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その日・・・どなたか守護聖さまが送った力によって 新しい宇宙の女王が決まりました。

「ティムカさまっ、ティムカさまーっ!!」
聖地の整然とした石畳の街道を一人歩いていく僕に向かって 僕の名前を呼びながら真直ぐに走ってくる一人の女性・・・。
「どうしたんですか?」
僕は驚いて、目が丸くなっていたような気がします。
「だって、決まったんですよ!それをティムカさまにお教えしようと思って 真っ先に走ってきたんですから!そんな言い方、ヒドイです。」
少し頬を膨らませて見せる彼女を僕は笑顔で見上げました。
「せっかく教えに来てくださったのに・・・ごめんなさい。」
僕がそう謝ると彼女は首を振りながら笑顔になりました。
「いいえ、いいんです。この試験が終わることはみなさんわかっていたでしょうし。 ただ、その次期が昨日か今日か明日か明後日か、ってカンジだったじゃないですか。 でも、決まったと思ったらいても立ってもいられなくなって。」
屈託なく笑う彼女は僕の隣を歩き始めました。
「それで、ティムカさまはどちらへ行こうとなさってたんですか?」
真直ぐ前を向きながら、話し掛けてきた彼女は 笑顔を浮かべたようでそれでいて悲しそうな表情が横顔から伺えました。
「ええ、これから女王試験の結果発表を受けに行くんです。 ロザリアさまからご連絡を受けまして、急いで支度をしてでてきた所でした。」
「なあんだ、じゃあ、もう既にご存知だったってことだったんですね。 じゃあ・・・お急ぎだったのに、お邪魔しちゃいましたね。」
彼女の歩みがぴたりと止まって、止まらなかった僕が一歩前に進んだ 格好で一瞬、二人の動きが止まりました。

「いいえ、まだまだ本当は時間はあるんです。だって、 その証拠に今この場所にあなたがいる。」
「あ、そうですよね。ワタシが聖殿へ行くように言われている時間までには かなりありますし、だからこそティムカさまのところへお知らせに・・・。 じゃあ、どうしてこんなお早くお出かけになったんですか?」
彼女は不可解だ、といわんばかりの怪訝そうな表情で僕をみていました。
「・・・僕がこの聖地に来たのは・・・女王試験のためですから。 女王試験が終われば・・・故郷の星へと帰らなければなりません。 だから、最後にこの景色を心に留めて置けるように見て歩きたかったんです。」
僕は彼女に素直な気持ちを伝えました。
「そう・・・ですよね・・・。ティムカさまは・・・お帰りになっちゃうんですよね。 そ・・・で・す・・・よね。」
彼女は空と僕の間くらいのところを焦点のないような視線で見ていました。
「ええ、残念ですが・・・ここの景色とも・・・」
僕はそういいかけて辞めました。
その続きは、目の前にいる彼女ともお別れだということを自分にも再認識 させる言葉だったから。
「あの、ティムカさま?もし・・・もしも、ワタシがこの聖地以外のところで ティムカさまとずっとこうしてお話できるとしたら・・・どう思います?」
彼女の言葉は僕の心を貫いたようでした。
「それは・・・あなたが・・・。いえ、ありえない事を言わないでください。 あなたは新しい宇宙のために今まで頑張ってきたのではないですか? 僕は新しい宇宙に対して、あなたが抱いていた希望や情熱を知っているつもりです。 こうして女王試験が終わって、僕があなたとお話をできるのは この聖地以外ではありえないことなんです。」

「そうですね、最後の最後まで諦めないで、ティムカさまと頑張ってきましたもんね。 そ・・・ですよね。ティムカさま、最後までずっと応援してくださってたんだもん こんなコト・・・いっちゃダメでしたよね。」
少しだけつり目の彼女の瞳に、涙が滲んでいたように見えました。
その様子に僕は慌てて彼女の顔を覗き込みました。
「そんなつもりじゃないんです。ただ、あなたの今までの頑張りが 認められるんですから・・・この素晴らしい機会を 僕のために無駄にしてほしくなかったんです。 そういっていただけるのは・・・僕にとっては身に余る光栄です。 だけど、新しい宇宙は絶対あなたを必要としている。 僕一人の・・・希望より、新しい宇宙が抱く希望のほうが 何倍も・・・ずっとずっと大きいものです。 そのたくさんの大きな希望を叶える力は、あなたのなかにもあるんです。」
僕は彼女の顔を真直ぐに見上げました。
最後に、しっかりと彼女の顔を胸に焼き付けるために。

「ありがとうございます。ティムカさま。」
彼女は一粒涙をこぼしてしっかりと頷きました。
「・・・頑張ります。宇宙のためにもティムカさまのためにも・・・絶対。 絶対諦めたりなんかしません。それはティムカさまに頂いた力でもあるから。」
彼女はきりっとした表情で僕のほうへ振り返りました。
いつもの彼女の英気溢れる顔に・・・なっていました。
「僕の力なんて微々たるものです、それはあなたの持っている力です。 その笑顔で、これからの道を歩んでいってください。 僕のほうこそ、あなたにたくさんの力を貰いました。 どんな時でも諦めないで、前向きに頑張れば必ず道は開けること。 どんな苦境でも、逆境に立たされた時こそ、希望をもって臨むこと。」
彼女が身をもって教えてくれたことは、僕の一生の教訓になると思いました。
「逆境・・・苦境・・・まさにそのとおりでしたね。」
その言葉に彼女が少し前の自分を振り返っているのがわかりました。
僕と彼女は聖地の中を歩きながら、女王試験の最中の話をはじめました。

「だって気が付いてみたら、 守護聖さまは全員あの子の味方になっちゃってましたし・・・ね。 行ってお話だけでも伺おうかって思って行くんですけど 邪険に扱われるばっかりで・・・。まさに逆境、ですよね。 おまけにセイランさまもヴィクトールさままであの子の味方を しだすようになっちゃうんですもん、たくさんの人がいる 聖地の中で、ひとりぼっちになっちゃったような気がしてました。 女王試験を受けるためにこの聖地に来るまでは ずっと誰かが傍にいて、ずっと誰かに励ましてもらってましたから。 一人ぼっちとか・・・そういうのが今だからいえますけど 正直に言えば辛かったでした。」
彼女は最初会った時と変らない英気に満ちた顔をして言いました。
でも、確かに試験が始ってしばらくしてからは 今の顔とは明らかに彼女の顔つきは違っていたように思えます。

「僕もです、いままで王太子として誰かが傍にいて常に 自分を一番に考えてもらって生きてきましたから・・・。 同じ立場の人がたくさんいることはなかったので、 試験が始ってしばらく、誰も僕の部屋を訪ねて来てくれなかった時は 自分の存在価値を疑ったりしました。 ・・・でも、あなたが来て下さった。」
僕はあの時のことを忘れたりはしない。
来る日も来る日もずっと来客を待つばかりの日々に現れた笑顔の彼女を。
「・・・ティムカさまだけは笑顔で迎えてくださったんです。 ティムカさまだけが、本気で心配してくれて、本気で応援してくださった。 だからやっぱり自分は一人ぼっちじゃないって勇気が出て それからは試験が始る前みたいに、気後れしないで話ができる自分に戻れて そして・・・ここまでこられたんです。」
「僕がこの試験に参加させてもらって本当に良かったと思えたのは あなたのおかげだと思います。あなたの頑張りを見て 自分にも勇気がでてきたんですから。」

自分にだけではなく他人にも勇気を与えられる存在、だからこそ彼女は 新しい宇宙にとって必要な存在なのだと、僕は確信できる。
彼女の傍に永久にいられるのなら、それ以上の幸福は無いようにも思えます。
しかし、新しい宇宙の傍に彼女はいなくてはならない・・・存在なのです。
「新しい宇宙でも、絶対に頑張ってきます。ですから応援してくださいね!」
僕と彼女は、その日、あの場所で笑顔で別れることが出来ました。

しかし、その後しばらくしてから、僕と彼女が再び以前のように 話し合える日々がやってきたのです。
「いいんですか?こんな時間に。」
驚く僕に通信機器画面の向こうの彼女が笑います。
「全然大丈夫ですよ、だってこちらの宇宙の女王陛下のご命令で、 この通信を行ってるんですから。 ま、個人的・・・私用につかってもいいとは了解をとっていないですけど これくらいは・・・大目に見てもらえるんじゃないかって、思ってます。 だって、こうしてティムカさまと自由にお話できるのって 女王補佐官の特権だと思ってるんですよ。」
にっこりと笑う彼女の 見慣れなかった服にも、ようやく慣れてきた今日この頃。
「今度、また・・・こっちの宇宙の様子をロザリアさまにご報告に行く時に また、ティムカさまの星に行ってもいいですよね?」
「ええ、もちろんです。こうしてお話していると・・・ あなたが女王補佐官でいらっしゃるから こうして時たまお会いすることができるなんて、考えてもみませんでした。」
「女王が自分の宇宙を離れるわけには行きませんからね、 だからこうして代わりに次元回廊を行き来したり、情報を集めたりする 女王補佐官が必要なんだって、今、思います。」

「あの日、ティムカさまが「新しい宇宙に必要な存在だ」って 仰ってくださったから、女王補佐官になる決心がついたんです。 今になって思うと、女王補佐官にならなかったら・・・ こうしてティムカさまとお話できることはきっと二度となかったんですよね。 そしたら絶対ぜったい、後悔してたと・・・思います。 こうして・・・好きな人と距離こそは離れてますけど、 こうしてお話できて・・・会うこともできるんですから。 だから、女王補佐官になって本当に良かったって思えるんです。」
彼女の言葉に・・・自分あの日の決断と行動は正しかったと思えました。
彼女は新しい宇宙の女王を立派に助け、新しい宇宙に必要な存在。

そして・・・僕にとっても、やはり彼女はなくてはならないの存在なのです。


クイーンブルク物語という素晴らしい小説を書いてらっしゃるさりらさんに、アンジェ創作をいただきました。 アンジェ創作は初めてということですが、試験が終わって、精一杯頑張ったふたりの朝陽降り注ぐなかでの会話。爽やかですね。
あえて女の子の名前は出さない、ということでしたが、整理の都合上(ゴメンナサイッ!)ティムカ様xレイチェルとさせて頂きました。
ふたりの台詞がいいですね。離れていても励まし合って自分の道を行く。頭を上げて、後を振り向かないで。 このふたりなら何があっても逃げることなく立ち向かっていくことでしょう。
さりらさん、素敵なお話をありがとうございます。

2002.2.22up


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