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夢 守 教 会
†† 第四話「花の名前」1/(5)
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親と言うのは、子どもの知らない世界を知っている不思議な存在だ。
僕が生まれる前の世界を知っているという点でまず不可思議な存在だし、僕の記憶があやふやな幼年期の出来事を事細かに覚えているという点ではやっかいな存在でもある。
入院中の個室に入ってきた母さんは実にとりとめのない世間話をはじめ、現在は僕が赤ん坊の頃におっぱいを良く飲んだという、こちらとしてはそんなこと言われても覚えていないとしか言いようがない話をしている。
「優希は右のおっぱいが好きだったみたい。めちゃめちゃ吸うから、めちゃめちゃ出たのよ」
「うん。あたり前だけど、覚えていない」
父さんと母さんはここからはだいぶ離れた南にある町で、クリーニング屋を営んでいる自営業者だ。収入は多くもなく、少なくもなく、今は自立した姉さんにお金もかからないし、経済的には本当に「一般的」な生活を営んでいると言えるのではないだろうか。普通を愛し、実際に普通な人達だ。ごくごく一般的に、僕には高校を卒業して大学に入り、ちゃんとした職に就くことを望んでいると、直に本人達の口から聞いたこともある。
「背中の傷が良くなるように、魔術をかけてあげる」
そう、どこまでも普通な人達であるということは、つまりはどこまでも普通に信仰を持っているということだ。
母乳の話をしていた所からどう展開したのか、怪しげな三枚のカードを懐から取り出してそう言う母さんを見て、僕は溜息をつく。
「母さん、昔からもう何度も言ってきたことだけど、オレ、その魔術、信じてないからね」
小さい頃からケガをしたり病気になる度にこの魔術的な施術を受けてきた僕は、既に勝手を知っているので、ポツポツと衣服の前のボタンを自分で外していく。信じてはいないのだけど、行為を受けること自体には抵抗がなくなっている自分がいる。
「大丈夫。アタラクシアの天元は永遠に通じているから。あなたが信じていようが信じていまいがちゃんと効果があるんだから」
そう言ってあらわになった僕の胸部にカードを並べていく母さんを、僕は懐かしく思った。この施術、本当に子どもの頃は意味が分からないまま受けていれていたな。
「エル・クリオテア・サラブ・アタラクシア」
やがて母さんは怪しげな印を切り始める。
(アタラクシア)
父さんと母さんが信仰している、魔術を教義として唱える怪しげな新興宗教の名前だ。
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