†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」2/(1)

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 優希とリューシが対峙している。
 リューシの左手には竹刀が握られ、優希は無形の位のまま左拳を握ったり開いたりといった動作を繰り返している。
 菖蒲さんの部屋に向かう途中に私達の前に現れたリューシが一本手合わせをと優希に申し込み、優希がそれを承諾した形だ。
 相変わらず飄々とした物腰でリューシの意図は読めなかったが、優希が受けるというのならばしょうがない。
 学園内の剣道場に場所を移し、今に至る。
 正直、しばらくの間離れている間に、私はリューシのことがよく分からなくなっていた。お互い自意識が強かった中学生時代とは今は違うし、何より、お互いを取り巻く環境が変わっている。
 リューシはビジネスを起こして未来を見つめて、私にはそもそも未来がない、とか。
 今、私の側には優希がいて、リューシの方もあの容姿と性格だ。私と会わなかった間に、女の一人くらいできているかもしれない、とか。
 とにかく、色んなことが変わってきているんだ。
「じゃ、はじめようか」
 にこやかに紳士的に、いつものリューシの振る舞いでリューシが優希に話しかける。
「あ、はい。いいですよ」
「確認だけど、ルールは寸止めで、最初に相手に一本相当の一撃を入れた方が勝ちね。君くらいの領域にいる人なら、このルールでも勝ち負けが分かるでしょ」
「あ、はい、大丈夫だと思います。第三者の判定ではなくて、僕とリューシさんだけ分かればいいというか。そういうことですよね?」
「うん。そうそう」
 リューシと優希が道場中央の開始線の位置まで移動する。
「理子ちゃんは合図をお願いねー」
 片手をあげて了解の意図を伝えながら、二人の姿を観察する。
 立ち会いと言っても、まったく正式な様相は呈していない。優希もリューシも裸足になっただけで私服のままだったし、リューシに至っては手にしているのは、道場の隅に放置されていた手入れも行き届いていない竹刀だ。
 だけど逆に私は安堵する。リューシが甲剣の正式な刀である氷王(ひょうおう)を手にして優希と対峙するなんていうことは、絶対にあってはならないことだ。空白の時間があっても、変わらないで理解できることもある。リューシは、誰よりも強いのだ。
 やがてリューシは正眼に構えを取り、優希も右手を相手にかざして距離をはかるように構えた。
 休日で人気が無く元々静まりかえっていた道場が、さらなる静謐に包まれる。
 もはや、唾液を飲み込む音さえもうるさい。そんな状態に場が達したのを察して、私は合図のタイミングが訪れたことを理解した。
 一降り、右手を上段から振り下ろす。

 知覚できたのは、轟という、疾風(かぜ)の音。

 勝負は、瞬きの一瞬でついた。
 リューシはそのまま間合いを一踏みで縮め、床板を踏み抜くような轟音と共に面を放ち、優希はそれにカウンターを合わせる形で左中段突きを放った。
 ルールの通り、リューシの剣先は優希の額の直前で止められ、優希の左拳はリューシの腹の直前で止められている。
 数秒のような、もっと長かったような、静止した時間が道場の中を切り取る。

 ……。

「まぁ……」
 リューシがゆっくりと呟く。
「引き分けって所かな」
 その一言で、道場の空気が弛緩し、再び場に時間が流れ始めた。
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