†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」5/(1)

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 優希が西條巫和に刺されたという連絡を菖蒲さんから受けて市内の病院に向かうと、当の優希は既に手術室の中で、ロビーで菖蒲さんだけが待っていた。
「お医者様は命に別状は無いとは言っていたわ。上手く、大事な器官からは外れているって。私が来た時は手術室に入る前だったんだけど、優希も微かに意識はあって、少し、話もしたよ」
「へぇ。あいつは何て?」
 冷静なのとは違う、氷のように冷めていくこの感情の名前を、私はまだ思い出せない。
「やはり竜志と西條巫和は繋がっているという話と。あとは、巫和さんを助けてやってくれって」
「なるほどね。あいつは殺人鬼のためにエンパシーのスイッチを入れて摩耗し、町を探し回ったあげくに自分が殺されかけて。それで殺そうとした本人を、助けろとか言ってるんだ?」
 病院のロビーから窓の外を見やると、既に日は落ち、時期に満月が上る時刻になっていた。
「警察が西條巫和を確保するとして、菖蒲さんの計算で最速でどれくらいかしら?」
「明日の明け方か、もっと遅いか、かな。現場に西條巫和のものと思われる帽子が落ちていたらしいけど、手がかりとしては遅効性だからね。
 行くの?」
「行くわ。T大学の王城さんの論文に触れられるのは、満月が上っている時刻なんでしょ? 明日の朝になってからではもう遅いわ。リューシが王城さんの論文を狙っているのなら、リューシと繋がっている西條巫和もT大学に現れる可能性がある。人殺しに『根底理論』を渡す訳にはいかないわ。
 それ、貸してくれる?」
 菖蒲さんが手にしているのが手術室に入った優希の衣類だと気付いた私は、自分が着ていたジャンパーを脱ぐと、菖蒲さんから優希が着ていたブラウンのジャケットを受け取り、おもむろに羽織った。
「理子。行く前に私の部屋に寄って、机の上にある黒いホルダーを持っていって。あなたのベルトに装着できるようにしておいたから。仮にこれまでの殺人の犯人も西條巫和だったとした場合、彼女の戦闘能力はモトムラ君の比じゃない。十分に気をつけるんだよ」
 私は頷くだけで了解の意志を伝えると、後は無言のままその場を立ち去り、病院の外に出た。

 病院の外は夕闇と帰宅時間の喧騒に覆われていたが、道行く人々には目を暮れずにキリリと天空に現れはじめた月光を凝視すると、私は二重ベルトの後ろ側に収まっている炭素鋼のナイフのホルダーを人差し指で解除した。
 ああようやく、この冷たいナイフのような感情の名前を思い出した。

「冷酷」って言うんだ。
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