国民とは、国家を形作る”人”の枠組みです。それでは、この国家の人的な枠組みとは、いったい、どのようにして出来上がってきたのでしょうか? この問いに対する答えは、人類史の中にあります。国民とは、何らかの合理的な基準で人類全体を小集団に分けたのではなく、今日に至る歴史の中で、異なる言語や習慣を持つ人々が、離合集散を繰り返しつつも、運命を共有する集団を形成したという歴史的な事実の結果なのです。こうした人種、言語、慣習、歴史を絆とした集団は、民族と呼ばれています。コミュニケーション手段として共通言語がありませんと、国家や社会は成り立ちませんし、また、様々な歴史や伝統に基づく共通性は、国民と国民とを結ぶ紐帯の役割を果たしているのです。 現代の国民国家体系とは、原則としては、この民族を単位とした国家並立体系を意味しています。今日の国際法においてもなお、民族のまとまりは、独立した国家を持つ正当な根拠となっています。もしも、この原則を完全に否定する、ということになりますと、どの国も、他国による支配に対して何らの抵抗権を持つことができなくなります。そこで、国際法では、既存の国家内部における分離独立運動の可能性を含みつつ、民族自決権を承認しているのです。 ただし、国民とは、歴史的な存在のみでは割り切れない側面を持っています。法的な側面から見ますと、出身民族の如何にかかわらず、国籍の有無が国民を決定するからです。この法的な意味の国民には、国家との間に明確な権利・義務関係が生じます。そうして、統治という作用は、法的には、むしろ、法律的な資格のある国民との間に働くことになるのです。 第2章へ戻る |