†† 夢 守 教 会 ††  第三話「輝きの先」6/(2)

  巫和の世界/8

 痛みに満ちた町の風景を出来るだけ視ないように、意識を過去へと遡らせながら頼りない足取りで郊外へと向かって歩き続けた私は、気が付けばT大学の敷地内に足を踏み入れていた。
 並び立つ建物が何の用途に使われているのか分からない私には、蔦がびっしりと絡みついた建物であるとか、壁面にひび割れが見える建物であるとか、周囲を囲んでいる建築物の全ての中身が、何故だかがらんのように感じられた。
 一抹の感慨が無いでも無い。本当にくだらないことだけど、この大学は、まだこの世界を信じていた頃の私の志望校だったのだから。
 今、そのかつての憧れの場所へ辿り着いた私の心境は、まったくの虚無としか言いようがない。この世界が間違った模造の産物である以上、どんな研鑽の果てに学府に到達しても意味が無い。今では分かり切ったこの真実を、戻れるならかつての私に教えてやりたかった。
 しかし今はそんなことはどうでもいい。
 今、私が辿り着くべき場所はただ一つ。この模造の世界の代案が眠る、竜志様の「あの人」とその恋仇が学んだという学舎だけだ。
 やがて目の前に現れたその建物を、一度立ち止まって概観する。
 研究棟。
 月光に照らされたそれは、廃屋のようで、虚な魅力に満ちていた。
 これでいい。
 私は、「西口」から横長のその建物に入った。

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