「気を付けろ、シン。 このアーモリー・ワンには
プラント議長や、重臣たちが国賓と会談を開いているんだ」
「…言われなくても分かってる!」
飛び立ったシンは、通信から入った整備主任からの声に怒鳴り声で応えた。
「こちらミネルバ管制。 インパルス、聞こえますか?」
「メイリン?」
「あ、シン、良かった通じてるんだ。
戦況は極めて不利な状態です。
こちらの新型モビルスーツが3機、既に武装した敵によって奪われました。
今から資料を送りますので、識別コードに惑わされず、敵とみなして下さい」
事務的なメイリンの声の後に、シンの目の前のモニターには3機の機体が映し出される。
ZGMF-X24Sカオス。 モビルアーマーに変形可能で特に宇宙戦でその力を発揮する。
ZGMF-X31Sアビス。 同じくモビルアーマー変形可能、水陸両用で、特に水中戦に長ける。
ZGMF-X88Sガイア。 4足形モビルアーマーに変形。主に白兵戦に長けた機体。
シンはそれぞれの機体の情報を見て、歯噛みをすると、静かに前進を開始した。
+ + + + + + +
「クソッ」
シンは思わず歯噛みをする。 戦いは劣戦を強いられていた。
そもそも、人の多い工場地帯で、しかも今日は要人の会談まであった。
回りに気にするものが多すぎる。
そうこうしているうちに、『敵の主力』を見定めた三機が一気にシンの機体を取り囲んだ。
シンからは大分離れた倉庫郡の一角で、レイとルナマリアは、建物と供に倒れた自機を立て直す事に必死だった。
「あー、あたしのザクが!」
「あ、パイロットの…! お怪我は?」
「ケガは無いけど、…これじゃ出撃どころじゃないじゃない!」
言いながらルナマリアは兵士に混ざって作業を手伝おうとする、すると、
「あの白いの、レイ?」
ルナマリアが気付いた瞬間、白いザクは瞬時にルナマリアのザクに覆い被さった建物の破片をどける。
「サンキュ、レイ!」
言いながらルナマリアは急いで自機に乗り込む。 レイはそんな姿を無言で見るだけだった。
そして二人は、まず自らの回りに散乱する建物の残骸をどける作業を始めていた。
シンは思わず舌を打ち鳴らした。 3対1、どう考えても不利過ぎる。
しかも、こっちは初陣なのだ。
なんとか持ちこたえるものの、これでは時間の問題かもしれない。
ふとした隙をアビスと言う名だった機体が見事に付いて来た瞬間、シンは思わず叫び声を上げそうになった。
その時。
「…なんだ、あれは…」
思わずシンは呟いていた。
「ザク・ウォーリア…?」
ぼんやりと言う。 別段珍しい機体でもないのに、
だが、それは自分が見た事のあるザク・ウォーリアとは、まるで違うものに見えた。
アビスが放った放火を封じ、続けざまに遅い来たガイアを退け、カオスは思わずその場で尻込んでいる。
シンは思わず目を見張る。
「嘘だろ、新型3機を、量産型のザクで…?」
シンは思わず呟く。
すると、その機体は頃合を見たかのように、すぐにその場を離れて行った。
あれは一体何だったのか、考えている暇はシンには無かった。
体勢を立て直し向い来る3機に再び構えた時、
「レイ、ルナ?」
シンは思わず呟く。 眼前には白と赤の見なれた機体が迫っていた。
「議長は、こちらへ」
誘導されるプラント議長デュランダルは、あたりを険しい表情で見ながら、
「…他国の首脳はどこへ?」
「皆無事に非難されたそうです、ただ…」
「…?」
デュランダルはいぶかしみ部下を見つめる。
「オーブの首脳のアスハ氏と、その護衛が、未だ行方不明で…」
「…なんということだ…」
呟きながら、デュランダルは再び辺りを見ながら、誘導に従い進む。
3対3。 戦況一気に変わった。
しばしの戦闘後、ルナマリアは被弾したものの、シンとレイはまだ無傷だ。
すると、このままでは戦いが長引くと悟った相手の3機は、程なく撤退を開始する。。
ためらい無くプラントの壁に小さな穴を開け、宇宙へと吸い込まれるように消えていった。
ルナマリアは口惜しそうにミネルバへと帰艦し、シンとレイにも帰艦の指示が響いた。
シンは敵の行動に歯噛みをした。
プラントに穴。 その意味を、奴等は理解しているのか?
ー逃がすものか。
歯を噛み締めながら、シンは思った。
「ミネルバ、聞こえるか? フォースシルエットを!」
シンは叫ぶ。
ミネルバに頼んだ、対空用のフォースシルエットが届いたのはその数秒後、
シンは迷わず3機を追い、そのまま空へと上がって行き、レイもまた無言でそれに続くいた
「あぁぁ、また勝手なことを…。 大体のシン・アスカってパイロットは、アカデミー時代から問題児だったと…、なんでよりによってウチの艦に…」
ミネルバ副艦長のアーサーは、呟きながら頭を抱えた。
しかし、隣に座る艦長のタリア・グラディスは、驚きと感慨に満ちた目でモニターを凝視する。
「アーサー、黙ってて」
「艦長?」
「すごい…、あの子…」
タリアはモニターに移ったシンの動きに、思わずそう呟いていた。
すると、
「そうだろう」
余裕の溢れる声が突然響き、タリアは思わず目を見張る。
「議長!」
「すまないねタリア、こちらの艦へと非難を誘導されてしまったもので」
微笑さえ混ぜながら、プラント議長は言った。
「インパルス、エネルギー供給圏を間もなく離脱します!」
オペレーターであるメイリンは事務的な口調で言う。
アーサーは再び頭を抱えたが、
となりに佇む艦長、タリア・ダグラスは、落ち着いた面持ちで頷く。
「丁度良いですわ、議長。 状況はご覧の通りです、進水式はまだですが…」
「あぁ、構わないよ」
デュランダルの言葉に、タリア始め、クルー全員が顔をひきしめる。
「ミネルバ、発進します」
艦長の一声に、艦のクルー全員に緊張が走った。
+ + + + + + +
「何だ?」
カオスのコックピットで、少年は思わず声を上げていた。
モニターに映し出された先程の新型が、シルエット部分を切り離したと思ったら、飛んで来た新たなパーツと合体をした。
「フェイズシフトも切り替わった? なんて野郎だ…」
目の前の機体はその装甲をがらりと変え、そのまま悠然と宇宙までついて来た。
インパルスが宇宙に出ると、今度はモビルアーマーが出迎えが待っていた。
シンは慣れぬ相手に苦戦を強いられた。
「クソッ」
シンは思わず呟く。
「シン、落ち付け、実戦では一瞬の隙で命を落とす」
完全に癇癪を起こしているシンに、レイは淡々と助言を与えていた。
「まったく、敵さんもかなりヤル気だしてるじゃないの」
重々しい仮面に似合わぬ口ぶりで、男は言った。
地球軍、母艦、ガ−ティ・ルー。
「ロアノーク大佐、そのように悠長な場合では…!」
隣で副官らしき男性が仮面の男に焦った顔で話しかける。
「大丈夫、心配はいらないって」
どこまでも軽い口調で言う仮面姿に、副官は静かにため息を洩らす。
すると、
「ん…?」
仮面姿の男は、呟くとふいにあたりをキョロキョロする。
そして、ふと、外を映すモニターで目を止め、
そして、不適とも言える笑みを、口の端に浮かべるのが見えた。
「…?」
レイは感じた事の無い違和感に、驚いた表情で前を見た。
見えるのは交戦中のインパルス、そして奪われた3機。 その先には敵の母艦だ。
そして、『それ』は、明からにその先にある大きな艦から感じられる。
レイは静かに肩をつくと、気を取り直す。
いらぬ緊張をしている場合ではない。
「インパルス、ブレイズ・ザク・ファントム、被弾!」
ブリッジにオペレーターの声が響き渡る。
「あぁ、言わんこっちゃない…、初陣でこんな…無茶だったんですよ…」
隣でそれみたことかと呟くアーサーを横目に、タリアは歯噛みをする。
「両機とも、艦へ撤退命令を、アーサー、主砲発射準備!」
タリアはそう述べた後、モニターを睨み付けた。
「……っ、なんてこと…」
タリアはぽつりと呟く。
あれだけのモビルスーツを奪われ、
進水式前の最新艦まで出撃させての結果に、ブリッジには重い空気が立ち込めていた。
「え? 保護を求めてきた?」
「はい、識別コードも問題ないし…とりあえず収容を許可しまして」
いち早くミネルバへ撤退したルナマリアは、自分のザクを収容された場所で、整備スタッフと話していた。
丁度手近にあったミネルバに、保護を求めてきたのは、先程の謎のザク・ウォーリア。
ルナが目を見張ると、出てきたのは若い男女だった。
「あなた達、何者!?」
何かの工作員かもしれない。 ルナマリアは迷わず彼等に銃を向ける。
すると、
「銃を下ろしてくれないか。 …こちらは、オーブ連合首長国の代表でいらっしゃる」
銃を前にして、一切怖気づかずにそう告げる男に、ルナマリアは思わず目をぱちくりとさせるた。
「帰還信号…?」
あれは確かにそうだ。 シンは思わず憤る。
「シン、何をしている、撤退だ」
「でも…!」
淡々としたレイにシンは思わず口を挟む。
「このまま戦っていても、こちらに分は無い」
レイのさらりと言った言葉にシンは思わず口をつぐむ。
先程の被弾は戦闘能力を削ぐ程のものではなかった、それなのに。
「クソ…」
シンは呟く。
「早くしないと、ミネルバの主砲を遮ってしまうぞ」
「分かってる、さっきメイリンからの通信で聞いた。 俺達の撤退はその為だって」
レイの声に、シンは思わず再び悪態をついていた。
帰艦したその時、艦体が大きく揺れる。
「主砲が…発射されたのか…」
呟き、シンは憤ったまま、戦況を見つめることしか出来なかった。
辛くもその主砲の攻撃により、ミネルバは戦線を離脱し、とりあえずの平穏を得る事になった。
どことも知れぬ場所で、大層な仮面で顔を隠した男は、静かに奇妙なカプセルを眺めていた。
研究員風の男が無言で大掛かりな装置を操作している。
「初陣にしては、中々かな」
仮面の男が呟く。
「ですが、最適化には時間がかかりそうです」
二人の男は、苦笑を浮かべながら『彼等』について雑談を交わす。
カプセルには3人の人影が見て取れた。
水色の髪をした少年、緑の髪をした少年、金髪の少女。
それは、先ほどくしくも、アーモリー・ワンでシンが遭遇した、あの3人連れと同じ姿をしていた。