「うずのしゅげ通信」
2015年8月号
【近つ飛鳥博物館、河南町、太子町百景】
今月の特集
支那事変従軍記章
フェイスブックより
俳句
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2015.8.1
支那事変従軍記章
父の遺品の中に、写真のような『支那事変従軍記章』なるものがあります。
父は、「支那事変」に従軍していました。
「支那事変」というのは、宣戦布告がなされなかったために事変と呼ばれていますが、要するに日中戦争です。
父は砲兵でした。馬で大砲を輸送していたようです。 南京事件のときも、あとで南京に入ったというふうなことを言っていました。 もっとしっかりと聞いておけばよかったと悔やんでいます。 ただ、いわゆる南京事件なるものは、見聞きしたことはなかったというようなことをポツリと漏らしたことが あります。
父は通算八年の従軍生活で、その間、足に貫通銃創を負っています。
命を永らえたのがせめてもの幸いでした。
そのおかげで現在の私があるのです。
父が従軍していた間、母は女学校の教師をしていました。
もう一枚の写真を見ると、南京占領の日、女学校でかぼちゃ神輿が繰り出した様子がわかります。
「なんきん取った、なんきん取った」と囃したてながら校内や近所を練り歩いたのでしょうか。関西では、かぼちゃのことをナンキンといい、 それを南京とかけたもののように思われます。
写真にはかぼちゃの張りぼて神輿を囲んで、「祝南京占領」の幟、 「祈(?)皇軍武運長久」の垂れ幕などが見られます。
ここにも日中戦争の現実を垣間見ることができます。戦争を銃後で支えた庶民のありようがわかります。
今の世の中、またこのような状況を追いかけてゆくのでしょうか。
このエピソードは、脚本「パンプキンが降ってきた」の中でも使ったことがあります。 興味をお持ちの方は、ご一読ください。
2015.8.1
フェイスブックより
以下、7月12日にフェイスブックに投稿した文章です。
「今日の一句です。
祈りとは折れるに任せたる葦か 曾根毅
この句、朝日俳壇の句集紹介でも引用され、また金子敦さんもフェイスブックで句集『花修』を取り上げられたとき十句の中に選んでおられて、心のどこかで気になっていました。どういうふうに解すればいいのか、私なりに考えていました。
そもそも「祈り」とは、私に限って言えば、心が折れそうな苦しみ、絶望の中から立ち上がってくるもののように思われます。自我が折れてしまわないうちは、ほんとうの祈りにはいたりません。心が折れて、折れるに任せて、もはや修復する意欲も失せたとき、祈るしかないという状況に追い込まれた時、どこかから呼ばれるようにして祈りに導かれてゆく。
そんなふうに考えるとき、この句の意味が立ちあがってくるのではないでしょうか。
葦とは、まさに私のことだと、そんなふうに私はこの句を読みました。ここでは、考える葦ではなく、苦しみ祈る葦なのです。
深読みかもしれません。もっと軽く、たとえば漢字の類似を遊んでいるだけかもしれない。
金子さんが選んでおられる十句の他の句をみても、もう少し軽く解釈した方が、いいようにも思われます。
しかし、私は、上の解釈を捨てきれなくて、ともかく、ここに自分の考えを認めておくことにしました。
辞書も歳時記もないところで書いていますので、たよりない文章になっていると思います。ご批判ください。」
それに対して、青山進一路さんから、作者の曾根毅氏は、
「3・11に仙台港に出張で来てい」て、「震災句として上記の俳句もつくらたと思」うという
コメントをいただきました。
そういった作句の事情は知らなかったのですが、青山さんがおっしゃるように、
震災句として詠まれたのなら私の解釈もあながち的外れではないのかもしれません。
2015.8.1
俳句
今月の俳句
今生に裁くものなし原爆忌
ここよりは女人禁制夏料理
ひしめきて全集棚の大暑かな
窓簾光の滝の降(くだ)りけり
ガガンボや夕焼けかくも美しき
自づから死地に赴く蚯蚓かな
遠国(おんごく)に子を逝かしめて鮎にがし
鬼やんま虫籠かさと骨(こつ)の音
じだらくに残り世生きて山椒魚
月の友もはや嘆かふこともなし
母の写真までが美し夏座敷
十一面観音肩の夏埃
立像の衣紋流れて涼しけれ
葦掴むとき来たるらし夏の月
王陵の谷急く白雨墳動く
遠国の悲しみごとや夏花挿す
扇ぎやれば目瞑りて受く嬰子かな
表札に指押し当てし嗚咽冷ゆ
底冷えに早回しする美僧かな
夏星座孫と仰ぎてわが余命
わが内に夏薊咲く棘深し
蝶の道狭まるごとし黒揚羽
梅雨曇縦笛遠く倦まざりし
じゃれ合ふて嬰覗きこむ夏帽子
幼らが嬰覗きをり夏蕨
父の裸貫通創に触れしのみ
兵たるは一生ものか若牛蒡
成仏は声まず失せて稲の花
薄味の妻やひときわ衣被
レコードの黴る話や嫁舅
臍の緒が予備と二つに枇杷の種
翁面の髭煤けをり麦こがし
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