ユニウスセブン。 近づくとそれは壮大な塊だった。
「こんなに、大きかったんだ」
シンは思わず呟いた。
「当たり前だ、他のプラントと同じく人が住んでいたのだから」
『アスラン』が通信を入れて来る。
「…えぇと、…アレックスさん、でしたっけ?」
わざとらしく、シンは言った。
「どうせもう、君達には分っているんだろが…、一応はそういうことにしておいてくれ」
アスランは諦めた口調で意味深な言葉を言う。 その声にシンは訝しげな顔をした。
+ + + + + + +
「ねぇ、あれって…?」
ルナマリアが呟いた直後、メイリンが信じられない言葉を送ってきた。
「所属不明ジン二体観測」
「どういうことだ?」
シンは呟く。
「…犯人」
レイはぽつりと言った。
「犯人って、何のだよ。 …クソ」
シンは憤る。 こんな未曾有の事態に『犯人』だって?
それじゃあ、まさか、これは…・
シンが考えを進めるうちに、
「間もなくジュール体と合流」
メイリンがアナウンスをした後ほどなく、
『お前、アスランか?』
『貴様、こんな所で何を!』
『今は、そんな事を言っている場合じゃないだろう』
シンは思わず聞こえてきた通信に呆然としていた。
何がどうというより、
「ジュール隊長と…タメ口…」
思わず呟く。
ー本当だったんだ。 あいつが、アスラン・ザラだっていうのは。
シンは今更のように思っていた。
「カオス、アビス、ガイア、補足!」
メイリンの声が響く。
「なんだって?」
シンは叫んだ。
ーあの機体が、なんで?
「彼等は地球軍なんだ、だったら、地球の心配はしてるんじゃないのか」
アスランは言った。
「じゃあ今は、仲良く一緒に作業をやれ、とでも?」
シンは怒鳴るように言った。
「残念だが、あちらさんは、そうは思ってないみたいよ」
話に割って入ったのは、ディアッカと呼ばれていたジュール隊の兵士だった。
何故か隊長とタメ口だった一般兵なので、シンにも印象に残っていた。
「奴等は俺達が犯人と思ったらしい」
イザークは呟き、そして一同は散会した。
現れた敵に抗戦をする間に、
先に出ていたゲイツ隊が撃ち込んだ弾薬により、ユニウスセブンは、真っ二つに割れた。
でも、まだ半分になったにすぎない。
やはりそれはまだ、巨大すぎる塊だ。
なんとか、しないと、そう思いつつも、シンは目の前の敵と対峙することで手一杯だった。
「きゃぁ!」
交戦中のルナマリアの悲鳴が通信で届いた。 被弾したらしい。
「く…」
レイの声も響く。
シンは思わずあたりを見回した。
「クソッ、もう時間がないのに」
シンは呟く。
ユニウスセブンは落下を続けているのに、こんな所で戦闘など、している場合ではないのだ。
すると、
いつのまにか、イザーク、ディアッカ、アスランの3機は、見事なフォーメーションを組んでいた。
「なんだ?」
シンはぼんやりと声をだしていた。
目の前で繰り広げられているのは、現実とも思えない光景。
苦戦を強いられていたはずの、相手3機が、見事なフォーメーションにリズミカルとも言えるように、
次々となぎ倒されて行く。
あれが、あの『大戦』を生き抜いて、潜り抜けてきた、戦士…。
シンはしばらく、目を見張ったまま、それを見ていた。
+ + + + + + +
ほどなく敵母艦から帰還信号と見られる光が灯った。
今は『敵』ではないと、やっと分ってくれたらしい、シンはため息を洩らす。
しかし、落下を続けるユニウスセブンの残り半分は、気付くと、地球の大気圏に接近している。
シンは初めて感じる焼けるような熱風の震動に顔をしかめた。
するとミネルバからも帰還信号が放たれた。
思えば敵が潔く撤退したのも、これが原因かもしれない。
レイや、ジュール隊の者も帰還を開始していた。
「くそ、このまま戻ったら、結局地球は…」
シンは舌を打ち鳴らした。
すると、
「…デュランダル議長、申し訳ありませんが、避難艇へと後移動願います」
「どういうことだ?」
いぶかしむデュランダルに、タリアは毅然とした顔を向ける。
「出来うる限りの処置はしたく思いますが、あなたまで巻き込むわけにはまいりません」
笑みさえ混じったタリアの顔に、デュランダルは黙って従った。
「本艦はこれより、大気圏に突入します」
メイリンのアナウンスが通信から聞こえた。
ミネルバも大気圏へ、それならば、後はミネルバが撃ってくれる。
シンは撤退を決意した。
しかし。
シンは目を疑った。
アスランのザクは一向にユニウスセブンを離れようとしない。
慌てて通信を入れると、アスランは、艦からの砲撃だけではこの塊はあしらえないと告げた。
そしてアスランは尚も更なる弾薬をユニウスセブンにし仕込む。
そんな姿に、シンは思わず拳を握り締める。
「なんで、なんでこんな、こんな人間が…、なんで、…オーブなんかに…?」
ぽつりと思わず呟いていた。
そしてシンはアスランの作業の手伝いを開始する。
戸惑ったアスランだが、すぐにそれを受け入れ、二人は手早く作業に入る。
すると、そこには最初に補足された『ジン』が立ちはだかった。
「お前等、なんで、こんなことを…!!」
シンは憤って、叫ぶ。すると、
相手の…テロリストの口から、信じられない言葉が聞こえた。
パトリック・ザラ。
彼等は、かの指導者の、心酔者だった。
すると、アスランは目に見えて動きが鈍った。
シンは慌てて抗戦する。
「しっかりして下さいよ!!」
言いながら、シンは敵を薙ぎ払う。
しかし、直後インパルスにしがみ付いたジンはそのまま自爆体制に入った。
「っ!!」
シンが叫ぶ間もなく、インパルスは宙を舞い、そして、
爆発したジンの欠片が先程設置途中だった爆薬に当たる。
最後の希望だったその弾薬は、準備ままならぬ状態で小さな爆発を起こしただけで終わってしまった。
そして、残ったジンがアスランに向う。
先程の自爆で飛ばされたシンは、慌てて体制を立て直した。
はたと見ると、アスランのザクがジンによって動きを封じられている。
シンは慌ててアスランを助けると、そのままユニウスセブンから離脱した。
「インパルス、聞こえますか、インパルス!」
メイリンは悲鳴のように叫ぶ。
「タンホイザーの起動を」
タリアは淡々と言った。
「しかし、まだあそこには…」
アーサーはわなわなと呟く。
タリアは苦虫を噛み潰すように顔をしかめ、そして直後、ミネルバの主砲が放たれた。
「アス…、アレックスさん! アレックスさん、無事ですか!?」
アスランはぼんやりと目を開けた。
「君…、艦に戻らなかったのか?」
ザクを支える形で供に大気圏を落下するインパルスを見て、アスランは呆然と呟く。
「いくらその機体でも、このまま2機分の落下は無理だ、君だけでも…」
「大丈夫です!」
アスランの言葉をシンは怒鳴り声で遮る。
「絶対に無事にミネルバに帰るんだ。 …俺は、口だけのアンタ達とは違う!」
シンの言葉に、アスランは言葉を失い、そしてそのまま静かにくたりと首を傾げ意識を失った。
そして、シンはふと、アスランのザクを見る。
「アスラン・ザラ…、元特務隊フェイス、ザフトレッド、伝説のエース、…そして
パトリック・ザラの、…息子」
シンはぽつりと、そう呟いていた。
その頃、欠片とはいえ巨大な塊が、地球へと次々と落下していた。
落下先では、次々と惨事が発生し、地球は一夜にして混乱を極めていた。
流星にも似た、その姿を、シェルターの小さな窓からぼんやりと見つめる瞳があった。
「どうしました? あ、あれは…」
ピンク色の髪を揺るがせながら、近付いた影は窓へと歩み寄る。
窓を見ていた人影は、肩を小さく震わせる。
「…っ」
嗚咽までともない、苦しげに震えに耐えるその肩を、抱き締めるように、ピンクの髪の人物は支えていた。