†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」5/(12)

  巫和の世界/マイナス3

 お母さんの体調が悪かったある日、私は学校を仮病を使って早退してお母さんの介護にあたっていたのだけれど、そのことがお父さんの逆鱗に触れた。
 私は学業の成績が良く、それはこの地獄の介護生活に入ってからも変わっていなかったが、勉強時間の多くは学校の授業中でまかなっていた。当然だ。家に帰ってきてからの私は家事と介護で時間に少しの余裕も無かったのだから。
 よくよく話を聞いてみると、どうやら私の学業の優秀さは、今はボロボロになってしまったお父さんの拠り所であったらしい。
「俺が今こんななのは、高卒で頭が悪いからだ。巫和はいい大学に入って、お父さんとお母さんの分も幸せになってくれ」
 真面目な顔でそう言ったお父さんの言葉を聞いた時、私は決意した。最高の大学に入って、弁護士かお医者様になろうと。私が高給を貰って収入をまかなえば、その分お父さんが介護に集中できて今より楽になれる。お父さんとお母さんがずっと一緒にいられるように、私が社会の上の方に行けばいいんだ。
 大学からは飛び級もある。本気の本気なら、もう数年で夢は実現できる。
 そう思った私は、その日から今まで以上に学業に精を出し、そのまま地域中でトップの成績でこの地域で一番の進学校だった葉明学園高校に進学した。

 ちなみにこの頃、私は自分への進学祝いに二振りのナイフを買った。氷のような青い柄と、炎のような赤い柄の対になる二本だ。
 理由は分からない。だけど深夜にそっと家を抜け出して二振りのナイフを無心に振るうと、少しだけ自分の痛みがやわらぐような感覚をこの頃の私は感じ始めていた。

       /巫和の世界マイナス3・了      
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