†† 夢 守 教 会 ††  第二話「痛みの在処(アリカ)」5/(1)

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 夕日の朱色の光は、その大本の太陽が没したのに合わせて既に消えてしまった。今、僕たちを包んでいる光は、薄闇を頼り無く照らす街灯の光だけだ。
 模造の塔の屋上で妖精と対面した後、理子が帰る前に寄りたい所があるというので付いてきた。
 既にツインタワーから三十分ほど歩いている。もとから今日は最初の移動の時点から歩きだったので体力を使っていたし、模造の塔を一階から二十二階まで上って住人と対話をしてきた後だ。さすがに僕も幾ばくか疲労感を覚えている。女の子である理子はなおのことだろう。
「ここだ」
 理子がそう言って薄闇の中で立ち止まったので、僕は目的地であるらしいその場所を見渡す。
 この町に住んでから一年ちょっととはいえ、有名な場所だから分かる。ここは、町にある県の武道館だ。
 理子の意図が読めない。僕が空手をやっていたことと何か関係しているのだろうか。
 敷地の中心に重厚な存在感でもってそびえている、メインの武道会館に目を向ける。
 一階が柔道場で二階が剣道場。三階は薙刀か何かで使われる場所のはずだ。柔道場にしろ剣道場にしろ、試合場を六面とか取れる、非常に大きな会館だ。
 しかし、今の時刻は一階にしか明かりが付いてない。さすがに会館のタイムスケジュールまでは知らないが、どうやら今日の夜間は柔道場しか使用されていないらしい。
「管理人さんに鍵を借りてくるから、ちょっと待っててくれ」
 理子がそう言って、武道会館の脇の事務所の様な建物に向かって歩いていく。
「鍵って、柔道場がまだ開いてるみたいだから、一階からなら入れそうだけど? というか、理子が鍵を借りたりできるの?」
 僕は、自然に頭に浮かんだ疑問を口にする。
「鍵に関してはちょっとしたツテがあるから借りられる。そして、その鍵で開けるのは、あっちだ」
 そう言って理子が指した方を見ると、そこには敷地のメインである武道会館からは少し離れた、敷地の位置関係で言えば隅の方に位置している、弓道場があった。
「分かった、弓道場の前で待っていればいいんだね」
 理子の意図が未だに読めなかったけれど、素直に従うことにする。この場所に移動してくるまで、理子とは会話らしい会話をしなかった。場所が弓道場というのは不思議な感じがするけれど、今はとりあえず、建物の中で理子と話がしたいと思った。
 シーモアグラスと名乗ったあの妖精の話に関して、理子がどういうことを思っているのか、知りたいと思ったからだ。
 敷地内に設置されていた時計を見やると、時刻は夜の八時に差し掛かった所だった。この季節の夜はさすがにまだ寒いな。そんなことを考えながら、弓道場の前で理子を待った。
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