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夢 守 教 会
†† 第四話「花の名前」1/(7)
◇
刺された経緯とか、今の僕の状況とか、母さんは一切聞かなかった。施術を終えて部屋から立ち去ろうとする母さんに、僕は何と言ったものかと思う。
「名前」
そう切り出した僕に、母さんは「何?」と問いたげに細い目をさらに細める。
「こっちで知り合った大事な子に、名前の由来を聞かれたよ。父さんの名前と母さんの名前から一字ずつ取って付けられたんだと、答えておいた」
「その娘は何て?」
「ベタだな、と、言ってた」
母さんはシュっと音を立てて取り出していた怪しげなカードを揃えると、懐にしまい、見舞い用の椅子から立ち上がる。
本当に、何も聞かずに帰ってしまうらしい。
「ベタだけど、そのベタさは、魔法なのさ」
「魔術じゃないんだ?」
「そう、それはアタラクシアの魔術とは関係無い、魔法だね」
母さん、希(のぞみ)さんはそんなことを言った。
「自分が消えた後も、あなたに続いていて欲しいっていう、永遠を超える最後の魔法なんだよ」
◇
母さんが立ち去っていった病室で、一人思う。
アタラシクシアの魔術が聞いたのか、久々に母さんに会って安堵したのか。
傷の痛みよりも、何か胸に残った温かいモノが気にかかる。
そんなことを思いながら、その日、僕は閉ざされた病室で眠りについた。
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