憲法典とは、国民の自由、権利、義務を含めた、国家の基本的なあり方を定めた法典です。この憲法においてこそ、国家の基本的な価値が決定され、それは、他の政策分野においても、逸脱してはならない基本的な枠組みとして作用することになるのです。そこで、価値決定系の政策とは、この憲法の制定および改正ということになります。
1.憲法の歴史
単に法律によって国家の基本的仕組みを定める、という意味における憲法は、古代や中世にもありました。しかしながら、国民の自由や権利の保障に立脚した法ということになりますと、イギリスの『マグナ・カルタ(1215年)』が最初の憲法ということになります。もっとも、現在でもイギリスは不文憲法の国であるように、『マグナ・カルタ』は、憲法典という包括的な形式で制定されているわけではありません。むしろ、国王と諸侯層との間の双務的な封建契約的な側面を持っていました。
憲法典という形式が最初に採用された国は、13の独立国が合併して誕生したアメリカ合衆国です(1787年調印)。連邦制の採用により、連邦政府と州との関係や権限は法典を以って定める必要がありました。さらに、修正十カ条により、国民の自由や権利の保障を定めた権利章典部分が追加されることになったのです。この憲法典方式は、フランス革命やその後の自由主義運動における国政改革においても採用され、他の諸国にも広がって行きました。こうして、憲法を持つことは、議会の開設と並んで近代国家の要件となったのです。
2.憲法と民主主義
それでは、憲法は誰が定める権限を持つのでしょうか。立憲君主制にあっては、君主に制定権がある場合が多く、君主が制定した憲法は、欽定憲法と呼ばれています。しかしながら、民主主義の価値の具体化の過程にあって、憲法を制定する権力が国民に存する国が増加してゆきます。国民主権の原則のもとに国民によって制定された憲法は、民定憲法と言います。こうして、現在の民主主義国家では、憲法を制定、あるいは、改正する権力を国民が持つために、憲法問題は、政策的な議論の対象となっているのです。
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