内部調整の制度

 内部調整とは、国民の中にある多様な意見や利益を調整し、合意を形成することです。この役割の本質を考えますと、内部調整の制度は、戦略系のトップ・ダウン方式よりも、合議方式の方が適していることになります。また、国民の利益や必要性には多様性がありますので、財政の負担者となる国民が意見表明ができるシステムがない、ということになりますと、財政は、国民の利益のために使われなくなる可能性が極めて高くなります。そこで、国民の代表から成る議会や評議会などの機関が、統治のシステムの中に設置されることになりました。
 議会の最初の役割は、国内の内部調整、というよりも、暴走しがちな執政機関に対する牽制にありました。この役割にあっても、課税同意権という財政上の権限が、執政機関に対する有効な対抗手段として用いられました。
 議会制度は、さらに議院制を通して組織分化してゆきます。西欧に散見される身分代表を原則とする中世の身分制議会は、議会内に複数の議院を置くという議院制を残しました。また、連邦制の国家においては、地方代表を原則とする議院を設ける場合もありました。さらに、古代ローマの元老院のように執政機関のご意見番であったこともありました。現在においても、各国の議院制は、およそ、こうした歴史的な背景に基づいて設置されています。
 近代に至りますと、議会の姿はさらに大きく変化してゆきます。その背景には、産業の発達に伴う国民の意見や利益の多様化があります。ここに、政党という組織が政治の舞台に登場してくるのです。政党は、当初、議会内部の派閥に過ぎませんでしたが、やがて、国民の間の多様性は、特定の政治信条や利益を掲げる政党を通して、政治の場に届けられることになりました。この意味において、国内の意見や利益の多様化と政党政治、そうして、普通平等選挙を基盤とした議会制民主主義の発展は、軌を一にしていたのです。
 ただし、戦略系のシステムが他の領域に適さないように、調整系のシステムもおのずと自らに適した範囲があります。例えば、有事に際して合意形成を重視しますと、”小田原評定”となって国家は、なすすべもなく敗北してしまうかもしれないのです。第二次世界大戦におけるフランス第三共和制(小党分立体制)も、この例の一つとして挙げることができましょう。


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