民主主義

  国家が、戦略決定、内部調整、秩序維持、枠組の維持といった本来の役割を果たし、かつ、国民が信頼できるような統治がおこなわれるためには、民主主義、自由、法の支配、平等、そうして、対外的には平和といった諸価値を実現する必要があることがわかりました。しかしながら、これらの価値を、あらゆる分野で同時に充たしたり、あるいは、国家の役割と価値との整合性を保たせることが、実際には、困難な場合があります。
 例えば、自由と平等が衝突し、両者が反比例の関係になる問題は良く知られています。個々人が自由を追求すればするほど、所得などの面において格差は広がります。反対に、平等を徹底しようとすれば、格差を生み出す自由な行動は否定されることになります。こうした問題は、機能の系列に即して政策や価値の棲み分けを行えば、ある程度は解決できるかもしれません。市場にあって、自由が経済発展を促す場合には、規制は緩和させるべきですし、最貧層が出現しないためには、内部調整の領域での政策を行う必要もありましょう。ただし、完全な結果の平等は、労働インセンティブを削ぐことになりますので、経済全体から見ますとやはりマイナスの面は否定できません。
 また、防衛や安全保障の文脈にあって、個人の自由(例えば、防衛協力拒否や敵国への内通)が認められるかという問題も、統治の機能との関係から考える必要があります。つまり、有事のように、国家として対外的な戦略行動を採らねばならず、一人の人の行動が国民全員に被害を与える可能性がある場合には、個人の自由には制約が課せられることになるのです。
 以上は代表的な事例に過ぎませんが、価値とは、あるべき政策領域に位置づけられて、はじめてその本来の力を発揮します。諸価値の間の衝突、そうして、機能と価値との整合性の問題は、統治に伴う熟慮と判断の問題でもあるのです。


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