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夢 守 教 会
†† 第一話「少女のケニング」1/(3)
◇
「こんばんは。優希です」
暗闇の中に浮かぶ電光の明かりに照らされた、『日本語』の一枚札が垂れ下がる小部屋のドアをノックする。
当学園における日本語教師の滞在所は、今では使われなくなった旧体育館の脇に付随するプレハブ小屋の一室にある。とは言っても、現在の所この葉明学園に在籍する日本語教師は菖蒲さんただ一人だし、他にこの古々しい建物を好んで使う教師もいないということで、プレハブ小屋はほとんど菖蒲さんのホームになっている。
そんな女性の家の、あまつさえ私室をこんな深夜に訪れていいものかどうかとチラリと心に過ぎったけれど、状況が状況だけに仕方がないと割り切る。菖蒲さんは女性と言っても特殊な部類に入るのでまあ大丈夫だろうと、少しばかり失礼な考えも過ぎる。
「開いてるよ」
中から菖蒲さんの返事が返ってくる。
良かった。夜行性の菖蒲さんのことだから起きているとは思ったけれど、案の定だ。
なんて安心しながらも、やはり、この深夜に鍵もかけずに個室で一人活動するという神経は、いかにここが学園の中だろうと、少々この人は普通の女性とは違っているよな、なんて感想も同時に想起されたりする。
遠慮無くドアを開けて中に入ると、途端に暖度の高い空気に僕の肌は包まれる。ここを訪れるのは初めてではないのでもう知っていることだけど、外部と内部では二度ほど気温が違うのだ。
じゃあ、部屋の中に暖房が入っているかというと、そういう訳ではない。この熱は、菖蒲さんが駆る大型パソコンの稼働熱なのだ。
◇
――相変わらずだけど。
スゴい部屋だと思う。
壁一面に並ぶ木製の本棚に、中にびっしりと詰め込まれた和洋を問わない蔵書(そのほとんどが難しい学問書なのだけれど)。それだけでも壮観な眺めなのだけど、それに加えて、本棚の途切れに設置された大型のコンピュータが大仰な存在感を放っている。何やら太い配線がタコの足のように何本か飛び出している中央のメインマシンだけでも通の人には圧巻らしいが、それに加えていくつかのサブマシンがタコの本体を守るように設置され、かつお互いが密な線で繋がれている。書籍と電脳。この一見相反する二つがそれぞれ強力に自己主張しながら、それでいてお互いを高め合っているような止揚された部屋。それが菖蒲さんの部屋だ。
そんな濃い質感に満ちた部屋の正面、稼働するメインマシンに正対する形で、当の菖蒲さんはこちらに背を向けて座っていた。
「菖蒲さん」
深夜に訪れてしまった事情を説明しようと声をかける。
が、菖蒲さんは手だけをこちらにかざし、ひらひらと振りながらそれを制止するような素振りを見せた。
「いいよ。こんな夜中に優希が私の部屋に来る。状況は分かるよ。待ってて、三分したら話を聞いたげるから」
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