秩序維持と政治学

 政治学において、秩序維持の機能と政治学との関係は、国家にあって個人の自由と権利はどのようして守られるべきか、という問題意識と密接に結びつい考察されてきました。こうした個人の自由と権利を基礎に据えた政治学は、個人主義的政治学とも呼ばれています。
 個人主義に基づく政治学の発祥の地はイギリスです。17世紀、王党派と議会派との間の激しい内乱の中で、イギリスの人々は、自らの生命、身体、財産が常に危うい状態を経験しました。いつ何時、相手方によって、これらの基本権が奪われてもおかしくはなかったのです。この無政府状態とでも言うべき革命期に生きたトーマス・ホッブスとジョン・ロックこそ、個人主義的政治学の基礎を築いた最初の人物達となります。
 統治権力は、個人の自由と権利を守るためにある、という立場を最初に明確に打ち出したのは、ホッブスです(書名の『リヴァイアサン』は、海の怪獣の名です)。権力の腐敗を考慮せずに主権者に絶対的権力を与えたため、目的のための”手段”は間違えた感はありますが、ホッブスは、個人間の契約によって自由と権利の守護者となるべき主権者に統治権限を委任するという社会契約説を打ち出しました。
 この社会契約説を、さらに個人の所有権保護に重心を移して組み立てなおしを試みたのが、ロックです。ロックの場合、目的のための手段は、立法機関である議会を中心とした分権的な統治制度、ということになりますが(この”手段”にも問題はあり!)、個人の労力を所有の正当性の根拠とみなし、個人の経済活動の自由を政治的自由と結合させたことにおいて、ロックの理論は、その後の自由主義の流れを方向付けたことになります。
 この自由主義の系譜は、アダム・スミスをはじめとした経済的自由主義と共に展開し、現代政治学では、ハイエクやノジックなどの自由主義思想家を生み出しています。これらの自由主義の特徴は、個人の経済活動の自由を最大化するために、制約となるような政府の介入を最小化し、政府自身による営利的な活動を否定することにあります。そうして、これらの自由主義の系譜は、市場経済を理論的に支えることになるのです。

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