ないという事だ。

だから、烏丸女医が、人嫌いの私の担当医で良かった。と、私は感謝している。




「それから、水島さん…怪我しても、一緒よ?

 私の所に来てね。貴女、面白いから、また話したいわ。」


そう言いながら、烏丸女医は、私にニコリと笑いかけた。


私より年上なのに、この笑顔を見るとどうも、精神年齢が若いような気がしてならない…

・・・いや、私の精神年齢が・・・・老けているのだろうか・・・だとしたら、ショックこの上ない・・・。



「…面白い、ですか?」


私は首をかしげながら、そう言うしかなかった。

それをみた烏丸女医は、手を振りながら、即座に付け加えた。


「あぁ、変な意味でとらないでよ。貴女は、良い意味で面白いんだから。ねえ?柏木さん?」




・・・・・・。




「……え?あ、あぁ………はい。」


ホラ、今一瞬、嫌な間があったよ…。すごい静けさで、こっちが恥ずかしいじゃないか…


烏丸先生よ…急に話を振られても、柏木さん困ってたじゃない。

明らかに柏木さん、話聞いてなかったか、同意しかねていらっしゃったよ、コレ。


「じゃあ、あの烏丸先生…私、次の病室行って来ます。」

「は〜い、ヨロシクね。」


柏木さんは、曖昧な笑顔を浮かべると、そそくさと病室から立ち去った。


・・・やっぱり、私を面白いと思っているのは、烏丸女医しかいないのだろう。


柏木さんがいなくなった所で、烏丸女医は早速、タバコを取り出した。

…この医者は、愛煙家なのだ。



「…で、水島さん。何度も聞くようだけど、女難の呪い…どうするワケ?」



タバコに火を点けながら、烏丸女医は窓の方へと歩いていった。


しかし、そんな事聞かれても・・・ぶっちゃけ、そんなの、私が一番知りたい。

興味本位か、どうかは知らないけど、聞かれても困る。


今の私は、両親の離婚騒動で、頭が痛いのだ。


「・・・あー・・・まあ、なんとかします・・・。」


・・・それしか、言えない・・・。

今は、両親の離婚騒動で、頭が痛いのだ。


「…さっきも言ったけど、怪我したり、相談なら乗るわよ。友人としてね。」


烏丸女医は…何故か、私の女難にはならなかった。

人に興味が無いせいだろうと思うが…実際にこの人を信用してもいいのだろうか?


「・・・それは、面白いから?」

「・・・そうそう♪水島さんは、面白いから♪」


女子中学生みたいな笑顔を浮かべる女医をみて、私は複雑な気分に包まれる。

人の不幸をなんだと思ってんだか…

私は、ベッドからゆっくり立ち上がり、自分のタバコを取り出した。


(…いつかタバコ…止めないと、な…)


盲腸になって、健康が大事だと気付いて、やっとタバコを止めようか思ったのだが

思った端から咥えたタバコに火をつける自分がいる。


「あ、笑った。」


烏丸女医が不意にそう言った。


「・・・え?」

「今、笑ったわよ。貴女。」

「・・・え?え?」


笑った?私が?…いや、笑えるよ…別に。

…単に、”ああ、自分ニコチン中毒なのかも”と思ったら…無意識に…


「…ふうん…なるほど、そういう所に女難の皆様、コロッといかれる訳ね?」

「…そういうって…なんですか…。それに、人の事スケコマシみたいな言い方を…」


私は瞬きを2回して、窓の外を見た。

先程切られた木の切り口をみて、先程の複雑な気分が蘇りそうになる。

私は、笑顔で女性を、フィッシングした覚えは無い。これは、呪いのせいなのだ。



烏丸女医の手で開けられた窓から、風が入ってきた。

夏の緑の匂いが薄い。…秋だなぁ。


…秋になったら、また女難増えたりしないだろうか…

いや、それ以前に…私、今、この状態で、女難に遭ったら逃げられないな…


私の頭には、そんな苦い事ばかり浮かんで来た。


「ホラ、そうやって…また表情を殺すんだから。」


烏丸女医は、私に向かってそう言った。


「…無表情、とは…よく言われますけどね…。」


私は、驚く事も無く、ただそう答えた。

…表情を殺すなんて言葉は、初めて聞いたな…


「…じゃあ、レアなのね。貴女の笑顔って。」

「レアって・・・使い方間違ってません?」


「…だから、貴女が自分自身で殺した部分を、たくさん表に引き出せる人が、呪いを解ける人って事じゃない?」


「・・・・・・ああ、儀式相手の話ですか・・・」


それにしても、もう少し言い方があるんじゃ・・・。と私は思って、煙を吐いた。


「…儀式云々以外でも…良いんじゃない?特定の相手と付き合うくらい。」


…随分、簡単に言ってくれる。

・・・人嫌いは、特定の相手も作らないし・・・


大体…そう言う自分はどうして、しないんだ?


答えは簡単。


私も、烏丸女医も・・・人と関わりあいたいという、気持ちが全く無いからだ。



「…遠慮しておきます。」

「あ、やっぱり?」


「わかってて、勧めないでもらえます?」

「あぁゴメンゴメン、私が貴女の立場だったら、確かにノーサンキュー。」


「・・・からかわないで下さい。」

「あ、今度は怒った。意外と顔に出やすいのね。」


「・・・・・・・・・。」


烏丸忍という名の、友人が出来ても・・・・・・・私は・・・私の呪いは、このままだろう。

彼女は彼女で、相変わらず、29歳にしては無邪気過ぎる少女のような笑顔で、私を見ている。

まったく…他人事だと思って、面白がるなんて…例え冗談だとしても、私は笑えないぞ。


・・・これは、友人同士特有の一種のじゃれあい、と考えるべきだろうか。


「あぁ…水島さん、こういう冗談は、嫌いみたいね?一つ学習したわ。」

「……はぁ…。」

「そんな顔しないで。もう、言わないであげるから。」


烏丸女医は、そう言って私の肩をぽんぽんと軽く叩いた。


「じゃあ、そろそろ診察行きますか……水島さん、お大事に。あと、これ私の名刺。一応ね。」


そう言って渡されたのは、烏丸忍のメールアドレス・電話番号付きの名刺だった。

タバコを咥えたまま、とりあえずそれを受け取った私は…

「…お世話になりました。」

としか言えなかった。


そんな無愛想な私の礼に対し、烏丸女医は

「はいはーい♪」

と、相変わらず、適当な明るい返事をしながら、白衣を翻しながら、病室を出て行った。



とりあえず、こうして…社交辞令上…一応、私と烏丸女医の友人関係は結ばれた。

・・・・と言えるのだろうか???


(・・・ま、いいや。)


女性と知り合うことに慣れ始めている私は、特に気にも留めなかった。

さっさと荷物をまとめて、家に帰る。



午後からは…出社する予定だ。


確かに、病み上がりだが…幸い、私は事務課。

ジッとPCに向かって仕事するくらいは、出来る。


仕事は出来るというか・・・仕事しないと、生活にかかわる。

貯金はあるけど…こんな時代だ、一銭たりとも減らしたくない。


私は、病室を出ると、一応、白衣の悪魔達こと、看護師達にも頭を下げた。



 ※注 全国の白衣の天使の皆さん、申し訳ありません。






通称:Lルームの住人だった私に対し、看護師たちは、作り笑顔で”お大事に”とだけ言った。


とにかく、これで、めでたく私は退院だ!

さようなら!K病院!!








 水島さんは回復中・・・完!











…いやいや……終わっちゃダメだよ…。





病院の自動ドアの先に、私を待っていたのは…



一人の女だった。

赤い高級車に乗ったまま、私の姿を見ると、サングラスをゆっくりと外した。


「・・・・・・・・・。」


その顔には、見覚えがあった。





  出来るなら、会いたくなかった女。





「・・・お久しぶり、随分元気そうね?水島サン?」




嫌味と嫌な発音で、私の苗字を呼ぶ、その女の名は…



「・・・火鳥・・・・・・さん。」



・・・ダメだ・・・小心者の癖で、嫌いな相手に”さん”付けしてしまうのが、情けない!!

呼び捨てようと思ったけど、なんか久しぶりだから、ダメだった…ッ!

…大体、なんだよ…私、病院から出てきたのに、元気そうね?は無いだろう…


一応、元気にはなってるけど…くっそー…やっぱ、ムカツくぅ…!

黒いよ…やっぱ、コイツ黒いよ…絶対黒いよ…ちく


※注 下らないので、以下省略いたします♪



「…乗りなさいよ。元気でも、病み上がりなんでしょう?」


火鳥。下の名前は…知らないし、知りたくも無い。

私の中でのあだ名は、ゴリ子、または黒乳首だ。


その火鳥が…病院の玄関前に堂々と高級車横付けして、私を待ち伏せていたのだ。

驚いたけれど…すぐに、私は火鳥の狙いを読んだ。



(・・・コイツ、まだ私を儀式の相手にするつもりなんだ・・・。)



恋愛関係、その他、面倒な事云々、一切抜き。

後腐れも無く、儀式が行える…絶好の相手。


同じ女難の呪いを持ち…人間嫌いの女。

火鳥は、まだ…私を、自分の呪いを解く為の道具にするつもりらしい。



「・・・いいえ、結構です。」


私…知らない人・怪しい人の車に、乗ったらいけません。って学校・親にも言われて育ってますからね!


※注 小心者ゆえ、心の中でしか皮肉を言えない水島さん…。



「…じゃあ、こう言えば乗ってくれる?縁切りの呪いについて、話があるんだけど。」


静かな微笑を浮かべているものの、火鳥の表情は、冷淡そのものだった。

私にすら見える。・・・目の奥の、明らかな敵意と怒りが。



…車に乗れと?


…その手は喰うものか…。


ホイホイ乗ったら、そのままどこに連れて行かれるか解らない。

そのまま、火鳥の儀式の相手に仕立て上げられたら…溜まったもんじゃない。



第一…こっちは、病み上がりで…走る事が出来ない…。


…なんとも、嫌なタイミングで、出会ってしまったな…。


「・・・こちらには、そんな話ありません。出社しなくてはならないので、失礼します。」


私は、そう言って腹の痛みを堪えて、歩き出した。


ところが、火鳥は車に乗ったまま、不敵な笑顔でこう言った。


「・・・本当にいいのかしら?そんな事を、言って。」

「・・・・・・は?」


マヌケな声を出しながら、私は火鳥の方を振り向いた。


「・・・貴女と誰かさんの秘密・・・バラまかれても、いいのかしら?」



そう言って、火鳥が指で摘み、ピラピラと見せたのは、一枚の写真。



「………!」



写真には、信じられないものが写っていた。




病室のベッドに横たわる半裸の私と…


その私の上に乗り…唇を重ねている……烏丸忍の姿だった。



「・・・・・な・・・!?」




私は、言葉を失った。

自分の記憶にもない、こんな…こんな場面…。



いつ?どうして?どうやって?



わからない…



わからない…わからない、わからないわからないわからない!!



何故、こんなモノが…?



・・・まさか・・・これが、病院に来た時に感じた・・・女難・・・?



やはり・・・烏丸忍が、そうだったのか?


この写真は、一体なんだ・・・?


いや、それよりも…どうして、火鳥がそんな写真を持っている!?


…わからないわからないわからない…!



「・・・どういう、事…?」


やっと出た言葉は、それだった。





  『もう、誰も信じない。』





そう、心に何度も何度も、唱えてきたじゃないか。



…友人関係なんて…やっぱり、嘘だったのか…

私には…もはや、普通に女友達を作る事すら、出来ないのか…



たった一枚の写真。



たった1枚のそれに写ったモノが…確かに、私の心の中をグチャグチャにしていった…。




すっかり、動揺した私に、火鳥は笑いながら、低い声で言った。




「・・・・・・・・・知りたかったら、乗りなさい。水島。」




…私は……赤い車の助手席のドアを開けた。








   …後編へ…




あとがき。というか、言い訳。



最近、前後編多いですよねェ…火鳥出てきてからですよねェ…

さて、何気に水島さんの父親初登場でした。しかし、事態は思わぬ方向へと、進んでまいりました。

親子揃って、大混乱!

続いて、後編へどうぞ!!