政治分野における戦略決定は、防衛や安全保障といった国家の命運を左右する事柄と直結するために、国益は、おおよそ国民の間で一致する傾向にあります。しかしながら、経済分野の戦略系の政策領域では、しばしば、国内の利益が分裂することがあります。 その典型的な例は、通商政策の分野です。WTOの交渉過程において観察されるように、例えば、自由貿易促進政策を実施しようとすれば、国内の農業経営者からの強い反対を受ける傾向にあります。この場合、工業製品の輸出を拡大させたい産業界、廉価な製品を購入したい消費者、手厚い政府保護のもとにありたい農業従事者との間の利益が鋭く対立することになります。このように、対外的な通商政策では、必ずしも国益が国民の間で一致するわけではありません。 そこで、制度的な側面から見ますと、経済分野の戦略系の政策領域では、政治分野ほどリーダーシップ重視の仕組みを採らずに、場合によっては、議会の関与を認めるなど、調整型を組み込む必要があります。つまり、国内の多様な意見をくみ上げる仕組みを準備する方が、相対立する利益が合意に達するような政策決定が可能となるかもしれません。少なくとも、政治分野と経済分野とでは、政策の性質が異なりますので、それぞれにふさわしいシステムを築く必要があるのです。 第5章へ戻る |