†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」4/(6)

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(微妙な味だな)
 味見にと掬い上げた煮汁とジャガイモを口に入れて、私は眉をひそめた。
 不味くはない。不味くはないが、先日優希が作ってくれた八宝菜のクオリティーを基準に考えてしまうと、美味しいとも言えない。
(まあ、料理は愛情だ。
 と、これも誰かが言っていた気がする)
 それを受け入れてしまっては技術の向上が鈍ってしまうのではないかと、その誰かの言葉への反論がすぐに思い浮かんだが、作り直している時間も無いので、もはやしょうがない。私の中で、今晩の優希の夕食はこの肉じゃがに決定した。
 そうと決まればあとは盛りつけだけだろうと、買ってきたお弁当箱に、ごはん、プチトマト、レタスに卵焼き、ウィンナーといった平行して準備していた定番のメニューを配置していき、最後に主食の肉じゃがを盛りつける。
 意外と楽しいかも知れない。
 そう思った私は、つまりは今まで料理に興味を持てなかったのは、如何にも女の子のたしなみといった世間一般のイメージがどうも受け入れがたかったとか、そういうことよりも、単純に作ってあげたいと思える人間がいなかったのだなと、そんな結論を導き出した。
 時刻はそろそろ夕日も沈み、晩と呼ばれる時間に入る頃になっていた。優希との待ち合わせの時間ももうすぐだ。手早く包んでしまって、合流しよう。
 そう思った時、ポケットの中のPHSの電子音が閉塞的な宿舎の調理室に鳴り響いた。着信の主は、菖蒲さん。
 ありていに言えば、この着信を受け取るまで、私は優希と過ごす、同世代の無標の男女が共に語らい合いながら食事をするといった甘い時間を夢見ていた。

 結果から言うと、この日、優希が私の作ったお弁当を食べることは無かった。
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