国民

 集団に必要となる全ての機能を果たしている国民国家とは、以上に述べてきた系統別の諸制度を全て合わせたシステム統合として捉えることができます。
 このため、執政機関や議会といった諸機関は、系統ごとに異なる役割を担うことになります。例えば、執政機関は、戦略系の政策領域においては主役ですが、調整系の政策領域においては、むしろ、議会を牽制する立場に回ります。このように、チェック・アンド・バランスが適切に働くことによって、統治全体が調和的に機能するようになるのです。
 そうして、この系統ごとの性格の違いは、国家のみならず、国家の枠組みを越えた統治体であるEUにおける、EUと加盟国との間の権限配分をも説明しています。市場のグローバル化に対応するため、EUでは、幾つかの分野で政策統合を行われています。
 今日存在する統治制度とは、人々が経験してきた様々な欠点や悲劇の原因を、その都度是正しながら今日まで発展させてきた成果です。この過程にあって、ある時には、他国をモデルとしたり、また、権力分立のように理論化された制度を導入することもありました。何れにしても、人々は、そこに価値を見出し、受け入れ、そうして工夫を凝らすことで、自らの統治制度を築いてきたのです。
 一見、複雑で無意味なように見えるシステムにも、それが存在する理由があります。分立体制は、効率性のみから見ますと確かに非効率かもしれませんが、権力や機関が分立しているからこそ守られる価値でもあるのです。そうしてまた、統治制度には、今後とも、時代の変化に対応しつつ、さらに発展してゆく余地が十分に残されています。統治の制度とは、これで完璧ということがない、永遠に未完の存在なのです。


  第五章へ戻る