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夢 守 教 会
†† 第三話「輝きの先」2/(3)
◇
「あんまり真に受けるなよ」
剣道場に残された私と優希は、リューシが去った戸口を見たまま語り出した。
「何を?」
「リューシが言ったことだよ。私を守るとか、そういうさ」
優希はじっと自分の左拳を見つめている。さきほどの立ち会いで、リューシの胴を捉え、寸前で止めた左拳だ。
「理子のことを守りたいというのは僕の本心だからいいんだけど、それよりさ……」
「何?」
「竜志さんは、嘘を付いているよね?」
「どんな?」
「僕を強いって言ってたこと。理子も分かってるんだと思うけど、竜志さんは、全然本気じゃなかった。本当は、竜志さんは僕より、ずっとずっと強い」
ああ、やはり、優希くらいになると分かってしまうんだなと、改めて、この少年の武術的な能力の高さを私は理解した。
「竹刀じゃ力の半分も出せないとか、そういうのもあるけど、何よりリューシは『破認』を使っていない」
今更優希との間に隠し事をしたくなかったので、詳しい説明を伝えることにする。
「それは、理子の、弓村の『映認』みたいな、リューシさんの本当の力だね?」
「そうだ。相手の認識を殺す剣、『破認』。弓村の『映認』と対をなす、甲剣の奥義だ」
「認識を殺すっていうのは?」
「そのままだよ。破認の刃を受けた者は、リューシの存在を一時的に認識できなくなる。どんな達人でも、暗殺者に後ろから刺されてやられてしまうことがある。それはつまり、相手を認識できなかったら手の打ちようが無いっていうことだ。認識の外からの一太刀で相手を絶命させる。それが甲剣の剣だ。仮に優希、いくらお前でも、リューシの存在そのものを認識できなくなっていたら、戦いようが無かっただろう。気が付いた時にはもう、身体を分断されている。いや、甲剣の『破認』を受けた者は、自分が殺されたことすら分からないんだ」
「剣を直接受けなければ、『破認』は防げるの?」
「いいや。詳しい術式は私も分からないけれど、条件は、『相手がリューシを認識できること』だ。遠距離でも、優希がリューシを認識していたとしたら、リューシは『破認』でその認識を断ち切ることができる」
「なるほど、確かにそれはお手上げだ」
「相手を認識することを求道して、やがて神の認識に至ることを目指した弓村と、相手の認識から逃れることを目指して、やがて神の認識から逃れることを目指した甲剣の、積み重ねられた『既存』の産物。そう簡単には、乗り越えられないさ。
本気を出して貰えなくて、悔しいか?」
優希は目を瞑って首を横に振った。
「武術家のプライドとか、今はそういうのあんまりないから」
――ただ。
そう前置きして優希は続けた。
「僕が強いっていうのが嘘じゃ、理子を守れないことになってしまう。その点は、悔しい」
――――
お前も、あんまり泣かせることを言うなよ。
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