いったいどうしたのだ?
そのように息を切らして走らずとも、待ち合わせの時間にはまだ間があるぞ。
私が先にいたのは仕事が早く片付いたからだけのこと。
お前が気にすることではない。
ああ、この雨か。
構わぬ。大した雨ではない。
・・・良いと言うのに。
私もハンカチくらいは持っている。
それではお前が濡れるではないか。
そうなのか?
だが、ここで待ち合わせた限りは動くわけにはいかぬであろう?
私がここを動けば、お前は私を捜さねばならなくなる。
待ち人が来ぬ不安をお前に感じさせたくはないのだ。
・・・幼い頃、私はいつも何かを待っていた。
それは母の優しい言葉だったり、父の暖かい眼差しのような、決して金品で賄えるような性質で無かったように思う。
・・・あれも雨の日だった。
庭に出ていた私に珍しく母が声をかけてきたのだ。
少し待っていろと言われて、私はその場で待ち続けた。
だが、母は来なかった。使用人が来て、母から菓子を預かっているから中に入れと言う。
私はその場を動かなかった。やがて雨が降り出したが、意固地にも待ち続けた。
母が来るはずはないとわかっていた。もう出かけてしまっているであろう事も。
それでも私は、雨の中、ただひたすら母を待って立ち尽くしていた。
雨が激しくなり、執事に抱きかかえられて屋敷に連れ戻されるまで、待ち続けていたのだ。
優しい言葉、暖かい眼差し。
真に望むものは何一つ手に入らなかった。
雨が涙を流し去って行ったが、涙と共に大切なものが流れ去って行くように思えた。
それからの私は何かを待ち望むということは無くなった。
・・・お前が私の前に現れるまでは。
屈託なく笑うその笑顔。
お前は私に約束の日を待ちわびる楽しさを教えてくれた。
手を振り、私の名を呼んで駆けてくる存在をどれほど愛しいと想っているか、お前は知っているのだろうか。
失いたくない。
ずっと側にいて欲しい。
ずっと側にいて私だけを見つめていて欲しい。
偽らざる私の願いだ。
何も望まない。
お前以外は。
・・・お前は、私を望んでくれるだろうか。
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雨降りデートシリーズ第六弾です。
熱い人です、この方。結構、好き、かもしれません。(おお、まゆのセカンド様発覚か?・笑)
2002.12.23
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