クライン学園へようこそ♪
第一話
〜クライン学園七不思議?〜
その1
「真夜中の校舎にて」
「シルフィスさまぁ〜、お待ちになってー☆ …もう、どこにいらっしゃったんですの?」
「ミリエール様、さっきあちらの廊下で彼を目撃したとの情報が!」
「なんですって、…さっそく行きますわよっ!」
「はい、ミリエール様」
「どこまででもついていきますわ!」
「さ、早速参りましょう!」
ミリエールの号令のもと、廊下の真中で彼女を取り囲む総勢十人以上にものぼる取り巻きたちは、一斉に声を上げて歩き出した。
ぞろぞろと慌ただしくその場を去る団体を見送ってから、メイはすぐ横の空教室に向かってサインを送る。
「OK、もう大丈夫みたいよ、シルフィス」
ウインクをしながら見つめるその先には、サラリとした金髪をなびかせる、学ラン姿の影があった。
「…すみません、いつも」
「いいっていいって、トモダチじゃん。 …それより、早くこの場を去らなきゃ、あいつらまた戻ってくるかもしんないし」
「…ええ、そうですね」
メイは言いながらシルフィスの手を取り、二人はさっきの集団とは逆方向に走り出した。
「…ふぅ、ここまでくればもう大丈夫かな?」
息を切らしながら屋上を見渡し、メイは言った。
「…ふぅ…」
つられてシルフィスも息をもらす。
「しっかし、あんたもいつもいつも大変よね〜、もてる『男』はツライってか…」
メイはわざと、『男』という言葉を強く言った。
「…いえ、それほどでも…」
はにかんで言いながら、シルフィスは何気なく汗にぬれた頬をぬぐいながら髪を掻く。
日差しに照らされた金髪が、風に舞いキラキラと波を打ち、シルフィスの笑顔と調和する様は、同姓から見てもドキっとする。
…そう。
今ここで、学ラン姿でいる『彼』は、実はれっきとした女性なのだ。
メイがそれを知ったのは、ずいぶん前のこと。
家の事情…というとだが、詳しいことはメイは聞かないし、シルフィス自信も語ろうとしない。
言いたくなけりゃそれでいいや、というのがメイの持論である。
とにかくそれ以来、メイはいろいろとシルフィスのサポートを買って出ている。
特に、類まれなその容姿のせいで、モテモテな彼女を今のように助けるのは、もはや日常茶飯事だ。
「…でもさ〜、四六時中男のフリって疲れない?」
ようやく息も整ってきて、適当に腰を下ろすと、メイはふと口を開いた。
兼ねてからの疑問である。
いくら家の事情ったって、全寮制の学校で彼女の正体を知る者は、教師を除くとメイを含めてたったの二人。
起きてから寝るまで、ずーっと男のフリは、かなりハードなことだろう。
「別に…もう慣れてますし、そうでもないですよ」
にこやかにシルフィスは言った。
「でもさー、寮とかではどーしてんの? 二人部屋だし…」
「…同室のガゼルは気さくだし、…寮監のレオニス先生も、とても良くしてくださいます。 心配はないですよ。 」
「…ふーん」
呟くように言いながらメイは、レオニスの名をだした時シルフィスの顔が少し照れるのを、見過ごさなかった。
寮監であり剣道部顧問であるレオニスは、シルフィスの秘密を知る教師の一人である。
シルフィスは結構良く思っているいるようだが、メイはなんだか苦手な人物である。
まあ、部活にも属さないメイとしては、あまり会うことの多い人物ではないのだが。
「あら? メイにシルフィスではありませんの、何してるんですの?」
突然の呼びかけに、二人は慌てて振り向いた。
ピンク色のボリュームのある髪がさらりと風に舞う。
「なんだ、ディアーナが、脅かさないでョ…」
「そっちが勝手に驚いたんですわ、…さてはまたミリエールですの?」
ディアーナは、二人のあいだにちょこんと座り、ニヤっとしながら言った。
「…ええ、まぁ…」
シルフィスは苦笑まじりに答えた。
「大変ですわね〜、シルフィスも…」
「はは…」
乾いた笑いをもらすシルフィス。
「ディアーナは、なんか用でもあるの?」
メイの問いに、ディアーナはため息ひとつつき、やおらぽんっと手を叩く。
「…そうですわ、ねえシルフィス、こんど私とメイのお部屋にいらっしゃいません?」
「え!?」
「…もうすぐシルフィスの誕生日でしょう。 たまには女のコ3人で、盛り上がりませんこと?」
にっこにっこしながら言うディアーナに、シルフィスは面食らっていた。
「へ〜、いーねーそれ、3人でぱーっとやろっか」
「…あの…、男子が女子寮へ入るのは、校則で禁じられているんですよ」
「あら、でもシルフィスは女子ですわ」
「…ですから…」
シルフィスは思わす頭を抱えた。
シルフィスの秘密を知る、もう一人の人物。
それがこの、ディアーナである。
メイのルームメイトである彼女は、どうにもマイペースで、シルフィスはなんとなく圧倒される事が多い。
「ね、シルフィス、レオニスには話をつけておきますから」
にこにこしながら詰め寄るディアーナに、シルフィスはふっとため息を一つもらした。
「…分かりました、…でも、本当に規則違反なんですから、そのことを良く憶えておいてくださいね」
苦笑しながらも、シルフィスは何となく嬉しそうに言った。
「決まりだね! ねー、じゃあ、何するか決めよ-よ、どうせしばらくヒマなんだし」
「そうですわね」
口々に言いながら、メイとディアーナは勝手に盛り上がり出した。
わき目で困ったように二人を見るシルフィスは、しかし微笑をのぞかせていた。
「あちゃ〜、もーこんな時間だよー」
「急がないと寮監のノーチェ先生に叱られてしまいますわ!」
西の空もとっぷりと暮れてきた頃、シルフィス、メイ、ディアーナの3人は慌ただしく廊下を走っていた。
あの後、話しが盛り上がりすぎて、うっかり時間を忘れてしまっていたのだ。
「…男子寮のほうが、多少門限は寛容ですが…、この時間じゃちょっとまずいかも…」
シルフィスは血眼な二人を横目にぽつりと言った。
「きゃっ!」
「え?」
メイの悲鳴にシルフィスが振りかえると、隣りを走っていたはずの彼女が見えない。
「メイ?」
ディアーナが思わずその名を呼ぶ。
「……あたた…」
声は丁度足元から聞こえた。
「…つつつ…」
それともう1つ、低い声がまじった。
「キール!?」
シルフィスは思わず呟く。
「…まったく、何なんだ一体。 廊下を全力疾走で走ってくるなんて、小学生以下だぞ」
頭や肩を痛そうにかばいながも、キールは皮肉たっぷりに言い放った。
「…も〜、キール、そんなにキツく当たらなくても…。 メイも事情があって慌ててたんでしょうに…」
キールの後ろから、やたらともったりとした声が響く。
「…キールに、アイシュじゃない…、何やってんの、こんな時間に…?」
「…ええ、ちょっとキールに生徒会の仕事を手伝ってもらってまして〜」
だるそうに立ち上がりながら問うメイに、アイシュは笑顔で答えた。
「すみません、皆さん手伝わせちゃって〜」
人気の無い廊下に、スローペースな声が響き渡る。
メイとキールが言い争いを始め、それから二人の傷の手当てを終わらせたら、もうどうにも、開き直るしかないような時間にまでなってしまい、3人は半ばヤケクソにアイシュの手伝いを買って出た。
総勢5人となった一向は、書類の束を抱えながら、月明かりに照らされる廊下を歩いていた。
「まったく、とんでもない目にあうぜ…、これじゃいくら遅延届けを出してあっても寮監になんて言われるか…」
歩きながらキールブツブツと言っていた。
「遅延届けだしてあるだけマシでしょーが。 …こっちは無断で門限破りなんだからね!」
「威張るな! 大体誰のせいだと思ってるんだ」
「…もー二人とも、止めてくださいよ〜」
険悪な表情で怒鳴り合う、メイとキールに、アイシュは冷や汗をたらしながら言った。
「…フン…」
二人の声が見事にハモり、同時にそっぽを向く。
「…も〜、本当に昔からちっとも変わらないんだから、二人とも〜」
アイシュは俯きながら呟いた。
「でも、良いですわよねー、幼馴染みって」
「ええ、二人とも本当に仲がいいですね」
シルフィスとディアーナは、小声で笑い合った。
メイとキール、アイシュ兄弟は、実は十年来の幼馴染みであり、高校でやっと違う学校に通う事になるかと思ったりもしていた。
3人がこの学園に入ったのは、本当に偶然であり、かたや本命校、かたやすべり止め…と、たまたま受験校が重なった結果だった。
そして、結局偶然にも3人はまた同じ学校に通っている。
…キールいわく、典型的な腐れ縁、らしい。
「…ったく、兄貴も兄貴だ。 いくら会長押しつけられたからって、こんなに何でもかんでもいいように引き受けやがって…、俺だって、科学部の仕事があるんだぞ」
キールのグチの矛先が、今度はアイシュにうつっていた。
「はははは…、でもやっぱり、人から頼まれると断れませんよ〜」
「…あのな〜、だから兄貴はいつも面倒な目にばっかりあってるんだよ。 一体いくつの部をかけもちしてると思ってるんだ?」
のん気なアイシュに、キールがジト目で呟く。
「ま、それがアイシュのいいトコロだよ、ね」
「ええ、アイシュの生徒会長ぶりは、評判がいいですわ」
「ええ、寮でも寮長として、結構評判いいんですよ」
口々にいう3人に、キールは思わず口をつぐんだ。
「あ、着きましたわ。 生徒会室」
「やっとついたか…」
ディアーナの喜ぶ声に間髪いれず、キールがつまらなそうに呟く。
メイとアイシュは、やれやれと顔を見合わせた。
「本当にありがとうございました〜、おかげで助かりました〜」
各自帰り支度をすませた後、再び5人で廊下を歩くなか、アイシュはしきりにお礼を言っていた。
「…いいって、別に、あたしもちょっとは悪かったわけだし」
「…ちょっとじゃないだろ…」
「あれ?」
メイとキールがまたもや言い争い出そうとした時、ディアーナがふいに前方を指差した。
「どうしたんです?
シルフィスはディアーナに尋ねた。
「誰か来ますわ」
「え? …だってこの時間じゃ、もう先生だって残っちゃいないっしょ」
「でも、誰か…」
驚きの声を上げるメイに、以前ディアーナは前方を見つめている。
明かりもまばらで人気の無い廊下は、あっという間に彼女らの恐怖を掻き立てていった。
ゴクッ…。
誰かの飲みこんだ生唾の音が木霊する。
その時。
「よ! 何してんだーお前ら」
「シ、シオン先生?」
思わずキールの上げた声が、廊下に響き渡った。
「…まったく、おどかさないでくださいよ…」
「別におどかしちゃいないだろーが、お前が兄貴に呼ばれたっきり、部室に顔を出さないもんだから探してたんだよ。 寮にも戻ってないしな」
ぶちぶちと言うキールに、シオンは軽く返した。
理科教師であるシオンは、科学部と園芸部の顧問をかけもちしており、科学部部長のキールとは、日頃から親しかった。
とは言っても、キールの方はいつもあまりノリ気ではないのだが。
まぁとにかく、暗い廊下を歩くメンツは、総勢6人となっていた。
…ガチャ…。
月明かりがこうこうと照らす中、学園正面に止められた黒光りする自動車は、そこから出てきたビジネススーツの男の手で、重々しく扉が開かれた。
開かれた扉の奥に、明るい色のスーツに身を包んだ若い男の姿が見える。
「…若、到着しました」
「…ごくろう」
運転席から声を掛けられ、男は答え席を立つ。
さっそうと車から降り、その男は校舎を見上げる。
車のヘッドライトに照らされ、彼の空色の髪が、キラリと波を打った。
「…しかし、この時間では、すでに誰もいないはずですが…」
「ああ、いいんだよ別に、ちょっと下見をしたかっただけだし…」
「はぁ…」
ビジネススーツの男は、不思議そうにため息をつく。
「…それにしても、若、本気ですか? この学園に就職するなんて…」
「何を言っている? そうでなければなぜ教員免許なんて取る必要があったんだい?」
隣りで、その男はふっと微笑みながら答えた。
「…いや、ですから、この学園でしたら、免許なんか無くても、すぐに理事長の座につけますのに…」
「…それじゃあ、…意味がないだろう」
「まぁ…そうですね…。 しかし、お嬢様もどうしてわざわざこの学園なんかに、一般を装って入られたのか…」
「…全寮制、というのに惹かれていたらしい。 いつも家を出たがっていたしな…。 まったく中途半端な家出だよ」
「…ええ本当に…」
二人は学園を見ながら、話し合い、ふっと同時にため息を漏らす。
「しかし、何もわざわざ若が出向かなくても良いものを…」
「私以外に、誰がアレを連れ戻せると言うのかい?」
「う……」
ビジネススーツの男は思わず言葉に詰まる。
「あれ?」
ふいに、校舎の中に光を見付ける。
空色の髪の彼は、興味深そうに校舎に見入る。
「どうしたんですか、若?」
「…あそこ…」
見るとある1点の廊下の明かりがついている。
「おかしいな、誰かいるんでしょうか?」
「ああ、…ちょっと言って見る」
「え?」
「お前達はここで待っていろ」
言い返す言葉も待たぬまま、彼は校舎の入り口に向かって行った。
「あ、若!? ……まったく、お待ちください、セイリオス様ー!」
ビジネススーツの男は慌ててその名を呼んだ。
だが、既に彼は闇の中に姿を消していた。
時は数分前。
廊下でのこと。
「…おい、出口はどこなんだよ…」
「…ねえ、なんであたし達、毎日通ってる学校の中で迷ってるわけ?」
「でも、暗くて分かりずらいです〜」
キール、メイ、アイシュの声が順に響いた。
「あ、あれ電気のスイッチじゃないですか?」
「これですわね」
シルフィスの言葉にディアーナが答える。
カチッという音を立てて、一同を明かりが照らした。。
「お〜、明るい明るい、これなら平気だな」
ケラケラと笑うシオンに、キールは頭を抱える。
おそらく余裕で案内くらいできそうなものを、シオンは明らかにこの場を楽しんでいるようだった。
一方その頃、寮の玄関にて。
「…あれ、レオニス先生、どーしたんですか?」
「ガゼルか。 …うむ、実はまだ寮に戻らない生徒がいてな。 仕方ないから様子を見に行く所だ。 …そういえば、お前のルームメイトだったな」
「え、シルフィスが? …先生、俺も一緒に行っていいですか?」
レオニスがコクリと頷くと、二人は連れ立って暗い夜道を学園目指して進みだした。
そして、かたや某廊下にて。
「…ミリエールさまぁ〜、もう帰りましょうよ〜」
おずおずとした少女の声が、暗闇に響き渡った。
「帰りたいのなら、さっさと勝手にお帰りなさいな。 …他の子達ももう帰りましたし」
「…では、お言葉に甘えて…」
少女は迷いもせず、そそくさと出口に向かった。
そんな少女を見つめながら、ミリエールは一人残されたにもかかわらず、胸を張って佇んだ。
「私、あきらめませんわ! シルフィス様を見付けるまで、絶対帰りませんことよ! …オ−ッホホホホホ!!」
高笑いは、静まりかえった校舎内に反響しながら響き渡って行った。
「ん?」
妙な高笑いの声に、人気の無い音楽室で誰かが反応する。
「…おや、もうこんな時間でしたか…」
ため息をつきながら、一人の男が楽譜をかたずけだす。
特別音楽講師、イーリス=アヴニ−ル。
彼の持つ書類には、そんな名前が記されていた。
「おい、本当にこっちで良いのか?」
「さ、さぁ〜」
「もーはっきりしてよ!」
キール、アイシュ、メイの言い合いに、後ろの3人はげんなりとその後を行く。
…いや、シオンだけは妙にニヤニヤとその場を楽しんでいるようだが。
ともかく一向は、今だあっちへうろうろ、こっちへうろうろとしているのだった。
<つづく>
…と、いうわけで、しょうこりもなくしっかり続いてますが…(^^;←しかも第1話その1。
ファンタ学園版パラレル、妄想120%でつっぱしってますが、いかがでしたでしょうか…(汗)
なんだか、はなっから話に脈略ないですが(爆)、とりあえず全員出演させよ悪戦苦闘してました。
…あとはリュクセルとアルムを出せば完璧ですね(怪しい笑み)
…ちなみに、この話、…今回はトップ絵で力尽きましたが、一応挿し絵付きにして行く予定です。
不定期更新予定なので、気長に付き合ってくださると嬉しいです。
では、そーゆーことで。