日産スカイラインHCR32タイプM復活への道 

- 整備技術と技能 -
進化させ退化させる
  フロントサスオーバーホール開始

まず最初にクルマのどの部分が修理と整備が必要か

またはクルマを使ってきてこれでよかったのかと疑問に思った部分についての改善が必要かどうか、正確に洗い出すことからはじめます。

整備修理とレストアといいますのは必要最低限から高度な組み合わせによる補修まで様々なものです。

何を当たり前のことを言っているのかと思われるでしょう。

しかしこの組み合わせの中にとてつもなく高度な技術と技能が融合して

自分だけの特別なものを作り出すことができるのです。

生産ライン上で設定された品質項目以上の状況に自分自身の能力で転換できるのです

各部品の修理や整備について、言葉だけでは容易簡単に表現することができますが

目の前にある修理が必要なクルマに手を加えるということは

作り手と修理及び整備者の精神や考え方がそのまま対象車に対してモロに出てしまいます。

その怖さを理解しないと整備修理は出来ないものなのです。

  あなたならどうしますか?

私の場合、ストリートを重視したセッティングを実施します。

サーキットスペックでは有り余る性能の一部しか使えず、危険走行状態に陥ります。

例えば、現在のラリーカーやF1、F3の超高性能マシンをストリートで動かそうとすると

クラッチ操作は自動ですので楽かもしれませんが、発生トルクが全く違いますので

低回転状態で使用されるエンジンは特に破損、おしゃかになってしまうものです。

レーシングカーを起動させ走行させるという行為は、SLや自転車を動かすような感覚かもしれません。

最初は皆、素人、エンジン起動の仕方もアイドル設定も全く分からないのですから。

当然ながら、市販車とレーシングカーは、コンピュータセッティングからも全く違うからです。

その中で一番使えるもの、日常生活に使えるクルマとして考えた場合

ラリーカークラスでしょうか、ストリートで普通に使えそうなクルマとして成立しそうなのは

セッティングによって大分差があると思いますが、全体的に回転がかぶり気味になるのは確かですし

音量もレースカテゴリレギュレーションに合わせたものですから、国内車検に合格することは一部を除いて不可能です。

走行中はミッション、デフ鳴り、タイヤ鳴りが大きくて、ロングドライブの時は、おケツ、腰が痛くなることは確実です。

後はエンジン、ギアセッティングの改造が可能な人であれば、F1もF3も乗れます

しかし最低地上高の問題から、足回りのピボットから変更しないと走行は無理ですし

無理を承知で使用しても、荒れた路面でボトムを破壊してドライバーのケツまで使用不能になります。

また、お土産等々の荷物は一切載せられません。場合によってはスペアタイヤの場所に荷物が置けるくらいはあるでしょう

ロールケージに引っかかって、途中疲れて休むこともできないはずです。

高速道路は楽でしょうが、風圧でストレスが溜まって、もう乗りたくないとなるはずです。

市販車はそこがストリート用で開発設計されているのですから、それにしっかり合わせます

別に、高性能だけを求めていくと、ドライバー、人間そのものが耐え切れなくなります。

ストリートというと言葉だけの整備だろう!と思うのではないでしょうか。

私は、言葉だけを用いて整備する気にはなれません。

私自身がドライブする大切なクルマだからです。

長く乗り続けたいクルマだからです。

命を乗せるためのクルマだからです。

自分だけのクルマである以上、徹底的に直さないと安心できませんし

私一人だけの優越感だけで整備すると他人を巻き込むことになります。

これだけは絶対に避けなければなりません。

そういう思いをもって整備、修理していくものなのです。

新しいクルマを買えば済むという問題でもありません。

「スカイラインだから」一人で直していくのです。

思い入れの深いクルマだから直すのです。

新しいクルマを買えば済むと思う浅はかな考え方は僕にとってもう御免なのです。

  なかなか手ごわい

とりあえず、走ってみて、結果ヘロヘロになっている足回りのオーバーホールを行います。

先ずは駆動系で一番大切な部分であるブッシュ交換が必須となります

走行安定性、直進安定性が大幅に不足していまして、新車時からすこしずつ劣化したもの。

HICASもグニャグニャと勝手に動き回っていることも要因の一つです。

安定性、接地感がなくなった足回りとなっています。

クルマの下回りを覗き込み細部を確認していきます。

少し覗いてすぐ、ブッシュ交換作業が必要と判明。

しかもフルブッシュ交換。

重整備メニュー決定です。

HCR32はマルチリンクサスペンションを採用しています。

構造上マルチリンクといっても実際は商標上の関係からマルチではなく「名称」だけですが

ストラットとは比べ物にならないくらい良い足、ダブルウィッシュボーンのNSXも最高ですが国内道路では幾分ストローク不足。それでも良い足の代表です。

整備上で必ずといってよい不具合として、スカイラインの弱点ともいえるテンションロッドブッシュ切れがあります。

封入されたオイルがブッシュの中から流出してしまうのです。

このブッシュを交換するだけで確実に走りが蘇ります。

面倒な圧入作業になりますが、作業した分確実に安心が得られます。

ちなみにディーラー等ではブッシュ交換作業はしないそうです。

技術上の問題からできないんでしょうね。(工数と売上から考えて拒否状態なわけです)

チェンジニアはAssy交換のほうがよいからです。

ブッシュ交換は時間をかけて行ったほうが本気で綺麗に収まってくれます。

そういう理由から、敬遠指向が続いて特定の業者だけの特権になってしまった感が強い

ユーザーの財布にはひとつも優しくありません。

  もし交換を引き受けてくれたら・・・

交換できるディーラーで工賃が少々異なるようですがフルブッシュ交換を依頼したら

部品代コミで50万近い工賃を請求されます。

サブフレームメインブッシュについては、とにかく外れない、取り外す方法が分からない

是非教えてほしいと問い合わせが多数ありました。

身分をお尋ねしますと、プロの方なのです。皆様。

ならば、僕に聞くのはモラル違反でしょう。整備士なんだからさ。

勉強不足、知識不足を自ら証明してしまうのには呆れます。

確かに僕も勉強不足なところは多々ありますが、いきなり答えを聞くことはしない主義

ブッシュ類を整備士にお任せする

これじゃ、単に自己満足で終わってしまうだけだと思います。

ならば、自分で!となりますがそうそう交換できるものではありませんので悩みどころとなります。

一番効果的な方法はAssy交換するくらいならば単品ブッシュで交換すれば同時に技術と技能を高められます

作業した感動がそのまま走りに表れてくるものです。

対費用効果を考えた場合、安いほうがよいに決まっています。



写真はフロントサスペンションのテンションロッドです。(ひび割れ、劣化していることが分かります)

この部品の劣化が酷く、個体差なく不具合が多いです。

ゴム部分から破損、切れが発生してその中に封入されているオイルが滲んで、垂れ流しになってしまいます。

車検の時、もしこのブッシュが壊れていた場合、不合格となるので特に注意したいパーツです。

常に目視で確認するクセが必要かもしれません


  単品ブッシュ交換後




単品ブッシュ交換ですが、交換後は走りが明らかに変わります。変わったことは誰でも体感できるくらいです。

圧入作業は結構大変ですが、きちんと作業できればこの工数だけで2万円近い経費を節減できるでしょう。

取り付け作業は、少し難しいかもしれませんが一つ一つ確実に作業していけば大丈夫です。

取り付け作業は基本を大切に

 次はアッパーリンク

こちらも単品ブッシュ交換でパーツそのものを復活させます。



このアッパーリンクのブッシュ交換はスカイラインファンの間ではあまり交換しない部品の一つとのことです

4種ブッシュ単品交換は個人では不可能に近いかもしれません。

寸法指定もあります。

大半はニスモ製を購入してAssy交換するとのことです。

僕はAssy交換はしません、こんなもの簡単に作り替えます。

現在はわかりませんが、ニスモ製で両肩5万円近い部品代はどうにも高いと思うのは僕だけでしょうか。

単品ブッシュ交換でかなりの金額の出費を抑えることが可能になります。

ブッシュの形状を良く確認すると、どうやってブッシュ交換するのだろうと悩む人も多いです

しかし、ある方法を使うと簡単に交換できます

ギアプーラーでは駄目です

まず古いブッシュはプーラーでは引き抜けません。

ニスモの方はこの手のブッシュ交換はしたことがないらしくて、一度交換作業について相談してみたらマイナスドライバーで叩けば大丈夫というから驚きました。

直接聞いたために、目がテンになりました。それ以来、ニスモには顔を出さなくなりました。

仮にニスモ工法を用いた場合、間違いなくアームが使い物にならなくなります。

適正寸法なんて出せません。

高精度に組み込まれているアームです。しかも溶接されております。

普通の組立て方法ではまず再使用は無理です。

ハンマリングはフツーしないと思います。

特殊工具を自作しないと駄目かもしれませんが

工作機械が必要かもしれません。

僕はSSTをひとつもしくは二つほど自作してR側L側、計8個のブッシュを交換しました。

交換方法が分からないという人は、形状をよくみて判断してください。

必ず分かります。



 今度はAssy交換 

さて、サスのメイン部品アッパーリンクのブッシュ交換が終了しましたら

次はフロントロアアームの交換です。

本来ならば、ここもブッシュ単品交換としたいところですが、単品交換の場合の方が高くつくことが分かりました。

ということで、ここはニスモ製を買ってそのまま交換します。

理由はラバーブーツがひび割れていますのでジョイント部分を交換する必要性があります。

ジョイント部分というよりもラバーブーツが単品設定がないため純正部品で対応しようとするとかなり高いのです。

現在は流用可能なもの、ブーツ単品購入可能な時代になりましたのでWeb検索してもらえると助かります

日産ディーラーサービスに値段を聞いて、僕はあまりの高さにびっくりしてもう一度聞きなおしてしまいました。

フロントサスのロアアームってこんなに高いのか?

ならば、ニスモで買ったほうが安いではないですか。

たった一つのゴムパーツのために、高い費用を払うことはしたくありません。

ラバーパーツ単品で買えないか探してみましたが、当時はまだラインナップがなくて

NGでした。(今は購入可能、のはずです)

ニスモパーツの方が格段に安く済みます。

 フロントサス周辺の消耗品を交換

古くなるとまず破損してしまうパワステのダストブーツ、タイロッドエンドブーツの交換です

ジョイントAssy交換ですとと、やはり必要以上の経費がかかるので部品状態をみてブーツだけを交換します

殆どの部品、ジョイントを取り囲んでいるダストブーツやラバーブーツ交換で済んでしまうのですが

予算が許すのであれば中古品を使わずに新品部品で直した方がよいかもしれません。

 重要部品は全部取り外して整備します。



ここで、もうひとつお気づきになると思います。

車上整備で済むかどうか、悩むところです。

どちらにしても取り外さないと出来ない作業ばかりですので全部取り外しています。

一番作業する上で悩むのは部品単体重量です。

航空機を整備する時と違って、自動車整備は中途半端に重い重量物を人が降ろしたり上げたりするのです。

航空機の場合は完全にクレーン、ホイスト、油圧工具を使って作業しますので人の負担は少ないのです。

また軽自動車より部品単体重量は数倍の違いがありますので大変です。

僕のように腰痛もちにはとても苦労します。

そこはよく考えて、体の負担を低減できるような方法で作業を試みます。

体力勝負では良い作業はできません。

しかも、一人で全て作業する方式を貫いていますので少しでも頭を使わないといけない。

テコの原理は本当に役立ちます。

馬力勝負では

単なる体力消耗で終わってしまいます。この消耗を抑えるにはやはり「技術と技能」という言葉が必要になってきます。

急いで直して、早く乗り出したいという気持ちはこの時は一切捨てるしかありません。

じっくり完成させていったほうが失敗はつきものですがその分思い入れは深くなるものなのですから。

小言を言いながら頑張りましょう。

最近、日産、多分オーテックあたりだと思うのですが、入手不能パーツの一連リスト計上分を再販したそうです。

ホンダ系NSXのオールリフレッシュプラン(リペアプラン)と一緒の方法でしょうか。

これでR32系列が復旧しやすい環境が整いつつあります。嬉しい出来事ではありますが

今度こそ、アンダーステア系の32ではなくドライバーの意思に反しない走行性能を実現させてあげてください。
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