あなたとめぐり会うまでは
〜3〜
「じゃあ、今夜アルフォンシアに緑の力を送っておくね」
「よろしくお願いします、マルセル様」
にっこりと笑いながら、アンジェリークは緑の守護聖の執務室を後にした。
彼女が去った後の執務室で、マルセルは少しだけ怪訝そうな顔つきをしていた。
なんか…、今までと印象が違う…。
ふと、そう思った。
何故だろう。
勝気な表情も、振る舞いも、
それはいつもどうりなのに、
なんだか、今の彼女には、以前あった、トゲのようなものが感じられないのだ。
なんとなく、
アンジェリークのムードが変わったように感じ始めたのは、少し前から。
丁度、この間の休日から数日後あたり。
「今日は良いお天気ですね」
朝に偶然出会ってかけられた言葉に、少しだけ自分の耳を疑った。
聖地の天気はいつも同じで、
そんなこと、彼女は一度だって気にしたことなど無かったはず。
マルセルは少し考え込み、
「……まぁ…、いいか…」
いいながら、くすりと微笑んだ。
だって、今の彼女は、なんだかとっても話しやすい。
当たりがキツイところはちょっと苦手だけど、
なんだか、一生懸命な彼女の眼差しは、ちょっと綺麗だ。
そんなことを思いながら、マルセルはまた、クスッと笑っていた。
「あら? もういらしてたんですか…」
森の片隅で、アンジェリークの声が響いた。
「おや、アンジェリーク」
振り返りながら、ルヴァはにっこりと笑った。
森のはずれの小さな池。
ここのところ、毎日のように、
それぞれの執務が終わると、なんとは無しにここに来る。
ルヴァは趣味である釣りをしに、
アンジェリークは、友達のリスに会いに。
示し合わせた訳ではないのに、あの休日の後、ばったりと会って以来、
なんとはなしに日課になってしまっている。
別に何をするわけでも無い。
ただ、アンジェリークは、気ままにリスとじゃれ会い、
そして、ふと気が向くと、釣り糸をたらしているルヴァのそばに寄り、
「……ちょっとルヴァ様、…さっきから全然釣れてないじゃないですか〜」
とかなんとか言ってちゃかし、
「いいんですよ〜別に。 ただこうやって糸を垂らしていると、なんだか落ち着くんです」
とルヴァにのんびり答えられると、アンジェリークはすかさずムッとし、
「だめですよ〜、せっかく釣りしてるんだから! …ほら、早く取られちゃった餌、取り替えなきゃ…」
何やら口やかましく、そばでルヴァの釣り竿をいじくる。
そして、日暮れ頃にはいつも、結構な収穫になっていて、
ルヴァが思わず感嘆のため息を上げ、アンジェリークは得意げに胸を張っていたりする。
二人で笑い会い、
それから釣った魚をまた池に離し、
暗くなる前には、森の入り口で別れる。
そんなことが、ここのところ毎日のように続いている。
そしてそれは、
アンジェリークにとっても、ルヴァにとっても、
とてもとても、かけがえの無い、楽しみな時間。
「じゃあ、…また明日…」
にっこりとルヴァに言われ、アンジェリークも微笑を返し、そしてそのままきびすを返した。
足どりが、なんだか軽い。
いつも、ルヴァのあの穏やかな笑顔を見ると、とっても気持ちが落ち着く。
彼のあのペースには、やはり自分は合わないな、とは思うのだけど、
こっちはこっちのペースでいても、全然気にしないでいてくれる。
アンジェリークは、何となく思っていた。
そういえば今まで、無理に人に合わせようとばかりしていた気がする。
だから、誰と居ても、お互い窮屈だったのかもしれない。
一人でなんだか納得しながら、アンジェリークは帰路を急いでいた。
すると、
「あれ…、女王候補さんやないか」
庭園に程近い通りで、唐突に声が聞こえた。
振り返ると、そこには、いつも庭園に露天を開く、ひたすら怪しい気さくな商人の姿があった。
「商人さん、…今お帰りですか?」
「ああ、さっき店仕舞いしたとこや」
にこっと商人は言った。
この商人は、今までも、そう苦手ではなかった人間だ。
…まぁそうは言っても、軽い口調のこの男は、やはりウマが合うとは言いがたかったのだけど、
「ふーん……、あ…!」
相槌を言いつつ、商人の荷物に目をやったアンジェリークは、唐突に声を上げた。
「ねぇ、これ売ってもらえません?」
にっこりと指差すその先には、キラリと輝くルアーがあった。
「……いや、しかし……もう今日は商売終わりやから…」
頭を掻きつつ言う商人に、アンジェリークは負けじと見つめ、
「お願いします、…ね!」
力強い満面の笑みに、商人は思わずたじろぎ、そしてにっこりと笑った。
「…持ってき、…サービスや。 …ただし、今日だけやで」
小さくウィンクして見せた。
「うわー、ありがと〜」
言いながら、またにっこりと笑うアンジェリークに、商人は一瞬ドキッと顔を染めた。
慌てて俯く間も無く、アンジェリークはすたすたとその場を去って行き、
少し離れたところから、ぶんぶんと手を振っているのが見えた。
「…なんや、変わったな…あの子…」
頬を染めながら、ふと呟くと、
「…確かにね…」
「どわっ!?」
唐突に隣から響いた声に、商人は思わずのけぞった。
「オリヴィエ様〜、驚かさんといて下さいな…」
へなへなと呟くチャーリーに、オリヴィエはにやっと笑顔を見せた。
「だって〜、あんたがいかにもトキメキモードに入ってるからさ〜出て来ずらくて☆」
わざとらしくウィンクまで交えるオリヴィエに、商人は何となく目をそらした。
「……でも」
オリヴィエは、ふと真剣な声を出した。
「……ホント、良い顔で笑うようになったよね、あの子…」
呟いたその顔は、夕日のせいか、少しだけ紅く染まっていた。
「あれ、アンジェリーク! 今帰り?」
寮の前でかけられた声に、アンジェリークは笑顔で振り返った。
「うん、…レイチェルも?」
言いながら駆け寄り、二人は並んで歩き出した。
「……アタシさ〜、今日セイラン様のとこで学習してきたんだけど、それが厳しくてサ〜」
「もぅ、レイチェルってば、また何か気に障ることでも言ったんでしょ」
にこにこと二人は話しながら寮へと入って行く。
ちょっと前から、なんとなくレイチェルに話し掛けて見たら、
なんとも、あれよあれよと言う間に、意気投合しまくっている。
まぁ、元々、女王候補同士、性質もなんだか似ている気がするし、
話してみれば何てことも無い、同じ年の少女同士である。
考え見れば、意気投合しないわけもなかった。
あの休日以来、なんとなく、アンジェリークをとりまく世界が、少しだけ変わっていた。
もっともそれは、アンジェリーク本人は、実のところ気付いていないのだけれど。
今まで気付かなかった、
彼女の笑顔の眩しさに、
一番驚いたのは、周囲の人間達だろう。
ただ、彼女にも自覚している、ちょっとした変化はあった。
それは、この心の奥。
先程もらったルアーを見て、アンジェリークはにっこりと笑った。
少しだけ、頬を染めながら。
明日、
いつもの場所で、
彼にこれを渡したら、一体どんな顔をするだろう…。
それが今、何よりも楽しみだった。
…というわけで、激しく遅れまくりな、勝気ちゃん×ルヴァの第3話でした。
なんだか、ちょっと思ったのですが…、この話って…、……平和ですねぇ……(汗)
なんか、ルヴァをメインに置くと、なんの事件も起きず、ただただ平和に時が流れて行く展開に陥る気がしました…。
まぁ、元々甘々100%のつもりではいたので、なんのトラブルも無い予定ではあったのですが。(と言いつつ甘さは控えめですけど(爆))
にしても、書いていて無意識に表情がまったりしていた気がするのは、多分気のせいじゃないとは思います。(笑)
とりあえず、ちょっとばかり周囲が勝気ちゃんにトキメキ出したと言う感じです。
目指すはアンジェ逆ハーレム、ですね♪(ヲイ)
そして、そしらぬ顔で、勝手にラブラブ化してるお二方(笑)
とりあえずまぁ、そんなことで…、
この話もあと2.3話で終われるかなぁ、とか思ってます。
どうぞ次回もよろしくです♪
…次回は、やはり、来月でしょうかね…(滝汗)