†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」4/(2)

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 満月の夜は今日だったが、日中のうちに西條巫和を探すと優希が言うので、二手に分かれて町に出た。
 ブレイン教会と多元時空理論、そして根底理論が繋がった以上、多元時空理論の内容について語っていたという西條巫和もまた、ブレイン教会と繋がることになる。モトムラ君事件での私のこともあって、優希は西條巫和が心配でしょうがないらしい。
 別れ際に優希は葉明学園の校門の前で、両手を広げて空を仰ぎ見るような仕草を見せて、しばらく佇んでいた。
 聞けば、あいつの心象にある紅い矢を接ぎ、エンパシーのスイッチをオンにしたのだという。それもできるだけ広く、人の痛みが分かるように、などとあいつは言った。

「お前、そんなことをしたら、また痛みでお前自身が摩耗するだろう」
 私は心から優希の精神を心配したのだけれど、あいつは落ち着き払って、あまつさえ少し笑顔さえ浮かべながら言った。
「痛みには、ひとそれぞれ個性みたいなものがあってさ。その人の痛みだって、分かるんだ。巫和さんはたぶん変装してたりすると思うから、普通に探したんじゃ見つからないと思う。だから痛みで識別するんだ。町の中で近くに巫和さんがいれば、これなら僕はきっと分かるから」

 優希と別れてから一時間あまり、町の歩道橋の上で眼前に広がる道路や行き交う人々を俯瞰しながら、少し腹立たしげに私は目の前の風景を睨み付けた。
 理不尽な感覚だが、眼前を行き交う人々の内面の痛みが私には分からないというのが、無性に悔しかった。
 優希と私は、同じ知覚を共有できない。
 そっと瞳を閉じると、町の喧騒から私は隔絶され、私の精神の深層で私を規定し続けている、紅蓮の弓矢の心象イメージだけが脳裏に浮かぶ。
 炎輝姫(えんきひ)。
 弓村の正統後継者だけが手に取ることができるその紅蓮の和弓の真名を、優希はまだ知らない。
 知る時が来るのか、来ないのか、そもそもなんで優希の内面に私の炎輝姫の心象イメージが出現しているのか、まだ、解は出ない。
「やめた」
 例えばここで「映認」を行えば、少なくとも優希よりは効率的に西條巫和を探すことができる。視界に収まった風景を正確に認識する「映認」を場所を変えながら繰り返せば、いつかは西條巫和を捉えることができるだろう。
 だけど私は、正直な所、西條巫和の存在を認識することに、言い得ぬ不快感を感じていた。
 感情というものを水面に例えるなら、今の私の水面は揺らぎ過ぎていて今ひとつ正確に自分の感情を捉えられないのだけれど、この揺らぎが生まれたきっかけは覚えている。
 どうして西條巫和のためにそこまでするんだと私が優希に問いかけた際に、優希がこう答えた時だ。

「巫和さんに食べさせて貰った料理が、美味しかったから」

 なんだよ。私が絶賛したお前の料理は、西條巫和仕込みだったのか。
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