その夢の続き
〜5〜
「…じゃあ、俺があいつを奪っちまっても、かまわねーってことだな」
頼久は目を閉じながら、またあの言葉を思い出していた。
…どうして、こんなにも心に響くのだろう。
理解できぬまま、ふと左耳に触れてみる。
コツっと、不思議な感触にあたる。
青色に輝く、小さな宝玉。
初めてそれを見つけた時、胸が詰まるような、不思議な感触を覚えた。
しかしそれ以来は、さして気にせずに時を過ごしてきたのだが…。
何だろう、何か不思議な感覚。
まるで誰かに呼ばれたかのような。
そう、いつかどこかで…。
まんじりとした気持ちのまま、頼久は小さなため息を洩らした。
「あれ? こんなところで何してるんですか?」
明くる日、人気の無い中庭にて、唐突に掛けられた声に、頼久は思わず戸惑った。
先程まで、浮かんでいた顔。
何故だろう、ひどく胸がざわめく。
「あ、もしかしてお昼まだなんですか?」
問われた声に、そういえばもう昼休みの時間帯だということに気がついた。
「……よかったら…、一緒に食べません?」
にっこりと言われた言葉に、頼久は黙ったまま頷いていた。
「よかった〜。 …丁度購買のパン、買いすぎちゃって…」
手近な場所に腰を下ろし、並んで座りながら、あかねはパンをぱくついていた。
横目で見ながら、頼久ももぐもぐと一心不乱にパンを食べていた。
そんな様に、あかねは思わず微笑む。
そういえば、以前桂川の川辺に、ちょっとしたお弁当を持って出掛けた時、やはり彼はこんな風に食べていた。
にこにことこちらを見るあかねに、頼久はふと不思議そうに目を向けた。
すると、
「………あ……」
あかねの洩らした呟きに、頼久はふと上を見上げる。
丁度、自分達のいる場所に木陰を作り上げている大木。
その小枝に、…小さな小さな、鳥が居た。
つんつんと小さく跳ねながら、必死に羽をばたつかせている様に、あかねは見入っていた。
すると、ふわりとその鳥は一瞬風に乗り宙に浮き、
瞬時にしてバランスを失い、突然急降下してきた鳥を、あかねは思わず両の手で受けとめていた。
もったりと立ちあがる小鳥を見つめるその顔に、頼久は思わず見とれていた。
そのまま枝に戻してやるのかと思いきや、
あかねはそのまま小鳥を見つめていた。
「……ホラ、早くお行き」
少しだけ手を小枝に近づけ、にっこりと小鳥に向かって呟いていた。
「…大丈夫。 さっきはあんなにうまく飛べたじゃない」
静かなその声に答えるように、鳥は再び飛び立ち、
よたよたと、なんとか枝に辿り着く。
あかねはうんと小さく頷く。
それからほどなく、どうやらコツを掴んだらしく、小鳥は頼りなげではなるか、ふらふらと空を飛べるようになり、
楽しそうに、あかねの周りを飛び回っていた。
声を出すことも出来ず、頼久はあかねに見入っていた。
確かどこかで感じた、この感覚。
それがいつだったか、どこだったのかはわからない。
ただ、…今の気持ちだけは分かった。
「あ…」
はしゃぎまわる鳥を目で追いながら、あかねはふと呟いた。
先程の大木に手を触れている。
「これって、桜の木だったんですね…」
言いながら見上げた上には、青々と茂った桜の葉が広がっていた。
「………桜……?」
頼久の中で、何かがうずいた。
桜の木の、下で……?
そう、あれは………。
左の耳が、小さく痛む。
そう、
私は、
あの方と………。
あの…方…。
……神子殿……。
その瞬間、頼久ははっとなってあかねを見つめた。
「…神子殿…」
呟かれたその言葉に、あかねは思わず両手で自らの口元を覆っていた。