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夢 守 教 会
†† 第四話「花の名前」4/(8)
〔Cross Over Interlude―既存と模造の境界線―〕
漆黒の闇に月光がにじむ深夜。
一九九九年の六月の最終日、もうすぐ日付が変わろうかという時間である。
模造の塔と既存の塔と呼ばれる二対のビルディングが遠方に見上げられる場所に、西條巫和は佇んでいた。
A町とB町を別かつその橋の上には、巫和の他に誰もいない。橋の下を流れる川の水音だけが、闇に覆われたその空間を規定している。
遠方に映る模造の塔と呼ばれるビルディングの住人に対して、弓村理子が島谷優希が入院している間も、七月中の退去を交渉に訪れ続けていたのを彼女は知っている。
巫和がベストの内側から二振りのナイフを取り出したのと、日本時刻で日付が変わったのはほぼ同時。
彼女は既に、『根底理論』の内容を彼女が信仰する甲剣竜志から聞いている。
眼前の二つの塔の映像を、彼女が二つのナイフで十字に切り裂いたのが、新しい日付の最初の一秒。
闇の深淵に揺らめく二対の塔の光を睨み続けている彼女の視線からは、切り裂いた痕跡が否定の×印だったのか、救いの十字架であったのか判別することができない。
一つだけ万人が共有できるのは、「永遠」に内包されたまま、彼女が切り裂いた今も、これからも、刻(トキ)はその進行を止めず、我々を先へと送り続けるということだけだ。
西條巫和の眼光からは何も伺い知ることができない。
一つだけ確かなのは、彼女が認識する世界が、灼熱の一九九九年の七月という時間を刻みはじめたという絶対なる事実だけだった。
〔Cross Over Interlude―既存と模造の境界線―・了〕
(幻想少女小説夢守教会・始)
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