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夢 守 教 会
†† 第四話「花の名前」2/(4)
◇
「守りたいモノがあると、聞いているが?」
誰かから伝達されたというニュアンスで、ケンシンさんが僕に問うた。
随分と漠然とした問いだ。守りたいモノは、確かにある。それは誰にだってあるだろう。
「それは、ありますよ。最低限、大事な人は守りたいと思っています」
ケンシンさんがコクリと頷く。
「実にその通りだ。
だが率直に言おう。
大事な人は増える。
君は、どうやってその人達を守り続けるのか、という話だ」
大事な人が、増える?
少しの間、様々な人達の顔が脳裏に過ぎる。
それは理子であったり、菖蒲さんであったり、父さんや母さんや姉さんであったり。いや、それを言い出したら、昔の友だちであったり、あるいは少し親しくさせて貰っているこの町の人達であったり。
あるいは竜志さんであったり。
そして……。
背中のキズが、ズキリと痛む。
巫和さんであったり。
ケンシンさんは、難しい顔をしたままベッドに横たわる僕を見つめ続けている。
「よく分かりませんが、確かに、ここ最近大事な人が増えました。今の僕では、全員は守れないと思います」
「君は謙虚だな」
「どうでしょう」
様々な思念が巡る。
理子の夢を守ると決めた。
だけど、巫和さんをこのまま放っておく訳にはいかない。
他に相談相手もいない。そして、おそらくこのケンシンさんは、色々と知った上でここに来ているのだろう。
「深い、痛みを抱えている子がいるんです」
「いるだろう。私も沢山見てきた。君と同じ病気だからね。見てきた数と同じだけの痛みを、感じてきた」
「あなたの言う『戦い方』を身につければ、その子を守ることができるのでしょうか?」
「確約はできない。私にも守れたモノもあれば、守れなかったモノもある。それでも共感し続ける限り、守りたいと思っている。ここに来たのも、それが理由だ」
穏やかな口調から、強い意志が感じられる。
少し、この人が「理想主義者」を名乗った理由が分かった気がした。
軽々しく口にしてはいけない言葉だと理解していたつもりなのだけれど、幾ばくかの思索の後、僕はゆっくりと、口を開いてしまった。
「僕も……」
――くだらないことだけど、その時、タマネギを炒める音と、胡椒の香りを思い出していた。
「彼女を……」
――僕は何を言ったのだったっけ。巫和さんは口元を押さえて、本当に可笑しそうに笑った。
「守りたいと思っています」
外では六月の雨が降っている。
壁で隔てられたこの部屋は、それでも入り口のドアを通じて雨が降る外の世界と繋がっている。
そこに雨に打ちのめされて、身体を凍えさせている人がいたならば、僕は傘を持って会いに行きたいと思っている。けれどもこれは、もしかしたら傲慢な考えなのかもしれない。
何故なら、彼女は全員分の傘が無いことを知っていて、自分の意志で雨に打たれているのだと思うから。
幾ばくかの静寂の後、ケンシンさんが口を開いた。
「君に、『痛み』との戦い方を教えてやる」
僕はゆっくりと頷いた。
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