その日、午後から巴里華撃団 花組は緊急出動した。

巴里の平和を脅かす敵が、出現したからだ。


「もーみゅもみゅもみゅ・・・」

怪人パイロンは、不思議で、腹立たしい笑い声が特徴の怪人だった。


見るからに、イヤらしそうな目つき。

黄色い皮膚に、肥え太りきった身体を揺らし、笑うのが、凄く腹立たしい怪人パイロン。

頭の触覚8本が巴里の空に、これまた腹立たしくなびく。


彼の目的は、巴里の女性達を洗脳し、自分のハーレムを作る事。・・・だそうで。

ここ数日、巴里を賑わせている”変態という別名を持つ”怪人だった。


神出鬼没な怪人パイロンに、多々振り回されていた巴里華撃団であったが、今回は2人1組になり、分散、追う、という方法をとった。



そして。

コクリコ・ロベリア組が、パイロンをついに追い詰めた。


「よくぞ、俺の変装を見破ったな!もーみゅもみゅもみゅ・・・」


変装と言っても、怪人パイロンの変装は、大体…8本の触覚が常に露出している状態だったので、華撃団にとっては、とても良い目印だった。

問題は、怪人の脚力。

あの身体に、どこにそんな素早さがあるというのか…

彼女達は、何度も何度も、取り逃がし煮え湯を呑まされ続けた。


その度に、エリカはすっ転び、グリシーヌが怒り狂い、葵はグラン・マに怒られた。


しかし、コクリコ達は、今回…見事、変態…いや、怪人を壁際に追い詰めた!


「フン…その程度の変装で、このアタシの目を欺こうだなんて、馬鹿だな。」

「触覚出てたもんね。ばーか。」


「お、おにょれぇ・・・よくも、俺様を馬鹿にしたな・・・!!」


パイロンは、コクリコとロベリアの挑発に、顔を真っ赤にして、襲い掛かった。


「ーッ!!」



”ビーッ…”


怪人の掌からピンク色のレーザー光線が放たれ、ロベリアとコクリコに降り注ぐ。


「・・・・どきな!」

「ぅわっ!?」


レーザーは、ロベリアのみに直撃。

コクリコはロベリアに突き飛ばされて、尻餅をついた。


「ろ、ロベリア!大丈夫!?」

「フン・・・騒ぐんじゃないよ、この程度で。なんとも無い。」


ロベリアの言うとおり、ダメージらしいダメージは見受けられなかった。


(…なんとも無いが……なんだったんだ?あれは…)


ロベリア自身も不思議に思って、チラリと自分の身体をみる。しかし、どこにも変化はなかった。


「ねえ!ロベリアッ本当に大丈夫なのッ!?」


コクリコはロベリアの傍に駆け寄った。その声に、すぐにロベリアはフンと、いつもの笑みを浮かべてみせた。


「オイ、そこの馬鹿…このアタシに何をしたかは知らないが…覚悟は出来てるんだろうね?」


形勢は、完全にこちらに傾いている。

なのに、パイロンはロベリアにも勝る、不敵で、邪悪な笑みを浮かべていた。


「もーみゅもみゅもみゅ・・・…」


「・・・何が可笑しい!というか、さっきから笑ってんのか!?」




「もーみゅもみゅもみゅ・・・…お前は、おっぱいが好きか?俺は大好きだ!」




「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」


敵の突然の『おっぱい大好き宣言』に2人は、固まった。


「おい、聞いているのか?巴里華撃団!!」


「・・・ロベリア、ボク知ってるよ。ああいうの、変態って言うんでしょ?」


コクリコは、ロベリアにそう確認すると、ロベリアは表情も変えずにアドバイスした。


「コクリコ、直視するんじゃないよ。ああいうカワイソウな変態を直視すると、目が腐るからな。」


「うん、ボク…あんなの、見なかった事にするよ。」



「……き…傷つくなぁ……いや!良いのかなぁ!?そんな減らず口を言って…銀髪女…

 お前、今…俺のビームを浴びたんだぞぉ?知らないぞぉ?」


…変態という生き物は、無視される事で傷つく生き物である。

構って欲しいのか、パイロンはしきりにビームの話をチラチラさせるが…



「・・・よし、トドメをさすぞ。コクリコ」

「うん。ボク、触りたくないけど、勇気を出して、後頭部を殴るよ。」



「いやいやいや!聞け!聞いとけ!…お前に、恐ろしくも素敵な”呪い”をプレゼントした!

 題して…”ふくらみの呪い”だ!」




「…あー、怖い怖い。トドメ刺すぞ、コクリコ。」

「うん。ボク、見たくもないけど、勇気を出して、側頭部を殴るよ。」



「いや!だから!聞いとけって!幼女と銀髪女!!

 お前は、おっぱい無しでは生きていけない体になっ…熱ッ!?熱い!?

 ちょ、コラッ!人が説明してやってんのに、炙るな!!」



「やかましい!消えなッ!」



パイロンの説明を聞く素振りすら見せず、コクリコとロベリアは、怪人の退治作業に取り掛かった。



「熱ッ!…く、くそう…!容赦ねえな…。

よーし!きょ、今日はこの辺にしといてやろう!!それまで、おっぱいのありがたみを痛感するがいいわっ!

いいか!お前は…おっぱいを触っていなければ死ぬ!そう…おっぱいに殺されるのだ!


もーみゅもみゅもみゅ・・・」


パイロンはそう言うと、ロケット花火のように、空へと垂直に飛び上がり、ふっと消えた…。

どうやら、この怪人…壁際に追い詰めてもあまり意味がなかったようだ。


「待ちな!!・・・・・クソ、逃がしたか・・・・・・・史上最低最悪の、馬鹿だったな・・・。」


「うん。おまけに変態だったね。でも…ロベリア大丈夫?…ふくらみの呪いって言ってたよ?」



コクリコは心配そうにロベリアの身体をペタペタと触った。

しかし、当のロベリアは何事もなかったように、ケロリと笑っていた。


「フン、ハッタリだろ。なんともないよ。ヤツは、大した霊力も持ってな・・・・ぅ・・・!?」


急に、ロベリアの動きが止まり、膝をつき、うずくまり…苦しみ始めた。


「ろ…ロベリア!?どうしたの!?」



コクリコは、すぐにロベリアの顔を覗き込んだ。顔色が真っ青だ。


「何だ・・・?・・・体が・・・おかしい……うっ!?・・・ぅ・・・く・・・・がハッ!」


「ロベリア!!」


ロベリアの口からは、血液が溢れていた。吐血したのだ。



「わッ!?・・・・わあああああああああああああああああ!!!」



「…ぐ・・・クソ・・・一体、なんだってんだ・・・!!」


「し、しっかりして!ロベリア!!・・・ど、どうしよう!?」

「ぐは…ッ!」


ロベリアはただ、苦しそうに血を吐いた。

どうすればいいのかわからず、オロオロするコクリコの脳裏に、先程の敵の台詞が浮かんだ。



『銀髪女よ…お前は、おっぱい無しでは生きていけない体になっ…熱ッ!?熱い!?』

『題して…”ふくらみの呪い”だ!』



(も・・・もしかして・・・!)



コクリコは信じたくなかった。

自分の気のせいであって欲しかった。しかし、事態は、ロベリアの命に関わる事。

気のせいで済ませて、ロベリアが死んでしまう事だけは避けなくてはいけない。


意を決して、コクリコは思いついた”それ”を実行するが…。


「…げほっげほっ・・・く・・・うぅ!!」


しかし、ロベリアの吐血は収まったが、苦しみは収まる事はなかった。


「やっぱり、ボクじゃ…ダメなんだ…!」


苦しさに顔を歪める仲間の姿に、コクリコは自分を責めた。

あの時、あのビームから、自分をロベリアが庇ってくれた故に、こうなってしまったのだ。


「ロベリア…!」


そんな時。涙目のコクリコの耳に、仲間の声が聞こえた。


「コクリコ、そちらはどうだ?敵は現れたのか?・・・まさか、逃したのではあるまいな?」

「葵さんがとりあえず、合流しましょうって……ど、どうしたの!?ロベリアさん!?」


離れて行動していた、花火・グリシーヌ組が合流を果たし、すぐに異常に気が付いた。


「は、花火!グリシーヌ!ろ、ロベリアが…ロベリアがぁ…!!」


「・・・な・・・!?ロベリア!しっかりしろ!ロベリア!…ええい、エリカはどこだ!?」

「ひどい…血を吐いてるわ……一体、どうしたというの!?コクリコ!」



2人の言葉に、コクリコは涙を堪えて叫んだ。




「お願い…2人共…ロベリアに、胸を触らせてあげてーッ!!」



「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」




幼い声に、少女達は声を揃えて言った。




「「・・・え?何で・・・?」」




・・・・・・ごもっともな意見だった・・・。






     [ サクラ大戦 紅姫編 『命綱は、君のふくらみ。』 ]







コクリコの説明に、グリシーヌと花火は、早速困惑した。


「・・・ふむ、事情は理解できた。理解できたが・・・・・・胸を触らせろとは・・・」

「第一、そんな呪いって…!」


しかし、2人の困惑の間も、ロベリアは苦しみ続けていた。


「ゲホッ・・・!」


「いいから早く!どっちでもいいから!ロベリアに胸触らせてあげてよ!ロベリアが死んじゃうよ!!

 ボクじゃダメなんだよ!成長途中だから!」


…悲痛なコクリコの叫びが響く。

しかし、内容がいかんせん・・・シリアスさを下げている。


「ううぅ・・・」


しかし、事は一刻を争う。

情けなくも、とんでもない理由…つまり、胸が無ければ生きていけない状態が

今、まさにロベリアの身に起きているのかもしれないのだ。


「ふむ、わかった…こうなっては仕方あるまい。」

グリシーヌの決断は、早かった。


「 女同士といえども、本当は凄く嫌なのだが、命にはかえられん。悪党…触らせてやろう。



・・・我が親友・花火のをな!」




「・・・・・・・・・・え?・・・え?ぐ、グリシーヌ?え?私?」


…グリシーヌの決断は、早かった。

その早さに、花火はついていくのが一歩遅かった。


「ありがたく思え、悪党。花火が心優しき人間だからこそ、良かったものの…」


「いえ、あの…グリシーヌ?」


花火は”自分はまだ了承していない”と言い掛けたが、間髪入れずコクリコが、瞳を輝かせて言った。


「ありがとう!花火!!良かったね!ロベリア!」

「思いやりのある花火の気持ち…心から感謝するといいぞ、悪党。」


「うう・・・それより、どうにかしてくれ…輸血とか…」


「・・・・・・・・。」


花火は決意した、というか…やるしかない状況に追い込まれた。

息を吸い込み、顔を上げて口を開いた。


「・・・・・で、では・・・・・参ります・・・!」


ロベリアの手を掴み、花火は自分の胸に置いた。


「ぜー…はー…ぜー…はー…」

「どう?ロベリア・・・」


「あんまり感想は言いたくないが…大分、楽になった…。」

「…良かった…」


確かに、吐血は止まり、呼吸も安定に向かっていた。

改めて、あの呪いが本当である事を、グリシーヌ達は理解した。

ロベリアの様子に、ホッとするコクリコ。




しかし、花火が突然、空を見上げ、泣き出した。



「……ゴメンナサイ…フィリップ…今だけ、許して頂戴ね………・・・ううっ・・!」


「・・・・・・・・・・・・。」


それを聞いたロベリアは花火から手を離し、再び吐血した・・・。


「・・・ぐはっ!!ゴホゴホゴホッ!!」


「ちょっと!ロベリア何してるの!?」

「そうですわ!気になさらないでくださいま・・・ううっ!!」


「そんな事言われて、泣かれてまで、触れるかあああ!・・・げほっげほっ!!」


「悪党!この期に及んで、我侭を言うなッ!死にたいのか!?」

「うるさいッ!…ゲッホゲホゲホ…!」


「じゃあ、グリシーヌ!独身貴族のグリシーヌが触らせてあげてよ!!」


「・・・・・・・う・・・・・・!」


コクリコの言葉に、グリシーヌの動きが止まった。

それを聞いた花火の決断は、早かった。


「グリシーヌ…ロベリアさんの為よ。」


グリシーヌの肩をしっかりと掴み、促す。


「・・・・・わ・・・・解った!触るがいい!」


グリシーヌは、胸を突き出し、触れ!とロベリアに言った。

一方、ロベリアは苦い顔をしつつも、右手をぽんとグリシーヌの胸の上に置いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐふっ」


呼吸は安定し始めているが、今度は少し吐血している。


「ロベリア・・・ちょっとだけ、血出てるよ・・・・。」



「…ああ、花火より小さいからね…。」



ボソっと放たれたロベリアの一言に、グリシーヌは激昂した。



「なっ!なんだとーっ!?貴様!ソコに名折れェッ!!

貴様の首と胴体を2分して、こんがり焼いて、明日の紅茶のお供にして

サンバのリズムでハミングしてくれるわッ!!」



斧を構えるグリシーヌに、花火が後ろから羽交い絞めで止める。


「落ち着いて!グリシーヌ!台詞、途中から滅茶苦茶よ!!」



ちなみに、花火の表情が少しほころんでいるのは、気のせい……ではない。



「みーなーさーぁーん!お怪我してませんかー!?」


遠くから、ひときわ元気な声が聞こえる。エリカと葵組が向こうからやってきた。


「あ、エリカと葵だ!早くー!大変だよーッ!!!」


「どうかしたんですか?・・・ロベリアさん!?こ、これは一体!?」


驚きながらも、葵は、エリカに目配せをした。エリカはすぐに頷き、ロベリアの治療に入った。


「…あのね…」


隊長・月代葵は、コクリコから全ての経緯を聞いた。

ロベリアが、ふくらみの呪いという恥ずかしい呪いをかけられ、吐血して今にも死にそうな事を…。

そして、葵がコクリコから話を聞き終わると同時に、エリカが訴えた。


「葵さん…!治療してるんですけど…ロベリアさんの顔色が良くなりません!どうしましょう!?」


エリカの報告を聞き、冷静に考えを巡らせる葵を、コクリコは不安そうに見ている。


「呪いを解く方法が見つかっていない事…

 それから花火さん達の胸を触った時、症状は和らいだ、という事…」


それに対し、すかさず、ロベリアはボソッと発言した。



「・・・グリシーヌ以外は、な。ぐふっ…」

「うるっさいッ!悪党!!」「グリシーヌ、落ち着いて。」


まだ、余力はありそうだな、と思いつつも、葵はこの状況に対し、最も良い策を考えなくてはならない。


「そ、総合して考えると、ここは、やはり…”ロベリアさんに、胸を触ってもらう”しかないですね…」


良策とは、時に苦痛を伴う。仕方が無い。


「うぐぅ…な、なんて事だ…このアタシが…!」

「無理しちゃダメだよ!ごめんね!ロベリア…ボクのせいで…」


ここで、ロベリアに天使の手・・・いや、胸が差し伸べられた。


「じゃあ…あのぉ・・・恥ずかしいんですけど…エリカのどうぞ♪ロベリアさんッ!」


エリカの愛の提供に対し、ロベリアは・・・


「・・・・・・・・・お前の触るくらいなら…アタシは、死を選ぶ・・・。(泣)」


死を覚悟するほどの拒否を示し、覚悟を決めたように、目を閉じた。


「しっかりしてェ!ロベリア―ッ!!」

コクリコの悲痛な叫び。


「そんなあああああああ!ひどーい!ロベリアさあぁん!エリカ泣いちゃいますっ!!」

抗議の声を上げるエリカ。


「…ロベリアさん…なんて安らかなお顔を…。」

ややこしい言い回しでスラッと言う花火。



「ええい!我侭をいうな!エリカのを触れ!ロベリア!!」


そんな訳の解らない状況をグリシーヌは、一喝した。



そして、ロベリアの右腕を掴むと、エリカのいる方向へと引っ張った。

目を閉じていたロベリアは、目を見開き、即時に抵抗を始めた。


「・・や・・やめろ…それだけは嫌だ・・・ッ!…げほっ!」


花火もグリシーヌに手を貸し、嫌がるロベリアの背中を押した。


「命には変えられないわ!お願いです…ロベリアさん!!」

「い、いやだ・・・!」


「ええい!触れというに!!」

「やめろぉ―ッ!!」



”・・・・・・・むに。”



「・・・・・・・き・・・・・」



グリシーヌが無理矢理に引いたロベリアの手が触れたのは……月代葵の胸だった。

突然の出来事に、隊長は冷静さを失った。



「・・・きゃああああああああああああああああ!!!」



その悲鳴と共に、ロベリアは、葵にブン投げられた。




 ”ど、ぐしゃ・・・っ!!”



「「「な、何してんのーッ!葵ーッ!」」」



グリシーヌ達が大声でツッコミを入れ・・・気付いた時には、もう遅かった。



「す・・・スイマセェーーーーーーーーーン!!!」












「・・・・で?」






司令・グラン・マの眉間に、珍しく皺が寄っている。

いつもなら、優雅に茶を楽しむ時間なのに、目の前には冷め切ったティーカップ。

そして。

グラン・マの呆れた目線の先には、優雅とは程遠い状態の隊長・月代葵とロベリア=カルリーニがいた。


「・・・で、私は・・・ロベリアさんに胸を貸している状態です。」


ロベリアを投げ飛ばしてしまった手前、葵には、もう拒否する権限は無かった。

胸を貸すという役割を引き受けるという道しか、なかった。


「チッ・・・アタシだって、いつまでも、こんな状態ゴメンだよ…外もムショにも戻れやしない。」


女の胸を触らないと死んでしまうロベリアも葵同様、拒否出来る権限はなかった。

なにせ、触らないと死んでしまうからだ。

そして、ロベリアが遠慮無く触れる人物と言ったら…月代葵しかいなかった、というだけの話だった。


「・・・まあ、そうだろうね・・・事情はわかった。わかったけど…どうにかならないのかい?」


両手を肩まで挙げた葵と、後ろから葵の胸を掴んでいる傷だらけのロベリア(輸血中)。

グラン・マの視線が2人にとっては痛いし、見ているグラン・マ自身も心なしか、頭が痛む。


「どうにかって…今の段階では、どうにも出来ません…。」

「…触り方や体位なら変えられるけど。見たいのかい?グラン・マ…。」


人前で、女2人がなんというイチャつきぶりか・・・とは、誰も思わない。

当人同士の瞳の光が、完全に死んでいるようなモノだったからだ。


グラン・マもさすがに、溜息をついて…頭を抱えた。


「・・・・・ああ、あたしが悪かったよ。とにかく、一刻も早く怪人パイロンを探し出して…

 あの・・・その・・・どうにかしよう、その状況を。」



「・・・了解。」

「フン・・・。」








かくして。


ロベリア・葵を除く、巴里華撃団 花組は『怪人パイロンの捜索・情報収集…及び捕獲』に乗り出した。

あの目立つ格好に言動の怪人パイロン・・・当初は、すぐに発見できるかと思われたが



捜索は難航した。



そして、1日も経たない内に、問題が浮上した。


「ロベリアさん…」

「んー…あぁ…葵、次のページめくってくれ。」


エリカ達がパイロン捜索で、外へ出ている間。

外に出られる状態ではない葵とロベリアは、シャノワールに残った。


葵は長椅子に座り、キネマトロンを使って、エリカ達と連絡を取り合っていた。

ロベリアは、葵を後ろから抱きかかえるように胸を触ったままの姿勢で座り・・・読書をして気を紛らわせていた。



「(…ペラ。)…あの、ロベリアさん…私…あの………と、トイレに行きたいんですけど…」


自分の部下が、自分の胸を掴んだまま、自分の肩に顎を置いて、読書を楽しむのは、いかがなものか…葵はそう思っていたが

今は、かれこれずっと我慢していたこの欲求をどうにかしたい・・・それだけだ。


「・・・我慢しな。アタシ、本読んでるんだし…手を離すと吐血するんだからね。」


人間の生理現象は、読書でも会話でも、そう簡単に紛れるものではない。


「…でも…さっきから、我慢してて…私にも限界が…」


「おいおい…軍人出のクセに、我慢が足りないよ、アンタ。…次のページ。」


「(…ペラ。)・・・ぐ、軍人でも・・・と、トイレは行きたいです・・・」


涙目で懇願する葵に、ロベリアは横目でチラリと見た。

立場的には、胸を触らないと生きていけないロベリアの方が立場が、隊長兼提供者の葵より下のはずだが…

悲しい事に、普段から…葵とロベリアの関係は、上下関係があっても、ないようなものだった。


1分ほど、涙目の葵をじいっと見続け、気が済んだのか…ロベリアは承諾した。


「仕方ないね…じゃあ行ってやるよ…アンタの用足してる所を見たって、何にもならないから、安心しな。」


ロベリアは承諾した。

しかし、承諾したは良いが、葵にとって予想外だったのは、ロベリアがトイレまで、もれなくついてくる事だった。


「えぇ!?と、トイレの中まで、一緒にいなくちゃならないんですか!?」


「だから、アタシは手を離すと吐血するんだよ?アンタ、アタシを殺す気かい?

 こっちは気にしないでやるから、遠慮せず、やればぁ?」


”ばぁ?”の台詞と一緒に、ロベリアはニヤリと笑った。

外出の自由もないロベリアにとって、この程度のイタズラは、暇つぶしでしかない。

いずれにしても、葵にとっては、いい迷惑だった。


「な…なんて事を…!!」

「ん?…まさか………大か?」


「小ですッ!!…いや、何言わせるんですか!!!」

「小なら、我慢して付き合ってやるよ。大なら嫌だけど。」


「だから!大でも小でも、私は嫌なんですってばーッ!!」


無論・・・問題は、そこではない。

ロベリアの余裕は、変わらない。


「……あぁ、そうだ。葵…あそこに花瓶があるだろう?あれに…」


「しませんよ!!何が悲しくて、花瓶を尿瓶にしなくちゃいけないんですか!!」


「…アタシだって、赤の他人の放尿シーンなんざ見たくないし、こっちだってしたくないんだよ。

 だけどな、アタシの命が、かかってるんだ、簡単に手を離せるかよ。」


ロベリアのイタズラに、葵の堪忍袋・・・いや、膀胱は破裂寸前。

この事態を解決すべく…葵はキネマトロンを握った。



「じゃ、じゃあ!誰かに交代してもらいます!!…今、キネマトロンで呼び出しますから!」



『はいは〜い!エリカで〜す♪』


「エッエリカさんッ!今すぐ…シャノワールへ来て下さいッ!今すぐッ!」


『あ、はいッ!緊急事態ですね!ちょうど近くですから、行っちゃいますっ!』


エリカの元気の良い返答を聞いたロベリアの顔は・・・真っ青になった。



「…げっ!?葵!テッメエ!…よりにもよって、なんでエリカ呼ぶんだよ!!」



「単に、彼女の登録が、あいうえお順の一番上だったんです!

 いえ!私にだって、成人女性の意地があるんです!こんな所で、漏らすなんて出来ませんッ!」


「アタシなんか、一人の女としての意地なんか、とっくに捨てちまったよ!!

 女の胸がないと生きられないなんてッ!その上エリカと一緒にいたら、アタシの身体がもたないよッ!!」


ロベリアの怒号の後、葵の動きがピタリと止まった。


「ぁ…力んだら…あ…もうダメ…もう…限界…」


小声だが、効果は抜群。

すぐにロベリアは白旗をあげた。


「…げ…や、やめろ!葵!漏らすな!」


「大体、貴女が変な意地悪しなきゃ、こんな事には…!」


葵の涙目の恨み節は、脅しではない。本物だ。


「わ、悪かった!悪かったから!漏らすなッ!ネタ的にも危険だからッ!」


そんな2人の元に、救世主が現れた。



「…あの、お2人とも…どうしたんですか?」


細い声のその人物の登場に、葵は目を輝かせ、その人物の手を握った。


「ああッ!!丁度いいところに!すいません!ロベリアさんをお願いします!」


「え?わ、私?」


「お願いします!胸をちょっと、ロベリアさんに触らせてくれるだけで良いんです!はいッ!」


「きゃ!?ちょ、ちょっと!葵さん!?」


葵は、その人物の胸にロベリアの手を素早く配置した後、自身の操る風よりも早く、お手洗いへと駆け出して行った。

残されたロベリアは、慌てて葵を呼び戻す。



「…なッ!?ば、馬鹿ッ!よりによって、こんな…オイ!葵!戻って来い!!」





この時、葵は致命的なミスを犯した。






「頼みましたよ〜!メル!!」





「え?え?…あの、ど、どういう事ですか!?ロベリ…」





・・・・・・・『人選ミス(大きさ基準)』である。





「ぐっぼはぁ―ッ!!」




ロベリアは血を吐いた。

それはもう、盛大に吐いた。

いや、吐いたと言うより、噴射していた、という表現が相応しいかもしれない。





「ぎ、ぎゃああああああああああああ!!す、凄い吐血ーッ!?というか、鼻から耳から…!!

 いぃやあああああああああああ!?あ、葵さん!葵さーんッ!?」




その人物こと…メル=レゾンは、訳がわからぬまま、自分の胸を掴まれた挙句、他人の血を浴びるという

人生に一度、あるかないか…出来る事ならば、生まれ変わってもしたくない体験をしていた。



そこへコクリコが、捜索を終えて、シャノワールへ戻ってきた。


メルとロベリアをみて、冷静に、状況を見極め、原因を悟った。


そして

「うっわぁ……ボクでも、そんなに吐血しなかったのに…。」

とこれまた、冷静に感想を述べた。


優しく強き心の持ち主、コクリコ…少女は、既にロベリアの吐血に慣れていた。



「こ、コクリコ…なんなの!?これ、一体なんなのーッ!?」


一方、メルは慣れているはずも無く、ロベリアが自分の胸を触りながら、血を噴射し続ける理由もわからない。


「えぇーと…ちょっと、ボク…言い難いなぁ…。」

子供心ながらに、コクリコは精一杯の気を遣った。



しかし、今は…気を遣うべきはメルではなく…



「ゲホッゲホッ…し、死ぬ…マジで、死ぬ…!!…ぐっぼぉはぁーッ!ゴボゴボ…!」



・・・気遣うべきは、ロベリアだ。



「ぎ、ぎゃああああああああああああ!!滝のような血ーッ!?」



「ロベリア…噴水みたい…。」


コクリコは冷静に思った。

(・・・一応、女性の胸なのに、どうして、触って無い時よりも吐血の量が多いのだろう?)・・・と。






「…な…なんだいッ!?こりゃぁッ!?」



偶然通りがかったグラン・マは、マダムらしからぬ声を出して驚いた。




「あ、グラン・マ!丁度イイトコに!ロベリアがメルの胸で…大吐血だよ!!」



コクリコは、最小限、伝えるべき要点をちゃんと言った。



「だから!なんで私の胸で大吐血なんですかッ!?」



・・・勿論、メルには解る筈も無い。


「…仕方ないね…ロベリア…アタシの胸を触るんだ。十分な筈だよ。」


グラン・マは要点を聞くと、ちゃんと察した。



「グラン・マ!どうして私の問いには答えてくれないんですかーッ!!」



・・・勿論、メルには解る筈も無い。



血の噴水こと、ロベリアはふらつきながらも、グランマの胸に倒れこむように、両手で胸を掴んだ。



「…ゲホゲホ…はぁ…はぁ…!」


「………あ…吐血止まった!ロベリア、もう大丈夫だよ!」




「ああ……だが、吐き気が止まらない……若くないからだな。」





「オイ、アバズレ…その口、二度と利けないようにしてやろうか?」





「グラン・マ、怖い…」




こうして・・・『赤き噴水 事件』以来、ロベリアは、貴重な胸の提供者で暇つぶしをする事はしなくなった。



…しかしながら。

依然として、怪人パイロンの行方は不明のまま。


動きも事件も無いまま、3日が過ぎた。


捜索活動していたグリシーヌ達も”ロベリア、大人しくなっていいんじゃね?”という雰囲気すら漂わせ

パイロン捜索に対する意欲も薄れていった。




そんな中…トイレの問題に続く…もう一つの大問題が発生した。



「……さすがに、限界…ですよね…。」

「…なにしろ、3日だからな…う…痒い…。」


『入浴問題』だ。


…当初、ロベリアの”入浴”は、不可能と思われ、敬遠されていた事項だった。


トイレと違って、この場合、交代すればどうにかなるものではない。

裸にならなければならない上、ロベリアが常に胸に触れる為、全員(エリカ以外)が入浴係を拒否。

総員から『ここは、隊長の葵が犠牲になれ』といわんばかりの視線を浴びる。



ブラシを使う、第3者に洗ってもらう、いっそ光武Fを洗う為の洗車機に2人ごと放り込む等

様々な入浴の方法が、対策会議によって話し合われたが…

当のロベリア自身が『くだらない会議より、あの変態を捕まえて来い』と言い放った為、無駄に終わった。



ロベリアは、この状態での入浴をする気は無かったのだ。



「…やっぱり、3人で入浴という方法が一番良いと思…」


葵を抱え、もう片方で、身体を洗い流す…など、手間が掛かる。効率も悪い。

その上、長時間の入浴は、葵の身体に重大な影響(発作を誘因する)を与える為

3人体制の提案をする葵だったが…


「オマエは馬鹿か?なんで、アタシが女だらけで入浴しなきゃならないんだよ。

 大体…アタシの…[ピーー]や[ピーー]を女に洗ってもらうなんて、考えただけでもおぞましい。」


「・・・いや、そこは・・・ロベリアさん自身で洗ってもらっても・・・」


「じゃあアンタ…自分が[ピーー]や[ピーー]を洗ってる姿、赤の他人に見られたいか?」


「・・・う・・・い、嫌かも・・・。」


そんなやり取りをしつつ、先延ばしにされ続けていた”入浴”だが…

3日目となると、さすがに本人も限界を感じ始めていた。


体に現れる痒み。

濡れタオルで拭いて誤魔化していた身体だが、拭けない部分の衛生状態が気になる。


「とはいえ…このままでいるのも…な」

「ええ…さすがに…見てるこちらも痒くなってきました…。」


互いに頭を掻きながら、そういい合う。


「……アンタ一人くらいなら、まだマシかもな…」


ぽつりとロベリアは、自ら妥協案を口にした。

ロベリアの妥協に、葵はいよいよロベリアが精神的に追い詰められてきているのだ、と悟った。


「・・・なるほど・・・あ、ホラ!私が、目を瞑っていれば済む話ですしね!」

「・・・・・・まあね。」

「・・・大丈夫ですよ。必ず、エリカさん達が、パイロンを見つけてくれます!

 見つけたら、勿論…私達も出動して、確実に捕獲しましょう。プランは何度も練ったじゃありませんか。」


「・・・・・・ああ、そうだな。」


葵が必死に笑顔で言っても、ロベリアの憂鬱そうな表情は変わらない。


3日前のロベリアなら…

「当たり前だ。だが、エリカ達があの馬鹿を見つけてこない限り、無駄だよ」等と笑って答えただろう。



そんな2人のやりとりを傍で紅茶を淹れながら聞いていたシー=カプリスが口を開いた。


「…あのぉ〜…あたし、思ったんですけどぉ〜…」


「・・・ん?」





「葵さんとロベリアさんで”洗いっこ”したら、どうですかぁ?あたしとメルも、よくやってますよぉ?」





「「・・・・・・・・・・。」」









数分後、パイロン捜索から戻ったグリシーヌは、シーからその話を聞き、愕然とした表情を浮かべた。






「なんだとーッ!?それで、みすみす、ロベリアと葵の入浴を許したのか!?

 し、しかも・・・”洗いっこ”だと!?」





「えぇー?だってぇ…ロベリアさん”アタシは女に興味ないんだよ”って言ってましたよぉ?」


「なっ何を言うかッ!!あの女の言葉を易々と信用するなッ!!」



「グリシーヌさん、こ、怖いですぅ…!」



「ぐ、グリシーヌ…?どうしたの?そんなに興奮して…」



「よいか!?花火!!・・・こういう事だ!!」




  ー グリシーヌ妄想劇場 ー




『…痒い所ありませんか?ロベリアさん。』


『ああ、首の後ろ…生え際のとこかな…』


『あ、はい…ここ、ですね?』


『…悪いね…』


『…え、なんですか…急に…。そんな、気にしないで下さい。困った時は、助け合わないと。』


『こんな真似、いくら隊長でも…さ。』


『別に、構いませんよ。』


『…アンタに…お礼しなくちゃね…』


『ですから、良いですよ、そんな事気にしないで・・・じゃあ、流しま・・・!?

 ちょ、ちょっと・・・ろ、ロベリアさ…何を!?』


『いや、アタシ今…両手、使えないから…口でしか、出来ないけど…アンタに恩返ししてやろうと思ってね。』


『あ…だ、ダメ…!私にはっ…こ、心に決めた人が…ッ!』


『・・・フン・・・素直になりなよ・・・こんなになってるくせに・・・。』



『い、いやッ…やめ・・・いやぁーッ!!』



『…すぐに、慣らしてあ・げ・る…。』



『いやっ…た、助け…て………グリシーヌさ…ぁ…!』



…シャワーの熱によって、目覚めた、醜い獣の本能が、うら若き乙女の肉を容赦なく、喰らうのだった…





   グリシーヌ妄想劇場 ー 完 ー 






「…と、このように…葵の貞操が危険なのだッ!!わかるか!!」















  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


















・・・それは・・・見事なまでの”静寂”だった。







しーんと静まり返った部屋の中央で、熱く、たぎり続けるグリシーヌ。



力説したグリシーヌの握られた拳は…依然、力強く握り締められ、震えているが

それを見ている花火達とのテンションの温度差は、悲しいくらいに、はっきり見えていた。



「ぐ…グリシーヌ…貴女、どこまで…」


残念な親友に、掛けられる言葉を必死に探す花火の台詞の脇から

元気よくエリカが飛び出し、グリシーヌに同調した。



「わかります!グリシーヌさん!!ふたりっきりでくっついたまま、シャワーで洗いっこなんて…

 エリカ…超・羨ましいですっ!エリカは、挟まれたいですっ!!」



エリカとしては、グリシーヌの言う”危険の認識”よりも”自分も加わりたい”という欲望が見て取れた。


「エリカ…食いつくところ、ズレてるよ。」


コクリコ・花火の良識人の意見等、暴走組のエリカ&グリシーヌが聞くはずもなかった。









”バンッ!!”



かくして、禁断のシャワー室の扉が開かれた。




「羨ましー!!」



エリカが吼え・・・



「ひいっ!?」「・・・な、なんだぁ!?」


戸惑う入浴中の二名。



”ブンッ!”



躊躇い無く振りかざされる斧。



「ぅわっ!?…な、なにすんだッ!グリシーヌッ!!」



「ロベリアーッ!!貴様ァーッ!!それはッ!私の胸だああああああああああ!!!」



飛び交う怒号。


”ブンッ!!”


「危ねえッ!?…って、何言ってんだ・・・オマエッ!?」


浮上する疑問。



「葵の胸はッ!私の胸だああああああああああ!!!」



再び飛ぶ怒号。


「え・・・いやいやいやいや!!私の胸は、私のものです!グリシーヌさん!?とりあえず、落ち着いて!」


状況を把握しきれず、生まれる戸惑い・・・。



「サンドウィッチー!!」



…エリカの訳のわからない咆哮。



「貴女は、貴女で何言ってるんですか!?エリカさん!」



状況を把握しきれず、生まれる混乱。



そして…。


「馬鹿!エリカッ!アタシと葵の間に無理矢理入るな・・・・手が離れ・・・ぐぼはっ!?」





飛び散る血飛沫。






「わあああぁーっ!?ロベリアさんが吐血したーッ!!」




・・・ロベリア=カルリーニ・・・浴室に倒れる。




「グリシーヌさん!」

「・・・うむ!」



エリカとグリシーヌは、ガッシリと手をとりあった。



「「勝利のポーズ!…き」」




「決めちゃダメーッ!!」





・・・・この騒動により、ロベリアの入浴問題が”真剣に”議論された。



シャワーについては、葵とロベリアは、同時入浴という事で、一応決着はついたのだが…

見張り番役として、グリシーヌとエリカが常に一緒、という状態となった事も、ここに付け加えておこう。



・・・ちなみに、葵のトイレの問題だが。


葵がトイレに行く時は、

シー・花火・グランマ・エリカ(ロベリアは拒否している)の実質3名の交代で、葵不在の穴を埋める事となった。


それ以外のメンバーだと、ロベリアの吐血が見られるので、不可となった。

特に、メルは…『赤き噴水事件』以来、2つのトラウマ(血と貧乳自覚)を抱える事となり、ロベリアの傍には来ない。



そして…ロベリアのトイレに関してだが、葵が全面的に面倒を押し付けられる形となった。


ロベリアの希望により…彼女のトイレの際は、葵は強制的に眠らされる方法を採用。

・・・これは、いくら同性でも乗り越えにくい問題であり・・・ロベリアの人権を守る為である。

よってロベリアは、眠った葵を担いでトイレへと行く事で、なんとかこの問題を片付ける事になった。

この時、さすがに見張り役はつかないが、一定時間を越えるとグリシーヌが、率先して斧を持ち出すので

ロベリアは自主的に、ある程度の時間になると戻ってくるようになった。





常に胸に触れていなければならないロベリアは、単独行動が完全に不可になった事は勿論

日常生活をまともに送ることすら、難しくなっていたが、なんとか乗り越えてきた。

それは、胸の提供者である月代葵にも言えることだが、彼女の場合は、胸の提供者を交代する事で、自由は得られる。

だが、外出は一切不可・・・というよりも、2人が拒否した。


そして、寝る時すらも、ロベリアは胸から手を離す事はできなかった。

勿論、安眠は期待できない。

・・・葵・ロベリア、どちらか寝返り一つで、血の海である。


それに加え。

ロベリアのストレスの矛先は、あらぬ方向へと飛び火しようとしていた。




それは、深夜の出来事。


ロベリアの部屋で、仮眠をとろうと、2人は横になった。

葵の後ろから、覆い被さるようにロベリアは胸を触り寝転がっていた。

ロベリアは・・・こんな動作や姿勢に慣れ始めている自分が、正直嫌になっていた。


「・・・なぁ、葵・・・」

「なんですか…?」


「今日で、何日目だ?」

「・・・4日・・・いや、明けて5日、ですね・・・。」

「・・・ったく・・・いつまで、この状態なんだ・・・」

「いい加減、パイロンも動いても良い頃だとは、私も思うんですが・・・」


エリカ達の捜索も行き詰っていた。

こうなっては、パイロンが再び巴里に現れるのを待つしかない―


「・・・ヤツは言っていた・・・”おっぱいのありがたみを痛感するが良い”と・・・。

 自分についてるのに、今更何で?なんて、アタシは思ってたんだ・・・

 でも・・・結果・・・アンタの胸を触ってないと……血を吐くだけじゃない…

 今じゃ・・・言い知れぬ不安が襲ってきやがるんだ…クソッ!情けないったらありゃしない…ッ!」



「・・・ロベリアさん・・・」


ロベリアの手は、震えていた。

この日々がいつまで続くのかという恐怖や不安、そして屈辱。

呪いを掛けられたロベリア本人にしかわからないだろう、その心情は・・・誰よりも一番近くで胸を提供してきた葵が、よく知っていた。


「・・・大丈夫ですよ。」

「気休めは、よしな。…アンタだって、嫌だろ?こんな・・・」

「そりゃあ、日常生活は不便ですけど・・・この状態でラッキーだと思う事が一つ、ありますよ?」

「フン、そんなのあるもんか…」


「・・・ありますよ。

 私は、貴女と一緒の時間を過ごせるのは、何よりもラッキーな事だと思いますよ。」


”だから、何も心配いらない”と葵はロベリアの手を握った。


「・・・・・・・・・・・・・オマエ、ホント・・・・・・・・・馬鹿だな。」


それは、ポツリと、素っ気無い一言。

だが、安心感に満ちた・・・そんな台詞だった。



「・・・・・葵。」

「・・・はい?・・・あ、姿勢変えます?」


葵の耳の後ろから、低い声で・・・不吉な言葉が聞こえた。




「・・・・・・なんか・・・アタシ、変な気分になってきた・・・」




「・・・・は?・・・・ていうか・・・


 ・・・はぁッ!?な、何言ってるんですか!?」


葵の耳の後ろから、荒くなった熱い吐息が。

振り返ると、先程まで光を失ったロベリアの目が、ギラギラと野生の狼のような目に変わっていた。


葵は思った。


『・・・・喰われる・・・!』・・・と。




「・・・考えてみたら・・・アンタの胸、触りっぱなしのまま、四六時中一緒なのに・・・何もしてないって・・・おかしいよな?なァ?」


息を荒げ、理性を失いかけたロベリアに対し

葵は、既に後ろから抱きすくめられている状態で、ほぼ体の自由を失っていた。


「いや、おかしくなんか、ありま・・・ちょ、ちょっと!?服の中に手…ッ!」


油断していた。紅姫恋愛編じゃあるまいし、エロはないだろうと、完全に油断しきっていたのだ。

ロベリアの両手は、欲望の赴くまま…容赦なく、侵入し始めた。


「いいじゃないか…もう服なんてあって、ないようなもんだし・・・ね?」


「”ね?”じゃないですッ!!し、しっかりして下さいッ!ロベリアさァん!!」



子羊の涙声は、もはや・・・狼にとって”調味料”でしかない。




”バンッ!!”



「羨まし――ッ!!」

「ロベリアァ―ッ!貴様、またしても――ッ!!」




「―チッ!また、お前らかーッ!!いい加減、自分の部屋で寝なッ!!」





「・・・・・・・・・・・・・ほっ。」



この『夜這い事件』をきっかけに…


慣れ始めているとはいえ、この状況が、ロベリアにとって…

いや、巴里華撃団全隊員にとっても、決して良くない状況であると、再確認された。

ロベリアも、グリシーヌ達のストレスも、頂点に達しようとしていた。



…いずれにしても、一刻も早く事件を片付けなければならない。




「…このままじゃ、マズイね。」

司令グラン・マは、決断を迫られていた。

「グラン・マ…このまま…変態怪人が見つからないとなると…これからの戦況にも影響が…」

「いや、ロベリアの服役が誤魔化しにくい。」

「………。」



次々と浮上する問題と無常に過ぎていく時間に、もはやロベリアは…巴里華撃団復帰は絶望的か・・・


・・・と思われた矢先―!




『もーみゅもみゅもみゅ!待たせたなぁ!マドモアゼェ〜ル!!もーみゅもみゅもみゅ!』




「きゃあああああああ!?変態よー!!」

「見るからに変態よーっ!!」




再び、巴里の婦女子を己の欲望の餌食にすべく…パイロンがその姿を現した。



変態・・・いや、怪人パイロンは、己の野望を諦めてはいなかったのだ。





巴里華撃団花組は、直ちにシャノワールに集合した。

隊長・月代葵は、いつになく真剣な表情で、隊員に語りかけた。


「皆さん…怪人パイロンが、出現しました。この機を逃す訳には行きません。

 ・・・作戦は、今説明したとおり・・・確実に、”手順を踏む事だけ”を心がけて下さい。

 決して、焦ってはいけません。いいですね!」



「「「「「了解!」」」」」



返事の後、コクリコは隣の花火に耳打ちをした。


「とはいえ・・・なんか、引き締まらないよね・・・ロベリアが葵の胸掴んでるせいか・・・。」

「ええ。それに・・・気のせいでしょうか・・・ロベリアさんが、いつも以上に大人しい上に、影薄く見えますわ・・・。」


良識派の花火とコクリコは、ロベリアを心配していた。


それは。

度重なる吐血に、すっかり意気消沈、牙を抜かれた座敷猫のような、ロベリアが

パイロン発見の知らせを聞いても、ローテンションのまま・・・だったからだ。



そして、それよりも心配なのが。



「はいッ!エリカ頑張ります!!パイロンにオシオキです!」

「無論だ。・・・この私が、必ずや仕留めてみせよう!」



・・・暴走組のエリカ&グリシーヌだ。


しかし、ぼやぼやしている時間はない。


こうしている間に、パイロンが、婦女子に・・・ここでは書けない程のわいせつ行為をしてしまうか

第二の吐血ロベリアの誕生!・・・の悲劇が、繰り返される可能性がある。



・・・それだけは、絶対に阻止せねばならない。




「…巴里華撃団花組…出撃ッ!!」





様々な不安材料を抱えつつ、彼女達は出撃した。





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