†† 夢 守 教 会 ††  第四話「花の名前」4/(2)

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 病院の外に駆け出た僕は、上空で鳴動しているその存在を凝視する。濁った青緑色と、不快な音の集合。なんと形容すればいいのか分からないその痛みの集合体を、とりあえず視覚と聴覚で僕はそう定義づけた。
「連続殺人事件。人を介在しない操作された浮遊する痛み。いずれも、二年前にもあったことだ」
 低い声が響いた方向へと振り返ると、そこには日中も着ていた黒いコートが夜天の中に溶け込んでいるかのようなケンシンさんの姿があった。
 煌々(こうこう)と輝く瞳が獰猛(どうもう)で、昼間病院で対峙していた時とは違った印象を受ける。
「アレは、何です?」
「君が感じ取り、私が聴いているように、『イタミ』さ。ただし、操作されている。なあ、島谷君。仮に、認識を操ることができる者がいたとしたらどうだろう? 痛みだって、突き詰めると人間が感知する感覚、認識の一種だ。それを操ることができる人間がいたとしたら? 膨大な痛みを集め、そして操作するために、連続殺人事件のような人が痛みを感じる事柄を、意図してこの町で起こしていたとしたら?」
「それは、誰です?」
「『存在革命計画者』。私と菖蒲の、因縁の相手だ。本当の自己紹介が遅れてしまっていたね。私は木間謙信(もくまけんしん)。菖蒲の元、夫だ」
 黒色のコートをなびかせた謙信さんの身体から、刺さるような銀光がほとばしる。それは例えば、理子が持っている炭素鋼のナイフのような、しかし、それよりも強く一つの目的に特化したような、研ぎ澄まされた鋭利な銀光だ。

――拳銃。

 フィクションの中でしか見たことがないその殺傷兵器を謙信さんが天空に向かって掲げた瞬間である。謙信さんの照準から逃れるように、痛みの集合体が拡散して降り注いでくる。
「詳しい話は後にしよう。君を巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないが、私としても娘の仇なんでね。ここは、戦わせてもらう。来るぞ!」
 病院の外―僕らがいる駐車場に滑空してきたいくつかの濁った青黒いイタミは、不協和音を発しながら、やがて僕らと同じような等身大のカタチになる。こうして、色にヒトガタの形状が加わる。
「君は一体でも潰せ! 分かってるな。ここは病院だ。こんなイタミに取り憑かれたら、弱っている人間はひとたまりもないぞ!」
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