「待ってください!あのっ!お名前を…!」


「いえ、名乗るほどのものでは・・・(というか、名乗りたくないんで。)」




私の名前は水島。

悪いが下の名前は聞かないで欲しい。





「そんな!まだ…お礼も告白も済んでないのに!」

「いや、ホント、結構です!(特に後者の方!!)」





年齢は25歳。職業はOL(事務課)

いたって普通の女・・・・・”だった”。


だった、というのは、現在の私は普通の女ではない。


・・・こんな事を言うのも恥ずかしいが、私は”呪われた”。


そのせいで、ありとあらゆる女性トラブルに巻き込まれたり、無理矢理、赤の他人の女性を助けるハメになったりと

とにかく、そういう非常識的な出来事の後…


もれなく女性が、私に惚れてついてくる…そんな”女難の女”となった。

勿論、喜べるはずもないトラブル続きの転落人生。




そんなある日。


その日は、忘れもしない晴天。



その日、休日を満喫しようとしていた私は、コンビニへ行く途中、歩道でしゃがんで、靴紐を結んでいただけだった。

 ※注 水島さんの休日を満喫 = コンビニで新発売のカップ麺・お菓子類を買う事。



そこへ、運悪くひったくり犯が走りこんできて、私につまづき…

彼が私を殴ろうとした瞬間に、これまたタイミング悪く、彼に謝ろうとした私が立ち上がり。

…あろう事か、彼の顎に私のヘッドアタックが、ミラクルヒットして、TKO勝ちしてしまったのである。



そこで、自動的に”ひったくり犯を頭突きをかまして捕まえた”という事になってしまった私は

ズキズキする頭を擦りながら、振り返った。


すると。


そこには瞳を目一杯輝かせた女性が、奪われたであろうバッグを片手に持ち

引ったくり犯を踏みつけながら、私を熱く熱く…見つめていた。



「ぐえェ…」「ありがとうございます…あの、なんとお礼を言ったらいいのか…」

なんて、台詞を言いながら私に近付いてくるその目は、勿論…言うまでも無く。お馴染みの”アレ”だろうと私は思った。

(そして前者の台詞は、踏まれている哀れなひったくり男の呻きだ。)


ズキズキする頭の内側から、ダメ押しの”女難のサイレン”が響いたので

私は”やっぱりね☆”と思いつつ、その場から逃走した。



・・・いや、正確には、今も逃走中だ。



何せ、相手の女性が熱心に私を追いかけてくるのだ。

それだけの脚力があれば、あの”ひったくり犯”を自力で捕まえられたんじゃないのか?とも思うほどの粘りだ。


しかし、自宅の近くで助かった。

こんな時の為の女難用抜け道を2、3通れば、きっと振り切れるだろう…


そんな風に考えていた私の左足が、突如”ツンッ!”と突っ張った。



ほどけたままの左足の靴紐を、右足が踏んでいたのだ。



「…あ。」



・・・グラリとバランスを崩す。


それだけなら、まだ良かった。



・・・よりにもよって・・・私がバランスを崩したのは、コンクリートの階段の一番上だったのだ。



しかも、吸い込まれるように私の体は階段方向へと傾く。

咄嗟に、手すりに手を伸ばすも、届く事はなかった。





「・・・や、ヤベェ・・・ッ!!」




ホント、人生最後の言葉なんて、実につまらないものだな、と思う。



『なんじゃこりゃぁ!?』ぐらいの名言くらい、咄嗟に生まれるものだと思っていたが、そんなの大間違いだ。



・・・所詮、私は普通の人間なのだ。



ただ…こうして最後まで私は、女難の女だった、というだけ。




女子大の窓から飛び降りた時には見えた走馬灯すら、私の脳には現れず。



ただただ・・・ゆっくりと。

冷たく、硬そうな石の階段の角が、ゆっくりと、ゆっくりと…私を待ち受ける。


続いて、鈍い音と衝撃が頭に響いた。


そして、連続的に視界が、世界が、回り、揺らぎ、揺れが収まる頃には

私の目は、焦点すら定まらなくなっていた。



・・・ただ、色だけは解った。



真昼の空は、今日も憎らしいほどの快晴…青い、はずだったのに…




私の目にはこう映った。




(・・・・・・・・赤、い・・・空・・・)



夕方なんかじゃない。

真っ赤な空が歪んで見えた。


それが、不思議と…綺麗に見えたから、いよいよ私は”その時”が来たのだ、と悟った。




「み、水島さん…?…水島さんっ!!しっかりして!水島さ





赤い空の下。



その声は、私を追い掛け回していた女性とは違う声がした。




どこかで聞いたような声…







声の主を確かめようと思ったが、身体も視点も動く事は無かった。

そして・・・私の意識はそこで、TVの電源が落ちたように、ブチンと切れた。














それが、私…水島の死の瞬間…。


















『・・・という訳で、貴女は死んだんですよ♪水島さん。』









白いドレスを纏った女性は、説明を終えるとまたニッコリと微笑んだ。

両手を合わせ、左の頬にぴっとりとつけて、ニコニコと笑っている。

・・・80年代のアイドルのレコードジャケットのポーズか。(水島さんの心の中のツッコミ)



「・・・・はぁ。そうなんですか。」



私は、間の抜けた声で返事をした。そう返すしかない状況だからだ。


・・・今、私は・・・憎らしい程、真っ青に晴れた空と真っ白な雲の上で、何故か、正座をしている。


何故、私が空に浮いているのかどうかは、よく解らないが

気が付いたら、とにかく私は空と雲の上で”正座”をしていたのだ。



そして、今、目の前にいる白いドレスを纏った笑顔の女性から、自分が”今さっき死んだ経緯”を聞かされた。




・・・・・・つーか・・・・・・・。




・・・・私、死んだって・・・そんな笑顔で・・・。





「…お…オマエ、誰だーッ!?そして、私死んだってどういう事なのーッ!?」






私は立ち上がり大空の上で吼えた。

自慢じゃないが、私は滅多に吼えない。 ※注 小心者だから。


黙って聞いていれば、非現実的な事ばかり笑顔で言いやがって…!!

死んだって、喋ってるし、こうやって考える力も、吼える力も残ってるのに…死んだ、だと!?


『・・・まあまあ、落ち着いてください、私は天使です。』



そう言うと、これまた非現実的な”天使”を名乗る女性は見せ付けるように、白い羽をばさりと広げてみせた。

彼女が羽を広げた途端、ニワトリ小屋っぽい臭いがしたが

その姿は・・・人じゃなければ、プリン●ス・天功でもないのは、一目瞭然だ。


空の上に浮かんでいるこの状況と…さっきまでの記憶を総合して考えると…

これは”夢”か、”本当に死んだ”かのどちらかだ…。


信じたくないが、後者の場合…私はどうなるのか…。

”で、お前が、天使だからなんだってんだ”と言いたい気持ちを抑え、私は恐る恐る聞いた。


「…それで…私、どうなるんですか?」


すると、天使は”その質問を待ってました♪”とばかりに、ニッコリと笑って答えた。




『ご安心下さい♪私は、貴女の魂を天国へ導くために、やって参りました。』





(・・・・・夢なら、早く覚めて欲しい。)




私は、頭を掻こうと思い手を上へ伸ばした…すると。

”カツン”と指先が何かに当たった。


「・・・あ?」


上を見上げると、私の頭の上には…髪のキューティクルの証でも、なんでもない…

『天使の輪』という名の死人の証が、ふわふわ陽気に浮いていたのだ。




「・・・てえぇいあぁッ!!!」




私は、反射的に輪を掴んで、私の後ろへとブン投げた。

こんな縁起でもないモノ、1秒たりとも浮かばせておきたくない!その一心で、ブン投げた。



・・・・・・が。



天使の輪は、悲しいほど俊敏に、綺麗な弧を描いて…

まるで、ウ●トラセブンの●イスラッガーのように、”シュタッ”と私の頭の上に舞い戻ってきてしまった。



「・・・・・・・・・・・。」



私は、ギギギ・・・と錆び付いたロボットのように振り向き、薄ら笑いを浮かべた。




・・・もう、悟るしかないだろう。





「・・・・・・・あぁ・・・マジで・・・その・・・死んでるんですね?私・・・。」




私が、力なくそう言うと、天使はそれはもうニッコリと笑って言った。




『はい。貴女は、バッチリ死んでます♪』



天使は輝くまでの白い歯と歯茎までをクッキリと見せ、両手の親指を立て、私の死のバッチリ度を表した。

それは、エド・●るみがスベったネタを観客席の一番前で見てしまった時より、腹が立った。


死んでるせいか、体に痛みのようなものは一切感じられない。むしろ、心が痛い。

だが、確実に感じるモノがある。



『・・・さあ、私と天国で2人楽しく、甘美な悦楽の日々を送りましょう♪』



天使の笑顔の奥からは、今まで嫌と言うほど見てきた”例のアレ”が、感じられた。

それに、彼女の台詞には十分すぎる程、アレである証拠の単語があった。



だから。



天使の台詞を聞いた私のリアクションは、一つしかなかった。





「い・・・ぃいいぃいぃやあああぁああぁぁあぁッ!!!!」







・・・やれやれ・・・人生終わってからも、コレかよ。ちくしょー。





・・・・・・・・・あ、一応、涙は出るのね、死んでからも。ウフフフ・・・。











・・・だから、なんだーッ!!!(自分へのツッコミ)
















    [ 水島さんはご臨終。 ]






突然ですが。


 Q. あなたは死後の世界を信じていますか?


 A. 体験したことありませんので、信じていません。



丸々信じている人もいるのだろうが、私はあまり信じていない。

女難の呪いを喰らっている現在も、それはあまり変わらなかった。


それに、女難の呪いを放っておくと、死んでしまうらしい。だからこそ、私はなんとかこの女難の呪いを解く為、奔走して…


…常に失敗していた。(そして、女難も増えている。)


…私が死後の世界があるのかないのかを確かめるチャンスが訪れるのは、時間の問題かもしれないと思っていた。


・・・・・・正直、見たくなかったんですけど・・・こうして、見ちゃいましたね、その世界。ははは。



ああ、正直といえば…

正直な話…私は限界を感じていた。


人嫌いの上に、女難まみれの『縁切りの呪い』という恥ずかしい呪いに掛かった上に

好きでもなんでもない女性に次々と言い寄られ、挙句…死んでしまう。(ていうか、今死にましたけど)



そんな呪いを解く為には、『心から愛する人(オエッ)』と『歳の数だけ性行為』をしなくてはならない。(まあ、今死にましたけど)。

まあ、散々言おうとしたけど控えてきた一言をあえて、今言おう。






   ・・・何?その解き方。





今の所、それしか呪いを解く方法が見つかっていない。

そして、その方法を採用しない理由は…只一つ。

私は誰かの好意を受け入れ、誰かを愛さなければならない、という事を、私自身がしたくないからだ。


勘違いしないで欲しいが、この精神は、私が”草食系だから”という訳ではない。


私は…本当に、心の底から、人と関わりたくないだけだ。将来的に犬1〜2匹と暮らす!

それが、私のベストな生き方なのだ!!





・・・まあ、でも・・・その前に、私は死んでしまった訳で。







『さあ、事情説明も終わりましたし、天国へ行きましょう。


  怖くないですし、痛くもないですよ。うっふふふふ♪』



「・・・え゛・・・・!?」


・・・ダメだ!やっぱ、ダメだッ!嫌だッ!!


天使のスマイルが、性別とコメントだけで悪魔に見える!

この人に…いや、天使の面の悪魔について行きたくなんてないッ!!

何故なら、このニワトリ臭の女、ただの女難だからーッ!!人間から、天使に変わっただけじゃんッ!!



「い、いやだッ!その笑いをやめろッ!コメントも怖い事だらけなんだよ!!

 天国であっても、女がいたら…人がいたら…私にとっては、天国でもなんでもないッ!!」


空と雲の上で、ジタバタしている私に、天使は半ば呆れたような口ぶりでこう言った。


『・・・まだわかりませんの?だから、貴女は死んだのですよ。』

「・・・・・・え?」


『…貴女が”縁切りの呪い”にかかっている事は、承知しています。なにせ私は、天使ですから。』


「・・・じゃ、じゃあ・・・私が死んだのは、偶然じゃないって事・・・?」


占い師のおばさんが言っていた・・・”近々死ぬかもしれない”という、あの曖昧な言葉が・・・

よりにもよって、この13話で実現してしまったというのか!?


・・・そんな馬鹿なっ!?というか、早いだろ!! 

 ※注 いや、別に適度な展開でしょ。(作者のコメント)



『…そう。縁切りの呪いが発動し、貴女は死ぬべくして、死んだのです。』


念を押されるように、私は死んだ事を天使から、再通告された。


「・・・・・・・。」
(・・・死ぬべくして死んだって・・・。)


『いいですか?…貴女は、呪いを受けた不浄な身。・・・本来ならば、天国には、ゆけません。』

「え?・・・でも、今…貴女は、天国へ行くって・・・」


『ですから、それは神様の特別なご配慮です。

貴女は、影も薄く、目立たない小心者でどうしようもない人嫌いでしたが

縁切りの呪いの御蔭で、少ないながらも善行を行う事が出来ました。』


なんだ、それ・・・。

何気に私の人格全否定された上に、褒められているのかすら、分からない。

・・・善行、少なくてごめんなさいねっ!チッ!!※注 心の中で逆ギレする小心者の水島さん。



『だから”特別”に、貴女の御魂は天国へいけるのです。

 ・・・それとも、地獄で永遠の業火に焼かれたいのですか?

 それとも、血の池地獄でトロトロになるまで、煮込まれたいのですか?』


「・・・いえ・・・それは、ちょっと・・・熱そうなんで嫌ですね・・・地獄って響きもなんか嫌だし。」 

※注 そういう問題じゃありませんよ。水島さん。



『では、決まりですね♪貴女は、私と天国へ行くのです!水島さんシリーズもこれで完結ですわ!』


天使は、輝く笑顔で私の肩を抱くと、天国の扉らしき白い扉へと手を向けた。


「……はあ…なんか…そう言われると、肩の荷が降りるような気になってきました…。」



とにもかくにも、女難の人生、もとい私の人生は終わったのだ。

もう死んじゃったんだから、仕方が無い。どうしようもない。



天国がどういう場所かは知らないが…行くしかないのなら、行ってみよう。

行くだけ行って、とりあえず、このニワトリ臭の天使からは逃げよう。





そして…私は、天国への扉へ向かって、その一歩を踏み出したのだった…。









水島さんはご臨終・・・END











 ー あとがき ー



はい、そういう訳で、今回で水島さんは、めでたく天国へ行く事になりました。

呪いとか伏線とか、誰とこうなるとか、死んじゃったらもう何にも関係ありませんからね!


主人公死んじゃったので、水島シリーズ、無事堂々の完結でーす。


・・・という訳で。




皆様、長い間、水島さんシリーズをご覧頂き…

そして、応援ありがとうございま









〔・・・ちょーっと、待ったッ!!〕





「…はい?」


『こ、この声は…!』


作者のあとがきに割り込んできた声に、私は間の抜けた声を出し、天使は顔を強張らせた。




(・・・ていうか、この話・・・まだ続くの・・・?)

 ※注 はい。続きます。




〔天使のクセに、嘘は良くないわねェ…〕


その声の主は、含み笑いを浮かべたまま、すうっと現れた。


黒く長いウェーブヘアをなびかせ、SMの女王様のボンテージのようなキワドイ衣装で身を包み

背中からは真っ黒な翼に、鋭い牙までついている上、頭には角が2本付いている。


な・・・なんて、解りやすいキャラクターだろうか・・・。


『・・・・まあ、また貴女ですの?』


丁寧ながらも棘のある言い方。

その方は、やっぱり天使の人と仲が悪いらしい。


いくら死にたてホヤホヤの人間でも、それくらいの空気を察する事は出来る。



〔またも何も、オマエがアタシの仕事先にいるのよ。出会って、ウンザリしてるのはこっちの方よ。〕


そう言いながら、黒く長い爪で、黒いウエーブヘアをスーッと、とかしながら、私の方を見てニンマリと笑いかけた。

その笑いは…邪悪さ満面の笑みで…。



・・・多分、というか、絶対・・・この方・・・。

この方…天使と真逆の存在・・・”悪魔”だ。



面倒な事になったわ、という顔を咳払いで直した天使は、再び悪魔に毅然とした態度を取った。


『そんな事、どうでもいいですわ。それよりも、先程の”嘘つき”発言、撤回して下さい。』


〔…フフン…”特別”なんて、上手い誘い文句は、悪魔の十八番よ…

 まさか、天使様が、そんなゲロ汚い、古臭〜い手で、その人間の魂を持っていこうなんて…〕


すると、悪魔にそれ以上喋らせまいとしてか、天使は大声で悪魔にこう言い放った。


『まあぁあぁ!なんッて言い草でしょう!…まったく、薄汚い悪魔らしい言葉ですわね!聞くに耐えませんわ!!』


しかし、悪魔は余裕たっぷりの邪悪な笑みで、やれやれと首を振りながら口を開いた。


〔…そっちこそ、天使ともあろうモンが、私情挟んで、自分好みの魂を連れていこうなんてサ。

 その人間の魂の転生をさせる気なんざ、サラサラないくせに

 修行だ、なんだと、かこつけて…永遠に自分の傍で飼い殺す気でしょ?〕



「・・・え゛・・・飼い殺し?」



…その単語は、聞き捨てならない。いただけない。

私が、試しに天使の方を見ると、天使は明らかに動揺していた。


『…し、失礼な…魂の転生には、修行のひとつやふたつ…時間もそれなりに、結構必要なのですッ!!』



「・・・・・・・・・・。」
(・・・うーわー・・・わかりやすいリアクション・・・。)


どうやら、私は天国へ行くなり、天使の傍に長期間いなければいけない・・・

つまり”飼い殺しの身”になる所だったらしい。



〔フフフ…はてさて、どんな修行なんだか・・・さしずめ”愛を知る修行”という名の < ピーー。 > ってトコ?〕


 ※注 只今、悪魔らしい不適切な発言がありましたので、伏せさせていただきます。



・・・て、訂正!


どうやら、私は天国へ行くなり、天使の傍に長期間いながらにして

魂の転生だか、ナントカを知る為の修行という名目の”18禁行為”をされる所だったらしい…。

・・・なんだよ、それ・・・古いPCのエロゲー展開か、カルト宗教かよ・・・ッ!!

性行為でナントカなったら、私は、呪われてねえんだよッ!もしくは、バリバリ生きてられたんだよッ!!

性行為なんざ、愛を確かめ合う行為でもなんでもねえよッ!性欲発散だッ!そういう本能プログラムだッ!

もしくは、子作りだっ!子供手当て金目当てに、子供作るなッ!バカヤローッ!!




※注 只今、水島さんの心理状態は、色んな意味でギリギリです。
    よって、主人公のギリギリの発言内容に関しては、作者は一切責任をとりません。ご了承下さい。





・・・お、落ち着け・・・私・・・!

論点がズレてる事どころか、なんか色んな所に喧嘩売るような発言してる場合じゃないわよ…っ!



そ・・・それにしても・・・危ない所だった・・・!

天国の扉をうっかりくぐっていたら、私は”女難ニワトリ臭天使”の餌食になる所だったのだ。


・・・死んでからも、冷や汗は悲しい程に出てくる。



「・・・・・・。」


私が再び、天使の方を見ると、天使は・・・


『な、な、なななな、なんというふしだらな発言!そ、そんそんな事

 す、すす、する訳がないでございません事で、あ、ありませんわよーだッ!!』



「・・・・・・・。」


も・・・・


ものすっげえ動揺してるーッ!!

天使、弱ッ!!揺さぶりに弱過ぎるだろッ!否定するなら、しっかりしとけよ!おいっ!


・・・と私は、隣の天使を見ながら、無表情で心の中でツッコんだ。


悪魔の女性は、余裕たっぷりの笑いを浮かべて私にこう言った。


〔フフフ・・・ねえ、オマエも”縁切りの呪い”喰らって長いんでしょ?

 ・・・もう、あたしの言いたい事は大体解るでしょぉ?ミズシマ。〕



女性=女難。・・・それは、死んでからも、それは変わっていない。


つまり、隣にいるのが天使であっても、女性である限り…

コイツは、私の・・・”女難”なのだ。



「・・・・・・な、なんとなく・・・。」


私はとりあえず、天使からジリジリッと距離を取った。


『あっ!?なりません!私から離れては…ッ!』


天使が私の腕を掴もうとするが、私の動きの方が早かった。

そして、私が距離を取ると同時に、悪魔はすかさず、私の後ろから抱きすくめた。


「…ぅうわッ!?」


その素早さは、人間のモノじゃなかった。そして、山羊っぽい臭いがした…。

そういえば…角、山羊っぽいもんな…。



・・・改めて、私は人間の世界から離れてしまった事を実感する。


〔つ〜か〜ま〜えた♪〕


「・・・・・・・。」

(…ハイ、つーかーまーった……泣)





赤いルージュの口が、妖しげな笑みを浮かべる。

ゾクリとする寒気の後、女性特有の柔らかい感触が背中に押し当てられる。(そして、それは嬉しくは無い。)

そして、長く黒い爪の先で私の頬を撫でながら、悪魔は、低い声で言った。



〔…呪いを受けた不浄の人間の魂…大いに結構じゃないの。

 これは・・・紛れも無い、悪魔の獲物・・・・ねぇ?ミ・ズ・シ・マ?〕


「・・・・ッ・・・!」


・・・こんな時になんなんだけど・・・


・・・爪の先で頬を撫でられると・・・微妙に、頬が痒い・・・。

…死んでも、そういう触り方されると、痒い…。

緊張感無いみたいで、自分でも嫌なんだけど、痒いもんは痒い。


頬の痒みを気にする私の魂を巡り、天使と悪魔が睨み合う。


『な、なななな、何を言うのですか!この人間の魂は、清き天国へと私が手取り足取り、色々…そう、色々導くのです!

だから、その人間の魂を離しなさいッ!そして、胸押し付けないでよッ!』


「・・・・・・・。」


だから、天使よ!動揺するなっていうのに!!そして、色々ってなんだよ!?どこに導く気だ!!

ドサクサに紛れて、チラホラ不浄な発言するなッ!アンタ、一応、天使でしょーが!!


・・・と私は痒い頬を掻きながら、心の中でツッコんだ。


〔貧乳仕様の天使には、出来ない芸当でしょぉ?こっちは悪魔…快楽と堕落にかけちゃ、一流よ。

 奪った魂は、喰おうが…別の意味で喰おうが……自由なんだよ!!〕


オイオイ、おまえらの乳の問題はどうでもいいんだよッ!!

そして、快楽と堕落の一流ってなんだよッ!?大体、そんな一流、自慢になるか!

あと、別の意味で喰うって…やっぱりコイツも女難なんじゃねーか!!


・・・と私は痒い頬を掻きながら、心の中でツッコんだ。


『し、失礼なッ!!ひ、ひひ、貧乳などと愚かな単語を使ってッ!汚らわしい!!

胸は、そもそも、授乳の為に必要なんですぅー!そんな事も悪魔は知らないんですかぁー?

胸は女性の性のシンボルとか、そういう貧弱で安易で幼稚な、発想ってどーかと思いまーす!』


天使は、いささかムキになって喋りだした。

…天使ってもっとおおらかな性格のイメージがあったんだけど…どうやら、違うようだ。


すると、悪魔が口を開いた。

〔フン…そうやって、アンタらは…〕

『はーい!まだ、私が喋ってまぁーす!意見のある人は、手を挙げて発言して下さぁーい!』


悪魔の反論を、天使は遮った。


そして、天使よ…その喋り方、まるで小学校の学級会でよく見る…

…『素行の悪い男子を、学級会で注意するマジメな学級委員、口調』みたいだぞ…。

・・・決まって最後、マジメ側が泣いて、学級会長引くんだよなぁ・・・。



そんな事を思っていた私の背後で、悪魔がスッと左手を挙げた。


〔・・・はい。〕

(あ・・・悪魔が・・・手、挙げた!?)


悪魔は、もっと暴虐無人で、容赦の欠片もない残酷なイメージがあったのだが・・・この悪魔、素直な性格らしい。


『・・・はい、どうぞ。』


〔さっきの”特別扱い”ってのは、アンタの自己判断でしょ?元々、神の名の元に人殺しただの、自然を破壊したとか

人間の精神を30年以上狂わせたとか、人種差別したとか、お年寄りに席譲らずに寝たフリしたとか

海でオ●ッコ・●ンコしたとか、ネットの世界で、50000人以上の心を傷つける書き込みしたとか、呪われただとか…

…そういう不浄の人間の魂は、あたし達、悪魔の管轄のハズでしょ?〕



・・・・・・・不浄の魂にされる”基準”が、あんまりハッキリわからんッ!微妙過ぎる…!

…ボーダーラインが見えそうで見えない…ッ!!







(・・・あれ?待てよ・・・。)





私は、ふとある事に気付く。


・・・今更だけど、私・・・

”ニワトリ臭の天使に喰われるか”と”ヤギ臭の悪魔に喰われるか”・・・の「二択」しかないの?って事に。



否。




いや、ほぼ・・・『人間じゃない女難に喰われる♪』の1択じゃないのさーッ!!!



ヤバイ…!!


今回ばっかりは、史上最高に、ヤバイっ!!!




ここは、人間の世界ではない…空と雲の上。

そして、私はバッチリ死んでいる。



・・・つまり・・・逃げ場が、無い。



万が一…奇跡的に、この2人の手から、逃がれられたとしても、どうなるというのか。


私は、バッチリ死んでいる訳だし…。


いわゆる、自縛霊とか、悪霊とか、成仏できずに、この世を彷徨う魂とやらになってしまうのか…。


それじゃあ、私……いわゆる…”貞子”化しちゃうの?(映画「リ●グ」より)

もしくは、呪●みたいな”真っ白肌のブリーフ一丁?少年”化しちゃうの?(映画「●怨」より)


もしくは、稲川●二の怪談話のネタ『女難で死んだ女の自縛霊』にされちゃったりして・・・!?


 ※注 いや、さすがに、それは無いだろ、水島。(作者のツッコミ)


い、嫌だ!…そんな、夏の名物になってたまるかッ!

小中学生・お笑い芸人とグラビアアイドルの度胸試しのイベントに活用されてたまるかァッ!!

結局、アイドル泣き出して霊能者が”除霊しま〜す”、とかいう展開なんざ、見飽きたんだよッ!

つーか、やるか!そんな事!誰が嫌いな人間なんかに、取り憑くかーッ!!!



 ※注 どうやら、水島さんは、夏の怪談特集をよく視聴しているらしい。



…いや、落ち着け。

これでやっと2択になった訳なんだし…うんうん。




・・・・・・・・・。





…って全然、希望的な未来が見えないだろーがッ!というか、もう死んでるんだし、私ッ!!




心の中で、考え込む私を置いて、更に天使と悪魔の睨み合いは続く。




『ゴホンッ!…良いですか?この水島さんは…善行を行っています。それは、呪われた事がキッカケです。

そして!…これは、私だけの判断ではありません。女性天使会、一致の判断です!』


〔・・・ほお・・・つまり、女性天使会の議題にまで、かけられる程の…上物の魂なのね?〕


天使の言葉に、悪魔は”ますます結構”と笑った。


「・・・・・・・・・・。」


・・・ヤバイ・・・私の魂が上物とかいう問題じゃない!

天国行ったら、この天使一人だけじゃない・・・!

よく解らないけど”女性天使会”という団体の、複数の天使の皆さんに”18禁的に、もみくちゃ”にされるッ!!

それって、もう”天使”の宴じゃねえじゃんッ!淫乱の宴じゃねえか!!天使なんて名ばかりかッ!!


…そして、現在の状況もちっとも良くは無い。

未だに私は山羊臭の悪魔の腕の中だから、だ。


このままでは、天使の女難は回避出来ても、悪魔と共に地獄行き決定だ…。

血の池地獄で、トロトロに煮込まれるんだろうか、それとも針の山の登山とかやらされるんだろうか…?



「……あ、あのぉ…」


〔…なあに…上物ちゃん?〕


「…私、仮に…悪魔さんの方へ連れて行かれるとどうなるんですか?」

〔・・・・・それは・・・・・お楽しみに♪〕


「・・・いや、教えて下さいってばッ!!」

それに、楽しみにもしてないから、聞いてるんだってのーッ!!(心の叫び)


私の焦りぶりに、悪魔はまだ余裕たっぷりの笑みでこう言った。


〔ウフフ・・・まあ・・・悪いようには、しないわ・・・永久の快楽と堕落の日々をあげるわ…

 …魂の転生も、己が望みも一切叶わない…深い深い”絶望”と”無”の闇に包まれて過ごすの。


 大丈夫…すぐ慣れるわ・・・何も考えられなくなる程・・・深い深い、それは深く暗い闇の中だから・・・〕




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「い・・・ぃいいぃいぃやあああぁああぁぁあぁッ!!リアルに嫌あああああああああああ!!!」


よく解らないけど、怖い単語ばっかりッ!!



〔フフフ・・・嫌と言われても、無理よ。だって、貴女・・・死んでるんだもの。アッハハハハハ!!〕


悪魔は笑いながら、残酷な事実を私に突きつけた。

私は、何も言えなくなった。



〔そうだわ・・・・・・見なさい、水島。・・・これはね、さっき死んだ子供の魂よ。〕


更に、悪魔は左手から玉をだした。鈍い灰色の玉だった。


「・・・子供の、魂・・・?」


〔…学校でイジメられてるのに、それを親にも言わずにニコニコ嘘の笑顔で、生きるのに疲れたんですって。

イジメっ子曰く…「オマエはキモいから死ね」「オマエが生きてるだけでクラスが腐敗する」「オマエの存在価値なんか無い」ですって。

最終的にイジメっ子に、身体を売って金を稼いで来いって言われて、もうダメだと思ったらしいわ。]


(ちょっと・・・オイオイ・・・言葉が、ガキにしちゃ、酷すぎるだろ・・・)


悲しきかな…よく聞く話になってしまった、子供の陰湿なイジメの後の悲劇。

生憎、OLになってしまった私には、上手く人間と距離をとり、ソレを避ける術を見つけたので、もう遠い世界の話になってしまったが。

だが、大人になってからも、同じような事はある。


・・・でも・・・大人も子供も関係なく、それは・・・悲しく、辛い事だ。


孤独なだけならまだしも、イジメというヤツは、常に嫌な言葉と行為で絡まれ、一方はそれを楽しむ…そんな人間関係だ。

『イジメ』という単語にすれば、たった3文字の言葉でしかない。だが、確実に『ソレ』は、人間の心を八つ裂きにする。

その苦しみの時間…イジメられている人間は生きている時間すら、計り知れないほど…長く、辛く感じる時間だろう。


誰かは、言う。イジメはダメだ、でも、それに負けちゃイケナイよ、そんなの甘えだよ、と。

また、誰かこう言う。イジメられて当然だよ、大体、イジメられたくなかったら、そうならないよう努力すればいいじゃないか、と。


それに耐える事、負けずに、逃げずに、歯向かう事が、大事だ、美学だなんだと、誰かは言うかもしれない。

イジメられて当然な人間はいるのか?人は人を傷つけるのも、当然?それに耐えられないのは、ダメ人間?


まさか・・・イジメよりも苦しい現実が待っているから、とでも?この程度で傷つくのは、心が弱いから、とでも?

まさか・・・心の弱い人間は、社会に出れば淘汰されるんだ、なんて、偉そうな事を言う気か?



そんなもの、本人以外のオマエが決めつけるな。と私は思う。


言うのは簡単。

行動に移すのは難しい・・・特に”人間関係”に抗い、それを覆そうなんてのは、更に難しい。





・・・現に・・・


[それでね、このコ・・・「もう、私には生きてる意味なんて無い」って、8階から飛び降りたってワケ…。〕



・・・子供が、心も身体も一人のまま、死んだ。それが”結果”だ。



「・・・それって・・・その子、じ、自殺したって事ですか!?」


私の驚く声に、悪魔は肯定の笑みを浮かべ、その後に天使は驚いた声を上げた。


『な、何故、そんな魂を貴女が…!?親より早く死んだ子供は…三途の川へ行き、試練を受ける決まりのハズ…!

その後は、天国で魂の転生を…』


天使の説明を遮って、悪魔はゆっくりと答えた。


〔その前に、あたしがその子と”契約”をしたのよ。〕

「・・・契、約・・・?」





〔彼女の望みを叶える代わりに、死んだ彼女の魂は、あたしがもらう。

 彼女の望みは・・・『イジメっ子がいなくなりますように』・・・子供らしくて、泣かせるでしょう?

 ・・・イジメっ子がいなくなったら、今度は他の子供がイジメっ子になるだけなのに。]


『・・・・・・。』

天使は黙り込み、言葉を探していたようだった。


[・・・まあ、悪魔としては、回収する魂が増えるから、願ったり叶ったりだわ。

 …戦争・イジメ…大いに結構。

 哀れな人間共に魂の救済を、ってね…フフフ…アッハッハッ!!〕


『…悪魔め…ッ!!』


吐き捨てるような天使の言葉に、悪魔は笑っていた。


その笑みは…魂が手に入れば、自分はそれでいい…己の望みさえ叶えばそれで良い・・・そういう意味だろう。




[アーッハッハッハッハハハハハハッ!!]




・・・その笑いは、私が生きていた頃、出会った大嫌いなあの女に似ていた。




 ” アタシも、アンタみたいな偽善者女、大嫌いよ。 ”




(・・・・・・・・・。)


私は、再び悪魔に聞いた。


「・・・あの・・・その契約、果たす気、なんですか・・・?」

〔…この子供をイジメた子供には…まあ”いなくなって”もらうわ。そういう”契約”だから。〕


「・・・・・・ッ!?」

一体”いなくなる”とは、どういう”意味”なのだろう。私は、思わず唾を飲み込んだ。

・・・考えれば考える程、”恐怖”が背筋を凍らせる。



…間違いなく、私の背中にいるのは、山羊の臭いを発していても”悪魔”なのだ。


『・・・そ、そんな事、許されませんわよ・・・子供に何をする気なの・・・?』


しかし、天使の言葉には、先程までの威圧が無い。

…もしくは、契約してしまった”後”だからだろうか…少し諦めの表情すら、感じ取れる。



〔契約は契約。悪魔の仕事に口を出さないで頂戴な。

 ・・それより、ミズシマ・・・よーく見てあげて・・・この子の魂を・・・。〕


そう言うと、悪魔は私の目の前に、子供の魂の玉を見せた。

私は、その奥を覗き込むように見つめた。


「・・・・・・・・。」


うっすらと体育すわりをしている少女が、見えた。

表情は虚ろ・・・かと思えば、突然、髪をかきむしり、歯軋りをし、泣き、呼吸を乱した。


「ちょ…!?」


私が、思わず少女の方へ手を伸ばしかけた時・・・

少女は、むくりと起き上がり、まるで何事も無かったかのように、また虚ろな表情で、体育すわりをし、指をしゃぶっていた。


〔・・・この子はね・・・生きている間、周囲の人間共のせいで、ずっと嘘の笑顔を浮かべていたの。でも、もう…その必要は無い。

 本来、彼女の表情は・・・こんな風に、ずっと悪意と失意と悲しみでグチャグチャだったのよ・・・。

 こうして、本当の自分のまま、何も考えられなくなる程の深い闇の中で、過ごすの。永久にね…。


 ・・・それも一種の幸せ、だと思わない?〕


「…幸せ…?」


・・・これの・・・どこが・・・?



『ばっ馬鹿な事を吹き込まないでッ!!この邪悪な悪魔めッ!!』


天使の怒号に、耳も貸さずに悪魔は私に甘い声で囁き続ける。



〔ミズシマ・・・疲れているんでしょう?人が嫌いなんでしょう?

 あたしと一緒に来なさい・・・人のいない、貴女に相応しい静かな場所を用意するわ。

 悩みも、偽りも無い…本当の自分のまま、何も考えずに、過ごせる世界へ、逝きましょう。〕



「・・・・・・・。」



私は、ふと自分の右手を見た。

自分の望む世界へではなく・・・先程、少女の魂に思わず伸ばしかけた、この手。



・・・さっき、私は、一体・・・何を、しようとした・・・?



女難の呪いで死んで、天使と悪魔の女難に遭っている真っ最中に…


一体、何を・・・しようとした?


少女に話しかけようとでも?

少女を助けよう、とでも?


少女の何も知らないクセに。

助けられる方法も、力も無いクセに。

万が一、助けられたとしても、その後の事なんか、考えて無いクセに。




それに・・・私は、人間は嫌いなんだ。



そうだよ。私は…人間が嫌いなんだ・・・



・・・じゃあ…どうして…?


…どうして、この少女に、手を伸ばした…?










・・・だって、どう見たって・・・彼女の本当の幸せって、これじゃないだろ・・・。





私の幸せだって・・・悪魔や天使に言っていたモノと符合しないじゃないか。






・・・自問自答には、慣れていた。


答えや結論は、いつだって私の中にあるのだ。

少しだけ、視点を変えるだけで、私は、私の中の答えを見つけられる。


今までも。


これからも…!




〔さあ、契約の時間よ。ミズシマ。頷くだけでも良いわ。〕




(…嫌だ…。)





『待ちなさい!悪魔!その魂は…!』





(…嫌だ…。)






〔…あたしの手の中にある限り、この魂はあたしの物よ。天使。〕




(…嫌だ…。)





『魂をモノ扱いとは…薄汚い悪魔らしい発言、ですわね…!』




(…嫌だ…。)





〔ウフフ…それより、ちゃあんと、コレを捕まえておけなかった自分の愚かさを呪うのねェ…お利口天使ちゃん?〕




(…嫌だ…。)





『・・・仕方ありませんわ・・・その魂の為、戦いましょう・・・。』

〔・・・あぁら・・・天使ちゃんが暴力行為?怖ぁ〜い★〕



『黙りなさい!その魂は、私が導くのですッ!!』

そう言うと、天使は羽を広げ、白い弓を構え、3本の矢をこちらに向けた。


〔容赦、しないわよ…天使ちゃん…。〕

悪魔は、私を右手で捕まえたまま、左手の長い爪を更に長く、角もググッと鋭く、太くさせ、体を前のめりにした。



天使と悪魔の臨戦態勢の狭間に私の魂はあった。

しかし、私の心は、そこにはなかった。





「・・・だ・・・。」




小声で、私はその単語を口にした。




『・・・え?』

〔・・・ん?〕




臨戦態勢だった天使と悪魔は、私を見た。




「嫌だって、言ってるんです。」




〔・・・は?〕




「・・・さっきから、私のモノだ、導くだ、勝手な事ばかり、ぬかしやがって・・・」



『いや、だって、貴女死んで…』





「…天使も悪魔も、私の死も関係あるもんか…」






〔・・・なんですって・・・!?〕

『・・・関係ない、ですって…!?』












「嫌だ!!私の、魂も!体も!心も!全ッ部!私のモノは、私のモノだああぁッ!!

 ひとっ欠片だって、お前らになんか渡すかああぁーッ!!」







私は、頭を下げると、右手で自分の”天使の輪”を掴むと…



「”ジュワッチ”!!」



思い切り天使の方向へとブン投げた。



『きゃあああああああああ!?』


それに驚いた天使は、思わず矢を発射し、その内の1本が悪魔の左肩を掠めた。

〔うっ!?〕


私は、咄嗟に、悪魔の持っていた少女の魂の玉を奪うと、戻ってきた天使の輪を再び、悪魔へと投げた。


〔あ、アンタ…どういうつもり!?悪魔に喧嘩売る気なの!?それから、投げる時の声何なの!?〕


戻ってくる天使の輪を、私は投げ続けた。


「知るかッ!!…私は、ただの人間、水島だあァッ! ”デアッ”!!!」



大体、2,3回投げた所で、感覚もつかめてきた。

(なかなか、この武器、使えるわ…!昔、父の作ってくれたブーメランに似てるせいかしら…)



※注 忘れないで下さい。水島さんは、特別な訓練を受けていない事務課のOLです。



私は、少しずつ天使と悪魔との距離を離していった。

移動方法は、走るしかない。本当は、●ラゴンボールみたいに飛べたら良いんだが…この際、人間らしく逃げてやろうじゃないか。


『貴女は…天使にも宣戦布告したのですよ!?わかってるのですか!?それから、投げる時の声何なの!?』


後ろから、天使の声と矢が飛んでくる。

私はそれをギリギリの所で避けながら、雲の間を駆けて来る悪魔に向かって、天使の輪を投げる。




「だから、そんなもん知るかッての!…私はただの人間だって言ってるでしょッ!”シュワッチッ”!!!」





『〔だから、投げる時のその声、何なのッ!?〕』


※注 解る人だけ、解ればいいと思います。





「・・・”シュワーッチッ”!!!」




私は、投げては走った。死んでるせいか、まったく疲れが感じられない。

いや、ランナーズハイかもしれない。とにかく、走った。




『…な、なんという脚力なの…!?…彼女、本当に死人か!?』

[…悪魔をコケにしやがって…絶対、喰ってやるわよーッ!!(性的な意味で)]






「”デアァッ”!!(投。)」

『〔だから、投げる時のその声、何なのッ!?〕』





方向の感覚はわからない。

一面の空と雲の上を私は、真っ直ぐに走った。




そして、少女の魂に向かって叫んだ。




「あのね!私はね、人間が嫌いなのッ!だから、人間が死ぬ理由も生きる理由もどうだって良いのッ!

私は貴女の事を知らないし、貴女が苦しいだのなんだの、自分の耳で聞いてもいない事を、理解出来ないのッ!


・・・”ジュワーッチ”!(投。)


大体、話聞いたとしても理解できるかも、正直、微妙よ!!私、人嫌いだからねッ!!




 
…ただね!よく聞きなさいッ!!”デアァッ!”(投。)



”キモイ”だの”臭い”だの”自分なんか必要ない”だの、簡単な言葉に踊らされるな!

アンタを傷つけて笑うだけが目的の!自分以外の人間が発した単なる”バカ言葉”でしか、無いでしょーがッ!!」



『待ちなさいっ!水島さん!貴女は死人なんですよッ!』

[・・・くっそ・・・あの奥まで行かれたら・・・マズイ!]



「はーいはいっ!私は、バッチリ死んでまーすよーだ!!”シュワッ”!(投。)


『〔だから、投げる時のその声、何なのッ!?教えて!?〕』




「いいっ!?大体、アンタが、我慢して笑ってたのは、誰の為なのよッ!?家族に心配かけたくないとか、そんな感じ!?

アンタの家族とか、なんか知らないけどね!心配かけたくないなら、何で死んだッ!?

死んだら、心配以上の感情を、家族に背負わせる事になるのよ!?一度でもそっち方面の事も考えた!?

それとも、死んでから周囲にカワイソウって泣いてもらったり、死ぬ事でイジメた奴らに後悔のひとつでも、とか考えたの!?

そんな風にしか、自分を見てもらいたくない訳ッ!?死んで楽になって・・・それが、貴女の”幸せ”なのッ!?」




少女の魂からは、何の反応もない。いや、あったとしても私には、感じる余裕も・・・正直、無い。

それでも、私は天使の矢を避け、悪魔の爪を避け、走りながら、時折アレを投げながら、言葉を投げ続けた。


 ※注 悲しき事に、水島さんは、女難に遭い続けていた為、無駄な体力・瞬発力がついてしまったらしい。



目指す場所なんか、わからない。今までだって、どうなるかわからない修羅場をこうやって逃げてきたんだ。

そうだよ、大体…私だって、嫌いな人間に囲まれて女難まみれのロクでもない人生を走ってきたんだッ!!

そんなの大した事ないだなんて、他人は言うだろうが、誰にもわかるもんか!解ってたまるか!この辛さがッ!!

私は、自分の人生と、他人の人生と比べない。死ぬ気で婚活するなり、仕事で体を壊してでも達成感を手に入れるなり、好きにすればいい!



・・・ただ!私の人生は、私だけの人生、私のモノで、私が決める!



・・・とにかく、私は走った。


何故、見ず知らずの少女の魂へ、こんなに暑苦しく語りかけているのは、自分でも解らない。


でも、このままじゃいけない。このままじゃ嫌だと私の中に”答え”が見つかってしまった以上・・・

・・・それしか・・・私のする事は・・・いや、出来る事が無い。


そして、今も昔も…生きていても、死んでいても、変わる事なく・・・私には自分の中には”譲れないモノ”がある。


私は、再び彼女の魂に叫んだ。




「・・・それからねっ!!”シュワーッチッ”!(投。)



生きてる意味なんか、あっても無くてもいいの!意味や価値無かったら、まるで死んで当然みたいじゃないのよ!


”デアァッ!”(投。)・・・そんな訳あってたまるかッ!!



・・・例え、生きてる意味も価値も無くたって、貴女は生きてて良いのッ!!幸せになっていいの!!


生きてる意味が無い事を、勝手に死ぬ理由に・・・自分を殺す理由にするんじゃないッ!!」






誰かが言った言葉に共感するのは、個人の勝手だ。

・・・だが、それを”当たり前だ”・”常識だ”なんて思うのは、全く大間違いだ。

当たり前や常識なんかに、個人が”疑問”を持って構わないのだ。

型破りな行動をしろとは言わない。ただ、受け入れていくだけでは、彼女のように自分の感覚や感情までも他人に染められてしまう。

疑問さえ浮かべば、自然と考えるようになるのだ。そして、自分なりの結論が・・・いつかは知らないが、出るものだと、私は思っている。


だから、生きる価値も意味なんかも無いまま、今は生きていて良いんだ。私はそう思う。

それは、誰しも生まれながらの勇者でもなんでもない、ただの人間だから。

生きてる意味やら、ナントカ・・・そんな曖昧なモノは、自分で、考えて手に入れるモノだから。


そして・・・それが、いつか、どこで、何がキッカケで手に入るか、手に入らないかだって、私の知った事じゃない。

私なんて、そんなモノを欲しいと思った事が、ない。


仮に。

生きている価値や意味を知っている人がいたとして…『お前には、その価値なし』と言われたら、死ぬしかないのか?

そして・・・目に見えない、曖昧な”生きる意味”だの”価値”だのが無いという事は・・・誰かの”死んで当然の理由”になるのか?


ならば・・・生きる価値も意味も、私は要らない。

何度も言うが、私はそんなモノ欲しいと思った事は無い。



・・・誰が、生きてても良いじゃないか!



例え、いつかは、死ぬにしても…!




(・・・せめて・・・彼女は、まだ…まだ…生きていて良いハズだ・・・!・・・私だって・・・まだ・・・!)





「・・・あやふやなモノや言葉に騙されるなっ!信じられるのは、自分なのよッ!

自分の幸せを感じられるのも、掴めるのも自分の心だけでしょうがッ!!

それを捨てるな!自分の心だけは、捨てちゃダメッ!!もったいないっ!


弱くても汚くても良いんだッ!嫌なら、逃げて逃げて逃げまくれ!女にヤラれる前に逃げろッ!


とにかく、諦めずに最後まで走れーッ!!」


 ※注 女難OL水島さん、ここまできて少女に対して、痛恨の『女に”ヤラれる”前に逃げろ』残念な発言を残す・・・。



・・・私は、訳のわからない事を叫び続けた。 ※注 確かに。


それは、彼女に対してか、私に対してか…それすらも忘れて。だが、そのまま叫びながら、私は走り続けた。

 ※注 そして、普段から、あやふやな言葉や現象に十分振り回されているのは、貴女ですよ・・・水島さん。




やがて、太陽に似た光が、強く強く私を包んだ。


・・・溶けていくのかもしれない。そう感じた。


それでも、諦めない。ここで走るのを止めたら、自分の望む幸せに出会えない。


・・・出来れば、私の部屋に帰りたい。(録画しておいた”徹子の部屋”観たいし…)



それが・・・例え、無理だとしても・・・死んでいたとしても、諦めるものかっ!抗うしかないんだッ!

このまま諦めたら、女難しか残らない!!


・・・そんなの嫌だ!!






太陽に似た光が近くなっていく。視界が、真っ白になる。

それでも、私はその方向へ走った。


例え、ここで溶けようが、何だろうが・・・私は私だ・・・ッ!!…屈するものか…!!


あ・・・・でも・・・出来れば溶けたくないかも・・・私、チーズじゃないし・・・(本音)






















   ”・・・まさか、これほどとは・・・”





















「・・・・ん・・・あ?」


私の瞼が開き、まず目に飛び込んで来たのは白い天井。

鼻につくのは、消毒薬の臭いだ。盲腸の時、入院した時、散々嗅いだあの臭い。


(・・・まさか・・・ここ、病、院・・・?)


カーテンに囲まれた、白いベッドの上に私は寝そべっていた。

頭には真っ白い包帯が、巻かれていた。



(・・・あれ?・・・私・・・どうして・・・)



…ぼうっとする視点を横にずらす。


すると、赤いリンゴを剥く、占い師のオバサンがいた。

相変わらず、紫の着物に、いるんだかいないんだかわからない存在感の彼女が。


「ッ!?」

「…おや、気付いたかい。」


驚く私の目を見て、オバサンは動じる事無く、一言そう言って、リンゴを剥いていた。


「あ…あの、私…」

「危ない所だったねぇ…。」


私の方を見ながら、占い師のオバサンはリンゴを剥きながら、うっすら笑いながらそう言った。

何を聞こうかと考えるが、ぼうっとしていて上手くまとまらず、言葉にもならない。


「わ、私、死んだ…気が、したんです…」


やっと、そう言った。

オバサンは、リンゴを二つに割りながら言った。


「…でも、生きてるよ。立派にね。何しろ、打ったのが、頭だからねぇ。…今日は、入院だとさ。」

「・・・そう、ですか・・・。」

生きている、とオバサンに言われ、やっとほっとしたような気がする。


「水島…あたしが、前に初めてアンタに会った時、言った事を覚えているかい?」


オバサンは器用にリンゴを剥いていく。ウサギの形に。それは、綺麗だった。


「・・・どの、事・・・でしょうか・・・?」

ぼうっとする私の耳に、オバサンの声は小さいのに一言も漏れる事無く、ハッキリと聞こえてくる。


「・・・”特にアンタは、人の運命を変える強い縁の力を持っている。”ってね・・・。」


「あぁ・・・そうでしたね・・・。」


私の枕の隣にある小さなテーブルには、綺麗なウサギ型のリンゴが並んだ。



「・・・だから、アンタが誰かの縁に関わるって事は、誰かの運命を変える可能性もあるって事なんだよ・・・。」


「・・・・私、が・・・誰かの運命を変える…?」


「…そして、それはアンタ自身の運命も変える事にもなる。…まァ…じきに、わかるよ。

 …それまで……大切に、ね…。」


オバサンは、そう言うと”会いたくなったらまた、あの場所で”と言い残し、カーテンを開けて出て行った。


(・・・そういえば、どうして、私・・・ここに・・・?)


多分、というか・・・占い師のオバサン…しか、いないだろう。

私は、自分を病院に運んでくれたお礼を言おうと、リンゴを一つ咥えつつ、立ち上がり、カーテンを開けて、オバサンを追った。

 ※注  水島さん・・・一応、食欲はあるようです。



・・・しかし、オバサンはいなかった。

フロア全体を探してみたが、まるでスッと消えてしまったかのように、姿形、気配すら、やはり無かった。


(・・・・・・・あの人・・・ホント、何者なんだ・・・)


オバサンの正体はともかく。

ズキズキしてきた頭を抱えて、私は病室へ戻る事にした。



[…日の9時頃、8階から転落、意識不明の重態だった菊池 哉子(きくち かなこ)ちゃん13歳ですが・・・]


私が、口の中のリンゴを飲み込み、のそのそ歩いていると、病院の休憩室にあるTVの声が聞こえてきた。

何気なく私が視線を向けると・・・。



「・・・・・・・・!!」

(あの子…!)


私は、喉に、咀嚼したリンゴが詰まるくらい、驚いた。


[ ・・・昨夜、奇跡的に意識を取り戻しました。]



病院の休憩室にあるTVに映し出されていた少女は…

紛れもなく私が、あの山羊臭の悪魔から奪った…あの魂の女の子だったからだ。



[…哉子ちゃんは事故当時、遺書のようなモノを残しており、その遺書の内容からは、イジメを苦にしての自殺を図ったのではないか

と思われており…また、イジメに参加していたと思われる児童の名前、写真等が、ネット、週刊誌に漏れる等…

△×区は前代未聞の大騒動になっており、学校側は、異例の休校措置をとりました。

また、学校側は、今回の騒動に対し、未だ何の説明、会見も出来ていない状態で・・・]



私は、リンゴをゴクリと飲み込むと、口をぽかんと開けたまま、そこに立ち尽くした。



私が意識を失っている間に体験したあの出来事は、なんだったのだろうか、と改めて考える。

意識を失っている間の・・・夢じゃなかった、のか。・・・その証拠に、私は菊池哉子という少女の魂を夢の中で見ている。


あの少女が生きてるという事は・・・悪魔の契約とやらは、どうなったのだろうか・・・。


・・・自分の魂と引きかえに、イジメっ子がいなくなりますように・・・という、あの契約。

TVの情報から、イジメっ子の住所や写真が世間の一部にバレているんじゃあ、イジメっ子は相当な社会的制裁を受けているんじゃあ・・・、と私は思った。

・・・ある意味・・・それも”いなくなる”・・・に含まれるんだろうか。・・・いや、所詮はTVから情報だ。詳細は、わからない。



まあ、肝心のあの子は生きてるのだから、契約の魂は無いんだし…あの悪魔の契約はクーリングオフかなんかで、どうにかなったのかな…。


 ※注 水島さんは頭を負傷している為、思考ナレーションが適当になっています。ご了承下さい。



私は、再び歩き出した。


「・・・あの子も・・・生きて、るんだ・・・。」


何故か、安心感で一杯になり、思わずそう呟いた。

私の後ろからは、部外者100%のTVのコメンテーターの声が聞こえる。


[でも助かって良かったですよねぇ…本当、奇跡としか言いようが無いですよね。哉子ちゃんのご両親はさぞ、ご安心されたと思います。]


[でもね!問題は学校側の対応ですよ!事実の認識はおろか、何もしてない!こういう時に動くのが、教育者でしょう!

…いや、一番悪いのはイジメやってるガキだね!本当に、自分がされたらって事を考えない…人の痛みが、解らないんだろうかね!?]


(・・・何も解ってないのは、お前ら全員だろ・・・。)


正論なんかで、彼女は救われるものか。

何が良くて、誰が悪いかが解っただけで、片付く問題じゃないんだ。

皮肉な事に、彼女が8階から飛び降りなかったら、誰も彼女を知らなかっただろう。


私は、イジメや自殺を肯定している訳じゃない。

大体、人嫌いの私は、誰かに関わる事自体嫌いなのだから、肯定も否定も何も無い。

単に、父の教え『自分がされて嫌な事は人にするな』を子供の頃から私は守ってきただけで。

そして、今の所・・・自分が死ぬのも、誰かが目の前で死ぬのを見るのも、嫌なだけ。



・・・それだけだ。

誰かに偉そうに説教出来る事なんか、いい歳ぶっこいた大人になった今でも・・・何一つない。


ただ・・・あの時、彼女の魂の玉を見つめて思った事。


確かに、彼女一人くらいが死んでも、普通の日常は、何事もなかったように流れるだろう。

だが、彼女の両親の日常は、彼女の笑顔や、幸せを願っていた人々の日常は…変わるだろう。


それは・・・何をどう考えても、彼女の苦痛の解放だけで、終わるしかない。

そんな結末は・・・親に心配かけまいと、偽の笑顔を浮かべ続けていた彼女が、本来望んでいた”幸せ”には繋がらないだろう。

出来る事なら、親の隣で腹の底から笑っていたかったんだろう、と・・・


…と、あの時の私は、勝手に、そう思ったのだ…。


まあ、偽善だか、詭弁だか…そういう綺麗事を、あの時の私は、柄にもなく考え、気付いたら、彼女の魂を悪魔から奪っていた…。




・・・・・・ような気がする・・・。



・・・というのも・・・死んでた時の記憶が、イマイチ曖昧なのだ。

・・・なんか、走りながら、アイス●ッガー(正式名称:天使の輪)投げながら、シュワッチ連呼した事しか思い出せない・・・。


・・・・・・まあ・・・思い出したとしても、どうという事は無い。少女に恩をきせる気もない。



(・・・ま、いいか・・・。)


・・・その一言に尽きる。



・・・私は、一度死んだようだが、こうして生きているし。 

何故かは、わからないけど。


そして、私のせいなのか、悪魔の手にあった少女の魂は、この世界にいるみたいだし。

何故かは、わからないけど。


・・・ただ・・・再び彼女が、この世界で、これからどうするかは・・・もっとわからないのだけれど…。

もしも、私のした事が、彼女の幸せを邪魔する余計な行為だったとしたら、”いや…マジ、ゴメン!(汗)”としか言えないんだが…。



それも・・・・・・・・・まぁ、別にいいか…。


・・・夢か現実かもわからない世界での出来事なのだし…。







(・・・それにしても…あの占い師のオバサンの言ってた事・・・気になるな…。)



『”特にアンタは、人の運命を変える強い縁の力を持っている。”ってね・・・。

 ・・・だから、アンタが誰かの縁に関わるって事は、誰かの運命を変える可能性もあるって事なんだよ・・・。』


(……縁の力、か…。)

…私のせいでもなんでもなく・・・ア●スラッガー(正式名称:天使の輪)の御蔭のような気がするけどね。



ていうか、今回の事・・・どこまであのオバサンは、知ってるんだ?もう、占い師の第6感じゃ片付けられないぞ…。

しかも、あのオバサンの言葉は、まるで私が、あの少女の運命を変えた、とでも言いたげな…。


・・・いや、まさか・・・そんなバカな。



私は、人嫌いで、呪われて、死にかけて生還したばかりのただのOLだ。



 ・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・いや、文字にすると、なんかすごいOLだな・・・嫌な意味で・・・。


(あー・・・もう、考えるのやめよう。あーダルい…頭痛くなってきたし…。)


私は、口をだらしなくポケ〜と開けたまま、ベッドに戻ろうと、カーテンを開けると・・・

私のベッドに顔を突っ伏して、肩を震わせている人がいた。


「・・・うっ・・・うっ・・・!」


「・・・・・・。」
(・・・ベッド、間違えたかも・・・何で泣いてるの?そして、この人誰?もしくは、変な人だ・・・)


と私が静かにカーテンを閉めようとした時、その変な人物は振り向いた。



「・・・あッ!!水島さんッ!どこに行ってたの!?心配したのよ!?」



「・・・え!?か、花崎課長!?」



私が驚くと同時に、涙でメイクもスーツもボロボロになった花崎課長が私に飛びついてきた。

「ーッ!?」


「あ…頭から、あんなに、あんなに血が出て…痙攣して…意識不明の重体で…心臓止まったって聞いて…私…私…ッ!!」


「花崎課長…あの、すいません…あの…(苦しいし…女難解放直後に、女性からの抱擁は正直キツイです…)」

※注 ()は水島さんが飲み込んだ心の声。


花崎課長はそのまま20分程、同じ話を繰り返しながら泣きまくった。


・・・えー・・・話を要約すると。


階段から落ちた私を発見し、通報してくれたのは、花崎課長だった。

彼女は、血とか苦手なタイプらしく、発見した時から、今の今まで、かなり混乱していたようだった。

・・・で、頭を打った私は、一時心臓停止しつつも、奇跡的に後遺症も何もなく。

医師たちは”まったくもって素晴らしい!ゴキブリ並に生命力の強い女性だ!”と賞賛したそうだ。


・・・・ゴキブリって、褒めてないよね?ね?この医師共がッ!!

 ※注 只今、主人公が、命の恩人に対し、暴言を吐きました事をお詫びいたします。



「でも…本当に良かった…本当に…貴女が生きてくれていて…!」

抱き締められ、そういう台詞言われると、むず痒い。そして、折角の女難解放直後に抱擁はやっぱりキツイ。

・・・まあ、ニワトリや山羊の臭いがしないだけ、マシだと考える事にしよう。



と、私が花崎課長にお礼を言おうとすると…



「・・・涙の再会は済んだ?翔子」



後方から、新たな女性の声が聞こえた。



(・・・・その声は・・・!)


その声には、聞き覚えがあった。

舞台は、病院。


「ありがとう…貴女、本当に立派な医者になったのね…本当にありがとう…。」

「いいのよ、仕事しただけだし。それにしても…とんだ同窓会ランチになっちゃったわね?翔子。」


花崎課長と同じ29歳の女医。


「そうね…でも、本当に良かったわ…。ねえ?・・・・・水島、さん?」



花崎課長は私の顔をみて、不思議そうな顔をした。

後方から、その声が私に向けて飛んできた。



「…運が良いんだか、悪いんだか…”また”水島さんの担当になりました。良かったわ・・・また会えて。」



振り返るまでも無い。


その人は、来週あたりにでも、会いに行こうと思っていた”女性”だから。




「・・・・・・どうも・・・烏丸先生・・・」



私は、真顔で、烏丸 忍の方へ振り返った。


あちらは、あちらで相変わらずの微笑をたたえていらっしゃるし…。

花崎課長は、私と烏丸先生の顔を不思議そうに、交互に見ながら、鼻水かんでるし。




(・・・・・・とりあえず・・・どうしましょうね・・・コレ。)




・・・・まったく・・・生き返ったと思ったら、またややこしい事になってるし・・・。


笑えなくなっている私の人生は、おかげさまで、とりあえずまだ・・・続いているらしい。



『 病室と (とびきりややこしそうな)女難と 私。 』



・・・何?この状況・・・正直笑えない微妙オチだよ・・・?大体、コレでオチてるの?ねえ?

 ※注  そんなモン、作者が知りたいです。



・・・ちくしょーって、大声も出ねえよ・・・”しゅわっち”すら出ねえよ。


とりあえず、自分の部屋に帰してくれよー・・・”しゅわっち”ってさー。


・・・それが、私の幸せだからさー・・・だから、お家帰してー・・・”しゅわっち”ってさー!




・・・・・・・・・あーあ。面倒臭せぇ・・・。



 ※注 只今、水島さんの心が折れました。ご了承下さい。









 ― 水島さんは、ご臨終から生還。 END ―





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ー本当のあとがきー


前々から「呪いのせいで死ぬ」と言われていた水島さんですが、近いうちに死ぬよ、というあやふやな脅しと

女難の日々だけで、本当に彼女は人と向き合えるのだろうか…と。

きっと無理だよなぁ〜。と私は思いました。


というか。


更新の度にいちいち展開がややこしくなるんで、面倒臭くなった私は、今回水島さんをあの世へ送り…

いっそ主人公交代して、今度は性格のいい明るい性格の『永嶋さん』にでもしようかと思…


いや、冗談です(笑)

いやぁ、正直な話…。


皆さん、心の隅で少しは考えたんじゃないでしょうか?どうせ、死ぬなんて盛り上げる為に言ってるだけだろ?とか

死んだとか言っても本当は死んでないんだろ?とか。どうせ、生き返るんだろ?カウンター稼ぎだろ?とか。

色々と。エロエロと。ほーら、そうでしょう?ね?


・・・えーと、これも冗談です。ゴホン、誠に失礼致しました…。最近、心がくすんでる気がするわ、私…。(笑)


今回の女難は、毎度人間さんばかりなので、たまには人間以外(ちなみに私はスト子を人間に換算してません。)の女難でも、と思いました。

かなり前に、『人間以外の女難もみたい』というご意見もありましたので。

だから、彼女には、一度ご臨終していただく必要があったんです。はい、本当にそれだけの理由です。

・・・あと、途中からイイ話っぽくなってるのは、気のせいです。

もう途中から…このSSシリーズに出していいのかイジメ描写、とか…出していいのか光の巨人版権ネタとか色々出しすぎて…反省ばかりです。


あ…そうそう、イジメに関しての描写ですが、人それぞれ思う事はたくさんあると思います。

そして、少女に対して言い放った水島の理論が正しいのかどうかは、作者の私にはどうにも言えません。

ただ・・・答えは、一つではない。その答えが正しいか間違っているかを判断するのは、本人…そして、これを見ているアナタでもある。

…神楽は、そう思います。……なんてね!(語り台無し。)

彼女がやっとこさ、人間的成長してくれるといいな、とか思ってるんですけど、書いてる私も人間的に超未熟なんで、わかりません。(笑)


ちなみに。

BLOGで水島さんの死を予告してから『天使をたぶらかしてでも…』というメッセージを頂いた時には正直ゾクリとしました…。

「・・・ヤベェ!展開とオチ、読まれとる!?」…と焦りました。(苦笑)しかし、そこはなんとか…なんとかやりきりました!!


まあ、そんなこんなで生き返った水島さんですが、早速ややこしい事態になってます。

次回も面倒な事になりそうですね。火鳥編追いつかないってのにさッ。(笑)


いやぁ…そういう事ばっかり言ってるから、体調崩したりなんだりと罰が当たったんですかねェ…(笑)

・・・それから、SS出来てない内に、TEXTページに、タイトルで予告は二度と出さないゾ★っと。(笑)

追記:2009.11.29・・・4度目の加筆修正しました…。