【催眠恋愛】 瓦礫の隙間から見える太陽に向かって手を伸ばした。 助けて。 助けて。 と、そう喉が焼き切れるほど叫んだ。 だけど体はもう自由に動かない。ここから出られたら、奇跡だと思った。 「何処だ、何処にいる?」 だけど、そう声が聞こえた。英語だった。僕がいつも使う言葉ではないけれど、英語は少しだけ分かった。だから僕も英語で叫んだ。 ここにいる。 ここにいるよ。 と叫んだ。 やがて、僕の自由を奪っていた瓦礫が取り除かれた。 届けば奇跡だと思っていた太陽の光を背に、彼女が僕を抱きかかえていた。 漆黒の瞳と長い髪。明らかに僕の国に住む人ではなかった。けれども、僕は一目で彼女が綺麗だと思った。 「お母さんは?」 僕は尋ねた。まずは水が欲しかったけれど、同じくらいお母さんのことが気になった。 すると、不思議なことが起こった。 「お母さんは?」 彼女が僕とまったく同じ口調で同じ言葉を発したのだ。それだけじゃない。僕が右を向けば彼女も右を向き、瞬(まばた)きをすれば彼女も瞬きをした。 その動きが、まるで鏡に映したように正確に僕をなぞっていたから、段々とマネをしているのが彼女なのか僕の方なのか分からなくなってきた。いや、もっとひどい。僕が彼女で、彼女が僕? いったい、どっちが僕でどっちが彼女だか段々と僕には分からなくなってきてしまったのだ。 この夢はいつもここで終わる。 夢の終わりに、もはや彼女のものだか僕のものだか分からない意識の中で「僕/彼女」はこう口にした。 ――幸せになろう。 |
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