秩序維持の制度/経済分野

 市場秩序の維持の場合もまた、法の支配を実現するために、制度的な中立性と独立性が不可欠となる点において社会秩序の維持とかわりはありません。市場の秩序維持機関は、政治からも私人からも独立していなくてはならないのです。

1.立法

 市場秩序と社会秩序の維持との間で大きく異なる点は、その立法過程にあります。市場の秩序維持の場合には、対象が全ての人々とはならない場合が大半を占めているからです。これは、市場には、様々な産業分野や職種があるからです。このため、共通のルールを制定するにしても、特定の部門に対象を限定することになります。
 国民全員に関わらないような部分的な立法に際しては、通常の議会立法の他に、行政立法という形式があります。これは、行政サイドが対象となる部門の意見や要望を聴取した上で法案を作成し、政府提出法案として議会に採決を求める形式です。この方法は、国民的な議論の対象となるような法律ではない場合に採られます。

2.執行

 市場の秩序を維持する役割を担っている機関は、公正取引委員会、証券取引委員会、金融監督庁、並びに各省庁の担当部署などです。これらの機関は、政治機関から切り離した形で組織されています。また、中央銀行の独立性確保も、通貨価値が、政治介入によって操作されないための制度的な工夫と言えます。中央銀行が政府に従属してしまいますと、国債の中央銀行の大量引き受けなどにより、悪性のインフレを招く危険があるからです。通貨価値の人為的な変動も、経済活動のリスクを高めます。インフレは、”隠れた増税”とも称されていますので、国民は、気付かずして資産を失うことになるかもしれません。このように、取引の安全や通貨価値の信用性を維持するために、経済分野においても、制度的な独立性は重要な要件となるのです。

3.司法

 司法に関しては、社会秩序の維持と同様に、裁判所と裁判官に独立性が保障されていなくてはなりません。ただし、この分野においては、行政機関に準司法的な役割が認められている場合があります(行政不服審査)。このため、しばしは、行政機関に、立法、執行、司法の三権が集中しており、権力分立が働かない、と批判されることもあります。


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