あなたとめぐり会うまでは
〜4〜
「…あれ? ルヴァ様、これなんですか?」
私用でルヴァの執務室に来ていたマルセルは、窓際の見なれぬ物体に目をやった。
すると、ルヴァはにっこりと微笑み、少し照れくさそうに、
「あぁ〜、それはルアーというものですよ。 釣りの疑似餌なんですけどね〜」
とっても嬉しそうに言うルヴァに、マルセルはつられて微笑む。
「なんだかとっても可愛いですねー」
マルセルが興味深そうに見つめる姿に、ルヴァはますます上機嫌になっていた。
「よぉ、…なんだマルセルも来てたのか」
「あれ、ゼフェル、どうしたの?」
ひょいっと顔を覗かせた姿に、マルセルはその名を呼んだ。
ルヴァもつられて振り返る。
「……ちょっと、聞きたいことがあってよ」
「へぇー、珍しい…」
まじまじと言うマルセルに、ゼフェルはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「るせぇ…、おいルヴァ、確かこの前図書館から機械工学の専門書借りてたよな」
言いながら、ゼフェルはさっさとルヴァに歩み寄っていた。
「……あ、えぇ確か…、あ〜、ちょっと待ってくださいね〜」
そう言うと、ルヴァはもったりと壁全体を占めているかのような本棚に向かって、しかめっ面をし始めた。
そのまま、しばらく黙って待っていると、ゼフェルはふと窓際に目をやった。
「……ん? 何だこれ?」
言いながら無造作にルアーを持ち上げ、キラキラと窓から指す日に当ててみる。
「ちょっと、ダメだよゼフェル、そんな勝手に…」
「うるせぇな…、…あれ? これって……。 おいルヴァ、これってもしかして、アンジェリークが持ってたヤツじゃねーか?」
「は、はい!?」
本棚と睨めっこをしていたルヴァは、思わず声を裏返して振り返った。
「間違いね−よ。 確か商人のヤローが露店で売ってたヤツだ。 アンジェにやったって聞いたんだよ」
まじまじとルアーを眺めながら言うぜフェルの姿に、ルヴァはなんだか照れくさそうに頭を掻いた。
「……え、えーと」
ルヴァが思わず口篭もると、ふとマルセルがにっこりと微笑み、
「へぇ、これアンジェからのプレゼントなんだー。 …そういえば、僕もこの前可愛い鳥のぬぐるみ貰ったんですよ」
「……え?」
「そういや、俺も、……何か良く分かんねーけど、ちょっと前、タバスコ置いてったなー、アイツ」
何やら照れくさそうにゼフェルは呟いた。
「……は、…はぁ」
二人に次々と言われ、ルヴァは何だか面食らっていた。
ルアーを貰ったのは結構前のことになる。
自分だけへのプレゼントに、しばらくはそれを見るたび落ち着かなかったくらいだ。
ゼフェルやマルセルに、
やはり彼女はあの満面の笑みをたたえながら、プレゼントを渡したのだろうか。
何だか少しだけ、胸の奥がうずいた。
慣れない感情に、ルヴァはしばらく戸惑いを隠せずに立ちすくんでいた。
「あれ、どうかしたんですか、ルヴァ様」
いつも落ち合う、池のほとり。
ルヴァは、一日たっても、まだ何となく残るわだかまりを振り払いながら、アンジェリークに微笑を見せた。
「……なんか、変」
まじまじと顔を見つめながら、きっぱりと言いはなつアンジェリークに、ルヴァは思わずたじろいだ。
「…も〜、言いたことがあるなら、はっきり言ってくださいよ! そういうとこ、ルヴァ様の悪いクセ!」
人差し指一つびしっと立て、アンジェリークはルヴァを睨むように言った。
そして、そのまま視線を向けつづけるアンジェリークに、ルヴァはため息一つつき、
「……あ、あのですねぇ…」
ぽつぽつと、重い口を開き始めた。
やはり、彼女のこう言うところは、少しばかり苦手だなぁ、などと思いながら。
「え? プレゼント?」
アンジェリークは思わずきょとんと間抜けな声を上げた。
「えぇ、なんか良く聞くんですよ〜、最近。 あなたから品物を貰った方の話を…」
ルヴァが少しバツが悪そうに言う姿に、アンジェリークはハテと顔を傾ける。
「でも、なんでそんなこと、ルヴァ様が気になさるんですか?」
アンジェリークの素朴な疑問に、ルヴァは思わず口を詰まらせた。
そんなうろたえ顔のルヴァを見て、思わず微笑みながら、
「だって、前にルヴァ様にルアーを差し上げたら、すっごく喜んでくれたじゃないですかー。 それから、なんだか楽しくなっちゃって、プレゼント選びが」
にこにこと言う屈託のない笑顔。
ルヴァは思わず見とれていた。
ということは、である。
つまり、彼女から最初に物を貰ったのは自分で、
それがきっかけとなって、次々に、と。
それは、つまり…。
ルヴァは思考を進めながら、少しばかり頭に血が上るような感触を受けた。
なんとなく、自分が今まで抱いていた感情が気恥ずかしかった。
「…あれ? でもルヴァ様、あのルアー使ってませんよねー」
アンジェリークははたと気付いたように呟いた。
「あ、あれは、その…、…折角あなたが下さった物ですし…」
「ダメですよ〜! ルアーは飾る物じゃなくて、使うものなんですよ!」
再び、びしっと指を立ててアンジェリークにさとされる。
そんな彼女を見ると、なんとなく思う。
かなわないな、と。
この笑顔にも、
意思の強い眼差しにも、
力強いひとつひとつの言葉にも。
最近の彼女は、気のせいではなく、綺麗だと思う。 正直に。
彼女に見とれる者が増えている気がするのは、多分気のせいじゃない。
だって、それだけ、彼女は魅力的だから。
最初に見た時は、意地ばかり張っている、余裕のない少女だったのに、
いつのまに、こんなにも立派な女王候補になっていたのか。
最近、驚くばかりだ。
彼女がどんな宇宙を作り上げるのか、
とてもとても興味は尽きない。
だが、
少しだけ、それとは反する気持ちもあるのだが。
「ねぇ、ルヴァ様。 今度一緒に湖にいきません? いつもこの池だけじゃ、ルヴァさまだって退屈でしょ」
アンジェリークは、別れ際ににっこりと呟いた。
「…え、私は別に…」
「いいじゃないですか、ね!」
強引に押しきられて、ルヴァはおじおじと頷いた。
あそこは、釣りをして良い場所ではない気がするのだが…。
ルヴァは内心はにかんでいた。
「じゃあ、今度の日の曜日にでも、いきましょうかね…」
答えると、アンジェリークは満面の笑みを返してきた。
ルヴァと別れた後、アンジェリークは小走りに寮へと向かっていた。
本当は、少しだけ勇気が必要だった。
あの場所の別名を、彼は知っていたのだろうか?
考えると、少しばかり頬が紅潮するのが分かる。
…にしても、
なんで、ルヴァはプレゼントのことなど、そこまで気にしていたのだろうか。
アンジェリークは少し考え込んでいた。
ルヴァにルアーを上げた時は、本当に、とってもとっても喜ばれて、
だから何だか嬉しくなって。
今までほとんど寄り付きもしなかった露店に、今で常連にまでなってしまって。
しかも、あそこには、この聖地にいる人物がそれぞれ好きそうな物がこれ見よがしに揃っているものだから。
何とはなしに買いまくって、配って歩いた。
そして、それもまた、皆にとても喜ばれたし。
一種、アンジェリークの趣味になっている行為である。
…そういえば、以前、プレゼントを渡したら、お礼にと逆にプレゼントをされてしまったりしたこともある。
プレゼントをきっかけに、今まであまり話さなかった人達とも、少しずつ話すようになってきている。
聖地にいるのも、随分と楽しくなった。
最初は、ルヴァ以外、さほど親しい人もいなかったのに、
今では、休日等には誘いに来てくれる人も多いい。
アンジェリークは思考を進めながら少しはにかんだ
でも、
気付いているのだろうか、彼は。
聖地に居て、一番楽しい時間は、
あの、池のほとりでの、静かな時間だということを。
日の曜日。
恋人達の場所と呼ばれるあの場所で、
彼とどんな話をしようか。
考えるだけで、しばくらくは落ち着かなくなりそうだった。
……と、いうわけで、…相変わらず何の波も葛藤も無く続いてます、このシリーズ(苦笑)
ほのぼのカップルは好きではあるのですが、話にしようとするとまったりしすぎてこまりますね(笑)
そして、何やら今回、ちょっと天然入ってしまった勝気ちゃん…。
自覚ないのにモテモテ、というシュチュエーションって好きなんですよ(笑)
あまり多くは語れませんでしたが、結構モテモテ状態のはずです現在。 次回はもうちょっとその辺出したいですね…。
まぁ、次回くらいで終わりな予定なんですがこのシリーズ…(汗) …ハーレム築きつつひとつの話を書くのは大変そうです(汗)
とりあえず、もうちょっと勝気ちゃんの勝気ちゃんらしさを書きたいなぁなんて思って、次のシリーズも、勝気ちゃんでいきたいとは、思っているのですがね(笑)
普段、温和少女好きなんで、難しいんです(^^;
ま、とりあえず、そんなことで…、
次回が多分、最終回となる予定です。
どうぞ最後までお付き合い下さると嬉しいです。
それでは、
ここまで読んで下さってありがとうございます(^^;