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夢 守 教 会
†† 第三話「輝きの先」6/(9)
巫和の世界/11
弓村理子の投げ技で転倒した後に、再び彼女の姿を見上げた時、私の全てが彼女から発せられた不思議な「膜」のようなものに包まれた。
この膜の中では、私の全てが彼女に掌握されているという事実を間もなく私は理解する。
普段、「認識されている」と感じる事実には二つある。
一つは、誰か他の人間によって自分が認識されているという感覚。
二つ目は、神様のような存在によって、自分は常に超常的に認識されているという感覚。
しかしながら、現在私が感じている「認識されている」という感覚は、その二つのうちのどちらとも違う、第三の感覚だった。
例えるなら、それは神様の領域に辿り着こうとした人間によって認識されているという感覚。
いずれにしろ、この認識の檻の中では、既に私は無力だということを悟った。
私は、敗北したのだ。
弓村理子の二射目の投擲によって左手の自由を失った私は、奇しくも残った右手と、赤い柄のナイフを握る感覚を確かめた。
この手が残されているということは、たぶん、そういうことなんだろう。
私の世界は随分前から二振りのナイフで出来ていた。
一つは、左手で逆手に持つ、この世界を殺すためのナイフ。
二つ目は、右手で順手で持つ、この世界を殺せなかった時に、私自身を殺すためのナイフ。
今、この世界を殺せなかった私に、右手のナイフが残っている。弓村理子にこの右手までもが無力化される前に、やることは決まっている。
この世界を肯定する、弓村理子に私は負けた。
お父さん、お母さん。二人を殺した世界を否定するために頑張ってみたけれど、ダメだったよ。
お父さん、お母さん。愛していた二人が先に逝っても、抗ってみたけど、でもダメだったよ。
今、私もいきます。
ありがとう、お父さん。
ありがとう、お母さん。
そしてさようなら。弓村理子が肯定して、私が否定したこの世界。
今では何が模造で、何が真実なのかよく分からないけれど、仮に、やっぱりこの世界が無意味な模造の世界だったとして、つまりは。
――きっと私も、そこから生まれた無意味な模造の産物だったんだ。
無意味なものを終わらせるために、そっと私は右手のナイフを自分の喉元にあてる。
これで、終わ……る。
――――
光が。
圧倒的な稲妻のような光が私の前に現れたのはその時だった。
甲高い破砕音に、廊下の窓が砕け散って何かが飛び込んで来たのだということを察知したのと、その訪れた光の一閃が、私を捕縛していた認識の膜を一刀のもとに斬り伏せたのだということを理解するのと同時だった。
衝撃でしばし身体が硬直し、私は瞳を瞑ってしまう。
そのまま、第三の認識されている感覚から解放された安堵が、徐々に精神と身体に広がり始める。
今、残っている私の「認識されている」感覚は二つだけだ。
相変わらずの、神様から視られているという感覚と、そして、もう一つは……。
――ただ、大事な他者から認識されているという、温かい感覚。
ゆっくりと瞳を開くと、瞳の前で、その人がのぞき込むように私の顔を見ていた。
「巫和君。自分から死のうなんてしちゃ、ダメだよ」
ひょいと私の右手からナイフを奪い取り、少し困ったような顔で、竜志様はそんなことを仰った。
/巫和の世界11・了
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