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あいうえおではじまる小さなお話

【い】



「一番大切な人?」
「そう! さあ、白状しなさいよ。ほら、今頭の中をよぎった人の名前を言えばいいの」
「なっ、レイチェル!」
「赤くなったー! やっぱりいるんだ」
「レイチェルってば! もう、知らない」

パジャマ姿の女の子がふたり。
今日はレイチェルがアンジェリークの部屋に泊まる日だった。
女王候補同士、仲良くなったふたりは、最近こうして互いの部屋に泊まって眠るまで話をすることが多かった。

「あー、ワタシにだけ言わせといてアナタは言わないの? ずるーい!」
「だって、あなたとエルンストさんとの仲は公認済みじゃない」
「そりゃ、エルンストはワタシが女王になっても、女王補佐官になるにしても、新しい宇宙に来て研究の仕事を続けるって言ってくれたケド、アナタはどうなの?  一番大切に想っている人がいるんだったら、女王や補佐官になって別の宇宙に行っちゃっていいの?」
「それは・・・」
「アナタには女王の資質がある。この天才少女が言うんだから間違いないよ。でもね、ワタシはアナタに中途半端な気持ちで女王になってもらいたくないんだ」
「レイチェル・・・・・」

アンジェリークはレイチェルに背を向けて黙り込んでしまった。
ごく普通の家庭に育ち、ごく普通に生活していた。
聖地などという所に一生縁があるとも思えず、考えもしなかった。
そして、その地で一番大切に想う人が現れようなど、あり得ない話の筈だった。

「どうして私なんかが選ばれたんだろう」
「? 何か言った?」
「どうして? レイチェルはわかるとして、どうして私なの? 何の取り柄もない普通の女の子なのに」
「アンジェリーク!」
レイチェルがアンジェリークの肩を掴み顔を覗き込む。
「アナタに何の取り柄もないって? 普通の女の子だって?」
「だってそうでしょう? 私はあなたと違って・・」
「あー、ヤダヤダ! ワタシ、どうしてこんな子に負けちゃってるんだろ。自覚してないの? アナタは特別なの!」
「特別? 私が?」
「アルフォンシアの声を聴くのは誰? 天才少女を差し置いて育成した惑星の数が多いのはどっち? 守護聖様や教官達の期待に応えているのはアナタの方でしょ?」
「それは・・・・」
「いい? アナタは自信をもっていい。アナタは特別なの。普通の女の子のままで特別なのよ。スゴイことだよ、それって」
「レイチェル・・」
「だからね、好きな人がいるなら、その人が一番大切なら、ドーンとぶつかって行っていいんだよ。 その人がアナタのことをどう思っているかはわからないけど、アナタは気後れすることなんかないんだ。それでダメならしょうがない。 でも、何もしないで諦めるのはダメ。後悔は先に立たないんだよ。ねっ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あの、あのね、レイチェル」
「うん?」
「告白して、玉砕したら慰めてくれる?」
「モチロンだよ」
「そっかぁ、ダメモトだよね?」
「うん。アナタの後ろにはレイチェルがついているんだから安心して行っておいでよ」
「うん。くすっ、年下のレイチェルに励まされるなんて私もまだまだだな」
「まだまだ」
「くすっ!」
「うふふふ、あはははは・・・」
「くすくすくす・・・。レイチェル、大好き!」
「はい、はい。で、アナタの想い人は誰なの? いい加減白状しなさい!」
「それは ナ・イ・ショ」
「あ、コラ!」

その夜、女王候補寮の灯りはなかなか消えることがなかった。


Fin

2006.2.9up




女の子のナイショの話。
レイチェルはいつだってベストサポート役です。
(女王になっても大丈夫だろうけど、アンジェが補佐官なのは不安が・・・笑)