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夢 守 教 会
†† 第四話「花の名前」2/(1)
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菖蒲の花/マイナス3
男の内部から「痛みの音」が聞こえてこないことにその時わたしはようやく気がついた。本当に自分が今日殺されるのだと、それは抗えない事実なのだと、理解する。
「あなた、既に何人か殺してるわね。最近この町で起こっていた連続殺人事件の犯人は、あなた?」
「そうだよ」
男は平然と答えた。
「最近町の外で飛び交っている不可思議な『イタミ』、あれもあなたの仕業?」
「そうだよ」
またしても男は平然と答えた。
「そうまでして、ただの個人になりたいの? ええと……」
「名前は無いんだ。名前は、既存の『枠組み』の中で個人を同定するためのものだ。全ての『枠組み』を超えて僕だけが存在している、僕はそういう状態に至るのだから、名前は必要無いんだ」
あらゆる者が「痛み」を伴うはずのその答えを、男は平然と口にした。
遠くで、カランと牛乳瓶が倒れる音がした。
/菖蒲の花マイナス3・了
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