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あいうえおではじまる小さなお話

【あ】



「雨が降ってたんだ」
アンジェリークは買ったばかりの食器棚にお皿やコップを入れる手を休め、窓の外を見た。
今日は朝から掃除やら、買ったものの整理やらで大忙しだった。


海にほど近い静かな場所に、ログハウス風の小さな家が売りに出されていたのを最初に見つけたのはアンジェリークだった。
「リュミエール様、あれ、あの家見て下さい。売り家みたいですよ」
「ええ、素敵ですね。あなたが気に入ったのなら中を見せていただきましょうか?」

話はトントン拍子に進み、小さな家はふたりの家になった。


アンジェリークはうっとりと窓の外を見つめ、ついに立ち上がって外に出た。
傘もささず、雨に濡れて立っているアンジェリークを見つけてリュミエールが慌てて外に出てきた。

「アンジェリーク! 風邪をひいてしまいますよ。さぁ、早く中に入って下さい」
「リュミエール様、雨に濡れると風邪をひいたりするんでしたね」
「もちろんです。ここは聖地ではないのですから」
「うふふふ」
「アンジェリーク?」
「雨って、計画を立てて降らせるものじゃなかったんだ」
「アンジェリーク、早く中へ」
「リュミエール様、私、やっと夢から覚めたみたいです。でも、あなたはちゃんと私の前にいるんですよね」
「ええ、いますよ。アンジェリーク、お願いですから家の中に入って下さい」
「あなたと私、同じ頃にサクリアが尽きるなんて、それこそ、奇跡でも起こらない限り無理だって思ってました」
「奇跡ですか?」
「ええ、そうじゃなければ夢です」
「夢だと思いますか?」

優しいキス。
いつの間にかアンジェリークはリュミエールの腕の中にいた。

「さぁ、家の中に入りましょう。今日から私達の家です。今日が私達の第一歩なのですよ。それなのに、風邪などひかれては困ります」
「困ってくれます?」
「あなたって人は・・・。私を困らせたいのですか?」
「困らせたいです。叱ってももらいたいです。女王には、誰も困ったり叱ったりはしてくれなかったから」
「アンジェリーク・・・・」
「・・でも、私も風邪をひくのは嫌だからもう中に入ります。夢じゃないから雨も冷たいんですね」
「ええ」
「そしてあなたは暖かい。うふっ、あー、良かった。夢じゃなくて」
「夢じゃありませんよ。これからはずっと一緒です。あなたが困ったことをすれば叱っても差し上げます。よろしいですね?」
「はいっ、リュミエール様」
「それでは、まず最初に、‘様’を取っていただきましょうか。そして、次に、暖かいシャワーを浴び、濡れた服を着替えること」
「はい」
アンジェリークがニコニコと応える。
リュミエールもつられて微笑み、ふたりして家の中に入っていった。
第一歩をふたりで始めるために。


Fin

2006.2.9up




やっぱ一番最初はリュミ様にご登場願わなくては。
一途なふたりにはハッピーエンドが似合います。